西日本新聞記事「離婚その先に 6、7」

西日本新聞記事「離婚その先に 6、7」

西日本新聞では離婚の問題について意欲的に取り上げています。
この連載では、離婚ビジネスの実態が浮かび上がってきますが、
離婚が、現実的には権利として認められていないため、
「認められる離婚」をするために、「離活」する女性達の実態が報じられています。
一方で、子どもがいれば、その後も親として関わり合いにならなければならない場合、
その仲介や調整をする第三者がまったくない状態も浮き彫りになっています。
こういう場合、裁判所や世間の判断は、
「子どものために離婚するな」「子どものために再婚しろ」
「きっぱり縁を切って、それぞれで新たな人生を」でした。
こういった社会の「常識」は当事者たちを幸せにしているでしょうか。
その気持ちを受け止めてくれる人はどこにもいないことも連載では指摘しています。

一方、離婚後に子どもの成長にかかわりたい別居親たちには
同居親同様苦難が待ちかまえています。
連載では、家裁の「動物実験」のような面会の様子が紹介されていますが、
家裁を一歩出れば、子どもたちは自分の父親以外の誰とでも会う。
「親であるがゆえに会えない」いびつさは、まさに法と裁判所が強いるものです。

【離婚 その先に 6】読者の声(上) 法の壁と、尽きぬ悩みと

http://www.nishinippon.co.jp/nnp/lifestyle/topics/20100703/20100703_0001.shtml

誓い合って結ばれたはずの夫婦が、別れる。年間25万組も。その先に幸せはあるのか。その先に新しい家族の形が見えるのか。そんな思いでスタートさせた連載「離婚 その先に」に対し、読者のみなさんから多くの手紙やメールが寄せられました。「別れないで踏みとどまってほしい」「別れたいのに誰にも相談できない」…。「その先」をめぐる訴えや意見の一部を紹介します。

1年半前に夫と死別したという女性は、親子の別離の理由で「離婚」が最多になっている現状を憂い「子どものためにも別れないでほしい」と訴えた。

《子どもの友人は「離婚するくらいなら死んでくれた方がマシだ」と言いました。離婚は、子どもにとって一生消えない「傷」になると思います。自分の親が再婚して別の子の親になったら、自分は捨てられたと思いませんか? 子どものいる方は、下の子が18歳になるまで離婚しないでください。人生80年。10年か20年の、少しの間だけ我慢しませんか》

連載では離婚を有利に運ぼうと、情報集めや準備を計画的に進める「離活」に励む30代の女性たちを紹介した。50代の女性読者からは、年下の女性たちの“したたかさ”について「衝撃的」と漏らし、世代間ギャップをにじませた。

《一世代下の女性のみなさんは子育てや家事でも工夫とアイデアがあり、いつも感心して見習うことも多いです。しかし、よい妻、よい嫁ゲームをビジネスとして励む姿に降参です》

反響はほとんどが女性からだった。「私の状況を聞いてください」「私の家庭で抱えている問題を相談したい」といった文章で始まるメールもあった。夫の金銭問題や浮気…。離婚したい理由は、夫婦が10組いれば10通りある。どこに相談していいのか分からず、悩みを抱える女性たちの姿があった。

2年間の調停の末、今年離婚した女性からのメールには、あきらめのような心境がつづられていた。

《行政や無料法律相談など、ありとあらゆるところをノックしましたが、おのおのの心情を含む事情を理解してもらえず、法律の壁でどうしようもないこともあり、壊れそうになりました》

離婚後、親権をとった女性は「離婚の先に、さまざまな行政手続きの困難さがあることを知ってほしい」と訴える。

例えば、子ども手当=詳細はメモ参照。離婚後、妻側が親権をとり、子どもを養育するようになっても、自動的に支給されるとは限らない。この女性も、親権はあるのに、いまだに受給できないという。受給者だった元夫が、子どもを育てている事実がないにもかかわらず、「受給する権利がない」という届け出を市町村に提出していないためだ。

役所に足を運んで相談しても「事情は分かります。ただ、元夫が手続きしないとできません」の一点張りだったという。

《別れた後に元夫婦の間で手続きをしないといけないという状況に、私だけでなく、たくさんの親が悩んでいます。離婚にかかわっている家庭裁判所と行政が、もっと連携することはできないのでしょうか》

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●子ども手当は養育者に 変更手続き必要な場合も

6月から支給が始まった子ども手当は、児童手当と同様、子ども自身に対してではなく「養育者」に支払われる。受給者は原則として子どもの父か母で、家計を主に支え、子どもの監督・保護を行っている側に支給される。住民票上の世帯主ではない。

受給者が離婚や、離婚を前提に子どもと別居したりして、子どもの面倒を見なくなった場合には、子どもを育てている人が受給できるように手続きが必要となる。

受給者が父親だったが、離婚後の子どもの養育を母親で行うことになった場合には、それまでの受給者だった父親が権利を放棄するために、市町村に「受給事由消滅届」を、母親が新たに「認定請求書」を、それぞれ提出する必要がある。実際に子どもを育ててないのに受給を続けると、後日返還を求められる。

ただ、離婚する場合、養育の状況が家庭によって異なる場合が多いため、具体的な手続きについては、市町村に確認してからになることもある。

=2010/07/03付 西日本新聞朝刊=

【離婚 その先に 7】読者の声(中) 父に「親権」、なぜ少ない

http://nishinippon.co.jp/nnp/lifestyle/topics/20100710/20100710_0001.shtml

《父親も子育てすべきという言葉がむなしくなるくらい、裁判所は父親を親とは見なしていません》

連載「離婚 その先に」に寄せられた意見の多くは女性から。その中で、届かない男親の思いをつづってくれたのが浩人さん(40)=仮名=だった。

《私の場合、離婚してないのに子どもたちに会えないという状態です》

2年ほど前、妻は幼稚園に通う2人の子を連れ、実家へ戻った。以来、別居が続いている。離婚はしていないし、するつもりもない。それでもこの2年間、子どもの監護権や面接交渉(面会交流)権をめぐって妻と争ってきた。家庭裁判所で。

福岡市内で会った浩人さんは、ほおがこけ、表情には疲労感がにじんでいた。「自分で言うのもばかみたいなんですけど、子煩悩です。妻と同じくらい子どもとかかわってきた」。毎朝、2人の子を幼稚園バスまで送るのが日課だった。共働きだが残業は少ない。何より結婚5年でやっと授かった子どもは、かわいくて仕方がなかった。

別居直後、監護者指定の審判を申し立てた。調停委員は「実現可能な落としどころを」と繰り返す。「妻に監護権を渡し、私は面接交渉する-。まるで答えが決まっているみたい。私が男親だからでしょうか」。色濃くなっていくのは、分かってくれないという思いばかりだった。4カ月後、監護者になったのは妻。高裁に抗告したが覆らない。

1年近く、子どもに会わせてもらえない時期もあった。確かに面接交渉をすれば、数カ月に1回、何時間か顔を見られるだろう。「でも、条件付きで会わせてもらっても、家族は再生しない」。面接交渉の申し立てはこの春、取り下げた。

4人が離れて暮らす現状を受け入れるわけにはいかない。そう意思表示したつもりだ。

司法統計(2008年)によると、離婚調停や審判で母親が親権者に指定された件数は全体の約9割、父親が約1割。圧倒的に女性が多い。

元家裁調査官が離婚などの相談に応じる「福岡ファミリー相談室」(福岡市)の渡辺邦子さんは、親権や監護権をめぐる訴訟では「生活環境や監護能力など、複数の視点から子どもにどちらがふさわしいか判断する」と説明。一方で特に幼児の場合は「母性が必要」とも指摘する。

「ただ『母性イコール母親』ではなく、どれだけ細やかに子どもに接することができるか」と話す渡辺さん。その上で「仕事中心の生活を求められる傾向にある父親は、子どもにかかわる時間が十分にとりづらい」とし、父親に親権が認められにくい理由として男性の働き方を挙げた。

浩人さんは昨年秋から3回、家庭裁判所内に設けられたプレールームで試験的に子どもと会う「試行的面接」に臨んだ。1回わずか30分。マジックミラー越しに妻や調査官が見ている。それでもうれしくて、2人に駆け寄って抱き締めた。「こんな笑顔、見せてくれたんです…」。ピースサインの2人の写真。涙が落ちる。

ただ、会うたびに、心にかかるもやが濃くなる。妻や妻の両親は面接を快く思っていない。「子どもたちが(同居する)大人の意にそぐわないことをする罪悪感を抱えてしまうのでは」と眠れない。

友人や同僚には、別居を一切明かしていない。「また何事もなかったように家族で暮らしたい」と願うからだ。しかし面接交渉の場はすでになく、弁護士にも「これ以上助けられない」と告げられた。「先が見えず、生きる意味がないような気がして…」

ここは本当に行き止まりだろうか。浩人さんの左手にはまだ、結婚指輪が鈍く光っている。

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●こちら取材班

特別なことではなくなりつつある「離婚」。子どもへの影響が心配される一方で、別れたからこそ開かれた人生もあるでしょう。みなさんのご意見をお寄せください。〒810-8721、西日本新聞社文化部「離婚 その先に」係へ。メール、ファクスでも受け付けます。匿名掲載可(連絡先は明記を)。

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=2010/07/10付 西日本新聞朝刊=

14年前