後藤富士子弁護士:DV生活保護受給と婚姻費用分担請求

DV生活保護受給と婚姻費用分担請求

2011年5月18日          弁護士 後藤 富士子

第1 夫婦の婚姻共同生活保持義務について
1 夫婦の同居・協力義務
憲法第24条1項は、婚姻は夫婦相互の協力により維持されなければならない旨を定め、民法第752条は、夫婦の同居義務、協力義務および扶助義務を定めている。すなわち、同居義務、協力義務を一方的に怠った配偶者が、他方に扶助義務を要求することが信義に反することは、法文上自明である。
しかるに、本件のように、妻が「DV被害者」を装って、ある日突然子どもを連れて行方をくらまし、弁護士を盾にして、離婚請求と婚姻費用分担請求を同時にしてくる「事件」が多発している。婚姻を破壊する妻にとって、夫婦の同居・協力義務は存在しないものであり、ただ婚姻費用分担請求権だけが存在するのである。しかも、このような場合、子どもを連れて行かなければ、婚姻費用分担請求が認められないことも熟知しているから、父子から収奪するために子どもを連れ去るのである。
そこで、この文脈の中で婚姻費用分担義務について検討する。
2 婚姻費用分担における夫婦平等原則
明治民法のもとでは、夫(または女戸主)が妻(または夫)の財産に対して使用収益権を持つ(旧799条)反面、婚姻費用を夫が負担すると規定されており(旧798条)、この分担者が無資力の場合に、夫婦相互の扶養義務(旧790条)の適用があると解釈されていた。これに対し、憲法24条の夫婦平等の原則に基づき、妻の財産に対する夫の使用収益権が廃止されるとともに、民法760条は婚姻費用についても夫婦が分担するものと改め、夫婦が平等の立場で、婚姻生活の維持・確保に共同責任を負うことを明らかにした。
そして、婚姻共同生活の存在する限り、婚姻費用分担が生活保持義務であることに異論はみられないが、婚姻費用の分担義務が法的問題として登場するのは圧倒的に夫婦が別居している場合についてである。しかも、離婚紛争の前哨戦として、離婚を請求する夫に対して別居中の妻が婚姻費用を請求するという事例が多く、夫婦関係の回復が困難な破綻状態にあることが多い(別冊法学セミナー基本法コンメンタール『親族』74~76頁参照)、というのがかつての実態であった。
しかるに、本件もその典型であるが、「ある日突然に妻が子を拉致して行方がわからない」状態で、弁護士を盾にして、離婚と婚姻費用を請求してくるという、全く法の想定外の事態である。夫にしてみれば、「何が何だか分からない」という状態で、離婚意思もなければ、別居の意思もない。妻子が戻ってくることを願っている。それが、善良な夫の姿である。ところが、そこにDV防止法が立ち塞がるのである。
すなわち、このような妻の行為は、その動機がどうであれ、婚姻を破壊するものにほかならない。したがって、夫婦が平等の立場で、婚姻生活の維持・確保に共同責任を負うとする婚姻費用の分担の前提を欠く。そして、婚姻破壊者である妻が無収入のため何ら婚姻費用を分担しないでおきながら、収入があるというだけの理由で無責の夫に婚姻費用を分担させるのは、夫婦平等を極端に逸脱している。

3 「扶養」と「婚姻費用の分担」
民法第752条は、夫婦の同居義務とともに、夫婦間の経済的義務として扶助義務(扶養義務)を定め、手続的には家事審判法第9条1項乙類1号審判の対象とされている。これに対し、民法第760条は、夫婦とその間に生まれた未成熟子を含めた婚姻生活の維持のための費用の分担義務を定め、手続的には家事審判法第9条1項乙類3号審判の対象とされている。
通説・判例は、両者は婚姻費用の分担と扶養というように概念的観念的には一応区別できるとしても、夫婦間扶養も未成熟子扶養も生活保持義務であるとして、本質的には同一であるとし、手続的にも差はないとしている。これに対し、両者を区別する見解があるが、なかでも、婚姻費用分担義務は婚姻共同生活の存在が前提であり、夫婦関係が破綻し、もはや婚姻共同生活の回復が期待できない場合は、婚姻費用の分担(生活保持義務)の問題ではなく、夫婦一方が生活に困窮しているならば、夫婦間の扶養(生活扶助義務=相手に最低生活費を保障すべき義務)の問題となるとの見解が比較的支持されている(別冊法学セミナー基本法コンメンタール『親族』74頁参照)。
また、未成熟子扶養についてみると、父母は親権の有無にかかわらず未成熟子(未成年者)に対して生活保持義務を負うので、未成熟子が自ら権利者(申立人)として(15歳未満であるときは法定代理人によって)、民法第877条以下・家事審判法第9条1項乙類8号「扶養に関する処分」事件の申立てにより扶養請求をすることができる。一方、民法第766条は、離婚後の子の監護に関する事項について規定しており、「子の監護について必要な事項」としては、監護者指定・変更、監護費用(養育費)分担、面接交渉、子の引渡などがあるが、いずれも家事審判法第9条1項乙類4号「子の監護に関する処分」事件とされている。
そうすると、「婚姻費用」は、夫婦間扶養と監護費用の合計となる。実務上、夫婦の一方が他方に対して行う生活費の請求に関して、婚姻費用分担審判の申立手続により処理することにほぼ統一されているのも、そのためである。
ところで、前記したように、本件では、妻が子どもを拉致同然に連れ去り、居所も秘匿し、父である夫を子どもにも会わせないで1年以上経過しているのであり、妻が失踪した時点で、いかなる意味でも婚姻関係は破綻していない。実在するのは、妻による婚姻関係・父子関係の破壊であり、妻は、夫婦同居義務を一方的に放棄して婚姻共同生活を破壊した配偶者である。
そこで、夫婦間扶養の問題として考えた場合、妻の夫に対する扶養請求が権利濫用であることは明白である。一方、妻によって拉致された子らの監護費用を妻から請求されることは、誘拐犯から「身代金」を請求されているに等しい。このように、夫婦間扶養と監護費用のどちらも「クリーン・ハンドの原則」に照らせば権利濫用であるのに、両方を合体させた「婚姻費用分担」になると、魔法のようにこの事情が消え去るのである。それは、家事審判官が、「破綻」の有無および「破綻」の原因について、実態を無視し、執務資料マニュアルにあてはめて行政処分をするからである。実際、本件のように、婚姻費用分担請求と離婚請求が同時に行われるケースでは、裁判上の離婚原因がない場合が多い。ちなみに、破綻主義を徹底させた平成8年の民法改正要綱では、破綻主義強制離婚がもたらすモラルハザードを予見しており、配偶者に対する協力及び扶助を著しく怠っていることによりその離婚請求が信義に反すると認められるときには裁判所は離婚請求を棄却することができるとしている。
本件審判は、妻の背信性を全く無視して、通常の婚姻費用分担義務を夫に命じている点で、法解釈適用を誤っており、取り消されるべきである。

4 家事審判―裁判官の独裁
家事審判は、本質的に民事行政とされ、非訟手続で行われる。
しかしながら、本件をみれば分かるように、夫婦の婚姻共同生活保持義務や親の親権=養育監護権の保障など、家族生活全体を考慮して紛争を把握しないで、ただ婚姻費用分担義務をマニュアルに従って行政処分するなら、夫の財産権や生存権を侵害するにすぎない。そもそも、主権者たる国民に憲法で保障された権利を制限ないし剥奪する権限が、官僚裁判官に付与されているはずがない。裁判官は、非訟手続で「行政サービス」を提供しているつもりかもしれないが、実態は、官僚裁判官の行政処分であり、独裁である。
このように、本件審判は、憲法第29条および第25条に違反するだけでなく、憲法第31条および第32条に違反する。
なお、離婚と子どもをめぐる紛争をとってみても、家事審判と人事訴訟と手続的に分断されるために、当事者にとって「サービス」になどならない。むしろ、裁判官の独裁により確定された「紛争の断片」のせいで、どうにもならなくなるだけである。したがって、まずもって家事審判制度を廃止し、人事訴訟に一元化することである。また、調停前置主義が機能するように、単独親権制を廃止し、父母の婚姻関係の有無にかかわらず共同親権とする民法改正をすべきであろう。とはいえ、改正前でも、親権と監護権の分属など、家事審判のサービスを駆使して同じような解決が可能である。そういう働きを裁判官がしないから、家事審判制度は有害物に転化するのである。

第2 DV防止法による「自立支援」と婚姻費用分担請求
1 改正DV防止法の基本理念の欺瞞性―男女平等の実現?
法第2条の2(基本指針)に基づく「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護のための施策に関する基本的な方針」(平成16年12月2日内閣府、国家公安委員会、法務省、厚生労働省告示第1号)において、「経済的自立が困難である女性に対する配偶者暴力は、個人の尊厳を害し、男女平等の実現の妨げになっている」として、「人権の擁護と男女平等の実現を図るためには、配偶者からの暴力を防止し、被害者を保護するための不断の取組が必要である。」という。そして、通報、相談、保護、自立支援等の体制が整備強化されている。
しかしながら、夫婦間の問題にすぎないことを、妻を保護することによって「男女平等の実現」が図られるはずがない。経済的自立の困難な妻を、生活保護などの「被害者の自立支援」策によって自立させることも、常識的には不可能と思われる。第一、職業を有する女性たちが賃金における男女差別と闘っており、それこそ男女平等社会の実現に必要なことである。
また、「男女共同参画」というなら、「共同子育て」こそが推進されるべき施策であるはずなのに、「DV防止法」では、子どもは母親の附属物扱いであり、父親を「DV加害者」として「子育て」から排除する。
このように、全く欺瞞的で非論理的な法令によって、子どもを拉致同然に連れ去る破壊的な離婚紛争が誘発されている。すなわち、経済的自立の困難な妻たちは、家庭破壊離婚を法律により教唆されているのである。そして、前記したように、未成熟子の「監護費用」は経済力のある父親と同等の生活が保障されるから、経済力のない妻にとって子どもが「金蔓」として重要な存在になるのである。子どもを拉致する所以である。

2 DV防止法における「生活保護」と「配偶者扶養」の関係
DV防止法は、経済的に自立できない妻が夫からのDVから逃れること、つまり夫婦共同生活の破棄を前提とした「被害者支援」法である。そして、生活保護は、DV防止法の「援助」として位置づけられ、生活保護法の特例扱いがされている。DV防止法は、福祉事務所による自立支援を規定し(法第8条の3)、配偶者暴力の被害者の自立を支援するという趣旨で、通常の生活保護法による保護の実施要領の特例として、「扶養義務者に対し扶養を求めることにより明らかに要保護者の自立を阻害することになると認められる者であって、明らかに扶養義務の履行が期待できない場合」には、扶養能力の調査にあたって扶養義務者に直接照会することが真に適当でない場合として取扱われるのである。すなわち、DV防止法の「援助」としてされる生活保護は、配偶者から扶養を受けられないことを前提としている。
ところで、妻は、詳細を明らかにしないものの、生活保護を受給しているというのであり、これはDV防止法の「援助」としてされた生活保護にほかならない。すなわち、妻は夫から婚姻費用を得られない/請求しないことが前提なのである。したがって、仮に夫から婚姻費用分担金を受領すれば、生活費の二重取得になるはずである。
これについて、妻は、生活保護法を援用して、二重取得にならないと主張しているが、これはDV防止法を無視するものである。実際的に考えても、国庫に返還するために婚姻費用を請求するのは不自然であるし、妻に何のメリットもないと思われる。
しかるに、本件審判は、妻が受給している生活保護の全容を開示させることなく、婚姻費用が国庫に返還される前提でマニュアルに従って結論を導いており、取り消されるべきである。

(以 上)

10年前