読売書評:『子どもの連れ去り問題 日本の司法が親子を引き裂く』 コリンP・A・ジョーンズ著

http://www.yomiuri.co.jp/book/review/20110425-OYT8T00483.htm
評・河合香織(ノンフィクション作家)
 ACジャパンのCMの影響で、金子みすゞの詩集が再び売れている。その金子の死因には諸説あるが、娘の親権を巡る争いで憔悴(しょうすい)していたとも言われる。

 自殺、事件の背後に親権問題が隠されていることが少なくない。しかも、法制の違いから国際問題に発展することもある。多くの国では離婚した夫婦は共同で親権を持つが、日本では母親が親権を持つのが普通だ。このため外国人と離婚した日本人の母親が、相手の同意なく、子を連れて帰国すると、外国では「拉致」と見なされるのだ。

 共同親権を前提にしたハーグ条約を批准すればいいのだろうか。否。アメリカ人弁護士の著者は、裁判所だけでは子供の引き渡しに関する実行力が十分でない現状を根本から見直すべきだと主張する。

 反対も根強く、丁寧な議論が必要だ。だが私が思いを馳はせるのは、自分の子供に自由に会えずに苦しむ父親の存在だ。運動会に変装してまで見に行くのも「君が知らなくても、ずっと見守っていたよ」と子供にいつか伝えたいと願う切ない親心なのだ。

 子供にとって、父か母かという選択はない。父も母も、なのだ。(平凡社新書、820円)

(2011年4月25日 読売新聞)

13年前