東弁63 期リレーエッセイ: 面会交流事件から見えてきたこと

http://www.toben.or.jp/message/libra/pdf/2011_05/p41.pdf

面会交流事件から見えてきたこと

会員 茨木 佳貴

きっかけ

昨年8月に弁護士登録をし,ロースクールの教授で
もある棚瀬孝雄弁護士の事務所に入所した。入所の
きっかけは,法社会学の授業を受けたり,リサーチペ
ーパーの指導を受けたりしたことにある。「役に立た
ない」と言われている基礎法学だが,就職難の時代に
とても「役に立った」といえる。

離婚弁護士

事務所では,親権・監護権紛争を専門の一つとし
て扱っている。それも,子どもに会えず,面会交流を
求める側の弁護しかしない。家事事件で複数の弁護士
が実質的にも代理しているケースをあまりみないが,
共同受任して2 人で書面を作成し,調停・審判にも
出席している。
依頼者の大半は,面会交流の専門の弁護士に頼み
たいということで,弁護士を変えてきた人たちである。
新人弁護士とはいえ,前に依頼していた弁護士以上の
パフォーマンスを示せるよう努力している。
親権・監護権紛争は,通常,一方の親が子どもを
連れ去って別居するところから始まる。子どもと会う
ことを求めると,「落ち着くまでは会わせたくない」,
「子どもが会いたいと言っていない」,「連れ戻される
おそれがある」などと言って面会を拒否され,途方に
暮れた親が弁護士に依頼するのである。
子どもの心を傷付ける連れ去り・切り離し行為に
サンクションがなく,むしろ親権者指定で有利になる
というインセンティブが働いてしまうのが現在の問題で
ある。ハーグ条約の加盟だけでなく,国内の連れ去り
に対処する法の制定が必須である。

キャッチボール

面会交流の事件を扱っていると,休日に面会交流
に立ち会うことが多い。先日も,2 年半ぶりに子ども
と会えるという面会交流に立ち会った。監護親である
母親の付添いが認められていて,最初の15分間は「帰
る」と言って母親から離れなかったが,依頼者である
父親と一緒になって母親と子どもを説得し,なんとか
離れさせた。時折涙を流しながら30 分くらい父親が
子どもに話しかけたが,子どもは父親の目を見ず下を
向いたまま無反応で,母親の方は「何を話しているか
聞きたい」と言って近づこうとしたり,子どもの視界
に入るような位置に移動したりするので,必死に牽制
した。
面会交流が始まって45分くらい経ち,私も子どもに
向かって,「お父さんがどんなに会いたかったか分かる
かい」,「キャッチボールがしたいといつも言っているよ」
と話しかけ,ボール遊びをさせた。すると,体を動か
し出したことで子どもの態度が少し変わり,「広いとこ
ろでキャッチボールをしよう」と私が言うと,今までの
表情が一変し満面の笑みで父親とキャッチボールをし
始めた。私も,スーツが砂まみれになりながら,子ども
のバッティングピッチャーをして一緒に遊んだ。
帰り支度をしているときに母親が近づいてくると
表情がまた変わり,「今日は楽しかった?」と聞いて
も「つまらなかった」と素っ気なく返事をするだけに
なった。切り離しの恐ろしさを実感した瞬間だった。
面会交流事件では,契約書上の依頼者である親の
ためだけに弁護活動をしているわけではない。依頼を
受けていない子どものためにも,最善を尽くしている
のである。
14年前