毎日新聞「共同親権」導入の是非 棚村政行氏/吉田容子氏

ニュース争論:「共同親権」導入の是非 棚村政行氏/吉田容子氏

毎日新聞では、このところ共同親権の導入の是非をめぐって
活発に問題提起しています。

本議論のように、DVや虐待において慎重な意見が出されることは
海外の共同親権の議論においても同様です。
もちろん、二つの問題は関連する問題ですが、
DVや児童虐待については、暴力の防止という観点から独自に施策が
進められるべきことです。

私たちはたくさんの方々が意見を出し合うことを歓迎します。
ただし、下記の議論でもよくわかるのですが
吉田さんの議論は、そもそも「親と子の面会交流は必要だが」と
述べつつも、それを施策として進める意欲が感じられません。
「原則として」親と子の交流は必要なのか、という点について
まず見解を明らかにしてから議論を展開すべきです。

また、「別居」親の権利主張をいやがるのは法曹関係者だけでなく
一般社会に共通する傾向ですが、
これは、子どもを持っていない側が悪いという従来からの発想にたった議論です。
面会交流の権利が離婚と同時に生じるわけではありません。
親の権利は離れて暮らすことによって、物理的に行使することが
難しくなるだけです。
こういった意見は、自分の手元に子どもがいること自体を権利と認識できない
からこその発言でもあります。

「本来子どもにとってプラスになる場合にのみ認められる権利であるべきだ」と
吉田さんは述べますが、それは誰が決めるのでしょうか。
親でもない人にあれこれ自分の子育てを云々され
(中には引き離され)る結果になれば
感情的に反発するのが普通です。
これが、家裁や弁護士に相談した離婚当事者が一般的に感じる不満の根拠です。
そして感情的になった離婚当事者を見て、弁護士や裁判官は
「この人たちに離婚後の協力なんて無理」と判断するわけです。

http://mainichi.jp/select/opinion/souron/news/20100625org00m070999000c3.html

日本は離婚後、一方の親だけに親権を認める単独親権制だ。両親に親権を認め、養育にかかわる「共同親権」を導入すべきだとの声は強いが、虐待やドメスティックバイオレンス(DV)があった場合などの課題も指摘される。【立会人・反橋希美】

◆導入に向けた制度・環境整備を進めよ--早稲田大教授・棚村政行氏

◆男女平等社会の実現を先行すべきだ--弁護士・吉田容子氏
◇面会交流で争い

立会人 少子化や父親の育児参加の進展で、離婚した男女が子どもの親権や面会交流をめぐって争うケースが増えている。

棚村 離婚すると夫婦は他人に戻るが、親子の関係は変わらない。共同親権は離婚後も、できる限り両親が協力し、共同で養育責任を果たすべきだという理念であり原則だ。離婚や親の別居で、一方の親との関係を絶たれた子どもは喪失感を経験する。交流できるのであれば交流し、親子のきずなをつなげるべきだ。

共同親権をとる国でも、ほとんどの子どもはどちらかの親の家に住んでいる。別居親は子と週末や長期休暇の時に面会交流する。日常的なことは同居親が決定するが、学校教育、宗教、医療など重要事項は両親で決める。

ただ、共同親権を法制化すれば、すべての問題が解決するというわけではない。養育上必要な意思疎通が両親の間でとれないほど対立が激しいなど、例外的に単独親権の行使で対応せざるを得ない場合もある。単独親権で対応すべきケースの基準を事前にしっかりと法で定め、当事者間でトラブルが起こった時にサポートする仕組みや、面会交流を援助する施設などの環境整備も必要だ。

吉田 私は共同親権の導入には、極めて慎重な立場をとっている。親には子どもを育てる義務があり、その責任を明確にするために法を変えるという方向であれば異論はない。しかし、昨今の議論は、面会交流する権利のみが強調されていて危惧(きぐ)を覚えている。親と子の面会交流は必要だが、本来子どもにとってプラスになる場合にのみ認められる権利であるべきだ。

婚姻中にDVや虐待があったり、両親がきちんと育児に関与していなかったケースは多々ある。離婚と同時に、夫婦だった男女が平等に子育てできるようにはならない。共同親権を導入したら、養育を巡る話し合いは対等な力関係が前提になるべきだが、離婚後の男女には、所得格差が厳然としてある。共同親権を法制化するよりも、男女平等社会の実現やDV被害者へのケアなどを先行していくべきだ。

棚村 米国ではDVや虐待があると、共同親権を認めない場合が多い。だが、子に危害が及ばない場合は、監視付きの施設で安全を確保した上で親と子の面会交流を認めている。DVについては、保護命令を出す機関と面会交流の可否を決める機関が同じ家庭裁判所内で連携し、元配偶者の暴力の危険性について情報を共有するなど、総合的な対策も進んでいる。

日本ではそういった対策が十分とはいえないが、福祉面の環境整備には財源も必要で時間がかかる。どの国も長年かけて社会的支援を充実させながら、少しずつ制度を変えてきた。改革は、法整備と同時進行で進めていくべきだ。親権を一方に決めなければならない現在の制度は「親権を失えば親でなくなる」などと誤解され、激しい親権争いの原因になる弊害がある。

◇親の権利どこまで

吉田 共同親権を認めた場合、どんな弊害を生むかが不安だ。面会交流権が法で定められていない現状でも、問題のある親との面会を拒否するためには、子どもにとってマイナスであることを裁判所に証明しなければならない。児童虐待防止法では、子どもが両親のDVを目撃するのも虐待とされている。しかし、私の実感では、そのような場合でも面会が認められる場合が多い。

精神的虐待も証明が難しい。裁判所は離婚した男女の最低限の信頼関係を築くケアもしない。母親がおびえながら面会を始めた結果、子も不安定になって結局長続きしないケースもある。共同親権になれば、面会を求める親の権利だけがより強くなるのではないか。面会交流の可否は、子どもの視点から判断する仕組みであるべきだ。

棚村 親の権利といっても、当然行使できるものと、子どもから見て利益にならないと行使できないものがある。子どもの学校での様子や住んでいる場所などを知る「情報アクセス権」は、普通の親なら当然行使できる権利だと思うが、それすら日本では定められていない。

また、海外でも、会う時に相手の悪口を言わないなどの基本的なルールを守り、親としての義務を果たす人にしか、面会交流は認められない。米国では離婚する時に、3年分ぐらいの面会のスケジュールや、トラブルが起こった場合の対処法などを合意条項で取り決めている。

◇誰のための法か

立会人 日本では裁判所を経ない協議離婚が全体の9割を占める。面会交流や養育費の取り決めがないまま離婚する人も多い。

吉田 子どものことを何も決めずに離婚できてしまうのは確かに問題だと思う。ただ、本当に配偶者から逃げるために少しでも早く離婚したいという人もいる。

内閣府の調査では、配偶者からDVを受けたことのある女性は約3割にのぼる。元夫婦間に力関係の格差がある現状では、強者ではなく弱者に立った制度が必要ではないだろうか。共同親権の法制化を先行し、徐々に社会環境を変えていくという考え方を仮にとった場合、その間に救われない人たちが出てくることが心配だ。

棚村 共同親権を導入した場合、DV、虐待などが原因で元夫婦が激しく対立するケースは3分の1ぐらいと推測している。当事者だけで話し合いができるケース、専門家が助言すると合意できるケースは3分の2だ。どんな制度でも権利の乱用はあるし、それを防ぐための手立ても必要だが、まずは多数のところに焦点を当てるべきではないだろうか。

■聞いて一言
◇離婚後の交流効果、専門家は情報発信を

離婚後も両親は子どもの養育責任がある。共同親権の前提となる、この理念自体には両氏とも異論がない。単独親権制の今、具体的にその責任の対象となるのは面会交流と養育費。これらを取り決めずに離婚できる現状は問題があるというべきだろう。

日本では、米国などで一般的な「離婚後の両親との交流は子の成長によい」という認識が浸透していない。どんな場合の交流が子どもの利益になり、どんな場合がならないのか、実務家や研究者からの情報発信も必要だ。

親が離婚した子どもは08年で24万人。面会交流、養育費支払いを支える環境整備を進めつつ、親権をめぐる議論を深めたい。(反橋)

■人物略歴
◇たなむら・まさゆき

53年生まれ。早稲田大法科大学院教授(家族法)。米国家族法を研究。家事調停委員を長年務める。

■人物略歴
◇よしだ・ようこ

56年生まれ。85年、京都弁護士会登録。専門は女性の人権。日本弁護士連合会「両性の平等に関する委員会」副委員長。

14年前