ハーグ条約加盟を決断せよ
2011/3/7付
離婚した片方の親が勝手に子を連れ去ることは許されない。これが原則だ。しかし、逃げ出さないと家庭内の虐待や暴力によって子が危険にさらされることがある。これは個別の事例である。
国際結婚が破綻した際の子をめぐる争いのルールを定めた「ハーグ条約」を論じる場合、原則と個別事例を分けて考える必要がある。より重んじるべきは原則であり、日本は加盟を決断するときである。
16歳未満の子が定住する国から片方の親によって一方的に国外に連れ去られた場合は、すみやかに定住国に戻す。これが条約の趣旨だ。そのうえで、定住国の行政機関や裁判所が子の扱いを決めることになる。
現在、条約には84カ国が加盟している。アジアの加盟国は少ないが、主要7カ国(G7)で加盟していないのは日本だけだ。
日本が加盟に消極的なのは、国際結婚に失敗した邦人女性が、男性の家庭内暴力(DV)から子を守るため、ギリギリの決断で帰国したといった例があるからだ。もし子が定住国に帰れば、母子は言葉の壁や多額の費用という問題を抱えながら紛争を解決しなければならない。
ただ、子を定住国に送り返すかどうか、当事者間で合意できなければ最終的に判断するのは連れ去られた先の国の裁判所だ。条約事務局によれば、2003年の統計では、裁判で返還を命じた例が6割。残り4割は返還要請を拒否した。返還が子の心身に重大な危険を及ぼす場合などは要請を拒否できるという例外規定が、条約にあるためだ。
外務省によると、何をもって例外とするか、その判断は国によってかなりばらつきがあるという。
現状では、日本人が子を連れ去られた場合も問題を解決できない。条約に加盟していないことで、「連れ去った者勝ちは認めない」という原則が日本では適用されないからだ。
1月に江田五月法相が条約加盟に前向きな考えを示し、関係省庁の副大臣会議も始まった。これを受け、欧米からの圧力は強まっている。
だからというのではなく、早急に加盟の結論を出し、併せて、邦人保護の観点から個別事例にどう対処すべきか、検討することを求めたい。