愛媛新聞5月26日(木)社説:ハーグ条約加盟へ 家族観の隔たりどう埋める

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社説:ハーグ条約加盟へ 家族観の隔たりどう埋める

国際結婚が破綻した夫婦のどちらかが不法に子どもを連れ去った場合、生活していた国にいったん戻すことを原則とする「ハーグ条約」に加盟する方針が閣議了解された。
菅直人首相はきょうからフランスで開かれる主要国(G8)首脳会議で加盟方針を表明。年内にも条約承認案と関係法案を国会に提出したい考えという。
ハーグ条約は「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」が正式名称で、1983年に発効。子どもの迅速な返還や、離婚後の親子の面会交流の権利保護の手続き整備などを求めている。今年1月現在、84カ国が加盟。G8では日本とロシアが未加盟だ。
国際結婚、離婚の増加に伴い、日本人女性が子どもを国へ連れ帰ることを欧米諸国が問題視。日米関係の懸案事項ともなり、日本は条約の早期加盟を迫られていた。
加盟は国際協調の上でもやむを得ない。だが子どもにとって返還が望ましいかどうかを第一に考えねばならない。
日本が加盟に慎重だった背景には、ドメスティックバイオレンス(DV)で子どもを連れ帰ったと訴える例が多かったことがある。これを受け法案の柱として、子どもを国外に連れ出す理由が子どもや配偶者へのDVの場合、返還を拒否できることも盛り込まれる見込みだ。
しかしDVの立証や、児童虐待の解釈の違いが壁となる懸念は残る。DVをめぐり加盟をためらう声は根強い。
また話し合いで解決しなければ、裁判所が原則6週間以内に返還の可否を判断する。返還申請は年間約1300件に上り、裁判所が半数に関与しているのが実態だ。
このため家庭裁判所での調停、審判、訴訟による解決と迅速な処理が必要になる。子どもの意思を尊重する手続き上の地位や、代理人制度の整備も検討課題となろう。激しい親権争いとなる前に、外国で法的措置を十分に取れるような支援策も求められる。
何より子どもの連れ帰りがここまで国際問題化した背景には、欧米との親権制度の違いが挙げられる。
欧米では離婚後も両親双方が親権を持つ共同親権が一般的。日本は片方が親権を持つ単独親権制度を取り、母親が親権者となる場合が多い。離婚後の親子の交流の権利を保障する規定もない。
国内でも共同親権にするよう民法改正を求める声は高くなってきている。
だが法務省は子どもの奪い合いが一層激しくなる恐れがあるなどとして慎重姿勢だ。
現状では「子どもを母親から引き離すのはかわいそう」との感情論にとどまりかねない。家族観の隔たりをどう埋めるか、加盟後も問い続けねばならない。

13年前