外務省:「ハーグ条約の中央当局の在り方に関する懇談会」第3回会合

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/hague/kondankai03_gy.html

平成23年10月24日

24日,外務省において開催されたハーグ条約の中央当局の在り方に関する懇談会第3回会合の概要は以下のとおり。

1.出席者

座長:
小早川光郎・成蹊大学法科大学院教授
ヒアリング対象者:
池田崇志弁護士(大阪弁護士会)
鈴木雅子弁護士(東京弁護士会)
川島志保弁護士(横浜弁護士会)
谷英樹弁護士(大阪弁護士会)
出席者:
棚村政行・早稲田大学法科大学院教授
藤原靜雄・中央大学法科大学院教授
大谷美紀子弁護士(日弁連)
相原佳子弁護士(日弁連)
杉田明子弁護士(日弁連)
関係府省庁(法務省,内閣府,厚生労働省,
文部科学省,警察庁)等

2.議事要旨(議事録は,別途掲載予定)

(1)ヒアリング

(ア)池田崇志弁護士
  • 実際に受任した国際的な子の連れ去り案件(外国から日本に連れ去ったケース)の概要及び外国と我が国のそれぞれの裁判所の判断の要旨について説明。
  • 一般的に言われている「DVの主張」は,きちんと事実関係を把握する必要がある。この事案では,母親から父親によるDVが主張されたが,我が国裁判所の審判は,そのような事実は無かったと認定。
  • LBPは,子を常居所地国に返還することを求めたい場合であっても,子との面会交流が実効的に確保されるのであれば,TP側と合意できるケースも多数ある。中央当局として面会交流が実現できる支援をしてほしい。また,政府全体として,我が国における面会交流が実効的なものとなるよう制度構築を進めて欲しい。
(イ)鈴木雅子弁護士
  • 日本は出国を止める制度がない一方で,親権を争う仕組み及び保全措置についても時間がかかるため,国外に連れ去られ,打つ手がなくなる問題が生じやすい。連れ去られた後にハーグ事案として返還・接触申請を行うことは,物理的,精神的,経済的な負担が大きいため,出国を差し止める制度が必要。
  • ハーグ条約を連れ去られ親が使うためには,監護権の侵害が認められることが必要であると理解しているが,日本民法では,(1)離婚後は共同親権制が取られず,(2)事実婚・認知の場合にも,母親のみが単独親権を有する制度となっているために,連れ去られ親が子を事実上監護している場合でも,法律上の監護権がないためにハーグ条約を使えないという事態が相当数生じることを懸念している。
  • 海外において日本がハーグ条約を未締結のため日本への帰国が認められないことから,最後の手段として連れ去ったケースや連れ去りが犯罪化されているために常居所地国に戻りLBP側と話し合えないケースもある。仮に我が国裁判所で返還拒否が確定すれば,ハーグ条約締結によってDVに苦しむ女性を助けやすくなるという側面もある。
  • 妥当な解決を図るため,ADRや調停制度の活用が必要。外国籍の調停委員が認められていない現状は改善の余地あり。調停を行う際に外国の生活・文化のバックグラウンドが必須であり,当事者の気持ちの面でも重要。また,日本の裁判が書面を含め全て日本語という制度が変わらないのであれば,より一層ADRや調停制度の活用が求められる。連れ去られ案件では,連れ去られ国での裁判のための支援も検討すべし。
(ウ)川島志保弁護士
  • DV加害者は,一見DVをするように見えないタイプであることが多いほか,DVは再犯性が高いため,状況が改善されることは少ない。他方,DVが原因で夫の元から離れた妻は,居所を夫に知られる恐怖から,ひたすら逃げ回らざるを得ないケースが多い。このような事態は,子の福祉の観点からも問題。
  • DV被害者の個人情報の取扱いにつき保護措置があるものの,行政のミスにより被害者の個人情報が漏洩するケースもある。ハーグ条約加盟にあたっては,個人情報の保秘のための公的機関による連携が重要。DVの被害者としては,DV加害者に居所が知られることが最も恐れる事態。情報を知るべき立場の者までは,確実に知る必要はあるが,そこから先への管理をしっかり行うことが重要であり,中央当局からDV加害者側に所在情報が渡らないことが極めて重要。
  • ハーグ案件の場合には,証拠が海外にあることや,言葉の問題等から,被害者の証拠の収集が難しいことがあるため,在外公館への相談を証拠として活用できるような措置が必要。
(エ)谷英樹弁護士
  • 子の連れ去りによって生じる問題は,(1)それまでの環境(両親,家族,知人友人等)から子が引き離される,(2)それまでは両親の双方の監護に服していたり,別居中でも一定の枠組みの下での交流が認められていた状態が,一方的にルールなき状態に追いやられる,(3)連れ去る側は,種々の理由で他方が子と面会する機会を拒もうとするのが通例で,子との面会交流の可能性は連れ去り側の意志に左右されがち,(4)現行のDV保護制度は,DV保護命令の有無で,子との面会の機会の有無が決まる建て付け,が挙げられる
  • 子の所在の特定に関しては,本国で監護の権利を有するLBPにも連れ去り先の子の監護に関する情報を知るべき立場にあるとの考え方に立てば,パブコメ案では,申請者(LBP)に居所についての情報を提供する際に,一律にTP側の同意を要件としている点に強い疑問がある。また,子の社会的背景に関する情報の交換にも,同意を要件としているが,仮にTPが虐待をしている場合,その情報が児童相談所等に蓄積されていても,その情報は提供されないこととなるのは問題。
  • 子に対する更なる害の防止に関しては,居所変更の届出を義務づける必要がある他,国外への出国を防止する制度を創設すべし。接触の権利に関しては,子の居所をLBPが知ることは交流の第一歩であり,社会的背景に関する情報についてもLBPに提供すべし。

(2)質疑応答にて出された意見・質問等

(ア)出国禁止命令
  • 子の更なる害の防止の観点から,裁判所が保全命令の一環として出国停止を命じ,出入国管理での出国制限をとれる制度の構築が必要。このような措置がないために,面会交流が実現できないケースもある。
(イ)接触の権利(面会交流)
  • DV被害者をきちんと保護し,更なるDV被害から確実に守ることによって心理的な安定が確保され,それがひいては子とLBPとの面会交流につながるケースもあり得る。
  • 調停員は,日本人に限るべきではなく,調停では日本語以外も使用できる制度にすべし。ADRのような制度を利用する必要がある。
(ウ)その他
  • 実務家として,国際離婚の事案において問題と感じる点は,(1)我が国が,共同親権制でないこと,(2)面会交流が法的な権利として認められていないこと,(3)家裁調停員には高齢者が多く,母親の下での養育が良いという伝統的な固定観念を持つ人が多いこと等が挙げられる。
  • 明らかにDVが証明できるのであれば,国内担保法において,具体的にDVや暴力を返還拒否事由に要件として規定しても良いが,現実には,DVを証明することが難しいケースも多い。子にとって悪影響があるかという視点から返還拒否事由を考えるべし。

3.配布資料

  1. (1)池田崇志弁護士提出資料(PDF)PDF
  2. (2)川島志保弁護士提出資料(1(PDF)PDF2(PDF)PDF3(PDF)PDF
  3. (3)谷 英樹弁護士提出資料(PDF)PDF

 

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