DV加害者になってしまわないために、弁護士会家族法律相談センター

ドメスティックバイオレンス(いわゆる「DV」)は、社会的な問題にもなっていますし、弁護士として、被害者の相談を受ける機会も少なからずあります。DV被害者から法律相談を受けた場合、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(以下、「DV防止法」といいます。)」に基づく保護命令の申立を勧め、裁判所に、DV加害者がDV被害者に接近することを禁止する決定をしてもらうように働きかけることもあります。しかし、この保護命令の申立は、DV被害者の置かれた状況を考慮して、わりあい簡単に行えるようになっているため、DVにはおよそあたらないようなケースでも、配偶者から保護命Photo令を申し立てられてしまう、という事案が見受けられるのです。本来であれば、DV防止法に基づく保護命令の対象となるDVは、「①配偶者からの身体に対する暴力と②被害者の生命または身体に対し害を加える旨を告知してする脅迫」であり、保護命令については、「今後受ける身体に対する暴力により、その生命または身体に重大な危害を受けるおそれが大きいこと」が要件とされています(DV防止法10条)。それでも、申立自体は自由ですから、保護命令を申し立てることによって、その後の離婚調停や離婚訴訟で自分が有利な立場に立つために、あえてDVとはいえないようなケースについて保護命令を申し立てる配偶者がいるの です。 私の依頼者だったAさん(男性)も、身に覚えのないDVを行ったとして、奥さんに保護命令を申し立てられてしまいました。Aさんは、保護命令を申し立てられた時、警察の留置場にいました。奥さんとその友人が一方的に、Aさんから暴行を受けたと警察で話したことで、逮捕されてしまっていたのです(実際には、話合いの際にもめてしまい、つかみかかってきた奥さんを制止しようとして、Aさんは、奥さんの腕をつかんだとのことでした。)。Aさんは、自ら弁護士のところに行って相談することも、裁判所で本当のことを話すこともできない状態にありました。私は、Aさんの母親から連絡を受けて、警察の留置場に面会に行き、Aさんに届いた保護命令申立書を確認しました。申立書は、奥さん本人が作成したもので、Aさんが逮捕されたのと同じ暴行のことが書いてありました。しかし、保護命令の要件となっている「今後受ける身体に対する暴力により、その生命または身体に重大な危害を受けるおそれが大きいこと」については、特に説得的な内容は書かれていませんでした。Aさんと奥さんは、Aさんが逮捕される少し前から離婚についての話合いを始めたところで、どちらが一人娘の親権者になるかでもめていました。奥さんとしては、AさんがDV加害者であると印象付けることによって、離婚Photo_2に伴う親権や慰謝料などの問題において自分に有利に事を進めようと考えていたのかもしれません。私は、留置場から出ることのできないAさんに代わって、裁判官にAさんの言い分を伝えました。裁判官は、Aさんが逮捕されているという事実を気にしている様子でしたが、その後、暴行については不起訴処分となってAさんは釈放され、保護命令についても却下決定がなされました。 Aさんのように、配偶者との間のもめごとが起きた場合に、暴行にあたりうるような行動(些細な身体的接触であっても、相手方にはそうとられない可能性もあります。)をしてしまうと、配偶者に保護命令申立のきっかけを与えてしまうことになりかねません。逮捕された上に、配偶者に保護命令を申し立てられてしまうと、ご本人は身動きできませんから、タイミングよく弁護士に相談できる状況でないと、配偶者の言い分だけを鵜呑みにした配偶者に有利な決定が出てしまう可能性も考えられます。配偶者との間で離婚の話が出ているような状況では、配偶者に対して身体的な接触は控えた方がよいでしょう。そもそも、当事者間での離婚の話合いがまとまらないような場合には、当事者だけで話し合うのではなく、第三者を間に入れて話合いをするなどした方がよいでしょう。そして、なるべく早い段階で、弁護士に相談することをお勧めします。

13年前