日経ビジネス:日本人による“米国人拉致”問題の行方

日本人による“米国人拉致”問題の行方

条約の批准だけで問題が解決するのか?

http://business.nikkeibp.co.jp/article/skillup/20120622/233686/?P=1&rt=nocnt

土方 奈美

“Abduct”という動詞をご存じだろうか。北朝鮮による日本人拉致問題について報じるとき、英語メディアが使う言葉である。Oxford English Dictionary の定義には“To take (a person) away by force or deception, or without the consent of his or her legal guardian; to kidnap”(誰かを無理やりもしくは騙して、または法的保護者の合意なしに連れ去る。誘拐する)とある。

ただ、日本絡みでこの単語がよく使われるケースがもう1つある。国際結婚が破綻した夫婦間で、一方の親が子供を母国に連れ帰るトラブルだ。具体的には、米国人など外国人と離婚した日本人女性が、相手の合意なしに子供を連れて日本に帰国してしまうケースが多い。

この問題が特に注目されるきっかけになったのは、2009年9月にテネシー州の男性が来日し、元妻と一緒に日本で暮らしていた子供を強引に米国に連れ帰 ろうとして、福岡県警に未成年者略取容疑で逮捕された事件だ。米国のCBSニュースのレポーターは事件発生直後、“Mr. X’s ex-wife Y abducted their children this summer and took them to Japan”(X氏の元妻であるYは今年の夏、夫妻の子供たちを拉致し、日本に連れ帰った。報道時はX,Yともに実名)と報じていた。テネシー州の裁判所による決定を無視し、子供たちを日本に連れ帰った妻の行動こそ“拉致”と表現したのだ。

「親による拉致は、国際社会では犯罪」

米議会下院は2010年9月に、この問題を巡る日本の対応を非難する決議を採択した。そのとき演説したバージニア州選出のジェームズ・モーラン議員は“They (Japanese officials) are directly complicit in these abductions.(日本の当局者はこれらの拉致事件に直接加担している)”と訴えた。英語ネイティブに聞くと、非常に強い批判の表現のようだ。「こうした行為を誘拐とみなす米国をはじめ、国際的には犯罪とされる親による拉致を、日本は犯罪と認識していない」とも語った。

批判の裏には、主要先進国で「ハーグ条約」を批准していないのは日本だけ、という事情がある。ハーグ条約は1980年につくられた国際条約で、正式名称 は“Hague Convention on the Civil Aspects of International Child Abduction(国際的な子の奪取の民事面に関するハーグ条約)”。ここではabductionの訳語に「奪取」があてられているが、奪取は「敵塁を 奪取」などスポーツでも使われることもあり、訳語は比較的穏当な印象を受ける。「拉致」「誘拐」「略取」などでは語感がきつすぎるという判断があったのだ ろうか。

12年前