西日本新聞:ハーグ条約 加盟へ国内の態勢整えよ

ハーグ条約 加盟へ国内の態勢整えよ

 国際結婚が破綻した場合、夫婦間での子どもの奪い合い防止を目的とする「ハーグ条約」加盟に向けて、自民、公明両党が条約承認案と関連法案を了承した。

民主党も野田佳彦前政権で同様の法案を提出したことから賛成する方向で、5月にも国会承認される見通しという。

ハーグ条約は1980年にオランダのハーグ国際私法会議で採択された。加盟国は子どもの返還を求められた場合、居場所を調べて元の在住国に戻す義務を負う。欧米を中心に現在89カ国が加盟しているが、主要国(G8)首脳会議メンバーでは日本だけが未加盟だった。

欧米諸国では日本に加盟を求める声が強く、特に日米間で懸案となっている。21日から訪米する安倍晋三首相がオバマ米大統領との会談で加盟手続きの進展を伝えるとみられる。

ただ、離婚後の親子関係や、親の権利と子どもの利益をどう考えるかなど、家族のあり方も関わってくる問題である。国内の態勢整備を急ぐべきだ。

日本が加盟していなかったのは、親権制度や家族観などをめぐって欧米との違いがあったからだ。中でも大きな壁となっていたのが親権の問題である。

離婚後の親権は日本では一方の親だけにある「単独親権」で、養育上重大な問題がない限り、親権は母親に渡されるのが通例だ。これに対し、欧米諸国の多くは「共同親権」を採用し、離婚後も子どもの成長に両親が責任を持つ。

このため、一方の親が無断で子どもを国外に連れ出すと、犯罪とみなされることもある。日本人の母親が父親に了解を得ず子どもと帰国してトラブルになる事例が相次ぎ、欧米で問題視されてきた。

外務省によると、日本への子どもの連れ帰りは米国や英国、カナダなどから計約200件の指摘を受けているという。国際的なトラブルの解消や予防を考慮すれば、加盟は避けて通れない選択だ。

ただ、日本人母親の多くは、外国人の夫からの家庭内暴力(DV)に耐えかねて日本に戻ることが少なくないといわれる。このような事情も、加盟に踏み切れなかった要因の一つだろう。

専門家の中には子どもの利益より親の権利を優先するかのような条約の考え方に、疑問を呈する声があるのも事実である。加盟することで、子どもや女性たちが理不尽な犠牲を強いられるようなことがあってはならない。

条約には引き渡し拒否の例外もある。政府は国会提出する関連法案に、例外範囲として児童虐待に加え、配偶者間のDVも明記する方針という。日本に連れ帰るほど追い込まれる前に、在外公館などが積極的に支援する仕組みも整えたい。

親権についても、国内の現状との整合性をどう取るのか、難しい判断を迫られる事態も予想される。

日本人の家族観も問われる問題だ。国際結婚をしている人だけにとどまらず、社会全体で議論を深める必要がある。
=2013/02/20付 西日本新聞朝刊=

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