ハーグ条約について
(2011.01.31 UP)
平成22年度大阪弁護士会副会長 小 寺 史 郎
【ハーグ条約】
正式名称は、「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」です。春に予定されている首相の訪米までにハーグ条約に加盟するとされ、日弁連ではこれまで条約批准の是非を含め慎重に議論を進めていましたが、条約批准を前提とする整備が早急に進められるという情報や、様々な方面から早急に日弁連の意見を聞き検討したいという要望もあり、日弁連から日弁連作成の意見書についての意見照会(期限は2月7日)が各単位会になされています。なお、1月30日付けの朝刊では「首相の訪米は6月延期も」とあり、時間的には少し余裕ができたかもしれません。新聞報道では条約加盟国は82か国で、G8で加盟していないのはロシアと日本だけだと云われており、子供とともに一時帰国する場合の他方親権者の同意に変わる裁判所の許可についても未加盟国の国民は厳しく判断されることがあるそうです。
日弁連の意見書は、原則賛成で、「子供の最善の利益」にかなうよう適切に実施・運用されることを確保するために必要な事項を定めた国内担保法を制定すること、その担保法の中で、児童虐待やDVが認められる事案や、常居所地国において連れ帰った親が刑事訴追を受ける場合には返還を命じない、あるいは、執行しないことができるような法制度とすることなど現実的な解決策が出されています。
問題点について、もう少し具体的に云いますと、例えばA国でA国人の夫と結婚して生活していた日本人女性が、例えばその夫の暴力に悩んで子どもとともに日本に帰った場合に、その子どもを一旦A国に戻し、A国の裁判所で親権・監護権を巡る紛争が解決されることになります。この場合、そもそも主たる監護権者が日本人女性の場合は子供の最善の利益に反しない、DVの夫の元に子供を戻せない、日本人女性はA国に戻った場合不利益を受けるなどの指摘があります。これをとらえて条約批准に反対する単位会もあるようです。
常議員会に提出する予定の大弁の意見は、双方の親で、子供の親権や監護権、具体的な養育方法について争いがある場合には、常居所地国の裁判所において法に従った解決がなされるべきで、他国への連れ去りについて何らの手当もない場合は国境を越えた違法な子供の連れ去りという自力救済を認めることになり、それが反って子供の最善の利益に反することになるため、ハーグ条約は一定の合理性があるとするものです。
そのうえで、懸念事項について、国内担保法の制定や締結国の実務的な工夫を学び、子供の権利条約の精神等を取り入れた抗弁事由のきめ細やかな検討する。その他、いわゆるアンダーテイキング(連れ去られた親が裁判所において「暴力をしない」、「子を取り上げない」、「刑事告訴を取り下げる」といった約束をすること)やミラーオーダー(子が返還される先の国の裁判所がアンダーテイキングと同じ内容の命令を出すこと)が考えられます。また、ハーグ条約批准によって、日本国内法への影響があるのかどうかも検討事項となっています。
このように考えるとハーグ条約批准は影響が大きいことが分かります。
皆様方におかれましても、ご検討いただければと思います。