離婚届に養育費と面会交流 記入欄新設されたが… 強制力なく自衛策必要
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2012年4月17日
養育費などの取り決めの有無について問うチェック欄が新設された離婚届の用紙(上)と、法務省が作成した啓発パンフレット(左)。右は厚生労働省のもの
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今月1日から離婚届に、子どもの養育費と面会交流の取り決めの有無のチェック欄が新設された。離婚前にそうした取り決めをするのは少数派。「まずは取り決め率を上げよう」という狙いだが、履行への法的拘束力はない。これで子どもの利益が守れるのか。 (竹上順子)
緑色のインクで印刷された離婚届。右下に「未成年の子がいる場合」との前提で、養育費の分担と面会交流について、取り決めの有無をチェックする欄がある。
東京都文京区役所の戸籍住民課では、離婚届の用紙を取りにきた当事者に、新設欄の説明をする。未記入でも離婚届は受理するが、担当者は「未記入なら『チェックを』など一声掛けます」と話す。全国の各自治体でも、似たような声掛けは始まっている。
離婚後の子どもの養育費は、両親で分担することが法的義務だ。だが二〇〇六年度の厚生労働省の調査では、協議離婚による母子家庭のうち、取り決めをしていたのは約三割。支払いが止まるケースも多く、養育費を「現在も受けている」と答えた母子家庭は、全体でも二割弱にとどまった。
国は、離婚の九割を占める協議離婚での取り決め率を上げようと、昨年改正された民法に、離婚の際は「子の利益」として、取り決めをするよう明記。それを受けてチェック欄ができた。だが、法的拘束力はなく、注意を促すだけの備忘録で、実際に養育費問題などの改善につながるかは、疑問が強い。
例えば、養育費が不払いになった場合、家庭裁判所の調停などで決めていれば、家裁からの履行勧告や、給与の差し押さえなどの強制執行もできる。協議離婚でも、公正証書があれば、強制執行の申し立てはできる。
しかし、あくまでも調停や公正証書が前提。口約束やほかの私的な書面での取り決めで、離婚届にチェックをしても、それを元に強制執行はできない。
東京都ひとり親家庭支援センターの三宅宗子相談員は「離婚時にせっかく決めても、口約束では絵に描いた餅。窓口の担当者は『公正証書を作った方がいい』『約束が担保される調停離婚がいい』などと積極的にアドバイスを」と話す。
養育費相談を受けている同センターでは、昨年度の相談件数は約四百件。当事者のうち約百二十人が、離婚した後の相談だった。都福祉保健局の田村陽子・ひとり親福祉係長は「離婚時は子どもが小さく養育費は不要と考えていても、成長につれて学費などがかかるようになり、相談する例も多い」と話す。
離婚後でも取り決めや家裁への請求申し立てはできるが「まずは離婚時の取り決めを。第三者が関わった方が、知識が得られ、話し合いもスムーズになる。ぜひ地域の関係機関に相談を」とアドバイスする。福祉事務所や母子家庭等就業・自立支援センターなどで相談できる。
国はこれまで、養育費の強制執行手続きの簡略化や、専門相談員の配置と家裁への同行支援など、さまざまな制度を整えてきた。今回のチェック欄の新設でも、取り決め率は上がるかもしれない。
だが、調停や公正証書など自助努力が前提であることはそのまま。ひとり親家庭支援のNPO法人「Wink」の新川てるえ理事長は「取り決め事項などを示したガイドラインの作成や不払いの防止の仕組みづくりなど、国はもっと関与を」と話した。