国際「親権」問題 ハーグ条約加盟へ懸念払拭を(6月14日付・読売社説)
国際結婚の破綻で、両親が国を隔てて子どもの親権を争うケースにどう対応するか――。
政府が、その解決のための国際ルールであるハーグ条約加盟に向け、関連する国内法の整備に入った。
来年にも加盟が実現すれば、一歩前進と言えよう。政府は法整備の際、日本人の権利が一方的に損なわれないよう配慮すべきだ。
「国際的な子の奪取の民事面に関するハーグ条約」は、16歳未満の子どもを、一方の親が無断で外国に連れ去ることを禁じている。居住国から出国した子どもの返還を親が求めた場合、条約加盟国は原則、協力する義務を負う。
親権争いは、元居住国の裁判で決着させるのが、子どもに望ましいとの考え方によるものだ。加盟国は80を超す。日本は欧米各国から加盟を求められていた。
米国では、離婚した日本人が、子どもを連れて帰国し、トラブルとなった事例が約100件に上る。日本が未加盟のため、外国人の親は、子どもの返還どころか、面会もしづらい。
このため、欧米の司法当局は、離婚した日本人に子連れでの帰国を禁じたり、無断で子どもと帰国した母親を「誘拐犯」と見なしたりすることがある。
逆に、日本から子どもが外国に連れ去られても、日本人の親は相手国の協力を期待できない。
条約に加盟すれば、政府間で国際ルールに基づき、こうした問題の解決を図ることになる。
条約は、返還拒否の条件として「子どもに身体的、精神的な害がある」ことなどを挙げている。だが、配偶者間の家庭内暴力(DV)については言及していない。
日本が加盟を長年見送ってきたのは、外国人の元夫によるDVが原因で、日本人の母親が帰国するケースが多かったからだ。母親には、子ども連れで同じ環境に戻ることへの懸念が強い。
返還の是非は、子どもが現にいる国の裁判で決まる。政府は、DVの恐れがあれば、返還を拒否できる仕組みを関連法案に盛り込む考えだ。妥当だろう。
加盟後は、外務省が、日本に連れ戻された子どもの居場所の特定や、裁判手続きの手助けといった役割を担う。外務省には不慣れな国内業務が多い。政府内の連携が欠かせない。
親権を巡る裁判は、元の居住国で行われるため、不安を抱く日本人の母親は多い。在外公館が、現地の弁護士を紹介するといった支援を行うことも必要だ。
(2011年6月14日01時20分 読売新聞)