宮崎日々新聞:ハーグ条約加盟

ハーグ条約加盟

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■当事者の不安に十分配慮を■

国際結婚の破綻で一方の親が子どもを国外に連れ出したときにどう対処するかを定めた「ハーグ条約」について考えたい。

条約加盟国は欧米を中心に80カ国を超える。G8で未加盟は日本とロシアだけだ。国際社会から早期加盟を強く迫られており、日本政府は国内法整備などの作業を急いでいる。

この条約は「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」が正式名称で、1983年に発効した。

離婚後に一方の親が子ども(16歳未満が対象)を連れて帰国したようなケースで、もう一方の親が不法に連れ去られたとして返還を申し立てると、いったん子どもを元いた国に戻すのを原則としている。

■5億円の賠償命じる■

その上で、親権などの争いを元の国の裁判所で決着させる仕組みだ。加盟国は子どもの居場所を捜すなど返還に協力する義務を負う。

国際結婚の破綻と紛争が増える中、多くの国と同じ土俵で問題解決に取り組むことに異論はない。

ただ元夫の家庭内暴力(DV)や虐待から逃れるため子どもを連れ出さざるを得なかったという母親たちもいる。加盟に至るまでの過程で、当事者の不安に十分配慮するよう求めたい。

紛争の中で、09年に福岡県で起きた事件が注目を集めた。日本人の元妻が米国から連れ帰った子ども2人を米国人の元夫が取り戻そうとして警察に逮捕された。

米国務省は「元妻による誘拐」と非難。元夫は米国の裁判で、定期的な面会など離婚時の合意に反したとして元妻に5億円近い賠償を命じる判決を手にした。

■原因に親権制度違い■

ここまでこじれた原因の一つは、親権制度の違いにある。日本は離婚後に一方の親(多くの場合、母親)に親権を与える「単独親権」で、親権のない親による子どもとの面会は保証されていない。米国など諸外国は、両方の親が親権を持つ「共同親権」が一般的だ。

さらに子どもを連れ帰った母親たちの多くがDV被害などを訴えたことも、政府にハーグ条約加盟をためらわせた。

だが未加盟のままでは、日本から子どもが連れ出されたケースで手を打てない。

このほど閣議了解された加盟方針決定の際には、連れ出した親が刑事訴追される恐れがあったり、背景にDVがあったりする場合は返還を拒否できる―などを法整備の柱に据えた。

それでも、加盟後に返還申し立てがあれば、当事者は厳しい紛争と向き合うことになる。

子どもと引き離されないか。DVの証拠をどう確保し、どのように立証すればいいのか。単独親権と共同親権の隔たりをどう埋めるか。不安は尽きないだろう。

不安の元をできる限り取り除いておきたい。

13年前