児童虐待相談6万件迫る 通報の意識高まる 11年度最多更新
全国の児童相談所(児相)が二〇一一年度に把握した児童虐待の件数は五万九千八百六十二件(速報値)で、過去最多を更新したことが二十六日、厚生 労働省のまとめで分かった。一〇年度(東日本大震災の影響で福島県は未集計)と比べ三千四百七十八件の増加。一九九〇年度の集計開始の翌年度から二十一年 連続増となった。
厚労省は「社会の関心が高まり、疑わしいケースも通報するという意識が高まったためではないか」と分析している。
一方、虐待から子どもを守るため親権を最長二年間停止できるようにした今年四月施行の改正民法に基づき、児相の所長が家庭裁判所に親権停止を申し立てたケースは六月末時点で六自治体の七件で、うち一件は実際に親権停止が認められていたことも分かった。
厚労省によると、虐待の件数は、通報や相談を受けた児相が虐待と判断、一時保護などの対応をしたものを集計した。都道府県別で最多は大阪の八千九百件で、神奈川七千二百九十六件、東京四千五百五十九件と続いた。
一方、一〇年度に虐待で死亡した児童(無理心中は除く)は五十一人で前年度より二人増えた。ゼロ歳児が二十三人と最も多く、三歳児までが四十三人と、全体の八割以上を占めた。
六月末時点で親権停止が認められたことが確認された一件は、申し立て時点で十七歳。保護者から身体的虐待を受け、食事も与えられず、友人宅や漫画喫茶などを転々として高校に通っていた。
◆親権停止 本人申請で認可
児童虐待防止のため親権を最長二年間停止できる制度が創設された改正民法。親が虐待を認めないケースも多い中、子どもたちの保護や自立を促す効果が期待される。
厚生労働省が二十六日公表した親権停止の申し立て事例の一つは医療ネグレクト(放棄)。先天的疾患のある子どもが、保護者が同意しないため必要な検査や手術を受けられず、保護者は子どもの引き取りも拒否していた。
放置できないと判断した児童相談所(児相)の所長は家庭裁判所に親権停止を申し立て、同時に手術を受けさせるための仮処分を求め、認められた。
厚労省がまとめたのは児相所長による七件だけだが、新制度では子ども本人や未成年後見人も親権停止を申し立てることができる。愛知県の十九歳の女性が六月に親権停止の仮処分を認められたケースは、本人による初の申し立てとみられる。
代理人弁護士によると、この女性はかつて母親の再婚相手の義父から性的虐待を受け、母親にも「自分で何とかしろ」と無視されたことから児童養護施 設に入った。虐待の記憶はなかなか消えず、施設でも自傷行為を繰り返すほどだった。高校卒業後、働きながら進学。今年になって授業料減免の申請などに親の 同意が必要になったが、母親と連絡が取れなくなり、親権停止を申し立てた。
弁護士は「法施行から三カ月で申し立てが七件あったことは、法改正の効果だと評価できる。本人申し立てで、仮処分が認められた意義も大きい」と話している。