日経社説:条約運用は子の利益優先で

条約運用は子の利益優先で

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 国際結婚が破綻した際の子をめぐる争いのルールを定めた「ハーグ条約」加盟に向け、準備がほぼ整った。政府は3月に必要な法案を国会に提出する。

 私たちはかねて早期加盟を主張してきた。今後は引き続き加盟へのプロセスを進めるとともに、国会審議を通じて多様な個別事例にきめ細かく対応できる仕組みをつくる必要がある。その際、子の利益を最優先にすることを常に考えることが大切だ。

 親の片方が一方的に16歳未満の子を国外に連れ去った場合、定住していた国に戻して子の扱いをめぐる紛争を解決する。子を戻すかどうかは連れ去った先の国が決める。これがハーグ条約の趣旨だ。

 条約加盟のためには、相手国との連絡調整や子の返還を申し立てる人の支援のため、中央当局をつくる必要がある。また、最終的に子を戻すかどうか判断する裁判手続きも定めなければならない。

 政府は中央当局を外務省に置くことを決めている。国際的な案件である以上妥当だが、法務省、警察庁などとの連携は不可欠だ。

 一方、法相の諮問機関である法制審議会の部会がまとめた要綱案では、裁判は東京、大阪両家裁だけで非公開で行われ、不服があれば上訴できる 三審制がとられる。判断にあたっては、定住した国に戻った場合に親から暴力を受ける恐れがあるかどうかを考慮することなどが明記された。

 現在、条約加盟国は87。2008年の統計によれば、申し立てがあった1903件のうち、和解や裁判で子が定住していた国に戻った例は46%で半数に満たない。裁判でも、うち34%は子の返還を拒否する決定が出ている。

 子を連れて帰国した日本人女性には、家庭内暴力(DV)の被害を訴える例も多い。そのことが政府が条約加盟に消極的だった一因だった。しかし、国によって傾向に差はあるが、子を奪われたとする側の申し立てが拒まれる割合は決して低くはない。そのことも知る必要があろう。

12年前