2011年11月25日 03時48分 更新
ハーグ条約加盟へ向けて募集された、パブリックコメントの結果発表―外務省
By 長嶺超輝
外務省は24日、離婚したカップルの子どもの扱いについて定める「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(仮称)」(ハーグ条約)を実施するため、中央当局のあり方に関する意見募集(パブリックコメント)の取りまとめ結果を発表した。合計で168件(団体20件、個人148件)の意見が同省に寄せられたという。
ハーグ条約は、1980年署名の多国間条約で、世界81カ国が加盟(批准)しているが、日本やロシアは未だ加盟していない。政府は今年5月の閣議了解において、ハーグ条約について締結に向けた準備を進めることを決定している。
国内における子どもの居場所に関する情報を相手国に提供する点については、「子の所在特定は中央当局に課せられた重大な任務である」として支持する意見のほか、「DV被害者への配慮や個人情報の過度な流出の防止の観点から、提供すべき情報の範囲は明確にすべきだ」との慎重意見、「例外なく提供すべきでない」との反対意見も見られた。
子の「再連れ去り」など、さらなる害や不利益を防止するため、出国を制限する点については、「パスポートの一時保管や新規発給の制限」「出国禁止等の立法的措置を講じる」といった賛成意見があった一方、憲法22条の海外渡航の自由に関する配慮から、慎重な意見もあった。
また、親子の面会交流に関して、中央当局が援助を実施する点については、「条約締結前に連れ去りなどがあった事案についても、できる限り支援をすべきだ」「中央当局が国内の既存の面会交流の制度を紹介できるよう、また、充実した面会交流が可能となるよう制度を整備すべきだ」との賛成意見があった一方で、「中央当局の関与は、子の所在の確知や友好的解決の促進にのみ留めるべきで、子の社会的背景に関する情報交換を支援の範囲に含めるべきでない」「中央当局は司法機関でないので、活動は限定的に」などの慎重意見があったと発表された。
このほか、DVや児童虐待への対応など邦人への支援体制を強化すべきとの意見、不法な子の連れ去り行為の罰則化など、既存の国内法制度の改正の必要性について指摘があった。さらに、そもそもハーグ条約を締結すること自体に賛否両論の意見があったという。
法律の問題も
親権とは、親が自らの子に関して監護や財産管理を行う権利。日本では民法819条の規定により、婚姻中の夫婦は二人ともが、その子に対して「共同親権」を持って育てるが、離婚後は夫婦の一方のみが親権を行使する「単独親権」しか認めていない。
このような制度の下では、婚姻関係が破たんした夫婦間で、いずれが親権を取得するかに関する話し合いが揉めた場合、子を連れ去って一方の親が別居を強行する事態が起こる危険がある。なぜなら「現状として、どちらの親が子を監護しているか」が、家庭裁判所において親権者を定める重要な要素となるためだ。
海外で国際結婚した日本人が、婚姻破たん後、一方の親の許可なく、子を日本国内へ連れ去ってしまう問題も諸外国から指摘されており、子の生育における福祉に深刻な影響を及ぼす危険をはらむ。
ただし、日本に子を連れてきた理由として、外国人の元配偶者の側に、子の生育に悪影響を与えかねない要因(暴力や酒乱など)があるケースも少なくなく、せっかく日本に連れてきた子を元の国へ送還することが、むしろ子の福祉に反する場合もあるとして、ハーグ条約加盟に反対する声もある。
今後、ハーグ条約に日本が加盟することとなれば、離婚した両親に「共同親権」を認めるよう、民法819条を改正するのが本筋とみられているが、政府は親権問題に手を付けず、子どもを元の国に戻すかどうかの判断や、離婚後に別居した親との面会手続き、条約加盟国からの子の返還申し立てを受け付ける窓口などを定めた新法で対処する方針である。