毎日新聞社説:ハーグ条約加盟 政府の支援が肝心だ

社説:ハーグ条約加盟 政府の支援が肝心だ

http://mainichi.jp/opinion/news/20130220k0000m070130000c.html

毎日新聞 2013年02月20日 02時32分

 国際結婚が破綻し、一方の親が無断で子供を連れて出国した場合、いったん子供を元の国に戻す原則を定めた「ハーグ条約」への加盟が今国会で承認される見込みになった。

自民、公明両党が19日の党内手続きで条約承認案と関連法案の今国会提出を事実上了承した。訪米する安倍晋三首相はオバマ大統領との首脳会談で加盟を表明する意向だ。

昨年12月末時点で89カ国がこの条約を締結している。主要8カ国(G8)で未締結は日本だけで、欧米から強く加盟を求められていた。

国際的なルールにのっとって問題解決を図る道筋は避けられない。ただし、日本の場合、外国人の夫によるドメスティックバイオレンス(DV)被害などを訴えて母親が子供を連れ帰るケースが多数あるとされる。「自国民の保護」、何より「子供の利益」にも配慮するのは当然だ。

関連法案などによる新たな仕組みはこうだ。例えば、日本人が子供を無断で連れ帰った場合、外国の配偶者から申し立てがあれば、外務省は子供の所在を調査し、日本の裁判所で返還の是非を判断する。審理は東京・大阪両家裁で行われ、不服があれば高裁、最高裁まで争える。

条約は、「子供の心身に害を及ぼす重大な危険がある場合」は返還拒否できると規定。さらに国内法で「申立人が子供や相手方に対し暴力をふるうおそれがある場合」などと、より具体的に返還拒否できるケースを明記した。

主要締結国の司法判断は、「返還命令」7割に対し、「返還拒否」3割とのデータがある。元の国に戻すのが原則とはいえ、比較的広範に返還拒否も認めている。諸外国の事例を分析・集積することが必要だ。

当事者(自国民)に対する政府のきめ細かいフォローも求められる。条約加盟を機に政府が介在し、解決に協力する責務が生まれるからだ。

在外公館が相談対応し、弁護士や支援機関・通訳などを紹介する▽暴力などの相談内容を記録し、外務省経 由で記録を裁判所に提供する▽外国の病院の診断書やカルテ、警察の相談記録などを取り寄せる−−などの対応を積極的にとっていく方針を外務省は明らかにし た。また、経済的に余裕のない人に対しては、無料の法律相談や裁判費用の支払い猶予なども検討する。

返還命令によって日本からいったん外国に子供が戻されても、改めて親権を争うケースもあり得る。政府の積極的な対応で適切な「自国民の保護」が図られることは重要だ。

外国人配偶者によって子供が国内から連れ出された場合、条約締結国であれば外交ルートで返還要求もできる。政府の役割は重い。

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