家庭裁判所:家事事件における家庭裁判所調査官の活動について

東京家庭裁判所家事部
「家事事件における家庭裁判所調査官の活動について
~親権や面会交流が争点になっている調停事件への関与を中心に~
(「東京家裁だより」第14号、2013年1月)

http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/kouhoushi14.pdf

家庭裁判所調査官( 以下,「家裁調査官」という。) は, 全国の各家庭
裁判所と各高等裁判所に置かれている裁判所職員で, 家庭裁判所では,
裁判官の命令に従って, 家事事件, 離婚訴訟事件( 親権者の指定につい
ての裁判に限る。) 及び少年事件の審理等に必要な調査を行っています。
今回は, 東京家庭裁判所本庁の家事事件における家裁調査官の活動を
紹介します。
1 多種多様な調査活動
一口に家事事件と言っても, 多種多様な事柄を取り扱っています。
東京家庭裁判所本庁には, 財産管理関係事件, 後見関係事件, 遺産分
割関係事件及び人事訴訟事件のそれぞれの審理を担当する部署( いわ
ゆる専門部) と, これら以外の全ての事件の審理を担当する部署( い
わゆる一般部) があり, それぞれの部署に, 裁判官, 書記官, 事務官
が置かれていますが, 家裁調査官も, 財産管理係を除く全ての部署に
配置されています。一般部の家裁調査官は, 主に, 夫婦関係調整調停
で親権や面会交流が争点となっている事案, 親権や子の監護に関する
調停又は審判事件( 親権者変更, 面会交流, 子の引渡し等), 未成年者
の福祉に関する審判事件( 養子縁組許可, 特別養子縁組許可, 児童の
施設入所の承認等) などに関与しています。
調査活動の態様も, 心理学, 社会学, 社会福祉学, 教育学等のいわ
ゆる行動科学の知見を活用して事実の調査を行うほか, 審判又は調停
の期日に立ち会い, 必要に応じて意見陳述する, 社会福祉関係機関と
の連絡等の調整活動を行う, 履行確保を目的とした調査・勧告を行う
など様々なものがあります。
2 親権や面会交流が争点となっている調停事件への関わり
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親権や面会交流が争点となっている調停事件, すなわち, 親権や面
会交流が夫婦の離婚条件として争われている, 離婚後に親権をめぐる
紛争が生じている, 父母の別居中又は離婚後に面会交流の実施やその
方法等が問題となっている等の調停事件に家裁調査官がどのように関
わっているか, 少し詳しく見てみましょう。
(1) 家裁調査官の関与の目的
調停は, 調停委員会( 通常, 裁判官又は調停官一人と男女の調停
委員一人ずつで構成) が当事者の言い分を聴き, 助言や解決案の提
示等を行って, 当事者の合意形成による問題解決を目指す手続です
が, 親権や面会交流が争点となっている事案では, 子どもの状況を
的確に把握した上で, その意思や心情を尊重し, 子どもの福祉にか
なった解決を図る必要があります。
子どもは,父母の紛争に巻き込まれると,悲しみや不安が高まり,
その結果, 身体面の不調を訴えたり, 学校生活等に不適応を生じた
りすることもあります。親子関係はぎくしゃくし, 子どもにとって
家庭が安心できる場ではなくなってしまいます。このような状態が
長く続くと, 子どもが深刻な心の傷を負うことにもなりかねません。
家裁調査官は, 裁判官から命令を受けて, 子どもの状況や心情な
どを明らかにする調査を行います。父母に子どもの福祉により目を
向けてもらい, 子どもにとってより良い問題解決がなされる一助と
なることを目指しています。
(2) 関与の実際
通常は, まず調停期日に立ち会って, 調停委員と共に父母から主
張や事情をお聞きし, 必要に応じて, 調停委員会に対して意見を述
べたり, 父母に助言したりして, 調停の進行を補佐します。初回の
期日から継続して立ち会うこともあれば, 調停委員会の判断により,
途中の期日から立ち会うこともあります。調停委員会に対しては,
次回の調停までの間に家裁調査官が調査を行う必要があるか否か,
調査を行う場合の調査対象や調査方法等についての意見も具申しま
す。
調停期日間に調査を行うことになったときには, 当事者の御都合
等にも十分に配慮した上で, 調査のスケジュールを組みます。調査
方法には, 父母との面接, 子どもとの面接, 家庭訪問, 学校等への
訪問, 親子の交流場面への立会いなど様々なものがあり, それぞれ
の事案に応じた方法を選択して調査を実施します。
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父母からは, 子どもについて, これまでの生活歴, 現在の家庭等
での生活の様子, 健康状態, 発達・発育の状況などを詳しくお聞き
し, また, これまでの監護養育や親子の交流の状況, 今後の子ども
との関わり方についての考えなどをお聞きします。
子どもと面接するときには, その時間, 場所, 進め方をどうする
か,事前に十分検討します。一般的には,子どもの年齢が低ければ,
家庭訪問して, 一緒に遊んだりもしながら, その表情, 仕草, 態度
にも注目して面接することが多く, 子どもの年齢が高ければ, 裁判
所において意向等を直接的に聴くことが多くなりますが, 子どもの
年齢以外の様々な要素も考慮しながら, 事案に応じた最も適切な方
法を選択します。いずれの場合でも,できるだけ子どもが緊張せず,
素直に意思や感情を出せるよう, 面接の仕方を工夫しています。子
どもが幼かったり, 父母に対する気遣いからその気持ちを言葉でう
まく表せなかったりするときに, 子ども向けの心理テストなどを用
いて, 子どもの心の状態を把握することもあります。また, 調査の
目的などを子どもに分かりやすく伝えるよう心掛けています。
親子関係を詳しく把握するために, 裁判所の児童室を利用するな
どして, 親子が交流する場面に立ち会うこともあります。交流を行
った結果, 父母が子どもの気持ちに気付いたり, それまでなかなか
実施できなかった面会交流が実現でき, その後の継続的な面会交流
の実施につながったりするケースもあります。
家裁調査官は, これらの調査を行った後, 裁判官に対し調査結果
を報告します。調査で明らかになった事実を基に, 行動科学の知見
からの検討を加え, 望ましい解決方法について考察し, 意見を提出
します。父母にもその内容を説明するなどして, 調停での話合いが
円滑に進むよう努めています。
3 家事事件手続法と家裁調査官
平成2 5 年1 月,家事事件手続法が施行されました。この法律では,
未成年者である子どもがその結果により影響を受ける家事事件におい
て, 家庭裁判所は調停及び審判をするに当たり, 子どもの意思を把握
するように努め, 年齢や発達の程度に応じてその意思を考慮しなけれ
ばならないことが定められました。
家庭裁判所が子どもの意思を把握する上で, 家裁調査官が担う役割
は今後ますます重要になっていくものと考えられます。

12年前