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「みくだりはん」と「ハーグ条約」
三行半
「みくだりはん」を突きつける、という表現があります。
夫婦間で、離婚の意思を最後通牒として確定的に相手に伝える際に使われる慣用句です。
「三下り半」と書きますが、「三行半」とも書くようです。
語源をさかのぼると、江戸時代の「離縁状」の俗称とされます。
なぜ離縁状が「三行半」あるいは「三下り半」と言われるようになったのでしょうか。
離縁状には、①離縁する主旨、②離縁する理由、③再婚を許すこと、の3点が書かれることが多かったようですが、それらを3行半の文章で簡潔にしたためるのが慣例でした。
それで「離縁状」すなわち「三行半(三下り半)」となったとされています。
また、一説には、結婚の時に妻の親元が送る結婚許可状が7行だったため、離縁時には「半分に別れる」という意味で3行半で書いた、などとも言われているようです。
再婚を認める
「みくだりはん」というと、現代では、離婚の時の一方的な言渡しのように使われていることが多いと思いますが、江戸時代では必ずしもそういったマイナスのニュアンスだけではなく、③の「再婚を認める」というところにポイントがあったようです。
女性にとって不義密通は厳罰とされる中、この「三行半」を受け取っていれば再婚することが許されるということで、女性側からすると、「堂々と再婚できる条件整備」として必要なものであったとのことです。
ウィキペディアに紹介されている三行半の実例資料「離別一札之事」の意訳には、次のように記載されています。
「深く厚いと思った宿縁は、実は浅く薄かったのです。双方の責によるところではありません。後日、他へ嫁ぐことになろうとも、一切異議なく、前言を撤回することはありません。」
実に味わい深い(?)表現ではありませんか。
駆け込み寺
当時は、妻から夫に対して離縁を申し出ることは許されていませんでした。
しかし、妻が「離縁したい」と思うことも当然ながらあり、そして、それも結果としては認められていました。
妻から離縁を申し出ることはできない。しかし離縁したい・・・。
このような場合、江戸時代の女性は一体どうしたのでしょうか。
こういった場合、妻は「縁切寺」に入って、夫に離縁状を書いてもらうようにとりもってもらうことを依頼していたようです。
縁切寺は、このような女性の駆け込み場所としての役割も持っていたことから、「駆け込み寺」とも言われていました。
夫が離婚を拒めば、離婚が成立するまで門前の宿に泊まらせ、雑用を手伝わせたりしながら、寺役人が夫の家に出向いて、寺法書を読み上げ、夫が離縁状を書かざるを得なくするのだそうです。
そういう意味では、今で言う(夫の暴力から逃げた妻を匿う)「シェルター」の役割、あるいは「離婚調停」の役割を果たしていたとも言えるのでしょう。
鎌倉の東慶寺が縁切寺として有名ですが、今では、四季折々の催事に、屈託のない老若男女が訪れています。
なお、東慶寺文庫に『天秀尼』(永井路子著)という本があり、「江戸時代を通して縁切りの寺法が存続したのは、天秀尼あってのことです。」として、その生涯を紹介しています。
天秀尼の数奇な運命に関心のある方はお読み下さい。
しかし、江戸時代では夫から妻に渡されていた「三行半」が、現代では妻から夫に突きつける際に多く使われるようになっているというのは、時代の移り変わりを感じさせます。
ハーグ条約
現代になり、国際結婚は増えたものの、うまくいかず、帰国する女性も多いようです(国際結婚の破綻をめぐる問題点については、下の著作などを参照してください)。
その際に、夫に無断で子どもを連れて帰国したことによって誘拐罪に問われるなどという驚くべきことが起きることはご存じでしょうか。
ハーグ条約についての報道を目にされた方も多いと思います。
DV(家庭内暴力)の夫から逃げて帰国してきたケースをどうするんだ、という慎重意見もあり、いろんな問題点はなお残っています。
(ハーグ条約についての記事は、「自由と正義」2010年11月号「ハーグ条約と日本の子の監護に関する実務」などをご参照ください。)
このハーグ条約は、1983年に発効した「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」であり、国際結婚の破綻などから生じる子どもの国境を越えた不法 な移動自体が子どもの利益に反し、子どもを養育する「監護権」の手続きは移動前の国で行われるべきだとの考えに基づいて定められた国際協力のルールです。
子を奪われた親が返還を申し立てた場合、相手方の国の政府は迅速に子の居場所を発見し、子を元の国に返還する努力義務を負います。
ハーグ条約を批准していなかったため、日本では破綻した国際結婚を巡るトラブルが相次いでいるなどと批判されていました。
いろいろな立場から、問題はなお指摘されていますが、日本でもハーグ条約が批准され、制度が動き出すことが予想されています。
制度が動き出せば、実務上、適確に対応できるように、弁護士としては準備しておかなければなりません。
日弁連と外務省、法務省は「ハーグ条約事件に対応する弁護士紹介の仕組みについて」を取りまとめるべく進めており、理事会にも資料配付をし、説明しています。
「LBP(Left Behind Parent)」とか、「TP(Taking Parent)」とか、「中央当局」とか、耳慣れない言葉が出てきます。
外国語によるコミュニケーション能力も必要になります。
いざというときに備え、事前の研修が大切です。
日弁連では、平成24年12月19日に、研修をしましたが、必要に応じて今後とも実施したいと考えています。