ハーグ条約加盟
裁判前の解決策を探りたい
国際結婚が破綻した夫婦の子どもの扱いを定めた「ハーグ条約加盟に向け、法制審議会が国内法の要綱を決定し法相に答申した。政府は今国会に条約承認案と 関連法案を提出、会期内の成立を目指す。外務省では、子どもの返還申し立てをめぐり内外の関係機関との調整に当たる「中央当局」の準備事務局が4月に発足 する。
早ければ、年内にも条約が発効する。それによって例えば、海外で別居したり離婚したりした日本人女性が外国人の夫や元夫に無断で16歳未満の子どもを連 れ帰国した場合、夫らから申し立てがあれば、中央当局が居場所を確認。東京か大阪の家庭裁判所が審理を行い、子どもを元いた国に返すかどうかを決める。
■要綱に具体例示す■
返還命令が出されると、母親は子どもとともに元の国に戻り、現地の法制度の下で申立人と親権などについて話し合う。
返還は拒否することもできる。母子が申立人から家庭内暴力(DV)を受ける恐れがあるケースなどだ。要綱はいくつかの具体例を示している。
だが家裁の審理でDVの恐れなどを証明するよう求められるのは母親側で、証拠をそろえるのは容易ではない。遠隔地から審理に出向かなければならない人も いるだろう。子どもと引き離されるかもしれないという不安の中、こうした重い負担と向き合う。それを少しでも軽減するために何ができるか。政府には最大限 の配慮を求めたい。
外務省によると、昨年末時点で米国と英国、カナダ、フランスの4カ国から計193件の連れ去り事案を指摘されている。
■帰国前の入手は困難■
加盟が遅れた背景には、日本と違い欧米では離婚後も両方の親が共同して親権を持つ「共同親権」が主流であることや、連れ帰りの理由にDV被害を挙げる母親が多かったことなどがあった。
連れ帰って1年が経過、あるいは、一定の年齢に達した子どもが返還されることを拒んでいる―は返還拒否の理由になる。さらに要綱は、申立人が子どもやも う一方の親に暴力を振るう恐れがあったり、アルコール依存症などで子どもの面倒を見ることができなかったりすると家裁の審理で考慮すべき事情になるとして いる。
しかし、それを証明するには過去のDV被害について診断書や地元警察への相談記録が必要になるとみられる。帰国前に入手できている人はほとんどいないだろう。
返還命令が出されても連れ帰った親が応じないときには、まず一定額の金銭支払いが命じられる。それでも返還が実現しなければ、最後は家裁の指示を受けた執行官が強制的に引き離す。
できることなら、そういう場面は目にしたくない。双方が裁判前に問題解決に向け話し合う道も探ってもらいたい。