田中・渡辺法律事務所: 弁護士 コラム

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弁護士 コラム
2012年4月19日
子との面会交流

1.民法第766条が改正され、本年4月1日施行されました。この改正で、「離婚した父母と子の面会交流について、離婚の際に定めておくこと」が法定されたのです。これまで、面会交流(かつては面接交渉と呼んでいた)は、民法に明文の規定がなく、「子の監護に関する処分事件」として、審判事項となっておりました。しかも面会交流に関する調停事件は、平成8年の10,459件が、平成17年には、21,570件と倍増しております。驚かれるかも知れませんが、面会交流についての法律の定めがなかったのです。この度、面会交流権そのもの及び子の利益を最も優先して考慮することが定められ、一応立法上の解決がされました。

2.日本では、多くの場合、父親は外で働き、母親が育児に従事するので、子の身上監護を行う事ができず、離婚の際母親が親権者となり、子は母親のもとで育てられることになります。父親が親権者となるのは、ごく稀です。離婚後、父親が子に会いたがっても、母親は、養育費の負担だけをさせて、できるだけ父親と会わせまいとします。母親は、子が嫌がっているからと言って、父親との面会を拒絶することがあります。しかし、本当に子どもが嫌がっているかどうかは、外からはなかなか分かりません。母親の単なる嫌がらせに過ぎないこともあります。また、逆に父親は、面会交流の機会を利用して、子供をそのまま母親のもとに戻さないということもあります。面会交流をめぐっては様々な紛争があります。面会の回数、面会の時間、場所、第三者の立会などです。また、子が10歳から15歳の場合と、乳児、幼児、学童期の場合では、大違いです。子の成長に応じた面会交流が必要なのです。年3回の宿泊面会を認めた例もあります。このように、子との面会交流には、財産法では割り切れない要素=成長する子とその子に必要な親という側面と子を想う親の情という側面が複雑に絡んでいるのです。

3.離婚後の面会交流は、今回立法化されましたが、別居中の夫婦、父母共同親権の下での子との面会交流は、立法化されていません。母親が子供とともに行方をくらますこともあります。子の連れ去りであり、引き剥がしです。その口実に虚偽のDVを訴えることもあります。証拠の無い暴力をでっちあげるのです。DV法にもとづく接見禁止の仮処分の却下率が高いことも、虚偽の申立が多いことを示しています。居場所を突き止めて訪問しても、会わせない親もいます。弁護士が親に同行すれば、弁護士の懲戒請求までする親もいます。それをあおる弁護士もいます。家裁で面会交流の日時や回数を定めても、約束を守らない親もいます(横浜地判H21.7.8は、正当な理由なく面会交流権を否定したとして、母親に70万円の支払いを命じています)。そのような場合、間接強制といって、約束を破ると、1回につき金1万円を支払えという命令を求めることもできます。1回5万円の支払いを命じた例もあります(岡山家裁津山支決H20.9.19)。別居中の面会交流は、一方の親(非監護者といいます)にとって、親権者であるにも関わらず、親権を行使できないという壁にぶち当たっています。父母共同親権が無視されているのです。その腹いせに、婚姻費用の分担金を支払わないということもあります。その結果、給料の差押を受けることもあり、まさに「踏んだり蹴ったり」です。

4.今般の民法改正で、離婚の際に面会交流について協議をして定めなければならないことになり、協議が整わないときは、家庭裁判所が定めると規定されております。だいたい多くの面会交流についての調停では、月1回程度ですが、子に会いたい父親は月2回ないし3回の面会交流を求めております。家庭裁判所の裁判官は、どのような根拠で面会交流の回数や方法を定めるのか。その裁判官は、果たして、親子の情義というものが分かっているのか。家裁で裁判官から「あなたが子どもと会わないことが、子供の幸せ」と暴言を吐かれて自殺した父親もおります(岐阜・H23.5)。子にとって、成長していくうえで、親はどんな位置づけなのか。逆に、親の子に対する愛情は、無視しても良いのか。これらのことを考えた上で、面会交流の実施が決定されなければなりません。

5.民法は、面会交流は、子の利益を最も優先して行わなければならないとしています。当たり前の事であり、何のための面会交流かも常に問われなければなりません。例外的ですが、一方の親の面会交流を否定した判例もたくさんあります(大阪高決H21.1.16・家裁月報61-11-70)。面会交流の方法として、手紙で写真の送付を命じた例もあります(さいたま家裁審判H19.7.19・家裁月報60-2-149)。裁判官は、写真を送れば面会交流になるとでも思っているようです。親であれば、誰でも面会交流権があると思うのは、間違いなのです。

6.いずれにせよ、今回の民法の改正によって、父親または母親と子の面会交流が明文化されたことで、面会交流権は一歩前進しましたが、まだまだ問題の解決についての道は険しいといえるでしょう。

12年前