ハーグ条約 子どもの利益保護を最優先に2012年02月01日(水)
国際結婚が破綻した夫婦間の子ども(16歳未満)の扱いを定めた「ハーグ条約」加盟に向け、法制審議会が関連法の要綱案をまとめた。政府は今国会中に法案を提出し、成立を目指す。
夫婦の一方が子どもを国外に連れ出した場合、加盟国は返還申請を受けて所在を調べ、必要と判断すれば元の国に戻す義務を負う。加盟国は現在87。主要国(G8)では昨年7月にロシアが加わり、未加盟は日本だけとなった。
子どもをめぐる問題では、米国から元夫に無断で長女を連れ帰ったとして、兵庫県の女性が親権妨害罪などで訴追された事例が思い出される。逆に岐阜県の女性の長男をチェコ人の夫が連れ出し、日本が条約未加盟のため対処できないという事例もあった。
ハーグ条約はこうした事態を避けるため、子どもを一方的に国外へ連れ出して奪う行為を防ぐルールと言える。もちろん、子どもの利益の保護を最優先に運用すべきなのは言うまでもない。
政府は、日本人の母親が無断で子どもを連れ帰る事案が多いという欧米からの強い働き掛けを受け、昨年5月に加盟に向けた国内法の整備を閣議了解していた。
要綱案では、子どもを連れ帰った親が返還命令に応じなければ、家庭裁判所がもう一方の親に引き渡せる強制執行権を明記。返還を拒否できる条件や、子どもを捜す政府機関「中央当局」の設置を盛るなど条約の趣旨に準じた。
審理は東京、大阪の両家裁が行い、原則非公開。三審制で、高裁や最高裁に抗告できるとしたのも妥当だろう。
懸念されるのは、返還を拒否できる条件とした「子どもや配偶者が暴力を振るわれる恐れがある」事例の取り扱いだ。
裁判所には、子どもの意思を正確に把握し、虐待や暴力の恐れの有無の客観的な判断が求められよう。
日本では家庭内暴力(DV)を理由に子どもを連れ帰るケースが多いとされる。
DVの説明責任は返還を求められた側が負うことになるが、その具体的な方法も問われよう。拒否を認めてもらうための立証には、精神的にも経済的にも相当な負担を強いられることになる。
一方、欧米各国は、返還を拒否できるのは「子どもに重大な危険が及ぶ場合」で、配偶者からの暴力などを理由として認めていない。
DVについては、日本と欧米の間で定義や被害者保護に違いがある。日本人母親の連れ帰りが一方的とされがちなのは、互いの理解不足もありそうだ。
政府は、文化的な隔たりも見極めながら実効ある法整備を進め、必要な支援措置を講じなければならない。