法務省:ハーグ条約を実施するための子の返還手続等の整備 に関する中間取りまとめ

「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(仮称)」
を実施するための子の返還手続等の整備
に関する中間取りまとめ
第1 子の返還のための手続関係……………………………………………………………1
1 手続の主体………………………………………………………………………………1
2 採用する手続……………………………………………………………………………1
3 管轄………………………………………………………………………………………1
(1) 職分管轄………………………………………………………………………………1
(2) 土地管轄の集中………………………………………………………………………1
4 移送………………………………………………………………………………………1
(1) 管轄違いに基づく移送………………………………………………………………2
(2) 裁量移送及び自庁処理………………………………………………………………2
5 裁判所の構成……………………………………………………………………………2
6 除斥及び忌避……………………………………………………………………………2
7 当事者適格………………………………………………………………………………2
(1) 申立人…………………………………………………………………………………2
(2) 相手方…………………………………………………………………………………2
(3) 子………………………………………………………………………………………2
8 当事者能力及び手続行為能力…………………………………………………………3
(1) 当事者能力……………………………………………………………………………3
(2) 手続行為能力…………………………………………………………………………3
9 参加………………………………………………………………………………………3
(1) 当事者参加……………………………………………………………………………3
(2) 利害関係参加…………………………………………………………………………3
10 代理人…………………………………………………………………………………3
(1) 弁護士代理……………………………………………………………………………3
(2) 許可代理………………………………………………………………………………3
(3) 職権による代理人の選任……………………………………………………………4
11 裁判費用………………………………………………………………………………4
(1) 費用の予納……………………………………………………………………………4
(2) 負担者及び裁判………………………………………………………………………4
(3) 手続上の救助…………………………………………………………………………4
(4) その他の費用…………………………………………………………………………5
12 公開・非公開…………………………………………………………………………5
13 裁判記録の閲覧等……………………………………………………………………5
14 送達……………………………………………………………………………………5
15 手続の併合・分離……………………………………………………………………6
16 手続の受継……………………………………………………………………………6
(1) 申立人が死亡した場合………………………………………………………………6
(2) 当事者が死亡以外の事由により手続を続行することができない場合………6
17 手続の中止……………………………………………………………………………6
18 申立ての方式等………………………………………………………………………7
(1) 申立ての方式…………………………………………………………………………7
(2) 併合申立て……………………………………………………………………………7
(3) 裁判長の申立書審査権………………………………………………………………7
19 証明責任………………………………………………………………………………7
20 裁判資料の収集方法…………………………………………………………………8
21 審理手続………………………………………………………………………………8
(1) 申立書の写しの送付等………………………………………………………………8
(2) 事実の調査等…………………………………………………………………………8
(3) 事実の調査の通知……………………………………………………………………8
(4) 電話会議・テレビ会議システム……………………………………………………9
(5) 陳述聴取………………………………………………………………………………9
(6) 証拠調べの手続……………………………………………………………………10
(7) 調書の作成等………………………………………………………………………10
(8) 審理の終結…………………………………………………………………………10
(9) 裁判日………………………………………………………………………………10
22 中央当局と裁判所との関係等……………………………………………………10
23 子の意思の把握……………………………………………………………………11
24 裁判所及び当事者の責務…………………………………………………………11
25 ハーグ条約第14条関係…………………………………………………………11
26 ハーグ条約第15条関係…………………………………………………………11
27 ハーグ条約第16条関係…………………………………………………………11
28 ハーグ条約第17条関係…………………………………………………………12
29 裁判…………………………………………………………………………………12
(1) 返還命令の主文……………………………………………………………………12
(2) undertaking …………………………………………………………………………12
30 裁判の効力の発生…………………………………………………………………12
31 裁判の取消し等……………………………………………………………………12
32 取下げ………………………………………………………………………………13
33 不服申立て…………………………………………………………………………13
(1) 即時抗告……………………………………………………………………………13
(2) 特別抗告及び許可抗告……………………………………………………………14
(3) 手続的な裁判に対する不服申立て………………………………………………14
(4) 再審…………………………………………………………………………………14
34 子の返還の実現方法………………………………………………………………14
35 調停・和解…………………………………………………………………………15
36 保全的な処分………………………………………………………………………15
37 裁判官ネットワーク………………………………………………………………15
第2 子の返還事由・返還拒否事由………………………………………………………15
1 子の返還事由…………………………………………………………………………15
2 子の返還拒否事由……………………………………………………………………16
第3 面会交流関係…………………………………………………………………………17
- 1 -
第1 子の返還のための手続関係
1 手続の主体
子の返還のための手続(以下「本手続」ということがある。)は,司法当局が
行うものとする。
2 採用する手続
本手続は,訴訟手続による必要はないものとする。
3 管轄
(1) 職分管轄
第一審は,家庭裁判所の管轄(職分管轄)に属するものとする。
(2) 土地管轄の集中
【甲案】
東京家庭裁判所の管轄に専属するものとする。
【乙案】
東京家庭裁判所と大阪家庭裁判所の2庁のみに管轄を認めるものとする。
(注)部会では,東京,大阪の各家庭裁判所に札幌,福岡の各家庭裁判所を加えて,この
4庁のみに管轄を認めることを提案する意見もあった。
【丙案】
高等裁判所8庁の所在地(東京,大阪,名古屋,広島,福岡,仙台,札幌,
高松)の家庭裁判所のみに管轄を認めるものとする。
(後注1)【乙案】又は【丙案】を採る場合には,管轄裁判所(土地管轄)は,子の住所地
を基準として定まるものとし,返還を求める子が複数ある場合には,そのうちの一人の
住所地を管轄する家庭裁判所に管轄(併合管轄)を認めるものとする。
(後注2)【乙案】を採る場合には東京家庭裁判所又は大阪家庭裁判所に,【丙案】を採る場
合には高等裁判所8庁の所在地の家庭裁判所に,合意により管轄裁判所を定めることが
できるものとする(合意管轄)。
(後注3)いわゆる応訴管轄(民事訴訟法第12条参照)は,認めないものとする。
4 移送
- 2 -
(1) 管轄違いに基づく移送
裁判所は,事件がその管轄に属しないと認めるときは,申立てにより又は職
権で,これを管轄裁判所に移送するものとする(家事事件手続法第9条第1項
本文参照)。
(2) 裁量移送及び自庁処理(3(2)で【乙案】又は【丙案】を採る場合)
家庭裁判所は,事件を処理するために特に必要があると認めるときは,申立
てにより又は職権で,事件について管轄権を有する家庭裁判所以外の家庭裁判
所に移送し,又はその管轄に属しない事件を自ら処理することができるものと
する(家事事件手続法第9第1項ただし書及び第2項参照)。
(注)移送先や自庁処理をすることのできる家庭裁判所は,3(2)で管轄を認められた家庭
裁判所(【乙案】を採る場合には東京家庭裁判所又は大阪家庭裁判所,【丙案】を採る場
合には高等裁判所8庁の所在地の家庭裁判所)に限るものとする。
5 裁判所の構成
裁判所の構成は,裁定合議の余地を認めた一人制とするものとする。
6 除斥及び忌避
裁判官及び書記官について除斥及び忌避の制度を設け,家庭裁判所調査官につ
いて除斥の制度を設けるものとする(家事事件手続法第10条から第13条まで
及び第16条参照)。
なお,忌避の制度の導入に当たっては,併せていわゆる簡易却下制度も導入す
るものとする(家事事件手続法第12条第5項から第7項まで参照)。
7 当事者適格
(1) 申立人
子の連れ去り又は留置により監護権が侵害された者に申立人適格があるもの
とする。
(2) 相手方
現に子を監護している者に相手方適格があるものとする。
(3) 子
- 3 -
返還を求められている子は,本手続上の当事者にはならないものとする。
8 当事者能力及び手続行為能力
(1) 当事者能力
本手続における当事者能力については,民事訴訟法第28条及び第29条の
規定に相当する規律を設けるものとする。
(2) 手続行為能力
本手続においては,意思能力を有する限り,手続行為能力を有するものとす
る。
9 参加
(1) 当事者参加
① 当事者となる資格を有する者は,当事者として手続に参加することができ
るものとする(家事事件手続法第41条第1項参照)。
② 裁判所は,相当と認めるときは,当事者の申立てにより又は職権で,他の
当事者となる資格を有する者を当事者として手続に参加させることができる
ものとする(家事事件手続法第41条第2項参照)。
(2) 利害関係参加
① 裁判の結果により直接の影響を受ける者は,裁判所の許可を得て,利害関
係参加人として手続に参加することができるものとする。
② 裁判所は,相当と認めるときは,職権で,裁判の結果により直接の影響を
受ける者を利害関係参加人として手続に参加させることができるものとする
(家事事件手続法第42条第3項参照)。
10 代理人
(1) 弁護士代理
法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか,弁護士でなけ
れば手続代理人となることができないものとする。
(注)弁護士強制は認めないことを前提としている。
(2) 許可代理
- 4 -
裁判所の許可を得て,弁護士でない者を手続代理人とすることができるも
のとする。
(3) 職権による代理人の選任
行為能力の制限を受けた者が本手続における手続行為をしようとする場合
において,必要があると認めるときは,裁判長は,申立てにより又は職権で,
弁護士を手続代理人に選任することができるものとする(家事事件手続法第
23条第1項,第2項参照)。
11 裁判費用
(1) 費用の予納
裁判費用(執行費用を含む。)については,「国際的な子の奪取の民事上の
側面に関する条約(仮称)」(以下「ハーグ条約」という。)第42条に基づ
いてハーグ条約第26条第3項の留保をすることを前提に,申立人が申立て
の手数料を納めるとともに当事者等が必要な費用の概算額を予納することを
原則とし(民事訴訟費用等に関する法律第3条第1項,第11条,第12条),
証拠調べ等の本手続に必要な行為に要する費用は,国庫において立て替える
ことができるものとする(家事事件手続法第30条参照)。
(2) 負担者及び裁判
① 手続費用は,各自の負担とするものとする(家事事件手続法第28条第
1項参照)。
② 裁判所は,事情により,①によれば当事者及び利害関係参加人がそれぞ
れ負担すべき手続費用の全部又は一部を,その負担すべき者以外の当事者
及び利害関係参加人に負担させることができるものとする(家事事件手続
法第28条第2項参照)。
③ 裁判所は,事件を完結する裁判において,職権で,その審級における手
続費用の全部について,その負担の裁判をしなければならないものとする
(家事事件手続法第29条第1項参照)。
(3) 手続上の救助
裁判費用について,資力の乏しい者に裁判費用の予納を猶予する家事事件
手続法の規定及び同規定が準用する民事訴訟法の規定に倣った手続上の救助
- 5 -
の規律を設けるものとする(家事事件手続法第32条参照)。
(4) その他の費用
ハーグ条約第26条第4項の規定を担保するための規定は,設けないもの
とする。
12 公開・非公開
審理手続は,公開しないものとする。ただし,裁判所は,相当と認める者の
傍聴を許すことができるものとする(家事事件手続法第33条参照)。
13 裁判記録の閲覧等
① 当事者又は利害関係を疎明した第三者は,裁判所の許可を得て,裁判所書
記官に対し,事件の記録の閲覧若しくは謄写,その正本,謄本若しくは抄本
の交付又は事件に関する事項の証明書の交付を請求することができるものと
する(家事事件手続法第47条第1項参照)。
② 裁判所は,当事者から①による許可の申立てがあったときは,これを許可
しなければならないものとする(家事事件手続法第47条第3項参照)。
(注)一定の事由がある場合には,許可しないことができるものとし,その事由につい
ては,なお検討するものとする(家事事件手続法第47条第4項参照)。
③ 裁判所は,利害関係を疎明した第三者から①による許可の申立てがあった
場合において,相当と認めるときは,これを許可することができるものとす
る(家事事件手続法第47条第5項参照)。
14 送達
送達に関する基本的な規律として,民事訴訟法第1編第5章第4節の規定に
準じた規律を設けるものとする。
(注1)送達場所等の届出の規律に関し,日本国内に住所を有しない申立人等の場合には
日本国内に適当な送達場所を確保することができないことも想定されるため,例えば,
我が国の中央当局を送達場所及び送達受取人として届け出ることができるものとするな
どの手当てをすることについて,なお検討するものとする。
(注2)公示送達の規律については,相手方の所在が当初から不明である場合を含め,事
- 6 -
案に応じ公示送達により手続を進めることができる余地を残す必要性があることを踏ま
え,これを設けるものとしている。
15 手続の併合・分離
裁判所は,手続を併合し,又は分離することができるものとする(家事事件
手続法第35条参照)。
16 手続の受継
(前注)ここでいう「受継」とは,法令により手続を続行する資格のある者等が手続を引
き継ぐことを意味し,当事者の死亡等の事由によって手続を続行することができない場
合において,当該手続を受け継ぐべき者があるときであっても,当該手続は中断しない
ことを前提としている。
(1) 申立人が死亡した場合
原則として手続が終了することを前提に,本手続の申立てをすることがで
きる者は,申立人の死亡の日から1か月以内に申出をしてその手続を受け継
ぐことができるものとする(家事事件手続法第45条第1項及び第3項参照)。
(2) 当事者が死亡以外の事由により手続を続行することができない場合
① 当事者が死亡以外の事由により手続を続行することができない場合には,
法令により手続を続行する資格のある者は,その手続を受け継がなければ
ならないものとする。
② 裁判所は,他の当事者の申立てにより又は職権で,①に定める者に手続
を受け継がせることができるものとする(家事事件手続法第44条参照)。
(後注) 相手方が死亡した場合は,相手方に代わり新たに子を監護する者を職権で当事者
(相手方)として参加させる方法(9(1)②参照)によって対応することを前提として
いる。
17 手続の中止
手続の中止については,民事訴訟法第130条から第132条まで(同条第
1項を除く。)の規定に相当する規律を設けるものとする(家事事件手続法第
36条参照)。
- 7 -
18 申立ての方式等
(1) 申立ての方式
① 本手続の申立ては,日本語で記載した書面を管轄裁判所に提出してする
ものとする(家事事件手続法第49条第1項参照)。
② ①の書面(申立書)には,次に掲げる事項を記載しなければならないも
のとする(家事事件手続法第49条第2項参照)。
a 当事者及び法定代理人
b 本手続により子の返還を求める旨
(2) 併合申立て
申立人は,複数の子について返還を求める場合には,これらを併せて申し
立てることができるものとする(家事事件手続法第49条第3項参照)。
(3) 裁判長の申立書審査権
申立書が(1)②に違反する場合又は申立人が法令の規定に従い申立ての手数
料を納付しない場合には,裁判長は,相当の期間を定め,その期間内に不備
を補正すべきことを命じなければならないものとし,申立人が不備を補正し
ないときは,申立書を却下しなければならないものとする(家事事件手続法
第49条第4項及び第5項参照)。
19 証明責任
ハーグ条約第3条,第4条及び第12条第3項の規定に基づく子の返還事由
(子が16歳に達していないこと,子が我が国に現在すること,子が我が国以
外の条約締約国に常居所を有していたこと等。第2の1参照)については申立
人にその証明責任を認め,ハーグ条約第12条第2項並びに第13条第1項及
び第2項の規定に基づく子の返還拒否事由(子が常居所を有していた国に子を
返還することが,子に対して身体的若しくは精神的な害を及ぼし,又は子を耐
え難い状況に置くこととなる重大な危険があること等。第2の2参照)につい
ては相手方にその証明責任を認める考え方を採るものとする。
(注)ここでいう「証明責任」とは,いわゆる客観的証明責任を意味するものである。
- 8 -
20 裁判資料の収集方法
裁判資料の収集方法については,基本的に,職権で事実の調査をするものと
し,証拠調べについては,申立てにより又は職権で,必要と認める証拠調べを
しなければならないものとする。ただし,19記載の子の返還事由及び子の返
還拒否事由については,19において証明責任を認められた当事者が証明しな
ければならないものとし,裁判所は,必要と認めるときは,職権で,事実の調
査及び証拠調べをすることができるものとする。
21 審理手続
(1) 申立書の写しの送付等
① 本手続の申立てがあった場合には,家庭裁判所は,申立てが不適法であ
るとき又は申立てに理由がないことが明らかなときを除き,申立書の写し
を相手方に送付しなければならないものとする(家事事件手続法第67条
第1項本文参照)。
② ①の申立書の写しの送付をすることができない場合又は送付の費用の予
納がない場合には,裁判長は,相当の期間を定め,その期間内に不備を補
正すべきことを命じなければならないものとし,申立人が不備を補正しな
いときは,申立書を却下しなければならないものとする(家事事件手続法
第67条第2項及び第3項参照)。
(2) 事実の調査等
ア事実の調査
本手続における事実の調査については,家庭裁判所調査官に事実の調査
の権限を認めるほか,裁判所技官による診断,他の家庭裁判所等への事実
の調査の嘱託,官庁等への調査の嘱託等を行うことができるものとする(家
事事件手続法第58条から第62条まで参照)。
イその他
本手続の期日における通訳人の立会いその他の措置については,民事訴
訟法第154条及び第155条の規定に相当する規律を設けるものとする
(家事事件手続法第55条参照)。
(3) 事実の調査の通知
- 9 -
裁判所は,事実の調査をしたときは,特に必要がないと認める場合を除き,
その旨を当事者及び利害関係参加人に通知しなければならないものとする(家
事事件手続法第70条参照)。
(4) 電話会議・テレビ会議システム
① 裁判所は,当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めると
きは,当事者の意見を聴いて,裁判所及び当事者双方が音声の送受信によ
り同時に通話することができる方法によって,本手続の期日における手続
(証拠調べを除く。)を行うことができるものとする(家事事件手続法第
54条第1項参照)。
② 証拠調べの手続については,民事訴訟法第204条,第210条及び第
215条の3の規定に相当する規律によるものとする(家事事件手続法第
64条第1項参照)。
(5) 陳述聴取
ア陳述聴取
裁判所は,申立てが不適法であるとき又は申立てに理由がないことが明
らかなときを除き,当事者の陳述を聴かなければならないものとする(家
事事件手続法第68条参照)。
(注)ここでいう陳述聴取とは,言語的表現による認識や意向を聴取する手続を意味
し,裁判官が審問の期日において口頭で聴取する場合だけでなく,裁判所が書面に
より照会する場合や,家庭裁判所調査官が調査として聴取する場合も含むものとす
ることを前提としている。
イ審問の期日の立会い
【甲案】
裁判所が審問の期日を開いて当事者の陳述を聴くことにより事実の調査
をするときは,他の当事者は,当該期日に立ち会うことができるものとす
る。ただし,当該他の当事者が当該期日に立ち会うことにより事実の調査
に支障を生ずるおそれがあると認められるときは,この限りでないものと
する(家事事件手続法第69条参照)。
【乙案】
審問の期日の立会いについては,規律を設けないものとする。
- 10 -
(6) 証拠調べの手続
証拠調べの手続については,民事訴訟法第2編第4章第1節から第6節ま
での規定(本手続の性質に鑑み,同様の規律を設けることが相当でないもの
を除く。)に相当する規律を設けるものとする(家事事件手続法第64条第
1項参照)。
(注)「同様の規律を設けることが相当でないもの」としてどのようなものがあるかにつ
いては,なお検討するものとする。
(7) 調書の作成等
裁判所書記官は,本手続の期日について,調書を作成しなければならない
ものとする。ただし,証拠調べの期日以外の期日については,裁判長におい
てその必要がないと認めるときは,その経過の要領を記録上明らかにするこ
とをもって,これに代えることができるものとする(家事事件手続法第46
条参照)。
(8) 審理の終結
裁判所は,申立てが不適法であるとき又は申立てに理由がないことが明ら
かなときを除き,相当の猶予期間を置いて,審理を終結する日を定めなけれ
ばならないものとする。ただし,当事者双方が立ち会うことができる期日に
おいては,直ちに審理を終結する旨を宣言することができるものとする(家
事事件手続法第71条参照)。
(9) 裁判日
裁判所は,(8)の規律により審理を終結したときは,裁判をする日(裁判日)
を定めなければならないものとする(家事事件手続法第72条参照)。
22 中央当局と裁判所との関係等
① 本手続の申立てに係る事件が係属した場合には,当該裁判所は,その旨を
中央当局に通知するものとする。
② 本手続に必要な資料収集に当たっての,中央当局による協力・調査の方策
については,なお検討するものとする。
③ 本手続の開始の日から6週間以内に子の返還を求める申立てについての裁
判がされない場合には,我が国の中央当局又は当該手続の申立人は,司法当
- 11 -
局に対し,遅延の理由の説明を求めることができるものとする。
(注)遅延の理由の説明をする場合のルートの詳細については,ハーグ条約第11条第2
項の解釈を踏まえて,なお検討するものとする。
④ 本手続が終了した場合には,裁判所は,その旨を中央当局に通知するもの
とする。
(後注)中央当局による裁判記録の閲覧等の規律については,なお検討するものとする。
23 子の意思の把握
裁判所は,子の陳述の聴取,家庭裁判所調査官による調査その他の適切な方
法により,子の意思を把握するように努め,裁判をするに当たり,子の年齢及
び発達の程度に応じて,その意思を考慮しなければならないものとする(家事
事件手続法第65条参照)。
24 裁判所及び当事者の責務
裁判所は,手続が公正かつ迅速に行われるように努め,当事者は,信義に従
い誠実に手続を追行しなければならないものとする(家事事件手続法第2条参
照)。
25 ハーグ条約第14条関係
ハーグ条約第14条の規定を担保するための規定は,設けないものとする。
26 ハーグ条約第15条関係
裁判所は,申立人が,子が常居所を有していた国の当局から子の連れ去り又
は留置が不法であることの証明書を得ることができる場合には,申立人に対し,
その証明書の提出を求めることができるものとする。
27 ハーグ条約第16条関係
親権者若しくは監護者の指定若しくは変更又は子の引渡しについての裁判が
係属している場合において,当該裁判が係属している裁判所にハーグ条約第3
条第1項に規定する子の不法な連れ去り又は留置があったことの通知がされた
- 12 -
ときは,当該裁判所は,ハーグ条約に基づく子の返還がされないことが決定さ
れるまでの間,その判断をしてはならないものとする。ただし,子の返還を求
める申立てが相当の期間内にされない場合は,この限りではないものとする。
(注)ハーグ条約第3条第1項に規定する子の不法な連れ去り又は留置があったことを,
親権者若しくは監護者の指定若しくは変更又は子の引渡しについての裁判が係属してい
る裁判所に通知する方法については,なお検討するものとする。
28 ハーグ条約第17条関係
ハーグ条約第17条の規定を担保するための規定を設けるものとする。
29 裁判
(1) 返還命令の主文
主文については,基本的に裁判実務における運用に委ねるものとするが,
具体的な在り方については,なお検討するものとする。
(2) undertaking
いわゆるundertakingを可能とするための特別の規律は,設けないものとす
る。
(注)諸外国では,子の返還の前提として,又は子の返還の実現を図る目的で,子の返還
に関連する事項(例えば,申立人が,相手方と子が,子が常居所を有していた国へ帰
国する旅費を支払うことや,子が常居所を有していた国において相手方と子のための
住居を確保すること)について,当事者が義務を負うことを裁判所(通常は,子の返
還を求める申立てに係る事件が係属する裁判所)に約束し,裁判所が,返還命令と一
体のものとして,又は別の命令として,その履行を命ずることがある。このような約
束又は履行の命令を,一般にundertakingと呼んでいる。
30 裁判の効力の発生
子の返還を求める申立てについての裁判は,確定しなければその効力を生じ
ないものとする(家事事件手続法第74条第2項参照)。
31 裁判の取消し等
- 13 -
【甲案】
裁判所は,子の返還を命ずる裁判が確定した後,事情の変更により,当該裁
判を維持することが不当と認めるに至った場合又は当該裁判を維持する必要性
が消滅した場合には,申立てにより,当該裁判を取り消し,又は変更すること
ができるものとする。ただし,子が常居所を有していた国に戻った後は,当該
裁判を取り消し,又は変更することができないものとする。
【乙案】
裁判所は,子の返還を求める申立てについての裁判が確定した後,当該裁判
を維持することが不当と認めるに至った場合又は当該裁判を維持する必要性が
消滅した場合(子の返還を求める申立てを却下する裁判については,裁判確定
後の事情変更による場合を除く。)には,申立てにより,当該裁判を取り消し,
又は変更することができるものとする。ただし,子が常居所を有していた国に
戻った後は,当該裁判を取り消すことができないものとする。
(注)取消し又は変更に期間制限を設けるものとするか否か等,取消し又は変更のための手
続の詳細については,なお検討するものとする。
32 取下げ
申立ては,その全部又は一部を取り下げることができるものとする。ただし,
子の返還を求める申立てについての裁判がされた後にあっては,相手方の同意
を得なければ,その効力を生じないものとする(家事事件手続法第82条第2
項参照)。
33 不服申立て
(1) 即時抗告
子の返還を求める申立てについての裁判に対しては,即時抗告をすること
ができるものとし,その具体的な手続等については,次のとおりとするもの
とする。
ア即時抗告権者
当事者に即時抗告権を認めるものとする。
(注)子に即時抗告権を認めるかどうかについては,なお検討するものとする。
- 14 -
イ即時抗告の期間
即時抗告の期間は,2週間とし,裁判の告知を受けた日から進行するも
のとする。
ウ抗告審の手続
抗告審の手続については,原裁判所による即時抗告の不適法却下,抗告
裁判所の裁判長による抗告状審査権,原審の当事者等への抗告状の写しの
原則送付及び必要的陳述聴取等,基本的に第一審の手続の規律に相当する
規律を設けるものとする(家事事件手続法第87条から第89条まで,第
93条等参照)。
(2) 特別抗告及び許可抗告
最高裁判所に対する不服申立てとして,特別抗告及び許可抗告を認めるも
のとし,その具体的な手続については,民事訴訟法の特別抗告及び許可抗告
の規定(同法第336条及び第337条参照)に相当する規律を設けるもの
とする。
(注)特別抗告及び許可抗告については,民事訴訟法や家事事件手続法における場合と同
様に,執行停止の効力は一般的には認めないものとし,執行停止を要する事案につい
ては,個別に執行停止の裁判により対応するものとすることを前提としている(民事
訴訟法第334条第2項,家事事件手続法第95条及び第98条第1項等参照)。
(3) 手続的な裁判に対する不服申立て
手続的な裁判に対する不服申立てについては,特別の定めがある場合に限
り即時抗告をすることができるものとした上で,即時抗告の期間は,1週間
とし,原則として執行停止の効力はなく,原審の当事者等に対する抗告状の
写しの送付や陳述聴取は,必要的ではないものとする規律を設けるものとす
る(家事事件手続法第99条,第101条及び第102条参照)。
(4) 再審
本手続においては,再審を認めるものとし,その具体的な手続については,
民事訴訟法の再審の規定に相当する規律を設けるものとする。ただし,子が
常居所を有していた国に戻った後は,再審を認めないものとする。
34 子の返還の実現方法
- 15 -
子の返還を命ずる裁判の強制執行については,間接強制を認めるものとする。
ただし,他の方法についても,その実現可能性を含めて,なお検討するものと
する。
35 調停・和解
本手続における調停・和解の在り方については,なお検討するものとする。
(注)当事者の自主的な話合いの手続としては,他に民間型ADRの活用が考えられる。
36 保全的な処分
子の返還を求める申立てに係る事件が係属する裁判所が,返還を求める子の
安全を確保し,子の国外への連れ去りを防止するために必要な保全処分(例え
ば,出国禁止命令や旅券の一時保管命令)を命ずることの適否及びその規律に
ついては,なお検討するものとする。
37 裁判官ネットワーク
ハーグ条約の実施に当たっての諸外国の裁判官との連携については,今後の
運用に委ねるものとするが,その連携の在り方については,なお検討するもの
とする。
第2 子の返還事由・返還拒否事由
1 子の返還事由
子の返還事由については,次の①から⑤までとし,これらが全て認められた場
合には,2の場合を除き,子の返還を認めるものとする。
① 子が16歳に達していないこと。
② 子が我が国に現在すること。
③ 子が我が国以外の条約締約国に常居所を有していたこと。
④ 子が常居所を有していた国の法令の下で,申立人が監護権を有しており,か
つ,子の連れ去り又は留置が当該監護権を侵害すること。
⑤ 子の連れ去り又は留置の時に申立人が現実に監護権を行使していなかった場
- 16 -
合には,当該連れ去り又は留置がなければ申立人が現実に監護権を行使してい
たであろうこと。
2 子の返還拒否事由
(前注)①から⑥までの子の返還拒否事由が認められたとしても,裁判所は,具体的な事案に
おける事情を勘案し,なお裁量により返還を認める余地があることを前提としている。
子の返還拒否事由については,次の①から⑥までとし,これらのうちの一つが
認められた場合には,子の返還を拒否することができるものとする。
① 子の返還を求める申立てが子の連れ去り又は留置の時から1年を経過した後
にされたものであり,かつ,子が新しい環境になじんだこと。
② 子の連れ去り又は留置の時に申立人が現実に監護権を行使していなかったこ
と。
③ 申立人が子の連れ去り又は留置の前にこれに同意し,又はその後にこれを承
諾したこと。
④【甲案】
次に掲げる事由のいずれかがあること。
a 子が申立人から身体に対する暴力又はこれに準ずる心身に有害な影響を及
ぼす言動(以下「暴力等」という。)を受けたことがあり,子が常居所を有
していた国に子を返還した場合,子が更なる暴力等を受ける明らかなおそれ
があること。
b 相手方が申立人から子が同居する家庭において子に著しい心理的外傷を与
えることとなる暴力等を受けたことがあり,子が常居所を有していた国に子
を返還した場合,子と共に帰国した相手方が子と同居する家庭において更な
る暴力等を受ける明らかなおそれがあること。
c 相手方以外の者が子が常居所を有していた国において子を監護することが
明らかに子の利益に反し,かつ,相手方が子が常居所を有していた国におい
て子を監護することが不可能又は著しく困難な事情があること。
d その他子が常居所を有していた国に子を返還することが,子に対して身体
的若しくは精神的な害を及ぼし,又は子を耐え難い状況に置くこととなる重
大な危険があること。
- 17 -
【乙案】
子が常居所を有していた国に子を返還することが子に対して身体的若しくは
精神的な害を及ぼし,又は子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があ
ること。
その認定に当たっては,以下の事情等を考慮するものとする。
a 子が常居所を有していた国に子を返還した場合,子が申立人から身体に対
する暴力又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動(以下「暴力等」
という。)を受けるおそれの有無
b 子が常居所を有していた国に子を返還した場合,子と共に帰国した相手方
が子と同居する家庭において子に心理的外傷を与えることとなる暴力等を受
けるおそれの有無
c 相手方以外の者が子が常居所を有していた国において子を監護することが
子の利益に反し,かつ,相手方が子が常居所を有していた国において子を監
護することが困難な事情の有無
(注)【甲案】は,関係閣僚会議(平成23年5月19日開催)で了承された「「国際的な
子の奪取の民事上の側面に関する条約」(ハーグ条約)<条約実施に関する法律案作成
の際の了解事項>」を踏まえ,aからcまでのいずれかの事由が認められれば,子に重
大な危険があるとして,子の返還拒否事由に該当するとの考え方である。もっとも,各
要件を掲げることの適否や具体的な規定の仕方については,なお検討するものとする。
これに対し,【乙案】は,上記関係閣僚会議の了解事項を踏まえたものであるが,子
の返還拒否事由としては,「子に重大な危険があること」とし,aからcまでの事由(【甲
案】のaからcまでに相当する事由)を,子に重大な危険があるかどうかを判断するた
めの考慮要素として例示する考え方である。
⑤ 子が返還されることを拒み,かつ,子がその意見を考慮に入れることが適当
である年齢及び成熟度に達していること。
⑥ 子の返還が我が国における人権及び基本的自由の保護に関する基本原則によ
り認められないものであること。
第3 面会交流関係
- 18 -
ハーグ条約第21条に規定する接触の権利(rights of access)については,ハ
ーグ条約に特有の裁判手続に関係する規律は設けないものとする。
以上
13年前