朝日新聞社説:国際離婚条約―外務省の責務は重い

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国際離婚条約―外務省の責務は重い2012年3月25日

 ハーグ条約に参加するため、国内の手続きを整える法律案がこのほど閣議決定された。

 国際結婚が破綻(はたん)し、一方の親が無断で子を連れて出国してしまったとき、その子をいったん元の国に戻したうえで、どちらの親が子を育てるかを決める。それが条約の考えだ。

 法律案には、子の心やからだに害悪がおよぶ場合などは例外的に元の国に戻さなくてもいいこと、その判断は東京か大阪の家庭裁判所がおこなうこと――などが書き込まれた。

 家庭内暴力をふるう夫から日本に逃げてきた妻たちの経験をふまえ、他国の取り組みも参考にした規定だ。おおむね妥当な内容と評価できる。

 政府が昨春、加盟方針を打ちだし、法制審議会などで検討を重ねてきた。非加盟のままだと日本人が子を連れ去られた際に国として適切に対応できないことも指摘され、条約への理解は深まっていると思われる。

 だが、依然として不安を抱く人は少なくない。対象となる案件は年に数十件ほどと思われるが、実際にどんな運用イメージになるのか。国会での審議を通じて、ていねいに説明していくことが欠かせない。

 なにより大切なのは、手続きにかかわる公務員や法律家が制度への理解を深めることだ。

 裁判所は、多くの家庭内トラブルを解決してきた経験をいかし、親の都合ではなく「子の利益」を常に念頭において、判断を積んでいく必要がある。

 慣れない課題に取り組まねばならないのが外務省だ。

 子を連れ去られたという外国からの訴えを受け、自治体や学校にも協力を求めて子を捜す。話し合いで解決できないか、双方の親に働きかける。子を元の国に送り返した後も、最終結論が出るまで、その子が問題なく生活しているか目を配る。

 そんな役割を担う。大使館や総領事館では、夫婦間の争いに悩む在外日本人の相談もふえるだろう。要員の確保や研修に万全を期してもらいたい。

 とはいえ、政府や裁判所のできることには限界がある。

 文化や慣習が異なる国際結婚では、夫や妻との関係がうまくいかなくなったとき、事態はより深刻になりがちだ。

 万一の場合を考え、現地の法制度や保護のしくみを知っておくべきだし、裁判や話し合いの席で役に立つ記録を残しておく作業も必要になろう。

 子と自分を守るために何をすべきか。一人ひとりの覚悟と準備が問われる時代だということを認識しなければならない。

12年前