熊本日日新聞社説: ハーグ条約加盟 支援態勢の整備が不可欠 2012年04月13日

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ハーグ条約加盟 支援態勢の整備が不可欠 2012年04月13日

 国際結婚の破綻によって子どもの奪い合いが起きた時にどう対処するかを定めた「ハーグ条約」加盟に向け、国内手続きなどの関連法案が今国会に提出されている。

 政府は昨年5月に条約加盟を決め、今年2月には法制審議会(法相の諮問機関)が関連法の整備要綱をまとめた。外務省は“本番”をにらみ、返還の申し立てがあった子どもの居場所を調べる「中央当局」の態勢づくりを本格化させている。

 準備が進むにつれ、条約への理解も広がりつつある。とはいえ、これまで誰も経験したことのない仕組みに不安を抱いている人は少なくないはずだ。政府には、十分な国会審議を通して、実際の運用がどのようなものになるのか-例えば、国際結婚が破綻しそうになったら当事者は何をしておくべきか、などを丁寧に説明するよう求めたい。

 何より重要なのは、大使館や総領事館の役割だ。夫婦間の争いの相談を持ち込まれることが増えるだろう。場合によっては相談を記録し、子どもの返還申し立てを審理する日本の裁判所に提供することになる。返還手続きや現地の法制度に通じた要員をそろえるなど、支援態勢に万全を期してもらいたい。

 条約に加盟すると、例えば米国に残された父親が子どもの返還を申し立てた場合、中央当局が自治体や学校の協力で子どもと母親を捜し出し、東京か大阪の家裁で返還の是非について非公開の審理が行われる。

 いったん子どもを元の国、このケースでは米国に返し現地の法制度の下で親権などについて話し合うというのが条約の原則だが、法案は「子が心身に害悪を受けたり、耐えがたい危険な状態に置かれたりする場合」は返還の義務を負わないとしている。過去に子どもを連れて日本に帰国した母親の多くが家庭内暴力の被害を訴えたことが背景にある。

 ほかに連れ帰って1年が経過、あるいは一定の年齢に達した子どもが返還を拒んでいることなども返還拒否の理由になる。

 現地の日本人から相談を受けた大使館などは、条約の仕組みを説明するとともに、弁護士や福祉専門家を紹介したりすることも求められる。条約への加盟には、こうした支援態勢の整備が不可欠だ。

12年前