毎日新聞:記者の目:「ハーグ条約」加盟の方針決定=反橋希美

この記事には基本的な条約の認識に対する誤りがあります。
反橋記者は、条約について
「条約は、離婚などで一方の親に無断で子が国外に連れ出された場合、子を元の居住国に戻して扱いを決めるものだ。」
と述べていますが、この説明は意図的な情報操作です。でなければ勉強不足です。
条約は、「不法に」子どもが国外に連れ出された場合、子を元の居住国に戻して扱いを決めるというものです。
「子の不法な連れ去り又は拘束から生ずる有害な結果から子を国際的に保護すること、
その常居所地国への迅速な返還を保障する手続きを確立すること及び
面接交渉権の保護を確保することを希望して」
と前文に明記されています。
つまり、ハーグ条約対象者はすべて元の国では不法行為を働いた人です。
それが刑事罰であろうがなかろうがその点についてはきちんと認識しなくてはいけません。

例外事例はあるのはたしかでしょうが、
日本人は不法行為を働かない、暴力の加害者とはならないという前提の議論はまったく意味をなしません。

条約加盟時の論点は、
監護権者に無断で子どもを連れ去ることを「不法」とするか否かです。
その点について意図的に文言をすりかえているなら悪質ですし、
そうでないなら、いったいこの記者は何を取材してきたのでしょうか。
こういった議論はそろそろ終わらせるべきだと思います。

日本でももちろん離婚前の共同親権時に子どもが連れ去られます。
そのことは居所指定権の侵害という点で、不法行為でもありますが、
そのことについて、日本の弁護士は「いいんじゃない」という程度の
認識で親子を引き離してきました。

いつまでも、日本のやり方がいいという論調は、
子どもを持っている親がいい親という前提と同じで根拠がありません。

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記者の目:「ハーグ条約」加盟の方針決定=反橋希美

 国際結婚が破綻した夫婦の16歳未満の子の扱いを定めた「ハーグ条約」。政府は加盟方針を決め、賛否両論巻き起こっている。私も国際結婚ではないが離婚歴があり2人の子を育てている。さまざまな思いを抱え、子を連れて帰国した母親らのことは人ごとではないが、現段階では加盟はベターな選択だと考えている。
 ◇国際結婚破綻 子の扱いを規定

 条約は、離婚などで一方の親に無断で子が国外に連れ出された場合、子を元の居住国に戻して扱いを決めるものだ。連れ出された方の親が子の返還や面会交流を申し立てれば、相手国は子の居所を探し協力するが、ここでは、どちらが子の監護に適しているか審理はしない。

 日本政府が加盟を決めたのは、近年、離婚後の子を巡る国際間のトラブルが急増しているからだ。外務省によると「日本人の母に子を連れ去られた」などと問題視されているケースはこれまでに約200件にのぼるという。

 日本は離婚後、一方の親しか親権を持てない「単独親権制」だが、欧米を中心とする加盟国では両親に親権を認める「共同親権制」が主流だ。離婚後、一方の親とかかわりがなくなることも多い日本と、両親との密接な交流が求められ転居や進学も元夫婦が協議して決める欧米。離婚観の隔たりが背景にある。

 離婚などで外国に子を残したまま帰国したり、日本に住んでいたのに子を国外に連れて行かれた日本人の親たちは、加盟を歓迎している。

 大阪市内に住む女性(38)は約3年前に米国人の夫と離婚し、当時10歳と5歳の息子を残して帰国した。元夫は「条約未加盟の日本に連れて帰られたら、二度と会えなくなる」と単独親権を主張。女性は経済的負担などから争えなかった。子供たちを自分の親に会わせたいが、元夫は日本への一時出国すら許さない。「加盟すれば元夫の態度が軟化するかも」と期待する。

 一方、加盟に反対するのは子を連れ帰った母たち。中でも深刻なのは、元夫のドメスティックバイオレンス(DV)や虐待から逃れて帰国した例だ。相手国に渡れば、母子が再びDVや虐待を受ける恐れがある。さらに、母が相手国で誘拐罪に問われているケースすらある。
 ◇元居住国へ返還 拒めるケースも

 条約には「元の居住国に戻すと子を耐え難い状況に置く重大な危険がある」と、連れ去った親が証明できれば、例外的に返還を拒める規定がある。日本にいる親子の場合、返還拒否できるかは日本の裁判所が判断することになる。

 だが、DV問題に詳しい吉田容子弁護士(京都弁護士会)は「『重大な危険』の認定基準が極めて狭い」と指摘する。条約事務局(オランダ・ハーグ)の03年調査でも、司法判断されたうち拒否が認められたのは約3割だった。

 日本政府は国内関連法を整備して「重大な危険」の基準を規定する方針だ。だが吉田弁護士は「条約上、DVや虐待があっただけでは例外事由にならない。他国では子への性虐待すら『深刻でない』と元の居住国に戻される例もある。日本も本当に子を守れる規定を定められるか疑問だ」と話す。

 それでも、私が「現段階で加盟はベター」と考える理由は二つ。まずは子を日本から国外に連れ出されたり、相手国に置いてきた親に、救済の道を開くから。さらに国内関連法の整備次第で、DV問題を抱える親子の問題も解決できる可能性があるからだ。

 子供を守れるかは、国内関連法で、どこまで弾力的な例外規定を設けるかにかかる。国際条約である以上、限度はある。だが、運用実態を精査し、当事者や子供の心理の専門家らの意見も聞き、せめて「性虐待が確認されたら返還を認めない」などギリギリの線を探るべきだ。同じ危機感を持ったスイスは例外規定を独自に定めている。日本も各国の理解を得られるよう努めるべきだ。不可能なら加盟撤回するぐらいの覚悟を持ってほしい。

 私は国内の離婚問題について昨年8月の当欄で「面会交流と養育費を決めてから離婚する制度にするよう」訴えた。5月末に成立した改正民法(1年以内に施行)で、離婚後の協議事項に養育費と面会交流が明文化されたことは、素直に評価している。ただ、これらがスムーズに履行されるには、面会交流施設や相談員の整備など、離婚後の親子のかかわりを支える仕組みが欠かせない。ハーグ条約加盟で、国際間の面接交流も増えることが予想される。今こそ社会のサポートを真剣に考える時だ。(大阪学芸部)

13年前