元裁判官・渡邊正則:親権者法私案

参 考 資 料

 以下の法案は、現行法の不備を是正するために今後立法すべき内容として強く推奨する、私が起案した私法案である。

 

親 権 者 法(私 案)

 

我が国の旧来からの単独親権の制度は、今日の離婚率の上昇に鑑み、離婚が両親と子供との関係の断絶を生み、単独親権者により子供が他方の親と離別させられる原因の一つとなり、子供が両親の離婚後も両親との十分な接触により育成されるべき健全な親子関係の構築を損ない、引いては円満な親子関係の維持継続を害するものとなっている。この親子間の断絶の事態の発生を家庭の崩壊の有無にかかわらず防止した上、親の離婚後も離婚が子供に与える悪影響を出来る限り排除して、親子の本来のあるべき関係を築き、もって子供が健全に育つ環境を守るために本法を制定する。

 

第一条 (離婚又は認知の場合の親権者)

① 父母が協議上の離婚をするときは離婚後の子の親権は父母が共同してこれを行使する。

② 前項の場合には父母のどちらかを子の監護権者と指定しなければならない。子の監護権者以外の親権者は子の監護以外の事項について共同して親権を行う。

③ 子は監護権者の監護に服する。監護権者は他の親権者を年に相当の日数、希望により監護権者の立ち会い無く子に面会させなければならない。その日数は年間70日以上の同宿を含めた年間150日、午後11時から午前7時までの夜間を除き1日6時間を下回ることが出来ない。但し、日数の計算は時間を問わず面会を開始した日の午前零時から別れた日の翌日の午前零時までの暦日の累積で計算する。なお、この期間は自由な意思による権利放棄により短縮することができる。

④ 子を他方の親の同意なく連れ去った場合にはその者は親権を失う。

⑤ 前項の連れ去りはドメスティックバイオレンス(以下「DV」という)を理由とすることが出来ない。DVを理由として子を連れ去った者は親権を失う。DV法による保護命令を離婚の際に得た者は本法の適用においてはこれをDVを理由として子を連れ去った者とみなす。但し、DVが明白で客観的な証拠により証明された場合はこの限りではない

⑥ 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、父母が共同してこれを行う。なお、子の出生後に、父母の協議で母を親権者と定めることが出来る。

⑦ 父が認知した子に対する親権は父母が共同してこれを行う。この場合には前項後段の規定を準用する。

⑧ 第二項の監護権者指定または第三項の面会の協議が調わないときは家庭裁判所は父母の一方の申し立てにより協議に代わる審判をすることが出来る。この審判においては子に対する監護の意思の深浅と子の自由な意思を最大限考慮することを要し、また明白で客観的な証拠のないDVを根拠とすることが出来ない。

⑨ 子の利益のために必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、監護権者を他の一方に変更することが出来る。但し、監護の意思の深浅と子の自由な意思を最大限考慮することを要し、また明白で客観的な証拠のないDVはこれを根拠とすることが出来ない。

監護権者が第三項の他の親権者と子との面会を多数回に亘り正当な理由無く拒否した場合も前段と同様とする。この場合には特段の正当事由が無い限り監護権者変更はこれを許す。また正当な理由にはDVを根拠とすることができない

 

第二条(子の引き渡し命令)

① 子を権限無く養育する者は速やかに子を監護権者に引き渡す義務を負う。

② 債務者が二ヶ月を超えない相当な期間内に子の引き渡しに応じない場合にはこれを刑法二二四条(略取誘拐罪)の不作為犯と見なす。

③ 同意無く子を連れ去られた者は子の住所地又は債権者の住所地を管轄する家庭裁判所に子の引き渡し命令を求めることが出来る。子の引き渡しには間接強制の外やむを得ない場合には執行官による直接強制をすることが出来る。警察官はこれに協力する義務を負う。子の引き渡し命令の発令の当否に当たってはDVはこれを根拠とすることが出来ない。

 

第三条(親権者に対する子の所在情報等隠蔽の禁止)

① 親権者に対しては子の所在情報取得に対して一切の制約をすることができない。

② 子の所在地を親権者に対して無断で変更し、または子の情報を親権者に対して隠蔽した者は十年以下の懲役に処する。

③ 警察は所在の不明な子について親権者の申し立てにより子の所在を確認したうえその所在情報を親権者に対して提供する義務を負う。

 

第四条(子の遡及的連れ戻し)

① 本法施行以前に既に子を連れ去った者は親権者及び監護権者となる資格を失う。

④ 本法施行以前になされた離婚後の子を対象とする養子縁組はこれを無効とする。但し、改めて親権者双方の同意で新たに養子縁組をすることを妨げない。この場合には子の意思を最大限尊重しなければならない。

③ 第一条第五項、第二条、及び第三条の各規定は本条にこれを準用する。

 

第五条(準用)

本法は婚姻の取り消し及び裁判上の離婚にこれを準用する。

 

第六条(民法の廃止等)

① 民法第八一九条はこれを廃止する。

⑤ 民法八二〇条及び八二一条の「親権を行う者」はこれを「監護権者」とする。

 

第七条(遡及適用)

本法は平成元年一月一日の前日まで遡及してこれを適用する。なお、第四条の本法施行日は現実の施行日を指し、第四条と本条とは併存してこれを適用する。

以上

 

平成23年2月8日

作成者          元裁判官・弁護士

渡 邊 正 則

13年前