5月22日付 ハーグ条約加盟 国内法の整備に万全期せ
政府が、国際離婚した夫婦間の子どもの扱いを規定した「ハーグ条約」に加盟する方針を決め、新法の立案作業に着手した。法制審議会での議論を経て、年内にも関係法案を国会に提出する方針だ。
ハーグ条約は、離婚した夫婦の一方が無断で連れ帰った子どもを元の居住国に戻し、親権争いを決着させる手続きを定めたものだ。1983年の発効後、欧米など84カ国が加盟しており、先進7カ国で未加盟なのは日本だけである。
しかし、子どもを元の国に返還すれば、親から再び虐待などを受けるケースも少なくないという。親の勝手で子どもが振り回されたり、危険な目に遭ったりすることがないよう、政府は国内法の整備に万全を期さなければならない。
政府が条約に加盟する方針を決めたのは、国際結婚の増加に伴い子どもの親権をめぐるトラブルが相次いでいるからだ。2009年には、日本の女性が連れ帰った子どもを取り戻そうとした米国人の元夫が未成年者略取容疑で福岡県警に逮捕される事件も起きている。
日本の親が子どもを連れ帰るケースがある一方、外国人の親が日本から子どもを連れ去る問題も発生している。国をまたいだトラブルを解決するために、条約の早期批准は政府に課せられた責務だろう。
国内法を整備する際に課題となるのは、日本人の母親が夫の暴力から逃れて子連れで帰国したケースなどへの対応である。条約に基づき子どもを元の国に戻せば、母子がまたも暴力にさらされかねない。
このため、政府は20日に閣議了解した法案の骨子に、子どもを国外に連れ出す理由が家庭内暴力によるものだったり、連れ出した親が元いた国で刑事訴追される場合は子どもの返還を拒否できる、などと明記した。極めて妥当な配慮である。
ただ、条約に基づき子どもの返還を命じられるケースは主要加盟国で7割に上るという。国内法への規定で「返還拒否」がどれだけ保障されるのか懸念する声もある。加盟後に混乱を来すことがないよう、法制審議会などの場でしっかりと議論してもらいたい。
条約への加盟は、米国やフランスなど欧米各国から再三にわたり要請されていた。だが、国内には慎重意見も根強く残っている。親権に対する考え方が日本と欧米で異なることが、大きな理由の一つだ。
欧米では離婚した両親がそれぞれ親権を持つ「共同親権」が一般的なのに対し、日本は単独親権制度を取っている。このため、日本人の親による子どもの連れ帰りが事実上容認され、離婚後の親子の交流に関する規定もない。ここに国際離婚をめぐるトラブルの根がある。
法務省は「共同親権は日本になじみが薄く、子どもの奪い合いが一層激しくなる恐れがある」として、加盟後も単独親権制度を維持していく方針だ。だが、国際ルールとの整合性で不安を感じる親は少なくない。
条約への加盟はグローバル時代の要請でもある。政府に必要なのは、国民の不安解消に向けた十分な議論と丁寧な説明だろう。