ハーグ条約 子どもの福祉最優先に
5月22日(日)
国際結婚が破綻した夫婦の子どもの扱いを定めた「ハーグ条約」に、政府が加盟する方針を決めた。フランスで今週開かれる主要国(G8)首脳会議で、菅直人首相が表明する。
ハーグ条約は、国際結婚が破れて一方の親が無断で子どもを外国に連れ出した場合、もう一方の親の国にいったん戻す手続きを定めたもの。加盟国は返還を求められると、子どもの居場所を調べて元の在住国に戻す義務を負う。日本は先進7カ国のうちで唯一、加盟していなかった。
加盟に伴う国内法の整備がカギになる。親にドメスティックバイオレンス(DV)や児童虐待があった場合は返還を拒めるなど、子どもの福祉を第一とする仕組みを整えてもらいたい。
日本人がかかわる国際離婚の多くは、日本人女性が子どもを連れて帰国するケースだ。気になるのは、外国人の元夫からDVの被害を受けていた事例が少なくないこと。子どもの安全が脅かされる心配がある。国内に加盟への慎重論が根強いゆえんである。
一方で、現状を放置できない。子どもを連れて日本に帰国した女性が、元夫から「拉致だ」と訴えられて国際問題になっている。米国の裁判所は先ごろ、子どもを日本に連れ帰った元妻に4億8千万円の賠償を命じる判決を下した。
その逆もある。外国人の元配偶者に子どもを海外へ連れ去られるケースだ。居所を突き止めても、条約に加盟していないため返還を求めるルートがない。
こうしたトラブルの背景には、親権をめぐる欧米と日本の考え方の違いがある。欧米では離婚後も両方の親がそれぞれ親権を持つ「共同親権」が一般的だ。
日本は離婚の際、親権者を父母のどちらか一方に決める「単独親権」制度をとっている。このため親権の奪い合いがしばしば起き、親権がないために子どもと会えなくなる親も少なくない。ハーグ条約の加盟に伴い日本でも共同親権を認めるよう、民法改正を求める意見が出ている。
国連の「子どもの権利条約」は子どもが離れて暮らす親と会ったり連絡したりする権利を保障している。夫婦の関係が解消されても、子どもにとって両親には変わりない。本来は子どもが会いたいと願ったとき、自由に会える環境が望ましい。
虐待から子どもを守るため、親権制度の見直しが進んでいる。政府は離婚後の子どもの養育面からも、見直しを図ってもらいたい。