西日本新聞:ハーグ条約と親権 弁護士に聞く 「共同」への突破口に 批准と分けて議論を

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ハーグ条約と親権 弁護士に聞く 「共同」への突破口に 批准と分けて議論を

2011年06月30日 15:31

〈ハーグ条約〉

国際結婚が破綻した後、一方の親が無断で子どもを国外へ連れ去り、もう一方の親が会えなくなる事態に対処するための条約。加盟国は子どもの返還を求められた場合、居場所を調べて元の在住国に戻す義務を負う。欧米を中心に80カ国以上が加盟。これまで日本は、外国人配偶者の暴力に耐えかねて、日本人妻が子どもと一緒に帰国するケースが少なくないことや、文化、家族観、親権制度の違いから批准に慎重だった。一方で国際離婚が増える中、「日本人に子を奪われた」と問題になっている事例が約200件にのぼり、日本は欧米各国から早期加盟を求められていた。

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このハーグ条約について、政府は5月に加盟方針を決め、来年の通常国会への関連法案提出を目指すことにした。関係があるのは国際結婚をしている人だけのようだが、離婚後の親子関係をどう築くか、親の権利と子どもの利益をどう考えるか-といった家族のあり方そのものの問題も浮かび上がる。特に影響が出そうなのが「親権」だ。その点について、福岡市の弁護士2人に見解を聞いた。

条約に加盟する欧米諸国の多くは「共同親権」を採用している。離婚後も子どもの成長に両親とも責任を持ち、子どもは母と父の間を頻繁に行き来する。日本は「単独親権」で、大半は母親が親権を取ってきた。

「日本に住んでいて、外国に子どもを連れ去られた側にとっては、共同親権の方が訴えやすい」と指摘するのは、条約批准に肯定的な田邊俊弁護士。これまで国際離婚や外国人配偶者の面接交渉を手掛けてきた経験を踏まえ、批准が共同親権を認める法改正につながる可能性もある、とみる。

「単独親権だと、親権がないので連れ去られても訴えにくい。そういった観点からも、批准を突破口に共同親権を求める流れは出てくると思う」

また、日本では離婚後の親子の交流に関する規定が整備されていないことも問題視する。「親権を持つ親が面接交渉を拒否したら、一方の親は事実上、会う手段がなくなってしまう。そうした現状はおかしい」

最近は離婚の相談で、父親が親権を求めるケースが増えており、田邊弁護士は「条約批准が『子どもは母親が育てるもの』という考えを見直す機会にもなれば」と話していた。

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「親権の問題は、日本の家族法の枠組みを大きく変える。条約批准の賛否とは区別して、国民の議論が必要だ」と主張するのは、批准に否定的な相原わかば弁護士。特に、批准を突破口にして共同親権を認める民法改正を国に求める動きを警戒する。

実際に、元の居住国に戻すよう規定したハーグ条約を、国内における連れ去りや奪い合いに当てはめ、母親が別居時に子どもを連れて実家に戻ることを違法にすべきだ、という論調もあるという。

「条約が問題にしている事案と同列に考えると、ドメスティックバイオレンスや虐待を受けて、自身や子どもの安全を守るために家を出ることが阻まれ、逃げ道がなくなってしまう」

日本と欧米諸国では、離婚後のサポート態勢に大きな差がある。離婚後も両親が子に関わる欧米では、面会時のルールや条件が詳細に決められ、裁判所などの関与が続く仕組みがある。日本では、離婚後までフォローする公的機関や民間団体は皆無という。

「システムが未整備のまま、共同親権という理念だけを導入するのは弊害が大きい」と警鐘を鳴らす。

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ハーグ条約の批准を決めた政府は今月上旬、子どもの返還に必要な裁判手続きなど国内法の整備について、法制審議会に諮問した。一方で、親権をはじめ課題も山積しており、日本弁護士連合会も拙速を避けるよう求めている。十分な議論と慎重な法整備が必要だ。

=2011/06/30付 西日本新聞朝刊=

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