2011年2月21日 10:47
国際結婚が破綻して、一方の親が他方の親に無断で子どもを自国に連れ帰り、父親と母親がわが子を奪い合う。
国境をまたいだ、そんな争いを解決する国際ルールを定めた多国間条約(ハーグ条約)への加盟を検討するため、政府は関係省庁副大臣会議を設置した。
日本政府はかねて米国や欧州各国から強く条約加盟を求められており、菅政権は早ければ6月の首相訪米時にも加盟を表明したい意向のようだ。
しかし、国内には、家族や親権をめぐる欧米との文化や価値観の違いから、欧米の親権や価値観に基づいて結ばれた条約への加盟には慎重論も根強い。
条約を批准するならば、日本人の親と子どもが条約加盟によって一方的に不利益を被らないよう、慎重かつ十分な検討と議論が必要だろう。
ハーグ条約は、国際結婚が壊れて、一方の親が他方の親の同意なしに子どもを国外に連れ去った場合、子どもを元の居住国に戻すことを原則としている。
条約加盟国は、親からの申し立てがあれば、子どもを捜し出して元の居住国に返すなどの行政協力が義務づけられる。欧米や中南米を中心に84カ国が加盟しているが、日本は未加盟だ。
日本人で条約の対象となるのは、外国人男性と離婚した女性が子どもを連れて帰国するケースが大半だ。元夫が自国の政府を通して子どもの返還を求めても、日本が条約に加盟していないため、多くのトラブルが生じている。
外務省によると、そうした事例は米国で100件、フランスや英国、カナダでそれぞれ30件以上あるという。
日本人の国際結婚は、この30年で6倍になった。離婚などで子どもをめぐるトラブルも当然、増え続けるだろう。
そうした状況を考えれば、国際結婚が破綻した夫婦間の子どもの扱いを定めた国際条約への加盟は、ある意味、時代の要請と言えるのかもしれない。
米欧各国では子どもを連れて帰る日本人の母親の行為を「拉致」「誘拐」と主張し、米仏の議会は日本に条約への早期加盟を促す決議を採択している。
菅政権が加盟の方向で検討を始めた背景には、この問題を放置すれば、欧米各国との外交摩擦を深める恐れがあるという政治判断も働いているのだろう。
ただ、考えなければならないのは、日本人女性が子どもを連れ帰るケースの多くが、自身や子どもへの元夫の家庭内暴力が背景にあるという点だ。
離婚後も父母双方が親権を有する「共同親権」が常識の欧米の家族観に基づく条約要件に、家族観が異なる日本がすべてを合わせる必要はあるまい。
暴力などの被害が明白な場合は、子どもの返還を拒否できる特例を設けるなど、条約加盟の検討にあたって、政府には西欧の価値観をそのまま受け入れるのではなく「日本人の親と子の利益と安全」を第一に考慮するよう求めたい。
=2011/02/21付 西日本新聞朝刊=