福井新聞:ハーグ条約加盟 当事者不安に配慮求める

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ハーグ条約加盟 当事者不安に配慮求める

 国際結婚の破綻で一方の親が子どもを国外に連れ出した場合の対処を定めた「ハーグ条約」への加盟方針が閣議了解され、先の主要国(G8)首脳会議で菅直人首相がオバマ米大統領らに方針決定を伝えた。多くの国と同じ土俵で問題解決に取り組むことに異論はない。ただ元夫の家庭内暴力(DV)や虐待のため連れ出さざるを得なかった母親たちもおり、加盟に向けては当事者の不安に十分な配慮を求めたい。

 政府は今後、国内法整備などの作業を進める中で、どのような場合に返還を拒めるかなど、一連の手続きに関する丁寧な説明が欠かせない。文化や制度、言語の違いから弱い立場の海外在住日本人に対する情報提供と支援にも取り組むべきだ。

 条約は「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」が正式名称で、1983年に発効。離婚後に一方の親が子ども(16歳未満対象)を連れて帰国したようなケースで、もう一方の親が返還を申し立てると、いったん子どもを元いた国に戻すのを原則としている。その上で、親権などの争いを元の国の裁判所で決着させる仕組みだ。加盟国は子どもの居場所を捜すなど返還に協力する義務を負う。欧米を中心に84カ国が加盟。G8で未加盟は日本とロシアだけで、早期加盟を迫られていた。

 厚生労働省の人口動態調査では、1965年に4100件余りだった国際結婚は83年に1万件を突破。その後も増え続け、2006年がピークで4万4701件に達した。離婚は1998年に1万件を超え、2002年から05年は1万5千件余りで推移したが、09年には1万9404件に上った。

 09年に福岡県で起きた事件が注目を集めた。米国から日本人の元妻が連れ帰った子ども2人を、元夫が取り戻そうとして警察に逮捕された。米国務省は「元妻による誘拐」と非難。米国の裁判で今月、定期的な面会など離婚時の合意に反したとして元妻に5億円近い賠償を命じた。親権制度の違いがこじれた原因の一つ。日本は離婚後に一方の親(多くの場合、母親)に親権を与える「単独親権」で、親権のない親による子どもとの面会は保証されていない。米国などは両方の親が親権を持つ「共同親権」が一般的だ。

 さらに子どもを連れ帰った母親たちの多くがDV被害などを訴えたことも、政府に条約加盟をためらわせた。だが未加盟のままでは日本から子どもが連れ出されたケースで手を打てない。今回の方針決定に当たり、連れ出した親が刑事訴追される恐れや、背景にDVがあったりする場合は返還を拒否できる―などを法整備の柱に据えている。

 とはいえ、加盟後に返還申し立てがあれば当事者は厳しい紛争と向き合うことになる。子どもと引き離されないか。DVの証拠をどう確保しどのように立証すればいいのか。尽きない不安を少しでも取り除くべきだ。

13年前