北海道新聞:ハーグ条約 子供の利益を最優先に(2月18日)

ハーグ条約 子供の利益を最優先に(2月18日)

http://www.hokkaido-np.co.jp/news/editorial/442358.html 

安倍晋三首相は今月下旬の日米首脳会談で、国際結婚が破綻した際の子供の扱いを定めたハーグ条約への早期加盟を表明する。

日本人の親がもう一方の親に無断で子供を国外に連れ出したとして、米国などから日本政府に100件近くの訴えが寄せられている。しかし、条約に未加盟のままでは解決は難しい。

主要8カ国(G8)で未加盟なのは日本だけだ。このままでは日本に帰国した親が元の居住国に戻った際、誘拐罪で摘発される恐れがある。

トラブル防止のためには国際的な取り決めが必要だ。加盟自体は妥当な判断と言える。

ただ、国内には「加盟すると元の居住国への子供の返還を拒否できなくなる」など懸念も根強い。

対米配慮だけで加盟を急ぐのであれば、幅広い理解は得られない。子供の利益を最優先に、加盟に必要な関連法の整備を進めるべきだ。

条約は16歳未満の子供の連れ去りが対象だ。もう一方の親が子供に会えなくなるのを防ぐ狙いがある。求めがあった場合、いったん子供を元の居住国に返還するとしている。

日本人の国際結婚は2006年をピークに減っているが、年間3万件前後で婚姻数の約4%を占める。

離婚し、帰国した母子には元夫の家庭内暴力から逃れる人が少なくない。子供の返還には抵抗感が強いとされる。日本が加盟に慎重だったのはこうした人たちへの配慮がある。

問題は、加盟した場合、子供が暴力を受ける危惧があったときに返還拒否が本当に認められるかだ。

条約は子供自身が返還に反対した場合や、子供の心身に危害を加えられる危険な状況に置かれた際に、返還拒否が可能としているが、具体的なケースは規定していない。

関連法案には返還の例外として帰国後、子供が虐待を受ける恐れがある場合を盛り込む見通しだ。

条約の趣旨に沿いながら、虐待の恐れをどういう基準で判断するか。他の加盟国の理解も得られるよう、議論を深めなければならない。

離婚後の子育てをめぐるトラブルが多い背景には、国際間の親権についての考え方の違いがある。

欧米では離婚後も双方の親が子育てをする「共同親権」が主流だ。

日本では家父長制度の影響で、父母いずれかの「単独親権」しか認めていない。最近は日本人同士が離婚しても親権を失った親が子供を連れ去ったり、逆に面会を拒否されたりする例が増えている。

大人の都合だけで子供が両親に自由に面会や交流ができない事態は異常だ。条約加盟を機に、日本の親権のあり方についても考えたい。

12年前