徳島新聞社説: ハーグ条約加盟 子どもの利益を最優先に

2月14日付
 ハーグ条約加盟  子どもの利益を最優先に

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 国際結婚が破綻した夫婦間の子どもの扱いを定めた「ハーグ条約」加盟に向け、法制審議会が国内法の要綱案を小川敏夫法相に答申した。政府は、条約承認案と関連法案を3月中にも国会に提出する方針だ。

しかし、日本人の親が連れ帰った子どもを元の国に戻す際の条件など、詰めなければならない課題はまだまだ多い。

制度設計を誤れば、子どもの将来に深刻な影響が及ぶ恐れもある。子どもの利益と安全を第一に考えた運用がなされるよう、国内法の整備には細心の注意を払ってもらいたい。

ハーグ条約は、離婚や別居に至った夫婦のどちらかが無断で連れ出した子どもを元の居住国に戻し、親権問題を解決するよう定めた国際ルールだ。欧米を中心に87カ国が加盟しており、主要国(G8)では日本だけが加盟していない。

このため、子どもを連れて帰国した日本人の親と、返還を求める外国人の親との間でトラブルが頻発しているのが実態だ。昨年末時点で、米国など4カ国から指摘されている連れ帰りは約200件に上り、外交問題にも発展している。

昨年は、米国から子どもを連れ帰った日本人の母親が親権妨害罪で米国で訴追されるケースも起きた。一方、条約に未加盟のため外国に連れ出された子どもに 手が出せない日本人の親もいる。これ以上、国をまたいだ親権問題で子どもを振り回さないためにも、条約への加盟は待ったなしの課題といえる。

外国人の親から返還の申し立てを受けた加盟国は、子どもの所在を調べ、必要と判断すれば元の国に戻す義務を負うことになる。

法制審がまとめた要綱案では、東京と大阪の家庭裁判所が窓口となって返還の是非を審理し、返還命令を日本人の親が拒めば引き渡しを強制執行できるとしている。厳正かつ公平な判断が欠かせないのは言うまでもない。

最大の課題は、外国人の夫による子どもへの虐待やドメスティックバイオレンス(DV)が要因で連れ帰ったとするケースへの対処だ。条約も、返還することで子どもに重大な危険が及ぶ場合はそれを拒否できるとしている。

この点について要綱案は、「子どもが新しい環境に適応し、返還を拒んでいる」「返還すると虐待やDVの恐れがある」場合などを拒否できる基準とした。ただ、返還を望まない親子は虐待やDVがあった事実を自ら立証しなければならず、重い負担を抱え込む。

要綱案を見た欧米各国は、日本が国内法で返還拒否の範囲を拡大しようとしていると批判している。しかし、そもそも国内法で定める例外規定が、どこまで実効性あるものになるか見通せないのが実情だ。

米国は、条約に加盟する前の連れ帰りについても適用対象とするよう求めている。政府の国際社会に対する説明責任が問われよう。

消費税増税などをめぐり与野党の駆け引きが激化する中、法案の今国会成立は不透明な状況だ。だが、国際社会からの信用や子どもの権利保障が絡んだ問題である。与野党は条約加盟の重要性を認識し、審議を尽くさなければならない。

13年前