社説
ハーグ条約 国際離婚の子を守ろう(5月29日)
国際結婚の増加に伴い、離婚後に子供の親権などをめぐる両親の間の争いも増えている。
子供を勝手に連れ去ったとして、海外から日本政府に約200件の訴えが寄せられている。
政府は、国際結婚が破綻した夫婦間の子供の扱いを定めたハーグ条約に加盟する方針を決めた。
今後、加盟に必要な国内法の整備に取り掛かる。最優先に考えるべきは、子供の利益である。
条約は、離婚した夫婦のどちらかが無断で16歳未満の子を海外に連れ出した際、子をいったん元の居住国に戻すまでの手続きを定めている。
連れ出した親が住む国の政府は、もう一方の親の申し立てに応じ、返還に協力しなければならない。
親権や面会権など子の養育に関する問題は、子が育った国で判断するのが望ましいとの考えに基づく。
条約は1983年に発効した。現在、欧米を中心に84カ国が加盟しており、主要国(G8)で未加盟なのは日本とロシアだけだ。アメリカやフランスなどから早期加盟を求められてきた。
条約に未加盟のままだと、子供連れで日本に帰った親が元の居住国に戻ったときに誘拐罪などで摘発される恐れもある。
欧米など多くの国が離婚後も両親に親権を認めているのに対し、わが国では片方の親にしか親権を認めていない。親権に関する考え方の違いが、争いの背景にあるだろう。
だが大人の都合で、子供が父母双方と自由に面会できない事態は解消すべきだ。加盟自体は妥当な判断ではないか。
ただ、課題も残る。元夫の家庭内暴力から自分や子供を守るために、日本に帰国した女性が少なからずいることだ。わが国がこれまで条約に加盟しなかったのも、こうした邦人を保護するためという。
条約では子供を返還しなくてもいいケースとして「子供の心身に重大な危険を及ぼす場合」と規定するが、何が重大な危険なのかまでは記していない。
政府は国内法の骨子案に、返還の例外として、児童虐待の恐れがある場合を挙げた。当然のことである。法案にはそれを明確に盛り込んでもらいたい。
親や子供本人が引き渡しに抵抗した場合なども想定して法案を策定してほしい。
国際間だけではなく、日本人同士の離婚でも、親権を失った親が子供を連れ去ったり、面会を拒否されてトラブルに発展したりする例がある。条約加盟方針を機に、国内での親権のあり方なども考えたい。