朝日小学生新聞:「ハーグ条約ってなに?」

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●ハーグ条約ってなに?●

ジャン ハーグ条約って最近聞くけど、何のこと?
大島記者 お父さんとお母さんが結婚をしたけど仲良くくらせなくなって離婚するとき、どちらが子どもを育てるかなど、いろんなことを決めなければならないよね。
ケン そうだね。

大島記者 父親と母親の国籍がちがう「国際結婚」では、子どもをどちらの国で育てるかが問題になることがある。そのルールを国同士で決めた約束事がハーグ条約だ。

ポン どうして国際結婚で、子どもを育てることが問題になるの?

国際結婚・離婚後の子どもに関するルール

どちらの国で育てるかもめる
無断で連れ帰るトラブルを防ぐ
日本の加盟を強く求める米国

イラスト・たなかさゆり図

――どちらが子どもを育てるか、二人で話し合っても決まらなかったり、一度決めたことを一方が守らなかったりしたら、ふつうは裁判所に決めてもらう。
両親が日本人なら、日本の裁判所の決まりにしたがうんだ。だけど、国際結婚では法律のちがう国の人たちが結婚するから、解決が難しくなる場合がある。

ポン どういうこと?

――たとえばアメリカ人の父親と日本人の母親、子どもの三人でアメリカ(米国)でくらしていたけど、離婚してしまい、母親が子どもを連れて、日本に帰ってきたとする。
このとき、子どもが日本に行くことに父親も納得していれば問題はないけれど、話し合いがきちんとできなくて、父親が「子どもを無断で外国に連れて行かれてしまった」と米国の裁判所に相談する場合がある。日本と米国では法律がちがうから、もし米国の裁判所が「約束とちがうから、子どもを米国に返しなさい」と決めても、日本に住む母親と子どもをしたがわせることはできない。
こういう問題を解決するルールを定めたのがハーグ条約だ。1980年にできて、日本は加盟していないけど、世界の84か国が加盟している。

ジャン どういうルールなの?

――どちらかの親が「子どもを無断で外国に連れ出した」と自分の国の役所などにうったえ、認められたときは、離婚したときに住んでいた元の国に子どもをいったんもどすというルールだ。子どもがどちらの国に住むか、面会をどうするかといったことでおたがいの意見が食いちがうなら、改めて元の国の裁判所に決めてもらおうというのが条約の決まりだ。

ケン それが最近話題になっているのはどうして?

――日本人と外国人の国際結婚が増えているけれど、なかにはうまくいかなくて離婚するケースがある。子どもをどちらの国で育てるかをめぐって、もめごとも増えているんだ。
条約に加盟している米国やカナダ、ヨーロッパ(欧州)の国々は「日本もハーグ条約に加盟するべきだ」と求めている。特に米国はオバマ大統領やクリントン国務長官がくり返し日本に条約加盟を求めている。

ポン 日本はどうするの。

――日本政府は「条約に加盟すべきかどうか、真剣に検討しています」と、以前よりも加盟に前向きになっているようだよ。菅直人首相は今年の夏までに米国を訪問してオバマ大統領と会う予定で、そこで加盟に前向きな考えをしめす可能性もある。
けれど、条約加盟に反対する人もいる。母親が子どもを無断で連れて日本に帰国したケースの中には、父親から本人や子どもが暴力をふるわれるなど、やむを得ない場合もある。そのような子どもまで元の国にもどすのはおかしいという意見があるんだよ。

ジャン どうしたらいいの?

――ハーグ条約では「子どもを無断で連れ去られた」という申し立てを受けても、すべての子どもを元の国にもどさなければいけないわけではなく、例外も認めている。
日本の弁護士の団体「日本弁護士連合会」は「子どものためにならない」と判断した場合は元の国にもどさなくてもいいという内容を、条約加盟と同時につくる法律にきちんと盛りこむべきだという意見を発表しているよ。

【ハーグ条約】
正式の条約の名前は「国際的な子の奪取(だっしゅ)の民事面に関する条約」。オランダのハーグ国際私法会議で1980年に採択されたことからハーグ条約とよばれる。16歳未満の子が対象。父親、母親のどちらが育てるかは判断せず、子どもに危険があることが証明されればもどさなくてもよい。
日本では、日本人女性が欧米などで結婚した後に離婚し、子どもを日本に連れ帰るのが多いとされる。主要8か国で加盟していないのは日本とロシアだけで、2004年には国連子どもの権利委員会が日本に加盟するよう勧告した。

13年前