法務省:ハーグ条約を実施するための子の返還手続等の整備に関するパブコメ結果について

「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(仮称 」を実施する )
ための子の返還手続等の整備に関する中間取りまとめに関する意見募集
の結果について

○ 「 国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(仮称 」を実施するための子の返還手続 「 )
等の整備に関する中間取りまとめ (以下 」 。 「中間取りまとめ」という )について意見募集をし
た結果,次の団体・個人から計205通の意見が寄せられた(敬称略,括弧内は略称。なお,
外務省において実施された「 国際的な子の奪取 「 ) の民事上の側面に関する条約(仮称 (ハーグ 」
条約)を実施するための中央当局の在り方」についての意見募集に対し,中間取りまとめにつ
いての意見が寄せられた場合にも,ここで紹介している 。。)
【団体】28
最高裁判所(裁判所 ,日本弁護士連合会(日弁連 ,大阪弁護士会(大阪弁 ,兵庫県弁護士会 ) ) )
(兵庫弁 ,福岡弁護士会(福岡弁 ,沖縄弁護士会(沖縄弁 ,いくの学園,ウィメンズネット神 ) ) )
戸,親子の絆カーディアン(親子の絆 ,親子の交流断絶防止法制定を求める全国連絡会(親子新 )
法連絡会 ,親子の面会交流を実現する全国ネットワーク(親子ネット ,親子ネット沖縄,親子 ) )
ネット関西 親子ネット十勝支部 親子ネット十勝 香川大学法学研究院教員有志 香川大学 , ( ), ( ),
共同親権運動ネットワーク(Kネット ,くにたち子どもとの交流を求める親の会(親子交流くに )
たち ,グループ女綱,しんぐるまざあず・ふぉーらむ・尼崎(しんぐるまざあず尼崎 ,NPO ) )
法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ・福岡(しんぐるまざあず福岡 ,全国女性シェルターネット )
(全国女性 ,DV被害者支援民間機関(DV被害者支援 ,日本子ども虐待防止学会(虐待防止 ) )
学会 ,日本児童権利協議会,BACHOME,NPO法人フェミニストカウンセリング神戸(フ )
ェミニストカウンセリング神戸 ,みどり共同法律事務所(みどり共同 ,オーストラリア・カナ ) )
ダ・フランス・ニュージーランド・英国・米国各政府(6か国政府合同)
【個人】177名- 2 –
※ ホームページ掲載に当たり,個人名の記載を省略。
各項目では 「個人」と記載。 ,
○ この資料では 中間取りまとめに掲げた個々の項目について寄せられた意見を 賛成 反対 , 【 】【 】
等の項目に整理し,意見を寄せた団体,個人の名称を紹介するとともに,理由等が付されてい
るものについてはその概要を紹介している。また,中間取りまとめにおいて,甲案,乙案等が
提案されている項目については,いずれの案に賛成か及びその理由等の概要を紹介している。
なお,その他の意見については【その他の意見】としてその概要を紹介している。その他,中
間取りまとめにおいて,なお検討するものとして提案されている項目については,必要に応じ
意見を分類の上紹介している。
第1 子の返還のための手続関係
1 手続の主体
子の返還のための手続(以下「本手続」ということがある )は,司法当局が 。
行うものとする。
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
【反対】1(親子の絆)
・ 親子の絆 子の返還手続は国際的な手続であり 外国政府・諸機関との折衝が相当見込まれる ( ) , 。
そのような場合において,語学力の保障もなく,諸外国とのパイプも一切ない司法当局だけを手
続上の専任とすることは運用面での不安を拭いきれない。スムーズな運用を確保するためには,
司法当局以外の行政主体,外務省等を共同主体とすべきである。
2 採用する手続
本手続は,訴訟手続による必要はないものとする。
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)- 3 –
・ 日弁連)本手続は,実体上の権利義務関係の存否自体を確定する手続ではなく,また訴訟手続 (
とした場合には原則公開となることも本手続の性質上適切ではないと考えられる。なお,本手続
を条約によって創設された子の返還請求権という実体上の権利義務関係の存否の確定の意味を持
つとの指摘もあったこと,その立場から,訴訟手続としないことについて理論的問題がないかど
うかなお検討を要するとの意見があった。
・ 大阪弁)子の返還という家族,親族のプライバシー保護が必要な問題を対象としていること, (
判断の内容が裁判官の後見的判断になじむことからすれば,非公開の非訟手続とするという方向
性には賛成である。ただし,原則として6週間(条約第11条)という早期の審理が予定されて
いることにも鑑み,非訟事件とした場合に当事者の十分な手続保障を図ることができるのかにつ
いて,家事事件手続法・非訟事件手続法の規律も踏まえた検討が必要である。
【反対】1(個人1名)
・ 個人1名)非訟事件でよいのか疑問がある。 (
【その他の意見】1(個人1名)
・(個人1名)訴訟手続によらないとしても,当事者の積極的な関与と裁判所の職権による訴訟指
揮とのバランスに配慮することが非常に重要である。
3 管轄
(1) 職分管轄
第一審は,家庭裁判所の管轄(職分管轄)に属するものとする。
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
・ 大阪弁 概ね賛成するが 引き続き検討が必要である 事件の性質 家庭裁判所の人的資源 家 ( ) , 。 , (
庭裁判所調査官 ,ノウハウの活用という観点からは家庭裁判所の職分管轄とすることが相応しい )
といえ,諸外国においても,家事事件担当裁判官が事件を担当するように管轄を設けている例は
多い。ただし,地方裁判所においてもDV保護命令事件や各種保全事件で培われたノウハウがあ
り,短時間で本案手続が別に存することを前提とした問題について審理するという子の返還手続
の性質からすれば,これらの事件とも親和性がある。また,当事者の一方が外国人の事案におい
て,家庭裁判所調査官の活用がどこまで有用なのかについても検討する必要がある。なお,子の
返還手続の特色として,言語面の対応が求められることからすると,特定の裁判所(管轄の集中- 4 –
とも関連する )に専門部を設置して,言語面の対応が可能な専門スタッフを置くということも考 。
えられる。
【反対】なし
(2) 土地管轄の集中
【甲案】
東京家庭裁判所の管轄に専属するものとする。
【乙案】
東京家庭裁判所と大阪家庭裁判所の2庁のみに管轄を認めるものとする。
(注)部会では,東京,大阪の各家庭裁判所に札幌,福岡の各家庭裁判所を加えて,こ
の4庁のみに管轄を認めることを提案する意見もあった。
【丙案】
高等裁判所8庁の所在地(東京,大阪,名古屋,広島,福岡,仙台,札幌,
高松)の家庭裁判所のみに管轄を認めるものとする。
(後注1)【乙案】又は【丙案】を採る場合には,管轄裁判所(土地管轄)は,子の住所地
を基準として定まるものとし,返還を求める子が複数ある場合には,そのうちの一
人の住所地を管轄する家庭裁判所に管轄(併合管轄)を認めるものとする。
(後注2 【乙案】を採る場合には東京家庭裁判所又は大阪家庭裁判所に 【丙案】を採る ) ,
場合には高等裁判所8庁の所在地の家庭裁判所に,合意により管轄裁判所を定める
ことができるものとする(合意管轄 。)
(後注3)いわゆる応訴管轄(民事訴訟法第12条参照)は,認めないものとする。
【甲案に賛成】2(裁判所(相当数 ,個人1名) )
・ 裁判所)甲案に賛成する意見も相当数あった。 (
なお,甲案に賛成する立場から次のような意見があった。
○ 渉外事件を適正迅速に処理するためには,代理人の習熟が必要不可欠であるとともに,裁
判所内の習熟も必要であるところ,見込まれる新受件数が少ないことからすると,なるべく
管轄を集中した方がよい。
○ 当事者の出頭の負担については,東京の交通の便の良さに加えて,電話会議システム等に- 5 –
よって対処可能である。
・ 個人1名)1庁に管轄を集中することで,専門の調停委員を置くことを含め調停手続を整備す (
ることがより容易になる。そうなれば,相手方の負担も相当に軽減される。また,他の法域にお
いて管轄のある裁判所裁判官との連携(裁判官ネットワーク)の導入も容易となる。
【乙案に賛成】2(裁判所(多数 ,大阪弁) )
・ 裁判所)乙案に賛成する意見が多数であった。 (
なお,乙案に賛成する立場からは,次のような意見があった。
○ 相手方の出頭の負担を考慮する必要はあるものの,申立人の便宜,事件処理についての専
門的な知見の集積,事例の蓄積,裁判官及び弁護士の専門性の向上,中央当局と管轄裁判所
の連携強化等の要請からすれば,管轄集中をする必要性は非常に高い。
・ 大阪弁)申立人の出頭の負担,裁判官・弁護士の専門性等の観点から,一定の管轄の集中は不 (
可欠である。国際結婚後に帰国する相手方の居住地は全国に及び得ることから,相手方の出頭確
保,負担軽減という見地から言って東京一極集中は望ましくなく,一定地域への拡大が必要であ
る。他方,申立てが見込まれる事件数が年間数十件程度であることからすると,司法資源の有効
活用という観点から言って,高等裁判所8庁の所在地の家庭裁判所に担当部を設置して専門のス
タッフを配置することは現実的ではない。また,渉外的な要素を有する子の返還手続は,弁護士
にとって,事件の性質上,経験・専門性の要求される事件であるところ,高等裁判所8庁所在地
全てにおいて,申立人・相手方が迅速にそのような弁護士にアクセスすることができるのか,弁
護士側でも十分な対応ができるかどうかという疑問がある。したがって,丙案を制度の開始時点
から導入するのは,時期尚早といえる。さらには,子の返還事例に対する裁判外での紛争解決手
続も含めた総合的な紛争処理体制の整備という観点も重要である。子の返還事例については,諸
外国においては,条約に基づく返還手続とは別に,裁判外紛争手続の場において,面接交渉等も
含めた実際上の解決が図られている例が多いのが現状であり,日本において条約に基づく子の返
還手続を導入するにあたっても,そのような裁判外での紛争解決手続を整備することが不可欠で
ある。この点において,東京と大阪には,家事事件における調停委員や渉外家事事件の経験に長
けた弁護士が数多くあり,そのような裁判外紛争解決機関を設置するだけの人的資源が整ってい
るといえる。現在,本条約の施行をにらんで,東京と大阪にこのような機関を設置する動きも見
られるところであるが,この機関における手続と裁判所における手続の連携やスムーズな移行等
を考慮すれば,この機関の設置場所と裁判管轄とはできる限り整合的であることが望ましい。- 6 –
【丙案に賛成】8(兵庫弁,親子の絆,香川大学,しんぐるまざあず福岡,個人4名)
・ 兵庫弁)ハーグ条約が適用される子連れ帰国事案は全国に及ぶので,東京だけ,あるいは東京 (
と大阪だけでしか審理を行わないものとすることには,合理的な理由はなく,東西南北に範囲の
広い我が国において,多くの子連れ当事者には遠方に過ぎることとなり,ひいては子にとっても
負担となる事態が懸念される。
・ 親子の絆)1庁ないし2庁の裁判所の専属管轄とすると,判断基準が固定化され,適正な運用 (
を損なう可能性がある。地方の裁判所にも管轄を認めた上,裁判官への専門研修,スペシャリス
トの養成などで対応すべきである。
・ 香川大学)DV被害女性の経済的負担を考慮すれば全ての家庭裁判所に管轄を認めるべきであ (
るが,本手続に関与する司法関係者には高度な専門性が求められるとともに外国から出頭するこ
とが予想される申立人の負担にも考慮すると一定程度の土地管轄の集中を行う必要があり,丙案
は当事者の経済的負担と専門性の確保を両立させ得るものである。
・ しんぐるまざあず福岡,個人2名)東京と大阪でしか審理されないのでは,多くの子連れ帰国 (
した当事者に負担が多すぎる。せめて高等裁判所在地程度とすべきである。テレビ会議や電話会
議があったとしても,直接裁判官と話すことで理解を得られることもある。
・ 個人1名)ハーグ帰国事案は全国に及ぶにもかかわらず,東京又は大阪でしか審理されないの (
では,多くの子連れ当事者には遠方に過ぎる。条約の構造上 「相手方」になるTPの主張立証責 ,
任は重いのであるから,実質的な手続保障のためには,丙案とするべきである。
【その他の意見】6(日弁連,福岡弁,沖縄弁,アネット,個人2名)
・(日弁連)丙案の高等裁判所8庁の所在地の家庭裁判所に那覇家庭裁判所を加え,合計9庁に管
轄を認めるべきである。日弁連が実施したアンケート調査によれば,国際的な子の連れ去り等の
事件は全国各地の弁護士が受任していることが明らかとなった。そのことと相手方の便宜を考慮
すれば,基本的に全国の家庭裁判所に管轄を認めることも考えられる。しかし,一方で,ハーグ
条約に関する事件はその特殊な構造や外国の法制度が関係すること,事実上他の締約国における
裁判例や運用等も意識せざるを得ないことなど,その処理に高度の専門性が求められる上,相手
方の住所地を秘匿する必要がある事案も想定され,さらに中央当局との円滑なやりとりを要する
ことなどから,なるべく管轄を集中させることが望ましい。このように考えると,バランスに配
慮した丙案が適当であるが,地理的・環境的特殊性に鑑み,那覇家庭裁判所にも管轄を認めるべ
きである。- 7 –
・ 福岡弁)基本的に丙案に賛成であるが,丙案記載の8庁の所在地に加えて那覇家庭裁判所に管 (
轄を認めるべきである。本手続においては,返還拒否事由の有無の審査,子の意向把握等,子に
とっての手続的負担が生じることが予定されていることから,子に必要以上の負担を生じさせな
い配慮が求められる。また相手方は返還拒否事由の有無について証明責任を負担すること,迅速
な手続が求められること等からすれば,甲案をとった場合,相手方の居所によっては,適切な防
御権行使が困難になる可能性がより高くなる。そこで,国外から申立を行う申立人側の負担も考
慮した上で,少なくとも高裁所在地には,管轄を認めるべきと考える。加えて,那覇家庭裁判所
は,高裁所在地ではないが,福岡高裁所在地である福岡家庭裁判所までの地理的条件に加え,多
数の米軍基地を抱えている等といった社会的条件を考慮すると,那覇家庭裁判所に本管轄を認め
るべきである。
・ 沖縄弁)土地管轄を一部の裁判所に限定すべきではない。仮に,一部に管轄を限定するとして (
も,沖縄の特殊事情に鑑み,那覇家庭裁判所にも管轄を認めるべきである。子の返還のための手
続に関する事件においては,親子に関する一般的な家事審判事件と同様,個々の当事者の生活状
況,現在及び過去の子の監護状況など個別具体的な事実関係に基づいて判断がなされるべき性質
の事件である。そこで対象となっている事実関係は,ごく日常的な事項であり,知的財産関係事
件で問題になるような高度の科学技術の知見が必要とされるものではない。また,中央当局と管
轄裁判所との連携強化の要請は,あまりに抽象的である。加えて,統計をみると,国際結婚は8
か所の高裁所在地に集中しているわけではなく,全国各地で見られる。とりわけ米軍基地の集中
する沖縄においては,事実婚も含めた国際結婚の件数も多い。加えて本手続の相手方の多くは日
本人母が想定されるところ,特に沖縄県は,妻が日本人である国際結婚比率が全国一高い。それ
にもかかわらず,当事者あるいは子が沖縄県内に居住する場合において,一部の裁判所にのみ管
轄を集中させるとすると,弁護士への相談や代理人弁護士の選任などに支障をきたすおそれがあ
る上,期日出張のための大きな負担・コストを当事者に強いることになる。さらに,円滑な期日
の指定ができずに審理そのものが遅延するおそれも考えられる。
・ アネット)平成7年以降,沖縄のE-C外国法事務弁護士事務所にもちかけられた国際的な子 (
の奪取に関する相談は20件から30件程度あり,もし管轄が高等裁判所の所在地に限定される
と,沖縄の親たちにとって費用的な面から十分に対応することを禁じられる結果となる。
・ 個人1名)那覇家庭裁判所にも土地管轄を認めるべきである。国際結婚・国際離婚に関する相 (
談事例に関するデータからみて,ハーグ条約に基づく手続が,沖縄県内の相手方に対して申し立- 8 –
てられる件数は少なくないと予想される。平成19年の統計で,妻が日本人で夫が米国人の国際
結婚は,日本全国1485件のうち,沖縄県だけで230件と15.5%を占めている。その多
くは在沖米軍関係者の男性との結婚であるが,米軍の命令により国外に頻繁に移転して生活する
ことを余儀なくされ,ひとたび破綻すれば二国間別居を意味する可能性が高い。那覇家庭裁判所
に管轄を認めても,管轄の集中を認める趣旨には反しない。那覇家庭裁判所は,高裁支部所在地
であり,国境を越えた子の連れ去りに関する相談を受けたことのある弁護士は仙台や香川よりも
多く,事例の蓄積という観点でも他の家庭裁判所を上回るものである。沖縄には,中央当局を担
う外務省の沖縄事務所が設置されており,連携を図ることが可能である。那覇家庭裁判所には米
軍関係者を一方当事者とする事例が多数継続し,ノウハウの蓄積がある。沖縄県内の国際離婚な
いしはこれに伴う国際的な監護権争いには,在沖米軍の法務担当者等が別居合意書の作成又はア
ドバイスを通じてその解決に関与している例があり,ハーグ事案もこれによる円滑な処理が期待
できる。申立人にとっても,以前に駐留していた沖縄で審理を受ける方が,申立人の出頭等に伴
う手続的な負担も少ない。那覇家庭裁判所の管轄を否定した場合の沖縄県民の負担は他の都道府
県民が居住地以外で受ける負担よりもはるかに大きい。平均的な所得の低い沖縄県民にとって,
交通費の負担は重く,台風等により渡航がままならない事態も予想される。電話会議やビデオ会
議での出頭では不十分である。
・ 個人1名)丙案のように高等裁判所本庁所在地の家庭裁判所に管轄を認めるほか,高等裁判所 (
支部所在地の家庭裁判所にも管轄を認めてはどうか。とりわけ那覇家庭裁判所には管轄を認める
べきである。那覇家庭裁判所は,高裁本庁所在地からの距離が特に遠く,また,もともと渉外家
事事件の多い裁判所である。
○(後注1から3まで)について
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
【反対】なし
4 移送
(1) 管轄違いに基づく移送
裁判所は,事件がその管轄に属しないと認めるときは,申立てにより又は- 9 –
職権で,これを管轄裁判所に移送するものとする(家事事件手続法第9条第1
項本文参照 。)
【賛成】5(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁,親子の絆)
・ 大阪弁)申立段階における管轄違いの発生を防止するために,申立てにおける中央当局のサポ (
ートの在り方については検討が必要である。
【反対】なし
(2) 裁量移送及び自庁処理(3(2)で【乙案】又は【丙案】を採る場合)
家庭裁判所は,事件を処理するために特に必要があると認めるときは,申
立てにより又は職権で,事件について管轄権を有する家庭裁判所以外の家庭裁
判所に移送し,又はその管轄に属しない事件を自ら処理することができるもの
とする(家事事件手続法第9第1項ただし書及び第2項参照 。)
(注)移送先や自庁処理をすることのできる家庭裁判所は,3(2)で管轄を認められた家
庭裁判所( 乙案】を採る場合には東京家庭裁判所又は大阪家庭裁判所 【丙案】を採 【 ,
る場合には高等裁判所8庁の所在地の家庭裁判所)に限るものとする。
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,親子の絆)
【反対】なし
5 裁判所の構成
裁判所の構成は,裁定合議の余地を認めた一人制とするものとする。
【賛成】5(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁,親子の絆)
・ 裁判所)審理を迅速に行いつつ,事案の軽重にも対応するという観点から賛成である。 (
・ 日弁連)本来,子を国外に返還する旨の決定は人権上重大であり慎重な審議が望まれること, (
裁判所内での経験の共有と蓄積が望まれることなどから 合議制が望ましいと考えるが 一方で , , ,
ハーグ条約の案件は迅速処理が求められるところ,常に合議制を求めると,特に小規模な家庭裁
判所においては裁判官の数も限られている関係上,手続の遅延を招くおそれがあることなどに照
らし,一人制もあり得る態勢にせざるを得ないと考える。
・ 大阪弁)事件の迅速処理という観点から,原則一人制とする方向性がよいと考える。事案が複 (- 10 –
雑で慎重な判断を要する事件については 裁定により合議とする余地を認めることが妥当である , 。
いかなる場合に合議とするべきかについては,諸外国の実情を踏まえて検討する必要がある。
【反対】なし
6 除斥及び忌避
裁判官及び書記官について除斥及び忌避の制度を設け,家庭裁判所調査官につ
いて除斥の制度を設けるものとする(家事事件手続法第10条から第13条まで
及び第16条参照 。)
なお,忌避の制度の導入に当たっては,併せていわゆる簡易却下制度も導入す
るものとする(家事事件手続法第12条第5項から第7項まで参照 。)
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
・ 大阪弁)このような制度を置くこと自体に異論はないが,前提として,担当裁判官・書記官・ (
家庭裁判所調査官が除斥・忌避された場合の代替要員を確保できるような裁判所の体制・管轄の
配分となっていることが必要である(特に裁判官についてこの点が妥当する 。家庭裁判所調査 。)
官について,忌避の制度を導入しないという提案については本来問題があるが,家事事件手続法
との整合性を踏まえ,あえて反対しない。
【反対】1(親子の絆)
・ 親子の絆)家庭裁判所調査官にも忌避の制度を導入すべきである。家庭裁判所調査官に対して (
だけ忌避制度を適用除外することは公平性を欠く。
7 当事者適格
(1) 申立人
子の連れ去り又は留置により監護権が侵害された者に申立人適格があるも
のとする。
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
・ 大阪弁)中間とりまとめ案は中央当局に申立人適格を付与しないことを前提としているが,執 (
行に際して中央当局の手続的関与が求められる場合があり得ることからすると,ここでも中央当
局を申立人とする余地を残しておくことも考えられる。中央当局の手続的関与に関わる他の論点- 11 –
を含めて引き続き検討が必要である。
【反対】なし
(2) 相手方
現に子を監護している者に相手方適格があるものとする。
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
・ 日弁連)返還命令の執行を考えると,やはり現に子を監護している者を相手方にするほかない (
と思われ,また,親から委託を受けて第三者が監護する場合などは当該第三者に独自の利益はな
いものと思われ,親を相手方に返還を命じ,執行することが可能であると思われるため,基本的
に中間取りまとめに賛成である。しかし,申立人にとっては監護の状況が不明であることが少な
くなく,その場合,とりあえず子を連れ去った者を相手方に返還命令手続を開始せざるを得ない
と思われる。また,手続の途中で監護者が変わったが,はたして元の監護者から委託を受けてい
るのか否かが分からないこともあり得る。このような場合にも,手続上不都合がないようにあら
かじめ工夫をしておくことが望ましい。
・ 大阪弁)執行の観点から,現に子を監護している者が相手方となることには異論はないが,そ (
れだけで十分といえるかについては検討が必要である。たとえば,申立前後で監護している者が
変わるようなケース,監護権がある旨の外国裁判所の判断を得ている者が現に監護していないケ
ースなどについて,検討の余地がある。
【反対】なし
(3) 子
返還を求められている子は,本手続上の当事者にはならないものとする。
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
【反対】1(親子の絆)
・ 親子の絆)連れ去り事案において,子が元の居住国(ないし元の監護親)へ帰ることを希望す (
るケースが想定し得ることから,子にも当事者適格を認めるべきである。
【その他の意見】1(個人1名)
・(個人1名)監護している親と監護していない親の利益のいずれの利益よりも,子の利益が優先- 12 –
されるべきであることから,返還を求められている子は,本手続上の当事者にはならないとされ
ている点については慎重な検討が必要である。
8 当事者能力及び手続行為能力
(1) 当事者能力
本手続における当事者能力については,民事訴訟法第28条及び第29条の
規定に相当する規律を設けるものとする。
【賛成】5(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁,親子の絆)
【反対】なし
(2) 手続行為能力
本手続においては,意思能力を有する限り,手続行為能力を有するものとす
る。
【賛成】5(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁,親子の絆)
【反対】なし
9 参加
(1) 当事者参加
① 当事者となる資格を有する者は,当事者として手続に参加することができ
るものとする(家事事件手続法第41条第1項参照 。)
② 裁判所は,相当と認めるときは,当事者の申立てにより又は職権で,他の
当事者となる資格を有する者を当事者として手続に参加させることができる
ものとする(家事事件手続法第41条第2項参照 。)
【賛成】5(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁,親子の絆)
【反対】なし
(2) 利害関係参加- 13 –
① 裁判の結果により直接の影響を受ける者は,裁判所の許可を得て,利害関
係参加人として手続に参加することができるものとする。
② 裁判所は,相当と認めるときは,職権で,裁判の結果により直接の影響を
受ける者を利害関係参加人として手続に参加させることができるものとする
(家事事件手続法第42条第3項参照 。)
【賛成】7(裁判所,日弁連,大阪弁,兵庫弁,福岡弁,親子の絆,個人1名)
・ 日弁連)子について,ハーグ条約の案件において,返還対象となる子は明らかに裁判の結果に (
より直接の影響を受けるものに当たるから,家事事件手続法第42条第2項との関係に照らして
も,当然に利害関係参加を可能とすべきである。さらに,条約第13条第2項が争点の一つとな
る事案においては,年齢や成熟度に照らし明らかに不適当である場合を除き,手続に参加させ,
十分な主張及び立証の機会を与えた方が,子の権利保障の観点からも,十分な審議の観点からも
望ましい。なお,その場合,子に手続代理人を選任することが強く望まれる。
・ 大阪弁)返還を求められている子の手続参加を想定して,このような規定を置くことには賛成 (
する。ただし,迅速処理の必要上,どのような者が「裁判の結果により直接の影響を受ける者」
に該当するかを明らかにしておく必要がある。少なくとも,返還を求められている子,現に子を
監護している者を相手方とした場合の奪取親などについては,利害関係人としての参加が認めら
れるべきである。子の参加を認める場合には,スイスのように代理人の指名を強制する立法例が
あることも踏まえて,子の代理人制度の利用のあり方について検討する必要がある。また,中央
当局の当事者適格を否定する場合に利害関係参加人としての参加を認めるべきであり,その旨の
明文を置く必要がある。
・ 兵庫弁)子が利害関係参加し得ることに賛成する。ハーグ条約の返還審理は,連れ去られた親 (
が申立人となり,連れ去った親を相手に子の返還を求める形式となるが,裁判の結果,外国に返
還されるのは子であり,子こそが実質的な裁判の名宛人であり 「裁判の結果により直接の影響を ,
受ける者」である。
・ 福岡弁)子が返還に異議を述べているときは,運用上,特段の事情のない限り利害関係参 (
加をさせることが望ましい。
・ 個人1名)ハーグ返還審理は,LBPが申立人となり,TPを相手に子の返還を求めるが,裁 (
判の結果 外国に返還されるのは子であり 子こそが実質的な裁判の名宛人である したがって , , 。 ,- 14 –
返還審理の裁判が,子の福利に適って行われるためにも,子の年齢や状況に応じ,できる限り,
子の関与を保障するべきである。
【反対】なし
10 代理人
(1) 弁護士代理
法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか,弁護士でな
ければ手続代理人となることができないものとする。
(注)弁護士強制は認めないことを前提としている。
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
・ 裁判所 (注)について,特に外国人による申立てに当たって,言語や法意識の違い等によって ( )
手続の進行に支障がでないように,できるだけ弁護士代理人が選任されるようにする手立て(準
備段階を含めての適切な弁護士の紹介の制度等)を検討する必要があるとの意見があった。
・ 大阪弁)本人だけによる裁判を認めないという弁護士強制については,日本における既存の裁 (
判手続との均衡からも,採用しないことでやむをえない。代理人を付す場合には,この返還手続
が当事者間の利害対立を法適用によって裁定するものであるから,手続代理人は弁護士に限られ
るべきである。
【反対】なし
(2) 許可代理
裁判所の許可を得て,弁護士でない者を手続代理人とすることができる
ものとする。
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
・ 大阪弁)弁護士でない者の許可代理については,現行の家庭裁判所実務同様に,出頭困難な当 (
事者に代わる親族等に限定されるべきである。
【反対】なし
【その他の意見】1(親子の絆)
・ 親子の絆)係属する事案の多くが,語学力を必要とすることに鑑みれば,弁護士以外の許可代 (- 15 –
理の要件を緩和し,国際間のスキルを有する(必ずしも法律家に限られない )適正な人材を広く 。
代理人として認めるべきである。
(3) 職権による代理人の選任
行為能力の制限を受けた者が本手続における手続行為をしようとする場
合において,必要があると認めるときは,裁判長は,申立てにより又は職権
で,弁護士を手続代理人に選任することができるものとする(家事事件手続
法第23条第1項,第2項参照 。)
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
・ 大阪弁)職権による弁護士の代理人選任は,子の参加を考えると,是非,必要な規定である。 (
【反対】なし
11 裁判費用
(1) 費用の予納
裁判費用(執行費用を含む )については 。 ,「国際的な子の奪取の民事上
の側面に関する条約(仮称 (以下「ハ )」 。 ーグ条約」という )第42条に基
づいてハーグ条約第26条第3項の留保をすることを前提に,申立人が申立
ての手数料を納めるとともに当事者等が必要な費用の概算額を予納すること
を原則とし(民事訴訟費用等に関する法律第3条第1項,第11条,第12
条 ,証拠調べ等の本手続に必要な行為 ) に要する費用は,国庫において立て
替えることができるものとする(家事事件手続法第30条参照 。)
【賛成】4(裁判所,日弁連,福岡弁,親子の絆)
【反対】なし
【その他の意見】1(大阪弁)
・ 大阪弁)中間とりまとめにおいては,条約第26条第3項を留保することが所与の前提とされ (
ており 法制審議会においても特段議論がなされていないが 国家政策に関わる問題であるので , , ,
慎重な議論が必要である。- 16 –
(2) 負担者及び裁判
① 手続費用は,各自の負担とするものとする(家事事件手続法第28条第
1項参照 。)
② 裁判所は,事情により,①によれば当事者及び利害関係参加人がそれぞ
れ負担すべき手続費用の全部又は一部を,その負担すべき者以外の当事者
及び利害関係参加人に負担させることができるものとする(家事事件手続
法第28条第2項参照 。)
③ 裁判所は,事件を完結する裁判において,職権で,その審級における手
続費用の全部について,その負担の裁判をしなければならないものとする
(家事事件手続法第29条第1項参照 。)
【賛成】5(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁,親子の絆)
【反対】なし
(3) 手続上の救助
裁判費用について,資力の乏しい者に裁判費用の予納を猶予する家事事
件手続法の規定及び同規定が準用する民事訴訟法の規定に倣った手続上の救
助の規律を設けるものとする(家事事件手続法第32条参照 。)
【賛成】5(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁,親子の絆)
【反対】なし
(4) その他の費用
ハーグ条約第26条第4項の規定を担保するための規定は,設けないも
のとする。
【賛成】5(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁,親子の絆)
【反対】なし
12 公開・非公開- 17 –
審理手続は,公開しないものとする。ただし,裁判所は,相当と認める者
の傍聴を許すことができるものとする(家事事件手続法第33条参照 。)
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
・ 大阪弁)公開とする必要性が高い事案については,裁判所による傍聴の許可(家事事件手続法 (
第33条ただし書)を弾力的に運用することが望ましい。
【反対】3(親子の絆,個人2名)
・ 吉田)非公開でよいのか疑問がある。 (
・(個人1名)適切な運用を担保するために,審理手続は原則公開であるべきである。
【その他の意見】1(個人1名)
・ 個人1名)例外については具体的かつ個別的に要件を列挙すべき。 (
13 裁判記録の閲覧等
① 当事者又は利害関係を疎明した第三者は,裁判所の許可を得て,裁判所
書記官に対し,事件の記録の閲覧若しくは謄写,その正本,謄本若しくは抄
本の交付又は事件に関する事項の証明書の交付を請求することができるもの
とする(家事事件手続法第47条第1項参照 。)
② 裁判所は,当事者から①による許可の申立てがあったときは,これを許
可しなければならないものとする(家事事件手続法第47条第3項参照 。)
(注)一定の事由がある場合には,許可しないことができるものとし,その事由につ
いては,なお検討するものとする(家事事件手続法第47条第4項参照 。)
③ 裁判所は,利害関係を疎明した第三者から①による許可の申立てがあっ
た場合において,相当と認めるときは,これを許可することができるものと
する(家事事件手続法第47条第5項参照 。)
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
・ 裁判所)家庭内の事案であることから,少なくとも家事事件手続法第47条第4項と同程度の (
不許可事由を定めるべきであるとの意見があった。
・ 日弁連,福岡弁)ハーグ案件は家庭内に関する事項を多く含むものと思われるところ,第三者 (
への開示はもちろん,当事者であっても,常に開示しなければならないとすると,子の福祉や第- 18 –
三者の権利利益を害するおそれがある よって 裁判所の許可にかからしめることが適当である 。 , 。
ただし,当事者については,一般的な手続保障の要請に加え,短期間に十分な反論,反証を行う
必要があるというハーグ案件特有の事情も考えると,非開示部分はなるべく限定するとともに,
特に弁護士が代理人に選任されている場合には,双方の当事者がそれぞれ提出する書面の写しを
相手方に直接送付する運用が望ましい。
・ 大阪弁)プライバシー保護の観点から,閲覧対象は当事者及び利害関係人に限定する必要があ (
る 一定の事由がある場合には 許可しないことができる事由をなお検討することは賛成である 。 , 。
ただし 中間取りまとめでは 家事事件手続法において記録の閲覧謄写を定めた第47条のうち , , ,
当事者には許可が義務付けられるまでの規定は,そのまま記載されているのに,当事者への義務
付けの例外規定(第47条第4項)は記載されず (注)で例外をなお検討するとされている。こ ,
れは,同法の例外を緩める意図を有するものではないかと思われる。しかし,子の返還の裁判手
続において,手続保障の必要性は,家事事件以上(訴訟の方に近い)と思われるので,当事者へ
の義務付けの例外が家事事件手続法よりも拡大されるべきではない。したがって不許可事由は,
少なくとも家事事件手続法第47条第3項と同等ないしそれ以上に限定的であるべきである。
また,中央当局が子やTPの所在を確認した場合に,LBPには所在についての情報は開示し
ないという方針を採用していることとの関係を,なお検討すべきである。すなわち,この場合,
LBPには居場所を特定する情報が与えられないまま本手続を行うことができるところ,記録の
閲覧謄写により,居場所についての情報をLBPに公開しないという手法が画餅に帰する恐れが
あるため,この点の規律を明確にすべきである。
【反対】なし
【その他の意見】1(個人1名)
・ 個人1名)児童虐待,DV等の存在が疑われる場合について,相手方及び子の居所に関する情 (
報については記録の閲覧等を許可しないとすることができるようにすべきである。返還の拒否事
由に当たるとして子の返還が認められなかったとしても,DV等の加害者である申立人に被害者
である相手方及び子の居所が知られてしまった場合,更なる暴力の恐れや,子を実力で連れ去ら
れてしまう危険が生ずる。これでは,返還拒否事由として,児童虐待,DV等を掲げ,子等の安
全を確保しようとした法の趣旨に反する結果となりかねない。
14 送達- 19 –
送達に関する基本的な規律として,民事訴訟法第1編第5章第4節の規定
に準じた規律を設けるものとする。
(注1)送達場所等の届出の規律に関し,日本国内に住所を有しない申立人等の場合には
日本国内に適当な送達場所を確保することができないことも想定されるため,例え
ば,我が国の中央当局を送達場所及び送達受取人として届け出ることができるもの
とするなどの手当てをすることについて,なお検討するものとする。
(注2)公示送達の規律については,相手方の所在が当初から不明である場合を含め,事
案に応じ公示送達により手続を進めることができる余地を残す必要性があることを
踏まえ,これを設けるものとしている。
○本文について
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
・ 大阪弁)家事事件手続法は送達を必要的としていないこと,送達には時間がかかるが,本手続 (
には迅速性が要求されていることとの関係が考えられるべきことから,どのような場合に送達を
行うことになるのかという点をそもそも十分に検討すべきである。
【反対】なし
○(注1)について
・ 裁判所)次のように手当てをすることに賛成する意見があった。 (
国内に送達場所のない申立人については外国送達を要することになり,これに長期間を要
しているのが実情であることから,迅速な審理を実現するためには国内に送達場所等が必要
であり,代理人等が選任されていない事案では書類送達後に申立人が理解可能な言語で中央
当局による援助等が円滑に行われる必要性が高いことから,中央当局を送達場所及び送達受
取人として届け出ることができるように手当てをすることが必要不可欠である。
外国送達による審理の遅延が危惧される具体例として,申立書却下の前提となる補正命令
の送達が考えられる。
・ 個人1名)国内に住所を有しない申立人等について,送達場所等の届出が困難であることは, (
他の裁判手続にも一般に存在する問題であり,本件手続についてのみ例外的な救済措置を設ける
必要はない。締約国や中央当局等は,本条約を効果的に実施する義務を負うが,外務大臣が送達- 20 –
場所等の事務を行うことは,負担が大きいと思われ,このような救済措置を設ける必要はない。
○(注2)について
【公示送達を認めるべきであるとする意見】1(個人1名)
・ 個人1名)公示送達の制度を採用すべきである。中央当局が探しても居場所が不明な場合に, (
公示送達をしないのなら,1年間以上隠れていればよいことになる。それは子にとって不利益で
あるし 公示送達の制度があれば 多くの場合には 関係者が連れ去った親に知らせるであろう , , , 。
【公示送達を認めるべきではないとする意見】5(日弁連,福岡弁,兵庫弁,個人2名)
・ 日弁連,福岡弁)中央当局の調査によっても子の所在が判明せず,ひいては相手方の所在を特 (
定できない場合,常にそのことを相手方の責に帰すべきとはいえない。にもかかわらず返還手続
を進めてしまうと,相手方としては,手続の係属を知らず反論の機会も持たないまま返還を命ぜ
られてしまうことになりかねないが,かかる事態が適当とは思われない。比較法的に見ても,主
要な締約国において子の所在が不明なまま返還命令を発するところは非常に少ないようである。
そのように考えると,相手方の所在が当初から不明である場合に公示送達を利用することは,基
本的に避けるべきである。
一方,手続係属後,つまり手続が係属していることを知りながら,相手方が子とともに行方不
明になった場合は,所在が分からなくなったことが相手方の責に帰すべき事由によると推測でき
るし,それまで形成した手続が無駄になることを避ける必要もあるから,公示送達により手続を
進められるようにしておくことが望ましい。
・ 兵庫弁)子の所在が不明な場合に,これが常に相手方の責に帰すべき事由によるとは言えない (
が,それにもかかわらず返還手続を進めることは,相手方は反論の機会もないまま子の返還を命
じられることになり 手続保障に欠ける 何より 子は異議を述べる機会すら保障されないまま , 。 , ,
返還を命じられることになって,著しく子の権利保障に欠ける。
・ 個人2名)公示送達による手続は認めるべきではない。何より,子は異議を述べる機会すら保 (
障されないまま返還を命じられることになって,著しく子の権利保障に欠ける。
【その他の意見】1(大阪弁)
・ 大阪弁)公示送達について規定を置くことについてあえて否定する必要まではないが,申立段 (
階で相手方の所在が判明していないケースの取扱いについては,相手方の所在について中央当局
による所在調査が行われることを踏まえた運用のあり方を検討する必要がある。- 21 –
15 手続の併合・分離
裁判所は,手続を併合し,又は分離することができるものとする(家事事
件手続法第35条参照 。)
【賛成】5(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁,親子の絆)
【反対】なし
16 手続の受継
(1) 申立人が死亡した場合
原則として手続が終了することを前提に,本手続の申立てをすることが
できる者は,申立人の死亡の日から1か月以内に申出をしてその手続を受け
継ぐことができるものとする(家事事件手続法第45条第1項及び第3項参
照 。)
【賛成】5(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁,親子の絆)
【反対】2(個人2名)
・ 個人2名)条約は「申立人の監護権が侵害されたこと」を要件としており,矛盾する。 (
(2) 当事者が死亡以外の事由により手続を続行することができない場合
① 当事者が死亡以外の事由により手続を続行することができない場合に
は,法令により手続を続行する資格のある者は,その手続を受け継がなけ
ればならないものとする。
② 裁判所は,他の当事者の申立てにより又は職権で,①に定める者に手
続を受け継がせることができるものとする(家事事件手続法第44条参
照 。)
【賛成】5(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁,親子の絆)
【反対】なし
17 手続の中止- 22 –
手続の中止については,民事訴訟法第130条から第132条まで(同条
第1項を除く )の規定に相当す 。 る規律を設けるものとする(家事事件手続法
第36条参照 。)
【賛成】5(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁,親子の絆)
・ 大阪弁)中間とりまとめは,条約第12条第3項が定める「子が他の国に連れ出されたと信ず (
るに足りる理由がある場合」を想定した中止の規律は特に不要であるとの見解に立っている。し
かし,子が他国に移動した場合における所在確認方法,帰国の見込みの判断,所在が確認できた
場合の再開の手続などに関し,中央当局の関与も含めた具体的な規律の有無・内容については,
引き続き検討が必要である。
【反対】なし
18 申立ての方式等
(1) 申立ての方式
① 本手続の申立ては,日本語で記載した書面を管轄裁判所に提出してす
るものとする(家事事件手続法第49条第1項参照 。)
② ①の書面(申立書)には,次に掲げる事項を記載しなければならない
ものとする(家事事件手続法第49条第2項参照 。)
a 当事者及び法定代理人
b 本手続により子の返還を求める旨
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
・ 大阪弁)中間とりまとめは相手方の住所・子の所在地を申立書の必要的記載事項としていない (
が,例えばDV事案においては,申立人に相手方の所在情報を知らせない形で申立てを行うこと
を認める必要があるので妥当である。その場合,中央当局が子の所在場所を裁判所に対して連絡
した上で,手続を進める必要がある。また逆に,申立人であるLBPが自らの住所を相手方に伝
えずに手続を進めることを希望する場合には,この要請もかなえられるべきであり,家事事件手
続法,同規則による制度等を参考に具体的な手法が検討されるべきである。なお,管轄裁判所を
複数にした場合に,中央当局はLBPに当該管轄内に子が所在することまでは伝えるのか,また
承認の裁判の執行を考慮すれば,手続の進行に伴い,最終的にはLBPに子の所在を告げる必要- 23 –
が生じてくると思われるが,中央当局または裁判所は,どの段階で子の所在地についての情報を
LBPに伝えるのかについて,なお検討すべきである。
【反対】なし
(2) 併合申立て
申立人は,複数の子について返還を求める場合には,これらを併せて申
し立てることができるものとする(家事事件手続法第49条第3項参照 。)
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
【反対】なし
(3) 裁判長の申立書審査権
申立書が(1)②に違反する場合又は申立人が法令の規定に従い申立ての手
数料を納付しない場合には,裁判長は,相当の期間を定め,その期間内に不
備を補正すべきことを命じなければならないものとし,申立人が不備を補正
しないときは,申立書を却下しなければならないものとする(家事事件手続
法第49条第4項及び第5項参照 。)
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
・ 大阪弁)申立人が申立書の記載方法について中央当局のサポートを得られるような体制を構築 (
することが必要である。
【反対】なし
19 証明責任
ハーグ条約第3条,第4条及び第12条第3項の規定に基づく子の返還事
由(子が16歳に達していないこと,子が我が国に現在すること,子が我が国
以外の条約締約国に常居所を有していたこと等。第2の1参照)については申
立人にその証明責任を認め,ハーグ条約第12条第2項並びに第13条第1項
及び第2項の規定に基づく子の返還拒否事由(子が常居所を有していた国に子
を返還することが,子に対して身体的若しくは精神的な害を及ぼし,又は子を- 24 –
耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること等。第2の2参照)につ
いては相手方にその証明責任を認める考え方を採るものとする。
(注)ここでいう「証明責任」とは,いわゆる客観的証明責任を意味するものである。
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
・ 裁判所)次のとおり賛成する意見があった。 (
返還事由及び返還拒否事由について,当事者に客観的証明責任を負担させることに賛成で
ある。
・ 日弁連,福岡弁)審理を尽くした結果,なお真偽不明(ノンリケット)であった場合を考える (
と,証明責任の所在を明らかにしておく必要がある。その場合,証明責任の分配としても,返還
事由については申立人,返還拒否事由については相手方とするのが妥当であると考える。
・ 大阪弁)審理を尽くした結果,真偽不明の場合を考え,証明責任の所在を明確化しておくのが (
適当であり,また本条約の文言から言っても,証明責任を中間とりまとめ案のように定めること
が適当である。ここでいう証明責任について,本手続では職権探知主義が採用されているもので
あるから,裁判資料の収集を職権ですることを禁ずる趣旨でなく,職権探知によって収集された
資料も含め,裁判所が自由な心証により資料を検討しても,なお事実が証明されたといえない場
合に,当該事実がなかったものとされる不利益を受けることを意味するものと理解することにつ
いても賛成する。ただし,本手続は非訟事件であるとすると,本来的に証明責任による処理にな
じまない側面があるのではないかという視点もある。実際上も,子の異議の要件など,証明責任
により処理することが疑問な要件もある。これらの点についてなお検討すべきである。
【反対】2(個人2名)
・ 個人2名)返還拒否事由の客観的証明責任が相手方にあるとされているが,その証明に必要な (
要素が具体的にはどのようなものであるのか明らかでなく,不当に高いハードルである可能性が
ある。
20 裁判資料の収集方法
裁判資料の収集方法については,基本的に,職権で事実の調査をするもの
とし,証拠調べについては,申立てにより又は職権で,必要と認める証拠調べ
をしなければならないものとする。ただし,19記載の子の返還事由及び子の- 25 –
返還拒否事由については,19において証明責任を認められた当事者が証明し
なければならないものとし,裁判所は,必要と認めるときは,職権で,事実の
調査及び証拠調べをすることができるものとする。
【賛成】3(裁判所,大阪弁,虐待防止学会)
・ 裁判所)次のとおり賛成する意見があった。 (
手続全体としては職権探知を原則としつつ,当事者が客観的証明責任を負う事項について
は,当事者が証明しなければならないものとし,職権探知は補完的なものとすることに賛成
である。
・ 大阪弁)迅速性の観点にかんがみ,基本的に職権で事実の調査をし,証拠調べについては,申 (
立てにより又は職権で必要と認める証拠調べをしなければならないとするのでよいと考える。1
9記載の点については,当事者の果たす役割が大きい部分であり,当事者が証明責任を負う事実
に関しては,当該当事者が証明せねばならないとし,裁判所が必要と認めた場合,職権で事実の
調査,証拠調べを実施可とすることで基本的に問題ない。ただし 「重大な危険」の要件(条約第 ,
13条第1項b)については,常居所地国の制度についての検討が必要で,中央当局からの情報
を得る必要があることなど,当事者に第一次的な役割を与えることについては,なお検討すべき
点もある。さらに 「子の異議 (条約第13条第2項)の有無については,子を当事者の激しい , 」
対立的な立証活動にさらすのが妥当とは思えないため,むしろ裁判所が十分な職権探知,職権調
査を行うべきである(当事者の立証活動を認めないという趣旨ではない 。。)
・ 虐待防止学会)ハーグ条約の定める子の返還事由及び返還拒否事由については,それぞれ証明 (
責任を負う当事者にとって証拠が国境を越えた先にあることが少なくないと思われる。しかし,
当事者による証拠の収集が奏功しなかった結果,子の最善の利益に反する結論に至ることは,可
能な限り避ける必要がある。そこで,当事者のみならず,家庭裁判所も,子の最善の利益の見地
から必要があるときは,積極的に職権による事実調査及び証拠調べを行うことが望ましい。
【反対】3(個人3名)
・ 個人2名)返還事由,返還拒否事由を含め職権探知主義を採用すべきである。子の生活に重大 (
な影響を及ぼすこと,返還拒否事由の証拠方法の多くは国外にあり,立証には相当の困難が伴う
ことが予想されることから,証拠方法の収集を原則当事者に任せるべきでない。
・ 個人1名)子の返還の拒否にあたって,返還拒否事由の説明責任が当事者(現に子を監護して (- 26 –
いる者)にあるとされているが,子を連れて命からがら逃げてきた当事者が,さまざまな証拠を
準備して返還拒否事由を立証することは,相当に困難であり,説明責任を当事者に求めるのは不
当である。
【ただし書に反対】2(日弁連,福岡弁)
・ 日弁連)本文は賛成であるが,ただし書については削除するべきである。第一に,返還事由に (
ついては申立人が客観的証明責任を,返還拒否事由については相手方が客観的証明責任を,それ
ぞれ負うとされているのだから,ただし書がなくても当事者としてはこれらの事由の証明に努め
ざるを得ない。その状況において,さらにただし書を加えることは無意味であるばかりか,かえ
って本文に書かれている裁判所による職権調査の原則を希釈するようにみえる 第二に 特に 子 。 , 「
の異議」の返還拒否事由については,ハーグ条約は 「司法当局又は行政当局は,子が返還される ,
ことを拒み,かつ,その意見を考慮に入れることが適当である年齢及び成熟度に達していると認
める場合には,子の返還を命ずることを拒むことができる」と定めており,相手方が証明できた
場合に返還を命ずる義務を負わないとする「重大な危険」とは異なった書きぶりとなっているこ
とに鑑みると,条約の趣旨としても 「子の異議」については十分な職権探知,職権調査を前提と ,
しているように読める。なお,補足説明ではただし書に関して家事事件手続法第106条第2項
及び第3項参照としているが,同条項は審判前の保全処分において申立人に保全を求める事由に
ついての疎明を求めるものに過ぎず,審判の本案やその他の家事事件手続について当事者が第一
次的な資料収集・提出を認める規定はない。これらの点から,ただし書は削除すべきである。
・ 福岡弁)第1文については賛成である。第2文については,相手方が十分な証明活動をしなけ (
れば条約第13条第2項の「子の異議」も認められないという趣旨であれば,反対である 「子の 。
異議」については十分な職権探知,職権調査を行うべきである。条約は 「重大な危険」の返還拒 ,
否事由については,相手方が「証明する場合には」返還を拒否できると定めているのに対し 「子 ,
の異議」の返還拒否事由については,そのような記載ではなく 「司法当局」は「…認める場合に ,
は」と定めており,規定の仕方を変えている。このことと,児童の権利条約の趣旨に照らせば,
単に相手方が「子の異議」を証明できなければ返還を命ずるというのは適当でなく 「子の異議」 ,
の有無は十分な職権探知,職権調査により明らかにされなければならないと解する。
【その他の意見】2(親子の絆,個人1名)
・ 親子の絆)有効な証拠収集を担保するために,中央当局との連携が必要である。 (
・ 個人1名)DVから逃げ帰った女性に返還拒否事由につき高いレベルでの立証を求めるのは不 (- 27 –
合理であり,せめて,裁判所に事実調査の義務を負わせるなど万全の法整備をする必要がある。
21 審理手続
(1) 申立書の写しの送付等
① 本手続の申立てがあった場合には,家庭裁判所は,申立てが不適法で
あるとき又は申立てに理由がないことが明らかなときを除き,申立書の写
しを相手方に送付しなければならないものとする(家事事件手続法第67
条第1項本文参照 。)
② ①の申立書の写しの送付をすることができない場合又は送付の費用の
予納がない場合には,裁判長は,相当の期間を定め,その期間内に不備を
補正すべきことを命じなければならないものとし,申立人が不備を補正し
ないときは,申立書を却下しなければならないものとする(家事事件手続
法第67条第2項及び第3項参照 。)
【賛成】4(裁判所,日弁連,福岡弁,大阪弁)
・ 日弁連)14で述べたとおり,相手方の所在が中央当局の調査によっても当初から不明である (
場合に公示送達を利用することは避けるべきであり 「①の申立書の写しの送付をすることができ ,
ない場合」とは,かかる場合も含むとするべきである。
・ 大阪弁)当事者の手続保障の観点から,申立書の写しを送付しなければならないことに賛成す (
る。
・ 福岡弁)条約上迅速審理が要請されていること,当事者に証明責任が課されていること等を考 (
慮すれば,手続保障の観点から,資料の送付も要するとする規定とすることが望ましい。
【反対】なし
(2) 事実の調査等
ア 事実の調査
本手続における事実の調査については,家庭裁判所調査官に事実の調
査の権限を認めるほか,裁判所技官による診断,他の家庭裁判所等への事
実の調査の嘱託,官庁等への調査の嘱託等を行うことができるものとする- 28 –
(家事事件手続法第58条から第62条まで参照 。)
イ その他
本手続の期日における通訳人の立会いその他の措置については,民事
訴訟法第154条及び第155条の規定に相当する規律を設けるものとす
る(家事事件手続法第55条参照 。)
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
・(日弁連)ハーグ案件では家族に関する事項が多いと思われ,調査官調査を活用できる利点は大
きい。さらに,子の福祉に十分配慮するために,裁判所技官の積極的な活用が必要であると考え
る。
・ 大阪弁)専門的な能力を持つ者による調査が望ましい。ただし,本案審理を行うものではない (
という点を踏まえた上での調査となることに留意すべきである。
・ 福岡弁)ハーグ案件では家族に関する事項が多いと思われ,調査官調査を活用できる利点は大 (
きいが,いわゆる本案は常居所地国で審理すべきというのが条約の趣旨であるため,そこまで立
ち入らないよう留意する必要がある。その意味で,包括調査ではなく,限定調査が適当であると
思われる。
【反対】なし
【その他の意見】2(個人2名)
・ 個人2名)返還拒否事由の存在を明らかにするための情報を常居所地国の公私の機関が保有し (
ている可能性が相当にあるところ,返還審理においては,真実に基づく判断がなされるべきであ
り,裁判所の調査嘱託などの方法により,これら公私の期間が保有する情報を確実に顕出できる
よう国内法を整備すべきである。
(3) 事実の調査の通知
裁判所は,事実の調査をしたときは,特に必要がないと認める場合を除
き,その旨を当事者及び利害関係参加人に通知しなければならないものとす
る(家事事件手続法第70条参照 。)
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
・ 大阪弁)迅速性を特に害するとは解されず,手続保障の観点からも事実の調査をしたことを通 (- 29 –
知することが望ましい。
・ 福岡弁)当事者に証明責任を負わせていることからすると,事実の調査の結果が当事者による (
家事審判の手続の追行に重要な変更を生じ得る場合は,その調査結果についても通知するとすべ
きである(家事事件手続法第63条参照 。)
【反対】なし
(4) 電話会議・テレビ会議システム
① 裁判所は,当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認める
ときは,当事者の意見を聴いて,裁判所及び当事者双方が音声の送受信に
より同時に通話することができる方法によって,本手続の期日における手
続(証拠調べを除く )を行うことができるものとする(家事事件手続法 。
第54条第1項参照 。)
② 証拠調べの手続については,民事訴訟法第204条,第210条及び
第215条の3の規定に相当する規律によるものとする(家事事件手続法
第64条第1項参照 。)
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
・ 日弁連)外国にいる者に関しても可能となるような制度とすべきである。本手続においては, (
当事者の一方や関係者が外国にいることが少なくなく,来邦しなければ期日における意見陳述や
証拠調べができないというのでは 時間的にも費用的にも大きな負担をかけることになる 現在 , 。 ,
通信技術の発達により外国との通話,通信は容易になっており,かかる技術を活用することが望
ましい。
・ 大阪弁)迅速性の観点や,外国に居住するLBPの便宜の観点からも望ましい。 (
・ 福岡弁)同様の技術は,期日における手続に限らず,調査官調査においても活用されることが (
望ましい。調査官調査の方法は法律上限定されているわけではないし,特段両国間の主権の問題
も生じないものと考える。
【反対】なし
(5) 陳述聴取- 30 –
ア 陳述聴取
裁判所は,申立てが不適法であるとき又は申立てに理由がないことが
明らかなときを除き 当事者の陳述を聴かなければならないものとする 家 , (
事事件手続法第68条参照 。)
(注)ここでいう陳述聴取とは,言語的表現による認識や意向を聴取する手続を意味
し,裁判官が審問の期日において口頭で聴取する場合だけでなく,裁判所が書面
により照会する場合や,家庭裁判所調査官が調査として聴取する場合も含むもの
とすることを前提としている。
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
・ 大阪弁)迅速性を害さぬよう配慮する必要がある。また手続保障の観点から,家事事件手続法 (
第68条第2項と同様,当事者が求めれば審問を開くことを必要とすべきである。
【反対】なし
イ 審問の期日の立会い
【甲案】
裁判所が審問の期日を開いて当事者の陳述を聴くことにより事実の調
査をするときは,他の当事者は,当該期日に立ち会うことができるものと
する。ただし,当該他の当事者が当該期日に立ち会うことにより事実の調
査に支障を生ずるおそれがあると認められるときは,この限りでないもの
とする(家事事件手続法第69条参照 。)
【乙案】
審問の期日の立会いについては,規律を設けないものとする。
【甲案に賛成】5(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁,個人1名)
・ 裁判所)甲案に賛成する意見が多数であった。 (
・(日弁連,大阪弁,福岡弁)甲案の方が双方の手続保障にかなうと考えられる。
【乙案に賛成】1(香川大学)
・ 香川大学)甲案では,裁判官の裁量によって立会いの可否を判断することが可能である一方, (
立ち会いが認められない場合が拡大することにより,法の趣旨と運用が乖離する事態になりかね- 31 –
ず,そのような場合,外国から出頭することが想定される申立人が納得するのか疑問がある。乙
案により規律を設けないからといって,立会いが認められないことにはならず,運用の点からは
乙案が良いのではないか。
(6) 証拠調べの手続
証拠調べの手続については,民事訴訟法第2編第4章第1節から第6節
までの規定(本手続の性質に鑑み,同様の規律を設けることが相当でないも
のを除く )に相当する規律を設けるも 。 のとする(家事事件手続法第64条
第1項参照 。)
(注 「同様の規律を設けることが相当でないもの」としてどのようなものがあるかにつ )
いては,なお検討するものとする。
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
【反対】なし
【その他の意見】3(兵庫弁,個人2名)
・ 兵庫弁)証拠調べの手続については,返還例外に関わる事実の証拠調べについては,書証に限 (
らず口頭による証拠も採用できることを明示すべきである。虐待やDVに関しては客観的な直接
証拠が被害者の手元にあることは稀であること,虐待やDVのために逃げ帰ってきた子を明々白
々な書証や物証がないからと機械的に返還を命じることは子を重大な危険に追いやるおそれが大
きい。
・ 個人1名)申立人がDVや虐待を行っていたことを証明するに当たっては,相手方の供述を中 (
心とする証拠でも認めるべきである。
・ 個人1名)返還例外に関わる事実については,関係者の証言・専門家証言など口頭による証拠 (
を制限しないことを明示すべきである。特に,DVや虐待に関しては,書面や客観的証拠が被害
者の手元にあることはまれであり,それでもDV虐待事件で逃げてきた子を返還することは子に
重大な危険を負わせるおそれが大きいことから,このような規定を設けるべきである。
(7) 調書の作成等
裁判所書記官は,本手続の期日について,調書を作成しなければならな- 32 –
いものとする。ただし,証拠調べの期日以外の期日については,裁判長にお
いてその必要がないと認めるときは,その経過の要領を記録上明らかにする
ことをもって,これに代えることができるものとする(家事事件手続法第4
6条参照 。)
【賛成】3(裁判所,大阪弁,福岡弁)
【反対】1(親子の絆)
・ 親子の絆)調書の簡略化は望ましくない。 (
(8) 審理の終結
裁判所は,申立てが不適法であるとき又は申立てに理由がないことが明
らかなときを除き,相当の猶予期間を置いて,審理を終結する日を定めなけ
ればならないものとする。ただし,当事者双方が立ち会うことができる期日
においては 直ちに審理を終結する旨を宣言することができるものとする 家 , (
事事件手続法第71条参照 。)
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
【反対】なし
(9) 裁判日
裁判所は,(8)の規律により審理を終結したときは,裁判をする日(裁判
日)を定めなければならないものとする(家事事件手続法第72条参照 。)
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
【反対】なし
22 中央当局と裁判所との関係等
① 本手続の申立てに係る事件が係属した場合には,当該裁判所は,その旨
を中央当局に通知するものとする。
【賛成】1(裁判所)- 33 –
【反対】3(日弁連,大阪弁,福岡弁)
・ 日弁連,福岡弁 「係属した場合」ではなく 「申立てがあった場合」とするべきである 「係 ( ) , 。
属した」場合とは,一般的に相手方に申立書が送付された時点からと解されているところ(訴訟
係属は被告への訴状送達があった時点からとされている ,申立人が相手方の所在が不明なまま 。)
申立てを行っている場合,当該裁判所は申立書を相手方に送付するため,あるいは中央当局の調
査によっても所在が不明であった場合における申立却下の判断をするため 21の 1 ②参照 ( ( ) ),
中央当局から相手方の所在に関する情報を受け取る必要がある。このように,送付前の段階で中
央当局との連携が必要な場合があることから,中央当局への通知は「申立てがあった場合」に行
うものとすべきである。
・ 大阪弁)手続の「係属」とは,例えば「訴訟係属」が被告に対する訴状送達があった時点から (
とされているように,一般的に相手方に申立書が送付された時点からと解されている。家事審判
事件の場合は別異に考えることもできるかもしれないが,ここでいう「係属」の意味は少なくと
も明確ではない。そうすると,仮に手続の「係属」を上記のように考えたとして,これにより,
初めて中央当局に通知がなされるとするならば,申立書が相手方に送付されてから,裁判所が中
央当局にこれを通知することとなる。しかしながら,現実には,申立人が相手方の所在が不明な
まま申立てを行っている場合,当該裁判所は申立書を相手方に送付するため,あるいは公示送達
の判断をするため,申立書の送付以前の段階においても,中央当局から相手方の所在に関する情
報を受け取る必要がある。このように,送付前の段階で中央当局との連携が必要な場合があるこ
とから,中央当局への通知は 「申立てがあった場合」に行うものとすべきである。 ,
② 本手続に必要な資料収集に当たっての,中央当局による協力・調査の方
策については,なお検討するものとする。
・ 裁判所)次のような意見があった。 (
○ 常居所地国の法制に関する資料や同国に存在する証拠資料の収集及び翻訳を短期間に行う
ためには,常居所地国及び我が国の中央当局の協力が不可欠であり,中央当局の積極的な取
組が必要である。
○ 中央当局において,個別事件とは別に,諸外国における裁判例,国際会議の結果を収集
することが望ましい。- 34 –
・ 大阪弁)中央当局による協力・調査に関しては,今後なお検討すべき課題として, (
ア 収集に協力すべき資料や情報の範囲の問題,
イ 調査・協力を行うべき要件の問題
ウ 得られた資料の裁判所への提出方法に関する問題
が存在すると考えられる。
このうち,アについては,条約第7条第2項dにおいて,中央当局は「子の社会的背景に関す
る情報」の交換につき適当な措置をとるべきことが規定されているが,この点については,子が
返還される国においてどのような生活を送るのかという事情は,子の最善の利益の観点から特に
重要な情報であること,またTPが常居所地国に存在する資料にアクセスすることは極めて困難
であることに鑑み,中央当局は 「社会的背景に関する情報」より広く,子の返還拒否事由の判断 ,
に当たって必要な情報について,必要に応じて,調査・収集に協力すべきものとする方向で検討
されるべきである。
また,イについても,同じく条約第7条第2項dに「適当とされる」場合に上記情報交換を行
うべき規定があることから,その意義を,情報収集の目的の正当性や個人情報保護との関連を中
心に検討されるべきである。
ウについては,中央当局が収集した社会的背景に関する情報及び一般的な資料を裁判所に提出
する方法として,例えば,中央当局が当事者に手交し,当事者が裁判所に提出する方法と中央当
局が裁判所に提出する方法(裁判所から中央当局に調査嘱託又は送付嘱託をする方法)が考えら
れることから,具体的提出方法について,検討されるべきである。
・ 兵庫弁)中央当局は,裁判所の要請により,常居所地国に対し,常居所地国における申立人に (
よる虐待等の調査への協力要請を行ったり,返還後の常居所地国で予想される子の生活状況に関
する調査をして,裁判所に報告することとすべきである。また,在外公館に,邦人保護として,
DV防止法における配偶者暴力相談センター類似の機能を持たせるようにし,相談や一時保護に
応じ,邦人本人ないし裁判所からの照会により被害相談事実の公証を行うような仕組みが整えら
れるべきである。
・ 親子の絆)中央当局は,証拠収集に係る調査・実行機能を担うべきである。 (
・ 個人1名 中央当局は もとの国に残った証拠 その国での子や家族の社会背景に関わる情報 ( ) , ( )
が,相互主義のもと,日本の裁判所からの調査嘱託に応じ,提出されるよう,各国との間で協力
関係を確立する努力を尽くすべきである。また,中央当局経由で申立国から得られた証拠資料の- 35 –
翻訳は,中央当局の責任で行われるべきである。中央当局は外務省の下にあり,申立国の制度・
社会資源,言語・文化に最も精通し,その情報を日本の裁判所に提供しうるといえる。さらに,
在外公館が,外国に居住する邦人を保護する機能を強化し,在外公館は,現地での被害者支援に
実績のある機関・団体と提携し,邦人からのDV虐待の相談に応じて,上記機関・団体にリファ
ーして,邦人が適切な支援が受けられるようにするともに,邦人からの被害相談の事実と内容,
機関・団体からの支援報告を受けてその記録を保存し,後日,当該邦人又は日本の裁判所からの
要請に応じて,その相談等に関する記録の提供に応じ,それにより,邦人のDV虐待被害ないし
相談事実の証明を支援すること,返還審理を担当する裁判所は,相手方の主張があるときは,当
該在外公館ないし外務省にその相談記録等の送付を求め,事実認定の資料とすることができる仕
組みを整備すべきである。
・ 個人2名)資料収集について,常居所地国における虐待等の事実調査・資料収集,返還後に予 (
想される子の生活に関する調査・資料収集などを中央当局の役割とすべきであり,その旨国内法
に明記すべきである。
・ 個人1名)子及び相手方の所在その他相手方に関し,中央当局が把握した情報は,子及び相手 (
方の同意がある場合を除いて,申立人及び申立人側中央当局に伝えてはならない。ただし,返還
手続の送達に必要な子の所在地を,当該事件の審理を担当する裁判所に伝える場合はこの限りで
はない。
③ 本手続の開始の日から6週間以内に子の返還を求める申立てについての
裁判がされない場合には,我が国の中央当局又は当該手続の申立人は,司法
当局に対し,遅延の理由の説明を求めることができるものとする。
(注)遅延の理由の説明をする場合のルートの詳細については,ハーグ条約第11条第
2項の解釈を踏まえて,なお検討するものとする。
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
・ 大阪弁 遅延理由の説明は 条約第11条第2項の規定を国内法として具体化したものであり ( ) , ,
同条第1項の規定により要請される手続の速やかな進行を促し,訴訟の遅延を事実上抑止する観
点から有用であると考える。但し 「開始」の意義については,6週間の審理期間の起算点となる ,
時点であることから,具体的に手続上のどの時点を意味するかは明らかにする必要がある。- 36 –
【反対】なし
④ 本手続が終了した場合には,裁判所は,その旨を中央当局に通知するも
のとする。
(後注)中央当局による裁判記録の閲覧等の規律については,なお検討するものとする。
【賛成】1(裁判所)
【反対】3(日弁連,大阪弁,福岡弁)
・ 日弁連,福岡弁 「本手続が終了した場合」ではなく 「本手続の審理が終結した場合及び終了 ( ) ,
した場合」とするべきである。審理終結後において返還命令を見据えた合意の促進が期待される
ところであることを考えると,任意の返還に向けた任務を負っている中央当局に対しては,本手
続終了だけでなく,審理の終結についても通知するのが妥当と思われる。
・ 大阪弁)審理終結後においては返還命令を見据えた合意の促進が期待されるという観点からす (
るならば,任意返還に向けた任務を負っている中央当局に対して,本手続終了のみならず,審理
の終結についても通知するべきである。
○その他
・ 日弁連)中央当局から裁判所への情報開示について,中央当局が子や相手方の所在を把握して (
いるが申立人には知らされていない場合において,中央当局から裁判所へ所在の情報開示を行う
に当たっては,情報開示を許容する規定を置くとともに,具体的な通知方法等を決める必要があ
る。また,審理手続中に相手方や子の所在が不明となった場合の対処についても,中央当局によ
り更なる子の所在確定を行うのか その間の手続をどうするのかなどについて決める必要がある , 。
さらに,中央当局は子や相手方の所在を確知しているが申立人には開示されていないケースに
おいては,審理の過程や命令,その後の執行等の手続において,裁判所を通じて申立人に所在が
伝わることがないようにする必要がある 例えば 証拠の中で所在に関する箇所を非開示にする ( , ,
命令の中で所在を記載しない,強制執行申立ての際も所在を記載することを要せず,執行手続の
中でも申立人には所在を知らせずに手続を進めることとすることなど 。したがって,執行を含む )
裁判手続において,裁判所を通じて子及び相手方の所在が申立人に開示されることはない旨の規
定を置くべきである。- 37 –
・ 大阪弁)中央当局が子や相手方の所在を把握しているが申立人には知らされていない場合にお (
いて,中央当局から裁判所へ所在の情報開示を行うにあたり,まずもって情報開示を許容する規
定を置く必要がある。また,情報開示を行うための具体的な通知方法等を決める必要がある。そ
の際,中央当局がどの段階において,いかなる内容の情報を出すこととするのかについて,特に
慎重な検討を要する。さらに,審理手続中に相手方や子の所在が不明となった場合の対処につい
ても,中央当局により更なる相手方や子の所在確定を行うのか,その間の手続をどうするのかな
どについて検討する必要がある。
23 子の意思の把握
裁判所は,子の陳述の聴取,家庭裁判所調査官による調査その他の適切な
方法により,子の意思を把握するように努め,裁判をするに当たり,子の年齢
及び発達の程度に応じて,その意思を考慮しなければならないものとする(家
事事件手続法第65条参照 。)
【賛成】5(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁,個人1名)
・ 日弁連 福岡弁 子は返還される主体であり 手続の結果に重大な利害関係を有しているから ( , ) , ,
裁判所は,全件につき子の年齢にかかわらず,子の意思を把握し,考慮すべきである(ただし,
子の年齢等に鑑み,およそ意思を形成する能力がないことが明白である場合は除く 。かかる扱 。)
いは児童の権利条約第12条第1項の意見表明権の趣旨にも沿うものである。
なお,子が返還に異議を述べている場合は,特段の事情のない限り,子を利害関係参加させる
ことが望ましく,その場合には子に手続代理人を選任することにより,子の意見を主張立証する
機会を保障することが子の意思の把握として適切な方法と考える。
子の意思の把握は,子の文化を理解し,子と同じ言語を用いることができる者が行う方が望ま
しい。また,心理学などの専門的知見を活用することも考えられる。かかる見地から,子の意思
の把握は,必ずしも家庭裁判所調査官に限定せず,外部の専門家などを十分に活用することが期
待される。
・ 大阪弁)本条約に基づく子の返還手続において,子は裁判手続の当事者となっていない。しか (
し,子は常居所地国へ返還される主体であり,その結果に重大な利害関係を有している。また条
約は 「子の利益が最も重要であることを深く確信し」ていることを標榜している(条約前文 。 , )- 38 –
従って,子の利益を最大限に確保する観点から,裁判所は,子の年齢にかかわらず,子の意思を
把握し,それを判断に反映させることが必要である。我が国では,これまで,子が影響を受ける
家事事件において,家庭裁判所調査官の調査その他の適切な方法により子の意思の把握を行なっ
て判断するという方法を採用してきた。条約に基づく子の返還手続においても,裁判所が,子の
陳述の聴取,家庭裁判所調査官による調査その他の適切な方法により,子の意思を把握すること
は当然の責務といえる。家事事件手続法においても子の意思を考慮しなければならない旨の規定
があり(同法第65条 ,本手続においても,裁判を行うに当たり,子の年齢及び発達の程度に応 )
じて,子の意思を考慮しなければならないものとする旨の規定を設けるのが相当である。
・ 個人1名)子の意思の確認については,低年齢の子でもその意思を尊重する必要がある。 (
【その他の意見】大阪弁,兵庫弁,ウィメンズネット神戸,親子の絆,虐待防止学会,個人12

・ 大阪弁)その聴取が不可能または不適当な場合を除き,子の意見陳述を聴取すべき旨の規定を (
置くべきである 条約第13条第2項は 返還拒否事由の一つとして 司法当局又は行政当局は 。 , ,「 ,
また,子が返還されることを拒み,かつ,その意見を考慮に入れることが適当である年齢及び成
熟度に達していると認める場合には,当該子の返還を命ずることを拒むことができる 」と規定し 。
ている。このような事情が認められるかどうかを判断する際の資料として,子の陳述の聴取は不
可欠である。また,この返還拒否要件については,当事者の激しい対立的な立証活動を中心とし
た手段により認定するよりも,裁判所が主導してこれを認定することが望ましい。従って,裁判
所は子の陳述を必ず聴取しなければならないものとするべきである。陳述聴取のためには,子が
ある程度の年齢に達していることが必要となり(本条約13条2項もその旨定めている ,本条 。)
約において返還の対象となる子は,16歳未満である。しかし,16歳未満であっても,子の成
熟度には個人差もあるのだから,原則として,年齢にかかわらず陳述聴取が必要であると規定し
ておき,年齢が低すぎる,または裁判所が子にアクセスすることができないなど,聴取が不可能
な場合や,聴取が子の福祉に反すると見られるなど不適当な場合には例外として陳述しなくてよ
いとする規定にすればよいと考えられる。なお,また,子が返還に異議を述べている場合には,
子の意思を尊重し,その利益を保護するために,子の代理人を選任して手続に関与させるべきで
ある。
・ 兵庫弁,個人4名)①子からの申出があるとき,②子が意思表明に適すると思われる程度の年 (
齢に達しているときには,子の意思聴取を必要的とすべきである。- 39 –
・ ウィメンズネット神戸)子がDV加害者からマインドコントロールを受けている場合,子の意 (
見を聞くことができたとしても,本心を語ることは難しく,単純に判断し難い問題があることを
理解してほしい。
・ 親子の絆,個人1名)家庭裁判所調査官以外に,児童心理や精神医学の専門家の導入が不可欠 (
である。
・ 個人1名)子の人権を尊重するためにも,子の意思を一番に尊重すべきである。子の年齢が低 (
年齢であったとしても,その意見をないがしろにすることは許されない。
・ 虐待防止学会,個人1名)意思表明可能な年齢の子については意見聴取を必要的とするべきで (
ある。
・ 個人2名)連れ去られた子の意見を聴くべきであるが,監護親からの強制を慎重に排除すべき (
である。
・ 個人2名)子の意見聴取は必要的とすべきである。 (
・ 個人1名)日本の司法制度において,子の意思を把握するシステムが非常に脆弱である。裁判 (
所の調査官に留まらず,広く最先端の専門知を導入し,子の意思を適格に把握することが,子の
最善の利益の実現にかなうと考えられる。
24 裁判所及び当事者の責務
裁判所は,手続が公正かつ迅速に行われるように努め,当事者は,信義に
従い誠実に手続を追行しなければならないものとする(家事事件手続法第2条
参照 。)
【賛成】4(裁判所,大阪弁,福岡弁,親子の絆)
・ 大阪弁)連れ去られた子の返還を命じる場合には,できる限り速やかに従前の生活関係が回復 (
されることが望ましく,返還の申立てが退けられる場合には不安定な状態を可及的速やかに終了
させる必要がある。条約第11条第1項は,返還手続は迅速に行われるべき旨を規定している。
そうした条約の趣旨から考えて 迅速な審理を行なうための一般的規定を設けることについては , ,
賛成する。
【反対】1(日弁連)
・ 日弁連)当事者の義務も裁判所と同様に努力義務とすべきである。裁判所は努力義務しか負わ (- 40 –
ず,当事者にのみ信義誠実に手続を追行する義務を負担させることは均衡を失するほか,職権探
知,職権調査をすべき裁判所をして,当事者の「不誠実」等を理由に職権探知,職権調査を怠る
ことを容認しかねないため,当事者についても 「信義に従い誠実に手続を追行するよう努めるも ,
のとする」とする方が適切である。
【その他の意見】2(個人2名)
・ 個人2名)子の最善の利益を守る責務があることを明示すべきである。 (
25 ハーグ条約第14条関係
ハーグ条約第14条の規定を担保するための規定は 設けないものとする , 。
【賛成】3(裁判所,日弁連,大阪弁)
【明文の規定を置くべき】1(福岡弁)
・ 福岡弁)民事訴訟法第118条との関係で,注意的に,外国裁判所の確定判決も同条にかかわ (
らず直接考慮することができる旨を定めることが望ましい。理由は以下の通り。現在,例えば,
外国人である親が我が国内で人身保護を請求するとき,外国判決により監護権を証明しようとす
ると民事訴訟法第118条の要件を厳格に審理されている。もとよりかかる人身保護請求事件に
おいては,外国判決によって認められた監護権が我が国において効力を有するかが問題となって
おり,ハーグ案件において申立人の監護権が問題になる場面と異なる。しかし,ハーグ案件が新
しい類型であること,迅速な審理が要請されていることなどに鑑み,当事者に分かりやすい手続
規定とすることが望ましく,誤解を避けるため注意的に,ハーグ案件において外国判決により監
護の証明をしようとする場合にも民事訴訟法第118条の要件を満たす必要がないことを規定し
ておくべきである。
【その他】1(個人1名)
・ 個人1名)条約第14条の「子が常居所を有していた国の法令及び司法上又は行政上の決定」 (
そのものに我が国には大きな問題がある。我が国では最初の連れ去りが問題とされておらず,後
の連れ戻しのみが問題とされ,このような状態のままハーグ条約を締結すれば問題が起こる。
26 ハーグ条約第15条関係
裁判所は,申立人が,子が常居所を有していた国の当局から子の連れ去り- 41 –
又は留置が不法であることの証明書を得ることができる場合には,申立人に対
し,その証明書の提出を求めることができるものとする。
【賛成】5(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁,親子の絆)
【その他の意見】1(個人1名)
・(個人1名)日本から外国へ連れ去られた事案でも,連れ去りは不法であるとの証明書を発する
べきである。
27 ハーグ条約第16条関係
親権者若しくは監護者の指定若しくは変更又は子の引渡しについての裁判
が係属している場合において,当該裁判が係属している裁判所にハーグ条約第
3条第1項に規定する子の不法な連れ去り又は留置があったことの通知がされ
たときは,当該裁判所は,ハーグ条約に基づく子の返還がされないことが決定
されるまでの間,その判断をしてはならないものとする。ただし,子の返還を
求める申立てが相当の期間内にされない場合は この限りではないものとする , 。
(注)ハーグ条約第3条第1項に規定する子の不法な連れ去り又は留置があったことを,
親権者若しくは監護者の指定若しくは変更又は子の引渡しについての裁判が係属してい
る裁判所に通知する方法については,なお検討するものとする。
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
・ 裁判所)次のような意見があった。 (
養育費や面会交流については,返還命令が出されるか否かに関わらず,調停又は審判がで
きるものとすべきである。
・ 日弁連)条約第16条の趣旨に照らし,中間取りまとめのような規定を置くことが望ましい。 (
なお,離婚事件については,親権者の指定に関係する争点については審理を止めるべきであると
しても,親権者の指定と関係がない争点については審理を進めることが可能と解すべきである。
・ 大阪弁)条約第16条の文言上も,我が国の裁判所が監護の本案について裁判をなし得るのは (
「ハーグ条約に基づく子の返還がされないことが決定した後」あるいは「子の返還を求める申立
てが相当の期間内になされない場合」であり,ハーグ条約に基づく子の返還を命ずる裁判がなさ
れ,その裁判手続が終わっても,実際に子の返還が実現しない場合には,我が国の裁判所が監護- 42 –
の本案について裁判をなし得ないことが確認されるべきである。
・ 福岡弁)全体的な枠組みとして賛成である。子の監護に関する裁判については,監護者の指定 (
又はその変更に関する裁判のみ,この規律に服することとし,養育費や面接交渉に関する裁判に
ついては除外すべきである。離婚調停または訴訟が係属している場合に,その手続全部にこの規
律を及ぼして判断を回避するのか否かについても,検討すべきである。
【反対】なし
28 ハーグ条約第17条関係
ハーグ条約第17条の規定を担保するための規定を設けるものとする。
【賛成】5(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁,親子の絆)
【反対】なし
29 裁判
(1) 返還命令の主文
主文については 基本的に裁判実務における運用に委ねるものとするが , ,
具体的な在り方については,なお検討するものとする。
・ 裁判所)主文については,以下のとおり 「相手方は,子を,○○国(子が常居所を有してい ( ,
た国)に返還せよ 」とするのが相当であるとの意見が主であった。 。
○ 条約の目的は,常居所地国で監護権の判断を行うことを前提とし,そのために子を常居所
地国に戻すことにあり,返還命令手続において監護権者としての適格性を審理対象とするも
のではないから 「相手方は,子を,○○国(子が常居所を有していた国)に返還せよ 」と , 。
するのが相当である。
なお,他に次のような意見があった。
○ 返還を命ずる主文とともに,主文において,間接強制金の支払予告命令( 相手方が第○項 「
の返還を履行しないときは,相手方は,申立人に対し,○○経過の日の翌日から履行済みま
で1日につき○○円の割合による金員を支払え )を同時に発令することが許されるべきで 。」
ある。
・ 日弁連)返還命令の主文については,執行方法とも密接に関係することも念頭に置いて,十分 (- 43 –
に検討する必要がある。
・ 大阪弁)本手続が,非訟手続で行われることが予定されていることからすれば,主文について (
は 訴訟手続による場合に比べて より柔軟なものとすることが可能であることを指摘しておく , , 。
なお,主文の具体的な在り方を検討するに際しては,執行方法との関係を入念に検討する必要が
ある。すなわち,本手続における執行方法については,34でも述べるとおりであるが,その執
行方法は,間接強制に限定されるべきものではなく,直接強制を含めた方法が検討されるべきで
ある。さらには,子を返還する先が常居所地国であるのか,LBPなのか,人身保護請求に準じ
た裁判の実現方法がありうるのか,実現にあたっての中央当局の役割は,といったさまざまな視
点について,どのような方法を採用するかによって,主文の内容も変わりうる。したがって,主
文の在り方についても,執行方法との関係で,実効性のある執行が可能な主文の在り方が求めら
れるものである。この点,条約の枠組みからは,一般的な主文例として 「相手方は,子を常居所 ,
地国へ返還せよ 」というものが考えられるが,この主文が,履行の方法及び時期の点で不明確な 。
点を残すものであることは否めない。そのため,命令を受けた相手方及び執行を担当する機関と
しては,何が本旨に従った履行なのかを明確に判断できず,実効性のある執行が実現できないと
いう問題が生じる可能性が認められる。また,条約の究極の目的が,子の最善の利益にあること
に照らせば,子の最善の利益を実現するために必要な条件(例えば,扶養料の支払い,暴力を行
使しないこと等)を返還命令の主文で命じる可能性も検討されるべきである。したがって主文に
ついては,履行の方法及び時期について,ある程度明確に命じる余地がないか,子の最善の利益
を実現するために必要な条件を命じる余地がないかをなお検討する必要があると考える さらに 。 ,
子の返還手続において,当事者間で,何らかの約束がなされた場合には,その内容を,返還命令
の主文に記載することも検討されるべきである。
・ 福岡弁)返還命令の主文として最も条約に適合的であるのは 「相手方は子を常居所地国に返 ( ,
還せよ」などであると考えられるが,一定の場合に直接子を申立人に引き渡すことを命じる余地
がないかどうか,仮に直接子を申立人に引き渡すことを命じる主文をも想定する場合には,その
在り方について,執行方法との関係も踏まえ,十分に検討すべきである。
・ 個人2名 「相手方は子を○○国に返還せよ 」とするのが条約の枠組みと最も整合する 「相 ( ) 。 。
手方は申立人(あるいはその指定する者)に対し,子を引き渡せ 」という主文は,子の引渡しを 。
受けた者が常居所地国に戻らない場合には条約の枠組みに反し,虐待がある事案では子の利益に
反することになる 「相手方は申立人が子を○○国に連れ帰ることを妨害してはならない 」とい 。 。- 44 –
う主文は,申立人自らが常居所地国に子を連れ帰ることを前提とする判断が条約の要請を超えて
いるし,虐待がある事案では子の利益に反する。
(2) undertaking
いわゆるundertakingを可能とするための特別の規律は,設けないものと
する。
(注)諸外国では,子の返還の前提として,又は子の返還の実現を図る目的で,子の返
還に関連する事項(例えば,申立人が,相手方と子が,子が常居所を有していた国
へ帰国する旅費を支払うことや,子が常居所を有していた国において相手方と子の
ための住居を確保すること について 当事者が義務を負うことを裁判所 通常は ) , ( ,
子の返還を求める申立てに係る事件が係属する裁判所)に約束し,裁判所が,返還
命令と一体のものとして,又は別の命令として,その履行を命ずることがある。こ
のような約束又は履行の命令を,一般にundertakingと呼んでいる。
【賛成】3(裁判所,日弁連,福岡弁)
・ 裁判所)次のような意見があった。 (
当事者が約束した事項が実現される確実性がないにもかかわらず,当該約束を前提とした
判断をすることは困難である上,返還命令に何らかの条件を付す場合には,当該条件の相当
性についても審理することになり,迅速性を害するおそれがある。
・ 日弁連,福岡弁)いわゆるundertaki ( ngの制度は条約そのものに規定されていないこと,歴史
的には条約第13条第1項bの返還拒否事由が認められるにもかかわらず,なお返還を命じると
いう文脈のなかで形成されてきたものであるが,そのこと自体適当かどうか疑義があること,各
国の実務においてもundertakingは必ずしも実効性が伴わないという問題が指摘されていること,
我が国において類似の制度がないことなどに照らし,少なくとも現段階では導入しないことが望
ましいと考える。
・ 大阪弁)undertaking の制度に ( ついては,その具体的内容が決められない以上,現時点で何ら
かの規定をすべきとまでは言えないが,強制的な返還手続を補充し又は「当事者間の合意に基づ
く任意返還 を実現するために有効な手段の1つであると考えることから 導入に向けて なお 」 , , ,
検討が続けられるべきであると考える。- 45 –
例えば,13条1項(b)の「耐えがたい状況の重大な危険」を減ずるundertaking の申出が
あった場合には,その履行が,子の福祉を保障するために有益であることが認められる。他方で
返還の要件を検討するに際し(特に,条約第13条第1項bの「耐えがたい状況の重大な危険」
の判断において 履行を確保できないundertaking を偏重することで 結果的に 返還によって ), , , ,
子の最善の利益という条約の究極の目的が害されるという事態が生じかねないという問題がある
ことから,返還の要件の検討における,undertaking の取扱いには,慎重にならなければならな
い面もあると考える。さらに,undertakingという制度の導入を検討するに際しては,法的根拠の
みならず,履行を確保することで,実効性の認められる制度にするための手段についての検討が
必須であると考える。具体的には,裁判官が,外国の裁判所に対し,mirror order やsafe habou
r order を求めることをはじめ,直接,子の返還先の国の裁判官や,中央当局と連絡を取り,必
要な保護措置について相談することなどが考えられる また undertaking の内容が LBPが 。 , ,「 ,
帰国費用,住居費用,生活費,弁護士費用を負担する 」といった金銭的な約束を内容とするもの 。
である場合には,事前に金銭を供託させるといったシステムを構築することで履行が確保できる
こともある。
【反対】なし
30 裁判の効力の発生
子の返還を求める申立てについての裁判は,確定しなければその効力を生
じないものとする(家事事件手続法第74条第2項参照 。)
【賛成】5(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁,親子の絆)
・ 大阪弁)裁判の効力発生時を確定時とすると,執行まで時間がかかり子の迅速な返還という本 (
条約自体の理念に反するとも考えられる。他方,一審段階での返還あるいは執行を認めると,後
の不服申立手続で返還が不当であるとの裁判が出た時,その裁判は外国および外国において子を
監護している者には当然には強制できないことから,子を再度日本に戻すことが事実上不可能と
なる可能性が高い。以上を踏まえると,一審の裁判が出た段階での返還あるいは執行を認めた場
合,慎重な審理を期すため,不服申立手続を設けた趣旨が没却されるし,何より,返還すべきで
ない場所に返還される子にとって酷な結論となる また その弊害の大きさが裁判所を萎縮させ 。 , ,
返還に消極的な判断が出やすくなる可能性もある。そこで,裁判の効力発生時を確定時とするこ- 46 –
とは妥当であると考えられる。ただし,子の迅速な返還という本条約自体の理念に十分配慮し,
不服申立手続および保全手続についても手続の迅速性を確保すべきである。
【反対】なし
31 裁判の取消し等
【甲案】
裁判所は,子の返還を命ずる裁判が確定した後,事情の変更により,当該
裁判を維持することが不当と認めるに至った場合又は当該裁判を維持する必要
性が消滅した場合には,申立てにより,当該裁判を取り消し,又は変更するこ
とができるものとする。ただし,子が常居所を有していた国に戻った後は,当
該裁判を取り消し,又は変更することができないものとする。
【乙案】
裁判所は,子の返還を求める申立てについての裁判が確定した後,当該裁
判を維持することが不当と認めるに至った場合又は当該裁判を維持する必要性
が消滅した場合(子の返還を求める申立てを却下する裁判については,裁判確
定後の事情変更による場合を除く。)には,申立てにより,当該裁判を取り消
し,又は変更することができるものとする。ただし,子が常居所を有していた
国に戻った後は,当該裁判を取り消すことができないものとする。
(注)取消し又は変更に期間制限を設けるものとするか否か等,取消し又は変更のための
手続の詳細については,なお検討するものとする。
【甲案に賛成】2(裁判所,親子の絆)
・ 裁判所)甲案に賛成する意見が多数であった。 (
なお,甲案に賛成する立場から次のような意見があった。
○ 法律関係の早期確定,紛争の蒸し返しの防止,再審制度との区別といった点から,甲案が
望ましい。
○ 取消等の理由を裁判確定後の事情変更に限定しておかなければ,何度も申立てが繰り返さ
れるおそれがあるが,子をめぐる法律関係の早期安定を優先すべきである。
【乙案に賛成】4(日弁連,福岡弁,個人2名)- 47 –
・ 日弁連)乙案におおむね賛成であるが 「子の返還を求める申立てについての裁判」を「子の ( ,
返還を命ずる裁判」に変更し,括弧部分は削除すべきである。
子の最善の利益の観点に立てば,たとえ返還命令の後であっても,条約の認める返還拒否事由
の存在が明らかになったときは,それが返還命令の後に生じたものか,前から存在していたもの
かにかかわらず 返還命令を執行すべきでないし 返還命令そのものを取り消すことが望ましい , , 。
よって,取消の原因を命令後の事情に限定しない乙案が適当であると考える。しかし,このよう
な裁判の取消しを必要とする趣旨からすれば,取消しの対象となる裁判は子の返還を命ずる裁判
に限定すべきである。
また,乙案は常に蒸し返しの危険をはらんでいるといえる。そのため,取消しの申立てが実質
的に蒸し返しや執行の妨害にならないよう,申立ての理由を子の重要な利益または福祉に関する
事項に限定したり,手続開始の要件としてかかる事情の疎明を求めたり,あるいは申立てそのも
のに執行停止効を認めないなどの工夫を要する。
・ 福岡弁)乙案に賛成である。ただし,取消し又は返還の申立てが実質的に蒸し返しや執行の妨 (
害にならないよう,申立ての理由を子の重要な利益または福祉に関する事項に限定したり,手続
開始の要件としてかかる事情の疎明を求めたり,あるいは申立てそのものに執行停止効を認めな
いなどの工夫を要する。理由は以下のとおり。子の最善の利益の観点に立てば,たとえ返還命令
の後であっても,条約の認める返還拒否事由の存在が明らかになったときは,それが返還命令の
後に生じたものか,前から存在していたものかにかかわらず,返還命令を執行すべきでないし,
返還命令そのものを取り消すことが望ましい。よって,取消しの原因を命令後の事情に限定しな
い乙案が適当であると考える。
・ 個人2名)乙案に賛成である。甲案は,裁判後の事情の変更のみを取消事由とするが,子の最 (
善の利益の見地からは,返還命令が確定した後であっても,返還拒否事由の存在が明らかになっ
たときは,それが返還命令の後に生じたものか前から存在していたか否かにかかわらず,返還命
令を執行すべきでないし,返還命令を取り消すべきである。
【その他の意見】4(大阪弁,兵庫弁,虐待防止学会,個人1名)
・ 大阪弁 裁判確定後の事情の変更があった場合に 執行力を否定する処分の必要性は認めるが ( ) , ,
甲案・乙案に関わらず,裁判の取消しの規定を本手続に導入すべきではない。
本条項に定める裁判の取消しは,家事事件手続法第78条の裁判の取消しにならった規定であ
ると思われる。ところで,家事事件手続法第78条は,家事審判法第7条により準用される非訟- 48 –
事件手続法第19条を承継した規定である。ところで,非訟事件手続法第19条の趣旨は,非訟
事件は,民事訴訟のように司法上の権利関係の存否を確定し,紛争を解決することを目的とする
ものではなく,裁判所が後見的立場から具体的な事情に適合した司法上の権利関係を創設,形成
することを目的とするものであるから,裁判所において,事後にその裁判が不当であったことを
発見したり,事情の変更によってその裁判が相当でなくなったと認めるような場合には,裁判を
具体的事情に適合させるため,自らその裁判の取消し・変更をする道を開いておくことが適当で
あるということにある。しかし,本手続は,非訟事件の扱いがなされるとしても,裁判所が返還
拒否事由の有無を判断し,これがない場合には返還を命じなければならないという点で訴訟事件
類似の性質を有しており,また言い渡される裁判は基本的に返還の許否だけであって(前記29記
載のとおり,別の要素が盛り込まれることも考えられるが),裁判所が裁量によって一定の状態を
創設,形成するものでは無い。
したがって,そもそも家事事件手続法第78条の趣旨が本手続に妥当するとは考えられない。
さらに,家事事件手続法第78条第1項は,法律関係の早期確定を図る趣旨から即時抗告をする
ことができる審判については,裁判の取消しの対象としないと規定している(第1項第2号 。そ )
して,本手続は,子の迅速な返還を求める本条約の実施のための手続であり,通常の家事事件よ
りも迅速性が要求される手続であるため,不服申立手続として即時抗告が認められている。にも
関わらず本手続に裁判の取消しの規定の適用を認めると即時抗告によって法律関係の早期確定を
図ろうとする趣旨を没却し,上位法たる本条約に反する。もちろん,裁判確定後の事情の変更に
より,返還の裁判が不当となるという事態はあり得る。また,一旦子が常居所地を有する国に返
還されれば,後にいかなる手続を取っても,日本に再度戻すことは難しいと考えられるため,そ
のような場合に何らかの形で裁判の執行力を否定する手続を取る必要はある。ただし,その場合
でも裁判の取消しの規定ではなく,請求異議の訴えと執行停止の規定に準じた制度を構築すべき
である。
・ 兵庫弁,個人1名)子も申立人に含めるべきである。 (
・ 虐待防止学会)ハーグ条約に関する子の返還手続は,迅速性が強く要請されるため,必ずしも (
十分に時間を費やした審理がなされないおそれが否定できない その結果 確定した後になって 。 , ,
実は返還拒否事由が満たされていたことが判明する事態が考えられる。返還拒否事由が満たされ
ている以上,子の利益に照らし,返還すべきでないはずであるが,そのような場合でも再審事由
が認められることは少ないのではないかと懸念される。そこで,いったん裁判が確定しても,そ- 49 –
の後に返還拒否事由の存在が明らかになったときは,裁判を取り消す途を設けておくことが必要
である。もっとも,取消申立てに執行停止効を認めないとか,取消事由が一見して明白であるこ
とを求めるなど,紛争の蒸し返しにならないような配慮も求められる。
32 取下げ
申立ては,その全部又は一部を取り下げることができるものとする。ただ
し,子の返還を求める申立てについての裁判がされた後にあっては,相手方の
同意を得なければ,その効力を生じないものとする(家事事件手続法第82条
第2項参照 。)
【賛成】5(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁,親子の絆)
・(大阪弁)本法において規定される子の引渡等については,当事者が処分することができる権利
であると解されるから,訴えの取下げ自体は認めるべきである。次に,相手方の同意が必要とな
る時期について,民事訴訟法にならい一定の訴訟行為を行った時期とするか,家事事件手続法の
ように審判後とするかという点が問題となるも後者を取るべきである。その理由は,本法におけ
る子の返還の裁判については既判力がない以上,相手方が自分に有利な裁判を得るメリットはあ
まりないと考えられること,本条約第12条においては,引渡請求は1年以内に行うことが規定
されており,申立人が取下げと申立てを繰り返すということも考えがたいことである。
・ 福岡弁)申立てが取り下げられれば,申立てがなかったと同じ状態が継続するだけであって, (
それは相手方にとって不利益ではないこと,家事事件手続法で子の監護者指定等に関し審判まで
の自由な取下げを認めたこと等からすれば,上記取扱いを相当と考える。
【反対】なし
33 不服申立て
(1) 即時抗告
子の返還を求める申立てについての裁判に対しては,即時抗告をすること
ができるものとし,その具体的な手続等については,次のとおりとするもの
とする。
ア 即時抗告権者- 50 –
当事者に即時抗告権を認めるものとする。
(注)子に即時抗告権を認めるかどうかについては,なお検討するものとする。
イ 即時抗告の期間
即時抗告の期間は,2週間とし,裁判の告知を受けた日から進行する
ものとする。
ウ 抗告審の手続
抗告審の手続については,原裁判所による即時抗告の不適法却下,抗
告裁判所の裁判長による抗告状審査権,原審の当事者等への抗告状の写し
の原則送付及び必要的陳述聴取等,基本的に第一審の手続の規律に相当す
る規律を設けるものとする(家事事件手続法第87条から第89条まで,
第93条等参照 。)
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
・ 大阪弁)本条約の目的は,不法に移動された子の即時の返還を確保することにあり,第一審に (
ついては6週間以内で決定を行うことが原則とされている(条約第11条 。他方,本手続は子の )
返還という重大事項を扱うものであるから,裁判の適正を担保するため,不服申立手続を設ける
必要性は強い。他国においても,不服申立手続を導入しているのが一般的である。このように,
本条約において要求される手続の迅速性と裁判の適正を両立させるためには,迅速な不服申立手
続を定めることが必要である。本手続の不服申立手続においては,家事事件手続法の手続に従う
としているが,特別抗告および許可抗告には裁判の確定を遮断する効力はなく,即時抗告の裁判
が出た時点で裁判が確定することになるため,迅速な不服申立手続という本手続の理念に適うも
のであると考える。
また,第一審手続については,申立人と相手方の二当事者対立構造を取っている以上,両当事
者を即時抗告権者とすべきである。
【反対】なし
【その他の意見】1(大阪弁)
・ 大阪弁)即時抗告の手続については,本条約が迅速な子の返還を目的としていること,第一審 (
が6週間以内の裁判を原則としていることに鑑み,手続が長期化しないように配慮する旨の規定
を設ける必要があると思われる。- 51 –
○ア(注)について
【子に即時抗告権を認めるべきとする意見】6(日弁連,兵庫弁,福岡弁,個人3名)
・ 日弁連,福岡弁)条約における返還命令は子の国境を越えた移動という重大な結果をもたらす (
こと,条約は子の異議という子の主体的な意思表示を返還拒否事由として認めていることから,
一般の家事事件と異なり 子自身にも即時抗告権を認め たとえ相手方が即時抗告を断念したり , , ,
抗告期間を徒過したとしても,なお上級審において審議できるようにすることが望ましい。
【子に即時抗告権を認めるべきではないとする意見】1(裁判所)
・ 裁判所)子に即時抗告権を認めることに反対する意見が多数であった。なお,子に即時抗告権 (
を認めることに反対する立場から次のような意見があった。
○ 本案に相当する子の監護に関する処分についても子には即時抗告権は認められておらず,
返還命令の手続について子に申立権がなく,子に即時抗告権を認めることで子を紛争に巻き
込むおそれがある。
○ 子に即時抗告権を認めると,子に親を選ばせるのと似た状況を生じ,子を紛争に巻き込む
ことになり,また,迅速な解決を妨げることにもなるから相当ではない。対象年齢が16歳
未満であるので,なおさらである。
【その他の意見】1(大阪弁)
・ 大阪弁)子を即時抗告権者とするか否かについては,検討の必要がある。本手続と類似の手続 (
である子の監護に関する処分としての子の引渡しにおいても子に独自の即時抗告権は認められて
いないこと,子については,親が居所を指定するのが原則であることに鑑みれば,即時抗告権を
与える必要は無いとも思える。他方でTP,LBPが適切に子の利益を守る立証活動をとらなか
った場合など,一定程度成熟した子が,独自に即時抗告権を行使し,利害関係参加人として,代
理人を通じるなどして適切な対応をすることが望ましい場合も,数は多くはないがありうると思
われる。なお検討すべきである。
(2) 特別抗告及び許可抗告
最高裁判所に対する不服申立てとして,特別抗告及び許可抗告を認める
ものとし,その具体的な手続については,民事訴訟法の特別抗告及び許可抗- 52 –
告の規定(同法第336条及び第337条参照)に相当する規律を設けるも
のとする。
(注)特別抗告及び許可抗告については,民事訴訟法や家事事件手続法における場合と
同様に,執行停止の効力は一般的には認めないものとし,執行停止を要する事案に
ついては,個別に執行停止の裁判により対応するものとすることを前提としている
(民事訴訟法第334条第2項,家事事件手続法第95条及び第98条第1項等参
照 。)
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
・ 大阪弁)条約第20条は,子の返還について要請を受けた国における人権及び基本的自由の保 (
護に関する基本原則により認められないものであれば,拒むことができるとしており,これは我
が国においては憲法判断となりうるものであるから,特別抗告を認める意義はある。また,本手
続は,子の返還という重要事項を扱うものであり,法令解釈の統一性を確保するため,許可抗告
も認めるべきである。この場合,民事訴訟法や家事事件手続法と同様に,執行停止の効力は一般
的には認めないものとし,個別に執行停止の裁判により対応することも適当である。
【反対】なし
【その他の意見】1(親子の絆)
・ 親子の絆)特別抗告及び許可抗告の要件を緩和すべきである。 (
(3) 手続的な裁判に対する不服申立て
手続的な裁判に対する不服申立てについては,特別の定めがある場合に
限り即時抗告をすることができるものとした上で,即時抗告の期間は,1週
間とし,原則として執行停止の効力はなく,原審の当事者等に対する抗告状
の写しの送付や陳述聴取は,必要的ではないものとする規律を設けるものと
する(家事事件手続法第99条,第101条及び第102条参照 。)
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
【反対】なし
(4) 再審- 53 –
本手続においては,再審を認めるものとし,その具体的な手続について
は,民事訴訟法の再審の規定に相当する規律を設けるものとする。ただし,
子が常居所を有していた国に戻った後は,再審を認めないものとする。
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
・ 大阪弁)裁判に重大な瑕疵がある場合にその裁判を存続させることは不当であり,再審手続を (
設ける必要がある。また,一旦子が外国に返還された後に,再審により返還を求める裁判を取り
消したとしても,その裁判の効力は,すでに外国にいる子には及ばず,事実上返還を求めること
は不可能であるから,この場合に再審を認める意味はない。
【反対】なし
34 子の返還の実現方法
子の返還を命ずる裁判の強制執行については,間接強制を認めるものとす
る。
ただし,他の方法についても,その実現可能性を含めて,なお検討するも
のとする。
【間接強制のみを認めるべきとする意見,直接強制に反対する意見】24(裁判所,兵庫弁,グ
ループ女綱,しんぐるまざあず尼崎,全国女性,DV被害者支援,フェミニストカウンセリング
神戸,個人17名)
・ 裁判所)第1文については,間接強制に賛成する意見が主であり,これに反対する意見はなか (
った。
第2文については 「他の方法」として,民事執行としての子の引渡しの直接強制を導入するこ ,
とについては,以下のとおり,子の福祉の観点から消極に考えるべきとの意見が主であった。
○ 現在の民事執行としての子の引き渡しの直接強制については,子の意思能力の有無が問題
となるところ,ハーグ条約の事案では,育った社会,文化,言語の異なることの多い子の意
思能力の有無及び意思確認の判断に困難を来す可能性が高いこと,直接強制において執行官
がどの程度威力を用いることが許されるかも明らかではない中で,威力行使により子に著し
い精神的な苦痛を与える懸念も払拭できないことから これを認めるのは相当でない また , 。 ,
直接強制を認めると,常居所を有していた国で判断されるべき監護の問題を,日本の司法機- 54 –
関が十分な証拠資料がないまま事実上先取りしてしまうおそれがあり,条約の趣旨に反する
ことになる。
他に,次のような意見があった。
○ 「他の方法」として,間接強制を経ても子の返還の実現に応じない相手方に対する勾引・
勾留あるいは過料の制裁を新設したり,間接強制の金額を相当高額のものにしたりすること
が考えられ,これは,現行の人身保護法の存在に照らし,現行法体系と矛盾するものではな
い。
○ 返還命令を実現するための諸条件(返還日時,方法,費用負担者等)については,中央当
局の援助の下,当事者間での協議を促すべきである。
・ 兵庫弁)国内での監護の裁判と異なり,ハーグ条約に基づく子の返還は,子の福祉の観点から (
いずれの親の下で子を監護すべきかの審理を経た結論ではないから,連れ去った親から子を取り
上げた後の影響が予測できないこと,しかも子を国外に返還するという決定的な結果を子にもた
らすことから,子の保護の見地により,間接強制にとどめるべきである。
・ グループ女綱,しんぐるまざあず尼崎,全国女性,DV被害者支援,フェミニストカウンセリ (
ング神戸,個人15名)子の福祉,つまり子の人権を最優先として,直接強制は認めるべきでは
ない。現在監護している親の下から子を強制的に引き離すことは,子の福祉を著しく害すること
になる。
・ 個人2名)間接強制のみとすべきであって,直接強制はすべきでない。国内事案で子の引渡し (
の裁判が確定した場合に,子の年齢等を勘案しつつ直接強制を可能とする見解が存在し,実際に
直接強制がなされることがあるが,そのような国内事案においては,子の引渡しの前提として家
庭裁判所において監護権指定の本案が確定しており(あるいは保全決定が出ている ,申立人に 。)
おいて監護することが子の最善の利益合致することが実質的に判断されている。ところが,ハー
グ条約の返還命令においては,①基本的に子の監護者としての適格性の判断をすることなく返還
命令が出されていること,②主たる監護親が同行できない事情があれば子は愛着の対象から引き
離されることになり,ひいては子の健全な成長が阻害される事態となること,③返還先は国境を
越えた他国であることなど国内事案とは全く事情が異なるため,同列に論じることはできない。
【間接強制以外の方法も認めるべきとする意見】20(日弁連,大阪弁,福岡弁,親子の絆,親
子ネット,親子ネット十勝,香川大学,個人13名)
・ 日弁連)間接強制を認めることには賛成である。ただし,執行の方法は,返還命令の主文のあ (- 55 –
り方に応じて異なるのであり,担保法において返還命令の強制執行については間接強制を認める
などと明記することは,他の執行方法の余地を排除する趣旨と理解されるおそれがあるため,慎
重な検討が必要である 「他の方法」については,子の福祉に十分に配慮しつつ,事案に応じたき 。
め細かい対応が可能となる制度を検討すべきであるが,少なくとも,家庭裁判所による履行勧告
は認められるものとすべきである。
・ 大阪弁)従来,日本国内における子の引渡しを命ずる裁判の執行方法としては,さまざまな議 (
論がなされていた。間接強制も不可能な自然債務という考え,間接強制のみが可能であるという
考え,直接強制も可能であるという考えがあったが,間接強制では実効性がない場合もあり,正
当な権利者が正当な手続により直接の引渡しを実現できないとすると,自力救済を助長すること
になりかねない。直接強制が物の引渡しと同じ手続であるということだけで子の人格を無視する
ことにはならない。大切なのは,子の身体の安全や精神の安定を確保することであり,直接強制
でも具体的な執行方法に配慮すれば,子の福祉にかなう実施ができると考えられる。そこで近年
には直接強制が可能であるという説が有力になりつつあるというのが現在の実務の大勢と思われ
る。
これを前提とすると,本条約が命ずる子の返還の本来の趣旨は,申立人に引き渡せということ
ではなく,本国に戻せということであり,国内事件での子の引渡しは相手方に引き渡せと命じら
れる(ことが多い)という違いがあるとしても(ただし,中間取りまとめの補足資料38頁でも,こ
の条約による返還命令の主文として「相手方は申立人に子を引き渡せ 」という主文がありうると 。
している。その場合には,国内事案と同じになる。) ,我が国が国内事件において,子の引渡し
について直接強制を認めているにもかかわらず 本条約による子の返還命令の強制執行としては , ,
間接強制しか認めないということは,条約第2条が締結国の義務として定める「条約の目的を達
成するためのあらゆる適切な措置をとる」に違反するおそれがある。
したがって,返還を命ずる裁判の執行力を間接強制に限定すべきではない。少なくとも直接強
制を認めるべきである。なお,本条約は,子の返還の実現について,締結国があらゆる措置をと
ることを求めており(条約第2条 ,中央当局は,子の任意の返還の実現のためにあらゆる措置を )
取ることが義務とされている(条約第7条)のであるから,子の返還を命ずる裁判の実行をどう
するか,という以前に,返還を求める裁判を起こす前に利用可能なADRを用意すること,裁判
途中あるいは裁判の後でも,子の任意の返還を合意によって実現するためのADRを用意するこ
とは,締結国の責務である。したがって,そのための国の責務としての措置(ADRへの支援な- 56 –
ど)が行なわれるべきである。
・ 福岡弁 「他の方法」については,①直接強制,②人身保護法による仮釈放の決定及び勾引に ( )
相当する方法,③法廷侮辱罪等のように命令に従わないことについて罰則を設ける方法などが考
えられる。もっとも,①の直接強制については,現在,動産引渡しの強制執行に準じて行われて
いるが,現在の方法が子の福祉に照らし問題がないとは言い難い(返還命令との主文との関係で
も検討すべき課題がある 。一方,②の勾引や③の罰則については,我が国の他の法制度とのバ 。)
ランス等に照らし,慎重な検討が必要であると思われる。子に関する強制執行は,実効性と子の
福祉への十分な配慮が必要なのであって かかる点からより好ましい制度を検討する必要がある , 。
少なくとも間接強制を認めないと命令の実効性がほとんどなくなってしまうので,間接強制を
認めることは賛成である。ただし,間接強制は,めぼしい資産のない相手方にとっては効果が薄
く,例えば親族の経済的援助を受けて生活を維持しつつ,間接強制による支払命令には応じない
などの対応をされるおそれがある。このような状況では他の締約国から理解を得られると思われ
ない。従って,間接強制以外の強制執行その他強制の方法を検討する必要がある。
もっとも,具体的にどのような方法が適当かについては,意見に記載したとおり,非常に悩ま
しい問題である。現在我が国に存在する執行方法のみにこだわらず,子の福祉に配慮しつつ実効
性を有する方法を探索する努力を惜しむべきでない。
・ 親子の絆)間接強制の方法のみによるのでは,返還の実効性が確保できない。そのため,子の (
身を確保するための直接強制はもちろんのこと,条約遵守のための秩序罰の導入が必須である。
こうした制裁規定は実際にそれを乱発的に発動させるのではなく,抑止力として機能させるため
に必要なものである。
・ 親子ネット 子を元にいた国に移して 子の養育方法を取り決めることがハーグの目的であり ( ) , ,
直接強制が子に福祉に適わないということにはなりえない。元々子が馴染んでいた環境に時間を
かけずにすぐに返還し,その環境で子の養育方法を決めることこそが大事であり,それには直接
強制が不可欠である。
・ 親子ネット十勝)子に関して,間接強制が機能しないことは現在の日本で実証済みであり,こ (
のまま条約を締結しても,直ぐに多くの国から批判が来ることは間違いない。
・ 香川大学)ハーグ条約に基づく返還命令を実現するためには,より強力な執行方法を設けるべ (
きではないか。間接強制にとどめると 「お金さえ払っていれば子を返す必要はない 」といった , 。
認識が相手方に生じることになりかねない。子が抵抗する場合には直接強制が現実的にはなされ- 57 –
えないという運用を前提にすれば,直接強制まで認める弊害はないのではないか。また,子の権
利利益を保障するためには,かえって直接強制が必要となることもあり,直接強制の適用可能性
を完全に否定すべきではない。
・ 個人2名)間接強制だけによるのは大きな問題である。国内での人身保護請求事件や子の引渡 (
請求事件においてさえ,しばしば直接強制がなされるのに,重大な国際事案であるハーグの命令
違反に対し直接強制を排除するのでは命令の強制力が弱く実効性が確保できず,諸外国の納得は
得られない。履行確保のための直接強制はもちろんのこと,秩序罰としての監置処分等の導入が
必要である。
・ 個人1名)同居親が自由に面会交流をコントロールでき,罰則も間接強制程度しかない日本に (
おいて,外国へ子の返還命令が出てもそれを守らない親が大半だと思われるから,直接強制及び
何らかの制裁を課す制度を盛り込むべきである。
・ 個人1名)間接強制のみとした場合,お金を払えば実質返さなくてもいいとするに等しい。そ (
もそも最初に居住地から子を違法に連れ去った以上,強制手段も考慮すべきである。なお,返還
にあたって子の意思確認は必要であるが,その際,親子問題の専門家でもない家庭裁判所の調査
官ではなく,児童心理学に精通した専門家に「子の意思確認する」よう努める必要があると思わ
れる。
・ 個人1名 子の返還の直接強制手段がない状況で条約を締結することは 極めて不誠実である ( ) , 。
・ 個人1名)申立人に引き渡すことが子の利益に反しない場合には,状況により,直接強制も認 (
めるべきである。仮にこの手続による決定では間接強制しかできないとしても,確定した決定に
違反して返還しないことには顕著な違法性があるので,申立人は返還実現のために人身保護請求
をすることが可能であると考えられるが,その旨を条文に明記してはどうか。
・ 個人2名 直接強制を排除するのであれば命令の強制力が弱くなり実効性の確保は困難となる ( ) 。
実効性を確保する上でも,違法な連れ去りに対しては強制手段が必要である。
・ 個人1名)日本国内での面会交流に関して間接強制の効果が非常に小さいことから 「国家機 ( ,
関が子を直接的に相手方の下から取り上げ,これを子が常居所を有していた国に返還するような
執行方法」は絶対に必要である。国内では,面会交流の調停または審判で決定したことを守らな
いため間接強制を申し立てたが,養育費と相殺する程度の金額しか認められず,したがって効果
がないというケースが珍しくない。日本国内での子の引渡請求において直接強制が用いられるの
に,ハーグ条約で直接強制を用いないというのはありえないことであり,諸外国からの反発も免- 58 –
れないであろう。
・ 個人1名)例えば,連れ去った親の親権・監護権を一時的に剥奪するなどの法律を作り,連れ (
去りの抑止力とすべきである。
・ 個人1名)強制的な返還方法を明記すべきである。違法な連れ去りに対しては,強制手段もや (
むを得ない。収監の手続に準じればよい。同居親は,違法に連れ去ってきたのであり,強制的に
元の状態に戻さなければならない。
・ 個人1名)子の返還は,最終的には強制執行ができる仕組みとすべきである。国内でも,子の (
引渡しについて,人身保護法による強制執行,民事執行法第169条(動産の引き渡しの強制執
行)の類推適用で対応している。不法に子を連れ去った相手方が間接強要によって子を速やかに
返還するとは到底思われない。
・ 個人1名 中間取りまとめの補足説明では 間接強制によることが認められると考えられる ( ) ,「 」
としているが,間接強制による実効性が発揮されない場合,直接強制を命令できる他の条約批准
国との不平等感を生まれる。直接強制を執行する問題点として3項目に分けて列挙しているが,
ア「すなわち,子の返還の実現においても,子の福祉を第一に考える必要があるが,我が国の場
合,子が常居所を有していた国に子を返還するには,移動距離も大きく,時間もかかるため,適
切な対応が容易ではない」については,間接強制においても同じことではないか,イ,ウについ
ては,直接強制を行っている国の工夫を学べばよいのではないかと思われる。この取りまとめの
論調では,予め直接強制について何らかの否定的な作為があったか,もしくは国内整備がされる
ことが困難であることを前提に最初から選択にないのだろうと受け取れる。
【その他の意見】3(虐待防止学会,個人2名)
・ 虐待防止学会)命令の実効性を確保することも重要であるが,命令の強制執行においては,子 (
の福祉に十分に配慮すべきである。国は,執行がなるべく任意になされるよう十分な努力をすべ
きであり,どうしても強制的に行わざるを得ない場合も,子の心理に詳しい専門家を関与させ,
十分な時間をかけ,少しでも子の心身に傷を残さない方法で行うべきである。
・ 個人1名)直接強制は,返還の対象となっている子が,その子を現在監護している親と良好な (
関係にあり,安定した生活を送っている場合には行うべきではなく,虐待など子にとって精神的
・身体的な危険など著しい不利益が生じている場に限り行うべきである。現在信頼関係を結んで
いる親から子を引き離し,生活環境を一変させることは,子の利益を著しく害することになる。
・ 個人1名)子の返還が命じられた場合の執行について,強制であれ間接であれ,自動的に執行 (- 59 –
されることには問題がある。子の福祉の観点から問題がある場合については,執行について例外
的措置が認められるべきである。
35 調停・和解
本手続における調停・和解の在り方については なお検討するものとする , 。
(注)当事者の自主的な話合いの手続としては,他に民間型ADRの活用が考えられる。
・ 裁判所)次のような意見があった。 (
○ 返還命令手続においては,申立人が国外にいるために本人出頭を原則とすることが困難で
あり,和解を認めることでよい。
○ 返還手続の審理を進める中で,当事者双方が面会交流等をからめて,妥協又は譲歩するこ
とは十分に考えられるから,和解又は調停を行えるようにすべきである。
・ 日弁連)ハーグ案件のほとんどが家族(ここでは離婚した父母も含めた意味である )内の紛 ( 。
争であり,その関係は基本的に事件終了後も長く続くものと思われること,返還の強制執行まで
至ると双方当事者にとって大きなしこりが残るうえ,子も深く傷つくことが予想されるから,返
還の強制執行に至る前に,なるべく円満に解決することが望ましい。その意味で,調停,和解は
重要である。
返還手続の担当裁判官が直接和解に当たる場合はともかく,別に調停の場を設ける場合は,そ
の調停者は条約の制度や実務によく精通するとともに,外国の文化に対して一定の配慮をできる
専門性が求められる。このような点から,裁判所内の調停手続を工夫して運用する一方,民間の
ADRを活用することも検討することが必要である。もっとも,民間ADRを活用する場合,そ
こで合意した内容が直ちに執行力を有するわけではないから,例えば即決和解のような制度を新
設するなど,速やかに合意に執行力を与える方法を工夫することも併せて必要である。
・ 大阪弁)条約による返還裁判の手続内での裁判所による調停・和解は条約第16条との整合性 (
に問題があり,用いられるべきではない。裁判所外のADR組織による調停制度の整備と,AD
R調停への裁判所等による協力・支援制度の整備が図られるべきである。条約第16条はその趣
旨に基づく規定であり,連れ出し帰国の場合に日本には子の監護権の帰属,監護権の内容や行使
のような実質判断についての裁判管轄を許さない規定である。LBPが提起した条約による返還
裁判で,LBPの意思によらず実質的な監護権についての判断を裁判所が行う調停前置による調- 60 –
停,裁判官による付調停決定等はこの条約第16条の趣旨に反しており許されない。日本におけ
る調停前置による家庭裁判所の調停は,条約第16条に違反する点で,条約による返還裁判では
実施すべきではない。純粋ADRとしての調停,TPとLBPが任意の合意により行う裁判外の
調停のみが,監護権などの実質問題を含めた全体的な解決を図る方法として,条約と調和する。
また,調停前置や職権による付調停と違い,和解の勧試は外形的にはLBPの開始合意に基づく
点で,直ちに条約第16条には反するとはいえない。和解の内容範囲を子の返還請求に限定すれ
ば,つまり監護権の帰属や行使に関わる事項を和解の対象に含まなければ,条約第16条には反
しないと解されるが,返還裁判の裁判体が和解の勧試を行う場合,実際にはこのような和解は困
難であろう。なお,和解が当事者の合意に基づき行われることを強調し,和解条件に監護権の帰
属や行使に関わる事項が含まれても,条約第16条には反しないと解することも可能という立場
も有り得る。しかし,裁判官が監護権の帰属や行使に立ち入った和解条件を提示し,また,和解
調書にするなどの点で,条約第16条の趣旨から疑問を残す。また,和解調書は実際には判決と
異ならないことを考えると,その条約整合性には限りなく疑問を残す。和解調書は国外では同意
判決,和解判決に相当し 「調書」であり裁判ではないとする論理は国際的視点からは詭弁に聞こ ,
えると考えられる。
・ 福岡弁)調停・和解の制度は,迅速な解決の要請に加え,ハーグ条約に関する制度や実務をよ (
く理解し,外国の文化に対し一定の配慮のできる専門性の要請に十分応えられるようなものでな
ければならない。民間ADRの活用にも積極的であるべきであるが,その際にはそこで合意が成
立した場合,簡易迅速な手続でその合意に執行力を持たせるような制度(例えば,即決和解のよ
うな方法が考えられる )を工夫する必要がある。 。
ハーグ案件のほとんどが家族(ここでは離婚した父母も含めた意味である )内の紛争であり, 。
その関係は基本的に事件終了後も長く続くものと思われること,返還の強制執行まで至ると双方
当事者にとって大きなしこりが残るうえ,子も深く傷つくことが予想されるから,返還の強制執
行に至る前に なるべく円満に解決することが望ましい その意味で 調停 和解は重要である , 。 , , 。
返還手続の担当裁判官が直接和解に当たる場合はともかく,別に調停の場を設ける場合は,そ
の調停者は条約の制度や実務によく精通するとともに,外国の文化に対して一定の配慮をできる
専門性が求められる。このような点から,裁判所内の調停手続を工夫して運用する一方,民間の
ADRを活用することも検討することが必要である。もっとも,民間ADRを活用する場合,そ
こで合意した内容が直ちに執行力を有するわけではないから,例えば即決和解のような制度を新- 61 –
設するなど,速やかに合意に執行力を与える方法を工夫することも併せて必要である。
36 保全的な処分
子の返還を求める申立てに係る事件が係属する裁判所が,返還を求める子
の安全を確保し,子の国外への連れ去りを防止するために必要な保全処分(例
えば,出国禁止命令や旅券の一時保管命令)を命ずることの適否及びその規律
については,なお検討するものとする。
【必要な保全処分を設けることが適当とする意見】6(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁,親子
の絆,個人1名)
・ 裁判所)返還対象となる子の安全を確保し,国外への連れ去りを防止するためには,子の出国 (
を禁止する法律上の根拠規定を設けた上で,出国審査において子の出国を実際に止めるという方
法が望ましいとの意見が主であり,他に次のような意見があった。
○ 旅券の一時保管命令は,具体的な執行方法が明らかではなく,旅券の探索・取上げの直接
強制は,法律上許容されるか否かが問題となるほか,実効性に乏しく,しかも,相手方等と
の間にあつれきが生じ,将来における子の任意の返還にも大きな支障となる懸念があり,不
適切である。
○ 実務上,事件係属中に一方の親が子を連れて出国する事案は少なくなく,国外への連れ去
りのおそれがあることを理由に監護親が面会交流を拒否する事案もあることから審理を円滑
に運用する必要のために,出国禁止命令制度を創設し,その違反に対して制裁を課す制度も
検討されるべきである。
・ 日弁連)手続係属中に一方が子を国外に連れ去る可能性は,双方当事者ともあるものと考えら (
れるが(申立人についても,子が二重国籍の場合,外国政府が発行する子のパスポートを保有し
ていることがあり,それによって連れ出すことも考えられる ,その怖れを抱いたままでは相互 。)
不信に陥り,円滑に手続を進めることができない。そこで,子の移動の自由に配慮しつつ,手続
が係属している間は子の出国を禁止する命令を発したり,パスポートを一時的に第三者に保管さ
せるなどの対応が考えられる。
また,手続係属中に,相手方が第三者(例えば親族や知人)に子を引き渡し,同人が子を監護
するようになった場合,申立人にとって,それまで積み重ねられた手続的利益が失われ,一から- 62 –
やり直すことになるおそれがある。これを防止するためには,相手方に子を第三者に監護させる
ことを禁止し,それに違反した場合にはそのまま相手方に対して手続を進め,得られた返還命令
によって第三者に対し強制執行できるような方策を設ける必要があると思われる。
いずれの対応も容易ではないが,子の国外への連れ去り防止については,申立人,相手方のい
ずれをも想定して実効性のある対応策として,仮に子の国外連れ出し禁止の保全処分を採用し,
そのような命令が出た場合や,返還手続の中で当事者が子を国外に連れ出さない旨合意している
場合は子の出国を止めることができる立法的手当を講じるほか,当事者が任意に旅券を提出する
場合はこれを保管する制度等について検討すべきである。なお,保全的な処分としては,これ以
外に,途中で相手方が子を第三者に引き渡し,その者が監護するようになった場合を想定し,当
事者恒定効を有する保全処分を導入することも検討すべきである。
・ 大阪弁)本条約に基づく子の返還手続は,迅速な手続を予定しているものであるが,子の返還 (
命令が出る前に,子が国外に出てしまったり,監護者を変更することによって,返還命令の目的
を達成することができなくなる恐れがある。そこで,このような事態を防止する規定として,海
外への渡航を禁止する処分や当事者恒定効を認めることが検討されるべきである。また,その際
には,中央当局も子が国外に連れ去られることを防止する責務を有するとされているため,この
点に関する裁判所と中央当局との役割分担を明らかにする必要がある。なお,出国禁止命令や旅
券の一時保管について,子の海外渡航の自由の制限という問題がある。本手続自体に迅速性が確
保されていること,また未成年者については,親に居所指定権があることから,海外渡航の自由
の侵害にはならないものとも考え得るが,なお検討すべきである。
・ 福岡弁 引き続き検討することに賛成である 子の国外への連れ去り防止については 申立人 ( ) 。 , ,
相手方のいずれをも想定して実効性のある対応策を検討すべきである。なお,保全的な処分とし
ては,これ以外に,途中で相手方が子を第三者に引き渡し,その者が監護するようになった場合
を想定し,当事者恒定効を有する保全処分を導入することも検討すべきである。
手続係属中に一方が子を国外に連れ去る可能性は 双方当事者ともあるものと考えられるが 申 , (
立人についても,子が二重国籍の場合,外国政府が発行する子のパスポートを保有していること
があり それによって連れ出すことも考えられる その怖れを抱いたままでは相互不信に陥り , 。), ,
円滑に手続を進めることができない。そこで,手続が係属している間は子の出国を禁止する命令
を発したり,パスポートを一時的に第三者に保管させるなどの対応が望ましい。
手続係属中に,この監護者が変更されれば,手続の混乱が予想されることから,こうした事態- 63 –
を防ぐための手続の検討は必要である。
・ 親子の絆)国外逃亡のおそれが認められる場合,パスポート保管などの緊急的な保全処分を認 (
めるべきである。
・ 個人1名)関係機関が連携し,子のパスポートを差し押さえるところまでやらないと連れ去っ (
た者勝ちになってしまう。
【出国禁止や旅券の保管に消極的な意見】19(しんぐるまざあず尼崎,全国女性,DV被害者
支援,フェミニストカウンセリング神戸,個人15名)
・ しんぐるまざあず尼崎,全国女性,DV被害者支援,フェミニストカウンセリング神戸,個人 (
12名)ハーグ条約の審理中に子の出国禁止やパスポートの一時保管を認めるべきではない。何
の責任もない子の人権を侵害することになる。
・ 個人1名)我が国の法体系において,犯罪行為の容疑等がない個人に対し,その移動を制限す (
る出国禁止等の措置は取られていないと思われる。親族間の紛争や民事上の紛争を根拠として,
国家が移動の自由を制限する措置を取ることは,私人間紛争への国家権力の過度の介入であり,
十分な議論もしないまま,また,他の私人間紛争との均衡についても検討することなく,これを
認めるべきでない。私人間紛争への国家権力の介入としての移動の自由を認めることが妥当か,
憲法の人権条項との調整をどう考えるのか,認めるとしてもいかなる紛争かについて,別途十分
に検討がなされるべきである。
・ 個人2名)現在の民事保全法の枠を超えて保全制度を創設することは反対である。旅券法や入 (
管法の規律に照らせば,子についての旅券の一時保管や出国禁止を一律にかけることは無理であ
る。
37 裁判官ネットワーク
ハーグ条約の実施に当たっての諸外国の裁判官との連携については,今後
の運用に委ねるものとするが,その連携の在り方については,なお検討するも
のとする。
・ 裁判所)次のような意見があった。 (
○ 常居所地国の裁判官と直接やりとりすることは,判断に関する事項とそうでない事項の区
別が困難であり,日本の司法権の概念には馴染まない。- 64 –
○ 裁判官同士の本人確認を始めとして,連携を取るためのやりとりをどのように行うのか,
法制度が違うのに細かいやりとりが可能なのか,連携を取るといいながら,議論せざるを得
ない場合はどうするのかといった問題がある。
・ 日弁連)ハーグ条約に関する一般的な情報交換を目的として,いわゆる裁判官ネットワークに (
加入することは望ましいと考える。もっとも,一般的な情報交換を超えて,個別の事件について
我が国の裁判官が外国の裁判官と意見交換をしたり,外国の裁判官を通じて調査または調整する
ことは,当事者への透明性,公正さ確保の観点から基本的に避けるべきである。
・ 大阪弁)条約第7条第2項において 「子の社会的背景に関する情報」や「国内法一般に関す ( ,
る情報 「条約実施に関する情報」につき,中央当局を介して情報交換が行われるべきことが想 」,
定されおり,他方で裁判官同士の情報交換に関する規定は置かれていない。
しかしながら,中央当局を通じた情報交換手続のみでは,親の監護能力や監護適格等に関する
重要な資料の収集が十分に行われることまでは期待できない。そのため,実際に事件処理の遂行
過程において,中央当局を介さず,裁判官同士が直接情報交換・調整を行うことにより,より迅
速かつ適切な審議を行うべく,裁判官ネットワークが形成されている。我が国が本条約に加入し
た場合にも,加盟国間協定などの裁判官ネットワークに加入し,より充実した資料を取得できる
ようにすべきである。
なお,本条約に関する一般的な情報交換を超えて,個別事件について,裁判官が情報交換を行
い,これに基づき心証形成が行われるということに対して,手続の公平・公正の観点から不透明
感が残るという問題は残りうる。しかしながら,本条約が目的とするところの子の最善の利益の
確保の観点からは,常居所地国での生活状況や親の監護能力に関する情報は,極めて重要な情報
であり,調査の必要性が高い。また,手続の公正の観点については,他の締約国の例にあるよう
に,裁判官が他の締約国の裁判官とやりとりをしたメール等を事後的に当事者に開示することに
より,透明性を確保できる。よって,我が国においても,裁判官が一般的な情報及び具体的な事
件について他の締約国の裁判官と意見交換できるようにすべきである。
・ 福岡弁)我が国の裁判所に係属するハーグ案件は我が国の裁判官が事実認定し,条約や法令を (
解釈して解決すれば足りるとはいえども,互恵主義の観点からは他の締約国の実務にも配慮せざ
るを得ない。そうすると,我が国の裁判官が他の締約国の裁判官がどのような実務を行っている
かなど 一般的な情報について他の締約国の裁判官と情報交換をすることは有益なことと考える , 。
しかしながら,我が国の裁判官が自ら担当する具体的な事件について他の締約国の裁判官と意見- 65 –
交換することは,我が国の裁判実務においてきわめて異質であるし,当事者から見て裁判官の心
証形成の過程が不透明に思われ,当事者が公正さに対する疑念を抱きかねない。よって,諸外国
での運用状況等さらに調査した上で,検討すべきである。
・ 親子の絆)裁判官ネットワークが必要であると思われるが,さらに研修・講習等により諸外国 (
の法理,運用基準について裁判官全体に広く周知を図る必要がある。
第2 子の返還事由・返還拒否事由
1 子の返還事由
子の返還事由については,次の①から⑤までとし,これらが全て認められた
場合には,2の場合を除き,子の返還を認めるものとする。
① 子が16歳に達していないこと。
② 子が我が国に現在すること。
③ 子が我が国以外の条約締約国に常居所を有していたこと。
④ 子が常居所を有していた国の法令の下で,申立人が監護権を有しており,か
つ,子の連れ去り又は留置が当該監護権を侵害すること。
⑤ 子の連れ去り又は留置の時に申立人が現実に監護権を行使していなかった場
合には,当該連れ去り又は留置がなければ申立人が現実に監護権を行使してい
たであろうこと。
【賛成】3(裁判所,日弁連,福岡弁)
【反対】なし
【その他の意見】2(香川大学,個人1名)
・ 香川大学)ハーグ国際私法会議では「常居所」を明確に定義していない。どのような事実に基 (
づいて常居所を有しているか否かの認定を行うのかを明確にする必要があるのではないか。
・ 個人1名)常居所についての明確な定義を定めるべきである。 (
2 子の返還拒否事由
(前注)①から⑥までの子の返還拒否事由が認められたとしても,裁判所は,具体的な事案に
おける事情を勘案し,なお裁量により返還を認める余地があることを前提としている。- 66 –
子の返還拒否事由については,次の①から⑥までとし,これらのうちの一つが
認められた場合には,子の返還を拒否することができるものとする。
① 子の返還を求める申立てが子の連れ去り又は留置の時から1年を経過した
後にされたものであり,かつ,子が新しい環境になじんだこと。
② 子の連れ去り又は留置の時に申立人が現実に監護権を行使していなかった
こと。
③ 申立人が子の連れ去り又は留置の前にこれに同意し,又はその後にこれを
承諾したこと。
④【甲案】
次に掲げる事由のいずれかがあること。
a 子が申立人から身体に対する暴力又はこれに準ずる心身に有害な影響を
及ぼす言動(以下「暴力等」という )を受けたことがあり,子が常居所を 。
有していた国に子を返還した場合,子が更なる暴力等を受ける明らかなお
それがあること。
b 相手方が申立人から子が同居する家庭において子に著しい心理的外傷を
与えることとなる暴力等を受けたことがあり,子が常居所を有していた国
に子を返還した場合,子と共に帰国した相手方が子と同居する家庭におい
て更なる暴力等を受ける明らかなおそれがあること。
c 相手方以外の者が子が常居所を有していた国において子を監護すること
が明らかに子の利益に反し,かつ,相手方が子が常居所を有していた国に
おいて子を監護することが不可能又は著しく困難な事情があること。
d その他子が常居所を有していた国に子を返還することが,子に対して身
体的若しくは精神的な害を及ぼし,又は子を耐え難い状況に置くこととな
る重大な危険があること。
【乙案】
子が常居所を有していた国に子を返還することが子に対して身体的若しく
は精神的な害を及ぼし,又は子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険
があること。
その認定に当たっては,以下の事情等を考慮するものとする。- 67 –
a 子が常居所を有していた国に子を返還した場合,子が申立人から身体に
対する暴力又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動(以下「暴力
等」という )を受けるおそれの有無 。
b 子が常居所を有していた国に子を返還した場合,子と共に帰国した相手
方が子と同居する家庭において子に心理的外傷を与えることとなる暴力等
を受けるおそれの有無
c 相手方以外の者が子が常居所を有していた国において子を監護すること
が子の利益に反し,かつ,相手方が子が常居所を有していた国において子
を監護することが困難な事情の有無
(注 【甲案】は,関係閣僚会議(平成23年5月19日開催)で了承された「 国際的な子 ) 「
の奪取の民事上の側面に関する条約 (ハーグ条約)<条約実施に関する法律案作成の際 」
の了解事項>」を踏まえ,aからcまでのいずれかの事由が認められれば,子に重大な
危険があるとして,子の返還拒否事由に該当するとの考え方である。もっとも,各要件
を掲げることの適否や具体的な規定の仕方については,なお検討するものとする。
これに対し 【乙案】は,上記関係閣僚会議の了解事項を踏まえたものであるが,子の ,
返還拒否事由としては 「子に重大な危険があること」とし,aからcまでの事由( 甲 , 【
案】のaからcまでに相当する事由)を,子に重大な危険があるかどうかを判断するた
めの考慮要素として例示する考え方である。
⑤ 子が返還されることを拒み,かつ,子がその意見を考慮に入れることが適
当である年齢及び成熟度に達していること。
⑥ 子の返還が我が国における人権及び基本的自由の保護に関する基本原則に
より認められないものであること。
○①から③まで,⑤及び⑥について
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
【反対】2(個人2名)
・ 個人1名)一年経過したものについて返還を拒否できるとあるが,一年経過したからといって (
国家が親子の縁を切ってしまうということができるのか,それは常居所地国の司法が判断するの
が国際ルールではないか。- 68 –
・ 個人1名)①は,一方の親の考えのみで連れ去り,環境を変え,新しい環境になじんでいるた (
め返還を拒否するというのは,先に連れ去った者勝ちにつながるもので,疑問である。
【その他の意見】1(個人1名)
・ 個人1名)返還拒否事由として子を自分の元に置くことが正当とされるような理由を可能な限 (
り列挙し,その他日本の公序良俗に反しない場合も拒否できるというような一般条項を設けるこ
とも必要である。
○④について
【甲案に賛成】2(裁判所,個人1名)
・ 裁判所)甲案に賛成する意見が多数であった。なお,甲案に賛成する立場から次のような意見 (
があった。
○ 迅速な審理を実現するためには立証命題が明確である方がよいし,返還を拒否するために
は,過去のDV等があっただけでは足りず,常居所地国におけるDV保護制度等が整ってい
ないために十分な保護を受けられないことまで認められる必要があるところ,乙案ではそれ
が分かりにくい。
・ 個人1名)列記されているいずれの事由も重要であり,慎重に検討されるべきであるから,具 (
体的に明記することに賛成する。ただし,aの「明らかな」とある部分は削除すべきである。将
来起こりうるかもしれないことを明確に証明する手立てはないから,過去の事例に基づいて「子
が更なる暴力等を受けるおそれがあること とするのが適当である bについても同様であり 明 」 。 ,「
らかな」を削除し,過去の事例に基づいて「更なる暴力等を受けるおそれがあること」とするの
が適当である。
【乙案に賛成】7(日弁連,大阪弁,福岡弁,香川大学,個人3名)
・ 日弁連)甲案の最大の問題は,aからdまでのいずれか一つでも満たせば条約第13条第1項 (
bの要件を満たすものとみなしていることから,aからcまでの事由それ自体を独立に返還拒否
事由として法定することが条約第13条第1項bの規定の解釈を超えてしまっているのではない
か 換言すれば法律が条約に違反しているのではないかという問題がある これに対し 乙案は , 。 , ,
担保法に条約第13条第1項bと同じ文言の要件を設け,その判断の考慮要素として諸事情を例
示列挙するという構成であり,換言すれば法律は条約と同じであるため,基本的に法律の条約違
反という問題を回避することができる。かつ,日弁連が本年2月18日付け意見書で提案してい- 69 –
たように,返還拒否事由について一定の明確化・具体化もはかられている。
また,条約の解釈は他の締約国の裁判実務のなかで変化することがあるが,甲案ではその都度
法改正をして国際的な実務を取り込む必要が生じるおそれがあるが,乙案では本体的要件は条約
の文言と同じであるから,解釈などにおいて比較的自由に取り込むことができるという利点もあ
る。
さらに,他の締約国の裁判実務においては,甲案のaからcまでに記載されている事項をいず
れか一つだけ認定して条約第13条第1項bの要件を満たすとするのではなく,aからcまでに
記載されている事項を総合考慮して条約上の要件を認定することが少なくないと聞く とすれば 。 ,
乙案の方が事案に即した柔軟な事実認定が可能となるものと思われる。
よって,④については乙案の考え方を基礎として要件を設定するのが適当である。
なお,常居所地国で刑事訴追を受けることとなる場合がcの事情として考慮されることが明ら
かになるような文言をさらに検討すべきである。
・ 大阪弁)④は条約第13条第1項bの返還拒否事由を改めて国内法に規定しようとするもので (
あるところ,この返還拒否事由は,条約自体に明文で規定されており,返還命令の手続について
権限を有する締約国の司法当局または行政当局は,条約の規定を直接解釈適用することとなる。
したがって,仮に国内法において何らかの規定を置く場合,それは,条約の定める事由をそのま
ま注意的に規定するか,解釈規定を定めることができるにすぎず,条約の規定を離れて独自の内
容を規定したり,ましてや条約の規定に反する内容を定めることは許されない。この観点から,
条約第13条第1項bの返還拒否事由に関する定めは抽象的であって,子の利益の観点から,そ
の解釈規定としてこれを具体的に規定することには意味がある。しかし,甲案については,次の
ような問題がある。条約第13条第1項bは 「返還することによって子が身体的若しくは精神的 ,
な害を受け,又は他の耐え難い状態に置かれることとなる」場合に返還を拒否することができる
旨規定しており,あくまでもこの要件に該当する事実が認定されなければならない。ところが,
甲案によれば,同条項の要件とは離れて,aないしcに規定する事由があれば,それが条約上の
「重大な危険がある」といえるか否かを判断することなく,返還を拒否することができることと
なり,条約の規定とは異なった返還拒否事由を定めるものといわざるをえず,条約に違反するの
ではないかと評価しうる。また 「重大な危険」についての解釈適用は,時代によって変化が生じ ,
るものであり,aないしcのようにその内容を固定するのは,解釈適用についての柔軟性を失わ
せ,司法当局が有する法令の解釈適用の権限を侵害するおそれもある。他方,乙案は,返還拒否- 70 –
事由自体は,条約の文言をそのまま返還拒否事由と定めたうえで,その解釈にあたっての考慮要
素を規定しようとするものであって,上記のような問題は生じず,その考慮要素の内容は,子の
最善の利益や他の締約国の判例や運用状況に照らして妥当であると考えられる。
・ 福岡弁)甲案では,条約第13条第1項bとの整合性が問題となる可能性が残る。よって乙案 (
に賛成である。もっとも,乙案において考慮すべき事由とされている各事由(甲案にa,b,c
として列挙されている事由)のうち1つが認められれば,基本的には要件を満たすものと考える
べきであり,これらに加えて更に要件を加重するものではないことを注意的に明らかにすること
が望ましい。
・ 個人1名)子に対する重大な危険の有無を中心に考える乙案が条約の趣旨に忠実である。甲案 (
は,返還拒否事由を拡大解釈される危険性があり,妥当でない。
・ 個人1名)乙案のほうがハーグ条約第13条第1項bに忠実である。 (
【甲案に反対の意見】4(香川大学,個人3名)
・ 香川大学)甲案については 「暴力等を受けた 「明らかなおそれ」について問題がある。過去 ( , 」
にあった暴力の有無についての議論に終始してしまうこと 「明らかな」とすることにより返還拒 ,
否事由の適用範囲が運用によっては条約の趣旨以上に極端に狭くなるおそれがある。運用側から
すれば乙案のほうが使いやすいのではないか。
・ 個人1名)甲案,乙案のいずれによっても,DVや児童虐待が理由で一方の親とともに出国し (
た子が,他方親のもとに返されてしまうのではないかとの懸念が残るが,子の返還後,更なる暴
力を受ける明らかなおそれがあるか否かを判断するのは非常に難しいから,甲案は特に問題があ
る。
・ 個人1名)甲案では「明らかなおそれがあること」とあるが,その立証をどれほどできるのか (
疑問である。
・ 個人1名)子の返還拒否事由について,甲案はあまりにも厳格な立証を求めすぎであり,事実 (
上返還拒否事由が認められる余地がほぼなくなる。
【 】 ( , , , 記載の返還拒否事由では厳格にすぎるとの立場 33 兵庫弁 グループ女綱 虐待防止学会
しんぐるまざあず尼崎,しんぐるまざあず福岡,全国女性,DV被害者支援,フェミニストカウ
ンセリング神戸,個人26名)
・ 兵庫弁)甲案は,明らかなおそれという要件を付加するなど,返還例外事由を非常に狭く規定 (
しており許容しがたい。このように返還拒否例外を定めた場合は,立証対象があまりにも厳格で- 71 –
あるため,子の最善の利益の観点からは,返還を拒否することが妥当な事案であっても,この条
項に該当するとして返還が拒否される事例はほとんどないのではないかと懸念される。
また,乙案は,甲案と比較して,返還拒否についての裁量の余地が残されている分ましである
が,乙案において考慮する事情をaからc要素に限定するような規定の仕方はすべきではない。
また,乙案のcについて 「相手方以外の者が子が常居所を有していた国において子を監護するこ ,
とが子の利益に反」するという事情があれば,子の利益に反することが明確になっているはずな
のに 「かつ」で結ばれた後段での事情の考慮までも要求しており,相手方の事情(付添い帰国が ,
困難との立証はできないがどうしても帰国できないというような場合)によっては,前段による
子の不利益が認められていても,同伴帰国しようとしない連れ去り親が悪いのだからと,子はひ
とり返還されることになる事態が想定される。したがって,cに相当するものとしては 「返還に ,
より子が相手方以外の者により監護されることにより被る不利益」とすべきである。
・ グループ女綱,しんぐるまざあず尼崎,しんぐるまざあず福岡,全国女性,DV被害者支援, (
フェミニストカウンセリング神戸 個人16名 現在監護している親が子に付き添えない場合も , ) ,
子を返還しないようにしてほしい。
・ 虐待防止学会)残された親が子を虐待していたことが認められるときは,原則として,その子 (
を残された親がいる国に返すべきではない。仮に,条約上返さざるを得ないときは,日本政府と
して,返還先の国における虐待防止の法制度に関して情報提供し,然るべき児童保護機関に通告
するなど,返還された子が虐待の危険にさらされることのないよう,十分な対応をとるべきであ
る。
・ 個人3名)子の虐待が過去にあった場合,主たる監護親に対し肉体的・精神的DV行為があっ (
た場合,経済的事情や刑事訴追の可能性があるため主たる監護親が子に付き添って帰国できない
場合は,いずれも返還例外事由とすべきである。特に,肉体的・精神的DVに関しては,子の目
撃があったか否かに関わりなく,返還例外と認められるべきである。
・ 個人4名)返還拒否事由として,①返還が子の最善の利益といえない場合,②申し立てた親が (
DVや虐待の過去を持つ等,子の養育に有害と認められる場合を含めてもらいたい。
・ 個人1名)甲案,乙案とも,DV事案について 「子に著しい心理的外傷を与えることとなる ( ,
暴力等 「子に心理的外傷を与えることとなる暴力等」などと,暴力の存在に加えて「心理的外 」,
傷を与えること」を必要とするかの如く規定している 「心理的外傷を与えること」と言った文言 。
を加えた場合,立証に過大な負担を負う相手方が,更に,暴力が子に「 著しい)心理的外傷を与 (- 72 –
える」ものであったことなどについて立証の負担を負わさせる危険がある。しかし,児童虐待防
止法第2条第4項は,暴力は,当然に児童に著しい心理的外傷を与えることを前提としている。
児童虐待防止法において,明確に「児童虐待」に該当する事案について,返還を拒否できないと
することは明らかに問題である。そのため,暴力の存在に加え 「心理的外傷を与えること」を敢 ,
えて付加する必要はないのであり,端的に 「相手方が申立人から子が同居する家庭において暴力 ,
等を受けたことがあり (甲案 ,あるいは 「子とともに帰国した相手方が子と同居する家庭にお 」 ) ,
いて暴力等を受けるおそれの有無 (乙案)とすれば足りるはずである。 」
・ 個人2名)パブコメ案は,閣議了解で「虐待DVは返さない,返還する子に主たる監護親が付 (
き添えない場合は除く」などとした方針から大きく後退している。甲案は 「明らか 「著しい」 , 」
などの要件が課され,返還拒否事例はほとんど出ないおそれがある。乙案のほうが裁量の余地は
あるが,aからcは 「重大な危険」の考慮要素でしかないのだから,このように絞り込む必要は ,
ない。特にcは,前半で返還により子を相手方と引き離すことが子の利益に反することを認めて
いるのに 「かつ」で結ばれた後半で,相手方の付き添い帰国が困難という事情を要求しており, ,
付き添い帰国が困難である相当の事情がなければ,前半の子の不利益があっても子を返還するこ
とになってしまう。閣議了解事項である「相手方が,子の常居所地国に入国・滞在できない,逮
捕や刑事訴追を受けるおそれ,生計維持が困難である当の事情のため,同国において子を監護す
ることができず,かつ,相手方以外の者が子を常居所地国において監護することが子の利益に反
すること」を並列して返還拒否事由に掲げるべきである。
・ 個人1名)返還拒否事由の中に 「申立てた親が金銭的な生活の援助を怠っていた場合」を入 ( ,
れるべきである。
・ 個人2名)返還拒否事由について,相手方に対する暴力を明記することを求める。また,暴力 (
とは身体的暴力 精神的暴力 性的暴力及び経済的暴力を含む広い定義を採用することを求める , , 。
・ 個人1名)申し立てた親がDVや虐待をしたり,その他子の養育に有害と認められる場合や, (
主に養育監護してきた親が子と一緒に帰国できない事情がある場合は「子の返還拒否事由」とす
べきである。また,DVや虐待などがある場合は,返還を申し立てられた方の親が立証する責任
があることになっているが,物証を日本に持ち帰り保管しておくことが困難な場合もあると推測
される そこで 物証がなくても被害者の供述を中心とする証拠でもって認定されるべきである 。 , 。
・ 個人1名)①条約の解釈規定と言いながら,国内法が条約文言以上に返還例外を狭めるべきで (
なく,また,②国内法策定では,最大限の対処を条約の枠内でもっと追求するべきである。その- 73 –
ため,虐待やDVがあった事実に追加して,返還後の更なる暴力のおそれを要件とするべきでな
い。また,子への非身体的虐待を「心身に有害な影響を及ぼす言動」と表現するなら,DV目撃
による子の心理的虐待だけを「子に著しい心理的外傷を与えることとなる暴力等」などと,こと
さら狭めるべきではない。さらに,子は乳幼児のときから「安定的な依存の対象」に根を下ろし
て生存し発達するのであるから,親子を分離しすることは子の重大なリスクとなり得るため,相
手方が子の 安定的な依存の対象 である場合には 子の返還は 相手方の安全安定が確保され 「 」 , , ,
付き添い帰国が可能な場合に限るべきである。
・ 個人1名)次のような案とすべきである。 (
(1) 子が常居所を有していた国に子を返還することが子に対して身体的もしくは精神的な害を
及ぼし,または子を堪え難い状況におくこととなる重大な危険がある場合
(2) ただし,以下の場合には,前項の子を堪え難い状況におくこととなる重大な危険があるも
のとみなす。
a 子が常居所を有していた国において,子が申立人から身体に対する暴力又はこれに準ず
る心身に有害な影響を及ぼす言動を受けたことがあり,子を常居所地国に返還した場合,
子が心身に有害な影響を受ける重大なおそれがある場合
b 相手方が申立人から子が同居する家庭において,子の心身に有害な影響を及ぼすことと
なる暴力等を受けたことがあり,子を常居所地国に返還した場合,子が心身に有害な影響
を受ける重大なおそれがある場合
c 相手方が,子が常居所を有していた国に入国・滞在できない,逮捕や刑事訴追をうける
おそれ,生計維持が困難である等事情があるため,同国において子を監護することができ
ず,かつ相手方以外の者が同国において子を監護することが子の利益に反する場合
・ 個人1名)子の返還拒否事由について,甲案はあまりにも厳格な立証を求めすぎで事実上返還 (
拒否事由が認められる余地がほぼなくなるので,絶対反対である。乙案でも閣議了解から後退し
ている。閣議了解のラインを守った規定にすべきである。
【返還拒否事由は厳格にすべきとする立場】19(親子の絆,親子ネット,親子ネット十勝,み
どり共同,6か国政府合同,個人14名)
・ 親子ネット,親子ネット十勝,個人3名)DVは返還拒否事由とすべきではない。 (
・ 親子ネット,個人4名)DVの認定は子の返還後,常居所において行われるべきである。 (
・ 親子の絆)甲案,乙案ともにDVを子に見せるのは虐待であるとし,これを一つの返還拒否事 (- 74 –
由としているが,DVの認定が適切にされないことが多い。そのため,この点を考慮した担保法
とすべきである。
・ みどり共同,個人1名)日本国内において,離婚紛争に絡み「DV」や「虐待」の主張が「子 (
の連れ去り親 からされる場合 現行DV防止法や児童虐待防止法では DV や 虐待 の 事 」 , ,「 」 「 」 「
実の証明」が極めて主観化されていて,でっち上げが容易であることに鑑み,むしろ「DV」や
「虐待」について,事実の存否を審査するためにこそ,同居していた国に返還すべきである。例
外的に返還しなくてもよいのは 「連れ去る」前の客観的状況が,同居していた国の公的機関に把 ,
握され 「DV」や「虐待」について証明されている場合に限られるとすべきである。 ,
・ 6か国政府合同)ハーグ条約を実施するための法律は,司法当局に子の返還命令を下すことを (
義務付けない限られた例外規定に関する言語を含め,同条約に用いられている言語を厳密に反映
したものであるべきである。この点において,例外の解釈及び適用は限定的に行う必要がある。
・ 個人1名)国際結婚をして相手国で結婚生活を送っていた以上は,その国のルールに従うのが (
当たり前であって,DV対応のルールも,問題が発生した相手国のルールで縛られ,解決すべき
であ
る。
・ 個人3名)返還拒否事由は,一見して審理する必要もないような明白な危険のあるケースに限 (
るべきである。
・ 個人1名)国内では,DV冤罪ケースが多発しており.特に精神的DVは,本人の主張どおり (
にDVとされてしまうため,DVケースについて返還しなくてよいとの規定が作られると,ハー
グ事案でもとりあえずDVを理由にすれば返さなくてもよいということになり,何でもかんでも
DVの訴えが出されるようになる可能性が否定できない。
・ 個人1名)ハーグ条約の基本原則は子の連れ去りを禁止し,常居所地国において司法の判断を (
仰ぐというものであるはずであり,ここで返還拒否事由を設けるのは,相手国の司法を侮辱する
のも等しいものである。
・ 個人1名)④の甲案と乙案のいずれも,文章からは大きな問題はないように見えるが,現在の (
我が国の状況からは,連れ去った側は相手方の暴力等を理由に返還を拒否するのが多発し,その
ほとんどが認容されるのではないか。そのような現状のままハーグ条約を締結しても問題が多発
する。補足説明では,諸外国では,子の返還拒否事由については,専らハーグ条約の内容をほぼ
そのまま規定している例が多く,スイス以外に子の具体的に返還拒否事由を規定している国は見- 75 –
当たらないとあるが,我が国もスイス以外と同じでよい。④の甲案と乙案のいずれも,元の国に
戻ると再びDVの被害に遭うことを前提としているかのような記載で,諸外国の反発を招く。
・ 個人1名)中間取りまとめの通りだと,相手方の弁護士はDVの証明をし,連れ去られた子の (
証言などを作成して子に返還を望まないように言わせ,申立人の弁護士もそれに対抗するであろ
うが,それは子の奪い合いそのものである。
・ 個人1名 この中間取りまとめでは DVで返還拒否をする理由にする前提にしているだけで ( ) , ,
何ら問題解決を促す仕組みでも方法でもなく新たな葛藤を生む原因を作っているだけである。
・ 個人1名)返還拒否事由はハーグ条約の趣旨にのっとり限定的で,かつ,その立証責任は厳格 (
でなければならない。具体的にはDVについては 「生命・身体に明白かつ急迫の危険」とすべき ,
であり,また,心的外傷などの精神疾患の判断については,申立人,相手方双方の精神科医の診
断書を求めるべきある。その他,逮捕状の発付を返還拒否事由に含めるべきではない。
・ 個人1名)子の返還拒否事由について 「相手方が申立人から子が同居する家庭において子に ( ,
著しい心理的外傷を与えることとなる言動を受けたことがあり,子が常居所を有していた国に子
を返還した場合,子と共に帰国した相手方が子と同居する家庭において更なる言動を受ける明ら
かなおそれがあること 「子が常居所を有していた国に子を返還した場合,子と共に帰国した相手 」
方が子と同居する家庭において子に心理的外傷を与えることとなる言動を受けるおそれの有無」
とある。これらの除外規定が女性保護の観点から設けられていることは明らかである。子の利益
を守ることを何より優先するというハーグ条約の精神より,女性保護や母子共生を優先しようと
している点に特に違和感を感じる。女性保護の主張者の問題点は,女性保護と母子共生を関連さ
せていることにある。子の権利のもとでは子の生育に両方の親の存在が重要であり,片方の親の
存在を排除すべきではないとの理念が要点である。中間取りまとめにあるような手厚い適用除外
は,各国に差はあれど子が元々居住していた国で整備されている法制度により適用されるべきだ
と考えられている。もし,締約国における適用除外の運用実例とかけ離れ,子の返還がなかなか
実行されなければ 国際的にハーグ条約締約国としての資格と責任を問われことになるであろう , 。
・ 個人1名)子に心理的外傷を与える暴力まで広げるのは危険である。 (
【その他】3(個人3名)
・ 個人1名)専らハーグ条約の内容をそのまま規定すべきであり,乙案第1文のみを立法化すべ (
きである。条約とは異なる内容の国内法を制定しても,それは条約を実施したことにはならず,
国際法上の責任を果たしたことにはならない。- 76 –
・ 個人1名)ハーグ条約の締結に当たっては,拒否事由のDVの定義を明確するとともに,拒否 (
事由のヒアリングでは夫・妻双方の意見を公平に聴くべきである。
・ 個人1名)子を常居所地国に即時返還するという原則の前に,そもそも返還することが子の最 (
善の利益にかなうかの判断が優先されるべきである。
第3 面会交流関係
ハーグ条約第21条に規定する接触の権利(rights of access)については,
ハーグ条約に特有の裁判手続に関係する規律は設けないものとする。
【賛成】4(裁判所,日弁連,大阪弁,福岡弁)
・ 日弁連)ハーグ条約は,接触の権利ないし面会交流に関しては国内の既存の制度を利用するこ (
とを許容していると解されるから,基本的にはハーグ条約に特有の裁判手続を設ける必要はない
ものと考える。
・ 大阪弁)条約第21条の面会交流権の確保は,条約前文および第4章として設けていることか (
らも,条約の目的として重要なものである。他方,面会交流権は,移動や留置が国内で行なわれ
た場合と国境を超えて行なわれた場合を問わず保障されるべきであり,特に,後者に限定した規
律を設ける必要はない。
・ 福岡弁)基本的には条約に特有の裁判手続を新たに設ける必要はない。しかし,接触支援申請 (
に対する中央当局の調査により子の所在は判明したが,申立人にはその情報が開示されない場合
が生じうるため,その場合の面会交流調停・審判手続における管轄,その後の手続について,規
定を整備すべきである。外務省において検討されている「 国際的な子の奪取の民事上の側面に関 「
する条約(仮称 (ハーグ条約)を実施するための中央当局の在り方について」では,条約第2 )」
1条の規定に基づく申請の対象案件に,我が国及び子が常居所を有していた国の双方において条
約が効力を生じた後に「拒否され続けているとき」も含めている。上記接触援助申請の対象は,
移動の時期について限定は付されてない。したがって,接触援助申請の対象となるケースとして
は,条約発効後連れ去りがあり,返還援助申請・返還申立ても可能なケースに加え,条約発効以
前の移動により接触の権利侵害がされ,その状態が我が国における条約発効後まで継続している
ケース,すなわち返還援助申請・返還申立の対象とはならない事案も含まれてくる。このうち,
前者については,返還申立ての管轄裁判所に係属しているなかで,①(本来管轄のない)同裁判- 77 –
所に面会交流審判・調停の申立てがなされた場合及び②(本来的に管轄のある)別の裁判所に面
会交流審判・調停申立がなされた場合,反対に③返還命令の管轄のない(本来的に管轄のある)
裁判所において面会交流審判・調停申立てが先行し 後に返還申立てが 返還申立の管轄のない , ( )
同裁判所になされた場合,それぞれどのように扱うかを検討しておく必要がある。
①については,返還申立てが係属している裁判所が,面会交流申立についても自庁処理(家事
審判手続法第9条1項)する等の運用により同じ裁判所への係属が可能と思われるが,②,③に
ついては,何らの措置もとられなければ,別の裁判所において併行して手続が進行することにな
り,当事者にとっては著しく負担が大きい。
次に,後者においては,中央当局にて子の所在確知がなされ,我が国内にいることは判明した
ものの,子の所在に関する情報が接触援助申請者に提供されないという事態が生じうる。
この場合,面会交流審判・調停申立についても,返還申立に準じ,申請者が子の所在情報を了
知せずとも,司法手続きを開始・遂行することが可能とする規定(集中管轄,送達方法,中央当
局間情報提供の在り方,閲覧謄写の制限等を含む )を整備する必要がある。 。
なお,国内事案にも同様の問題があるが,決められた面会交流の実効性を図るため,面会交流
実施のための支援を充実させるべきことも併せて検討されるべきである。
【反対】2(個人2名)
・ 個人1名)何らかの司法手続を設けるべきである。 (
・ 個人1名)面会交流についての規定を設け,面会交流についてのハーグ条約の規定を遵守する (
ことを明確にすべきである。現状の国内法によるということでは時間がかかりすぎる。充分な面
会交流を保証すれば,返還自体は不要である場合もあるであろう。
【その他の意見】7(日弁連,大阪弁,親子ネット十勝,個人4名)
・ 日弁連)次の点については,必要な規定を整備することなどを検討すべきである。 (
まず,家事事件手続法によれば,面会交流を求める調停事件は相手方の住所地を管轄する裁判
所に(第245条第1項 ,同審判事件は子の住所地を管轄する裁判所に(第150条 ,それぞ ) )
れ申し立てることとされているが,ハーグ条約に関する事件では,申立人は子及び相手方の住所
を知らないが,中央当局は子の所在(ひいては相手方の住所)を知っているということがあり得
る。そして,その場合にも,申立人が面会交流を求める裁判手続を申し立てられるようにしてお
く必要がある。そこで,このような場合に,申立人としてはどの裁判所に申し立てればよいかを
あらかじめ明らかにしておく必要がある。さらに,面会交流を求める調停または審判事件を係属- 78 –
させるためには,少なくとも裁判所が相手方の住所を知っているか,若しくは裁判所が中央当局
を通じて相手方に呼出状等を送ることができる必要がある。そこで,この点にかかる裁判所と中
央当局の連携も整理しておかなければならない。
次に,国内の面会交流に関する事件にも通ずるところであるが,特に国境をまたいだ面会交流
については,第三者による適切なサポートがないと,一方で,子を監護する親は,非監護親が面
会交流の機会に子を連れ去るのではないかとの疑念を持ったり,他方で,非監護親は,監護親が
子に不当な圧力をかけて面会交流の実施を妨げるのではないかとの疑念を持つなどして,円滑な
実施ができないことが想定される。そこで,例えば,面会交流センターを設置して,面会交流中
の子の安全を確保する一方,専門のカウンセラーなどが適切に関わり,双方当事者が子の福祉を
最優先にしつつ面会交流を進めていけるように支援することなどが考えられる。また,そのよう
な支援は容易にアクセスでき,かつ費用も低額である必要がある。このような面会交流の支援制
度の構築に向けて積極的に検討すべきである。
・ 大阪弁 問題とされるべきは 我が国において 面会交流権を正面から認めた法規が存在せず ( ) , , ,
民法第766条による離婚の際の子の監護についての協議事項として登場するにすぎないことで
ある。家庭裁判所実務においては,近時,面会交流の実現に積極的な傾向とはなっているが,な
お,面会交流の実現に必要な当事者に対するサポートは決定的に不足している。我が国における
面会交流権の実現の手続が実効性を欠くという批判は,必ずしも,国際的な面会交流に限定して
該当するものではないが,特に,国際的な要素を有する面会交流については,これをサポートす
ることの意義は大きく,他方でその負担も大きいものと思われる。従って,この面会交流のサポ
ートについて 条約に基づく中央当局が果たすべき任務は大きく 裁判手続との連携を図りつつ , , ,
裁判所が命じた面会交流を実現する役割を中央当局が果たすべきである。
・ 個人1名)子が親子関係を通して健全に成長することを阻害されないためには,審理中も交流 (
が断絶されないための明確な制度が必要である。
・ 個人1名)民法第766条により面会交流の必要性が明文化されていても,面会交流の最低頻 (
度や罰則規定がない当該法は,激しい対立感情にある監護親にとって容易に無視できる。調停審
判で認められた面会交流を拒絶する監護親に対しとることができる法的最終手段は間接強制にと
どまり,監護親は確信犯的に引き離し状態を継続する。日本人の監護親は国内法の限界を知って
いて話し合いすら拒むケースは少なくなく,まして国際結婚親同士の係争の場合,日本人同士の
親よりさらに激しいパワーゲームとなる可能性が大きい。- 79 –
○ その他関連する事項について
【目的規定に関する意見】4(日弁連,兵庫弁,個人2名)
・ 日弁連,兵庫弁,個人1名)担保法の第1条には同法の目的等が述べられるものと思われると (
ころ,その際,担保法の解釈運用にあたっては子の利益を最も優先して考慮しなければならない
旨を記載すべきである。
・ 個人1名)子は,両方の親から愛されて,両方の親に育てられるという権利を持っている。そ (
のために違法な連れ去りを防ぐ必要がある。万一違法な連れ去りが起これば,元に戻す必要があ
る。こうした点を,法律の目的として明記すべきである。
【裁判資料の公表等に関する意見】3(兵庫弁,個人2名)
・ 兵庫弁,個人1名)ハーグ条約に基づく返還裁判の結果は,個人の特定につながる情報につい (
て手当てをした上で,全例を集積し,公表すべきである。
・ 個人1名)日本国が関わるハーグ条約上の「連れ去り」事案について,その実態を調査・公表 (
し,法の見直し等に役立てる体制を条約実施の国内法に取り入れるべきである。
・ 個人1名)条約締結後,日本国内でどのように運用されていっているのかを,各国の有識者が (
きちんと検討できるようにするため,裁判の記録はできる限り公開されるべきである。
【遡及適用に関する意見】1(日弁連)
・ 日弁連)子の返還手続に関して遡及的適用がないことを周知徹底すべきである。 (
【見直しに関する意見】1(日弁連)
・ 日弁連)担保法または附則に,担保法施行後3年ないし5年後を目途に検証し,必要に応じて (
見直す旨の規定を設けることが望ましい。
【その他の意見】大阪弁,6か国政府合同,個人5名
・ 大阪弁)現在の総合法律支援法における民事法律援助の援助対象,日弁連委託援助事業におけ (
る援助対象の中に外国居住者は含まれていないことから 外国居住の申立人 主として被奪取親 , ( )
について弁護士費用の扶助制度の利用を可能とするため,条約施行に合わせて関連法令の改正を
行う必要がある。
・ 6か国政府合同)日本がハーグ条約に加盟する準備を進めると決定したことを称賛し,本件に (
おける日本の取組みへの強い支持を表明する ハーグ条約の目的と精神を認識した法律を制定し 。 ,
他の条約締約国の法律に基づく監護の権利及び接触の権利を効果的に保護し,ハーグ条約の目的- 80 –
実現のための障害を防ぎ,裁判所の命令の執行のための適切な仕組みを整備するよう促す。
手続,費用,不服申立て等の要因がハーグ条約の核となる目的を実現するための障害になるこ
とを防ぎ,関連する日本の裁判所命令を有意義に執行するための適切な仕組みを整備すべきであ
る。また,ハーグ条約を実施するための法律においては,司法当局に子の返還命令を下すことを
義務付けない限られた例外規定に関する言語を含め,条約に用いられている言語を厳密に反映し
たものであるべきである。
・ 個人2名)翻訳や通訳などに相当の費用を要する可能性があり,現在の法テラス等による援助 (
では足りないので,新たな法律援助制度が必要である。
・ 個人1名)子の返還に関する裁判手続の基本的性質の分析が不十分である。 (
・ 個人1名)ハーグ条約の内容につき,正確に広報すべきである。 (
・ 個人1名)ハーグ条約締約国における本案の裁判の状況について把握すべきである。 (
○その他の意見
【条約の賛否に関する意見】
・ 個人8名)ハーグ条約の締結に賛成である。 (
・ 個人4名)ハーグ条約の締結に反対である。 (
【DV等に関する意見】
・ 親子ネット,親子の絆,Kネット,個人19名)DVの認定は適切にされるべきである。 (
・ いくの学園)シェルターとDV被害者との間の信頼関係は,シェルターが被害者の身体的な安 (
全を守ることにより成り立つものであり,ハーグ条約に基づき子を返還することにより被害者を
加害者の国へ返せば,シェルターの機能を果たさなくなる。元々社会的に弱い立場に置かれやす
い日本人女性がハーグ条約によって更なる不利益を被らないようにしてほしい。
・ 個人1名)日本に帰国したDV被害者の安全を守るために,滞在先・居場所を相手側に通知し (
ないようにすべきである。
・ 個人1名)ハーグ条約の加盟によって,渉外事案及び国内事案において,DV被害者への保護 (
及び児童虐待被害者への保護に後退が生じることがないか否かを調査検討することを求める。
・ 個人1名)DV法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律)の改正が必要で (
ある。
・ 個人1名)DVの調査・認定を行う機関を設置し,調査結果が出るまでは,適切な警護のもと (- 81 –
子との暫定的な面会を認めるべきである。
・ 個人1名)作るべき法案はDVを理由に連れ去った妻の親権を剥奪し,連れ去った子について (
なされた養子縁組を無効にし,しかもこれまでのケースについても遡及的に同じ扱いを認め,D
Vに明白かつ客観的な証拠がない場合には全面的に子を元に戻すものでなければ条約の精神に沿
ったものとは言えない。
・ 個人1名)証拠がなければDV虐待被害があっても,返還を免れることができない点を危惧す (
る。
・ 個人1名)DV加害者は,子にとっては虐待者である。国内であっても国外であってもDVが (
原因で母親とともに避難した子を強制的に父親のもとに返還するのは絶対に反対である。
【面会交流に関する意見】
・ 親子の絆,親子ネット関西,親子ネット十勝,個人33名)面会交流に関する国内法の整備を (
行うべきである。
・ 個人2名)離婚後の親子面会のニーズは高まっており,DV被害者である母子側の安全確保の (
視点からも,子を守る公的な面会センターを少なくとも各都道府県に一か所設置すべきである。
・ 親子ネット沖縄,個人8名)ハーグ条約の締結に併せて国内法の整備も行うべきである。 (
・ 親子新法連絡会,個人5名)家庭裁判所における面会交流の取決めに関する運用をあらため, (
もっと充実させるべきである
・ 個人1名)面会交流について強制力をもたせるべきである。 (
【子の連れ去りに関する国内法整備等に関する意見】
・ 親子新法連絡会,Kネット,個人14名)国内事案についても,子の連れ去りに関する法整備 (
を行うべきである。
・ 親子ネット 「両親間の合意のないままの別居開始を連れ去りと認定」するよう国内法整備を ( )
すべきである。
・ Kネット 万一違法な連れ去りが起これば 元に戻す必要がありその点を明確にすべきである ( ) , 。
また 「子の連れ去り」を当然とする法曹界の悪習慣を是正すべきである。 ,
・ 個人1名)日本からの連れ去り問題についてもっと考慮をしてもらいたい。遡及問題について (
対応してもらいたい。
・ 個人1名)共同親権のもとでの子の連れ出しは,国外への連れ出しに限り,監護権侵害に該当 (
しうること(違法性阻却はあり得るとして)を,国内実施法に明記すべきである。- 82 –
【離婚後共同親権制度に関する意見】
・ 個人24名)離婚後共同親権制度を導入すべきである。 (
【その他の意見】
・ 親子交流くにたち)連れ去り・引き離し禁止の原則化,DV被害の主張に対する裁判所の事実 (
確認努力の必要性 「子の連れ去り」を当然とする法曹界の悪習慣の是正明確化の必要性がある。 ,
・ 親子新法連絡会)ハーグ条約の中間とりまとめを見る限り「ハーグ条約に加盟を機に,国内の (
ルールを国際社会のルールに変更させていこう」という方向は全く感じられない。むしろ,現在
の日本特有の「連れ去った者勝ち」というルールを国際社会のルールとして採用させようという
方向に見える。
・ グループ女綱)国際結婚をして海外で居住していた邦人女性が子を連れて帰国した場合,海外 (
で配偶者からDVを受けていたかどうかの調査を十分にすべきである。
・ Kネット)全般にわたり夫婦間の対立を助長し,結果として子の権利条約の示す子の利益から (
離れる内容である。
・ 個人2名)現在の家庭裁判所における母親優位の判断を改めるべきである。 (
・ 個人2名)子の父母間の葛藤を緩和するために寛容性の原則,友好親条項を立法化すべき。 (
・ 個人1名)子を奪取することは,子の人格形成に悪影響を与える。何よりも子の人権的視点を (
大切にすべきである。
・ 個人1名)ハーグ条約締結には賛成である。日本の国内法も整合性のために改正する必要があ (
り,また,虚偽のDVを横行させない措置や面会交流の実現のための方策を考える必要がある。
・ 個人1名)共同養育センターをつくってほしい。共同親権も取り入れてほしいがまずは親子が (
共同養育できるしくみをつくってほしい。
・ 個人1名)共同養育義務化,一方的な連れ去り禁止を法律に明文化してほしい。 (
・ 個人1名)監護親への教育プログラムを実施してほしい。 (
・ 個人1名 「国際的な」とうたう以上,諸外国と歩調を合わせた有益な条約にしなければ無意 ( )
味である。
・ 個人1名)現在の日本の単独親権制,母親優先の裁判運用,連れ去り勝ちの法律運用を議論す (
べきである。
・ 個人1名)現行の家事審判・家事調停制度を見直すべきである。 (
・ 個人1名)非訟事件手続法及び家事審判法の改正法の趣旨は 「国民にとって身近なものにな ( ,- 83 –
るよう国民の視点から」と説明されているが,その趣旨をもつ法的枠組みをハーグ条約実施法に
当てはめることは,訴訟件数を増やすことになり,社会,子の利益とならず,他国の権利との利
益相反を招く可能性があり,疑問である。
・ 個人1名)ハーグ条約の加盟は,国民(子,子を連れて逃げてきた親)を守るものでなければ (
ならない。また,虐待者が被害者を装うこともあることを知ってもらいたい。

12年前