「親子の交流断絶防止法制定を求める」声明
1 はじめに
現在、国境を跨いだ子どもの連れ去り、引き離しが外交問題にまで発展し、いわゆる「ハーグ条約」に日本が加盟すべきかが政府の重要課題となっていますが、実は、同様の問題が日本国内においても生じていることは余り知られていません。
我が国では、毎年約25 万組の夫婦が離婚していますが、そのうちの約60%に未成年の子どもがいます。その子どもの約65%は、親権を失った親にほとんど、あるいは、まったく会えていない状況にあり、毎年推定約15 万人の子どもが、親の離婚により、片方の親との交流を絶たれているとも言われています。
2 日本の法制度の不備と裁判所の不適切な運用について
このような状況は、法制度の不備と裁判所の不適切な運用によってもたらされています。日本は、離婚した際に、一方の親から親権を剥奪する制度(単独親権制度)を採用していますが、いずれの親から親権を剥奪するかについての基準は法制化されていません。その法の不備を裁判所が埋めていますが、裁判所における親権者決定基準は、「現在、どちらの親が子どもを抱えているか」というものです。そのため、先に子どもを連れ去り、引き離しを図った親がほぼ100%親権者となります。
さらに、日本において、子どもから引き離された親と子どもとが交流し続けることを担保する手続もありません。裁判所は、引き離された親と子どもとが交流し続けることは、子どもの養育環境を不安定化し、「子どもの福祉」に反するという理由で限定的にしか認めていません。また、裁判所が交流を認める決定をした場合でも、強制力がないため、子どもの連れ去り・引き離しをしている親の意向次第で、引き離されている親と子どもの交流は簡単に断絶されてしまいます。
このように、子どもを連れ去られた後に、親であるにもかかわらず実の子どもに会えないという信じがたい現実を突きつけられ、ある者は自殺し、ある者は子どもを連れ去った配偶者を殺害し、ある者は子どもの連れ戻しにより誘拐犯として逮捕されるなど、法制度の不備と裁判所の不適切な運用による犠牲者が後をたちません。このような悲劇は、子どもの連れ去り、引き離しを禁止している諸外国では起こりえません。
3 「子どもの福祉」の侵害について
このような状況の一番の被害者は「子ども」です。ある日突然、住み慣れた場所から移動させられ、一方の親に会うことすらできなくなり、更には、自分を原因として親を失い、又は、親が犯罪者となるなどといったことまで経験させられます。また、「片方の親に捨てられた」という気持ちを抱いたり、片方の親だけの価値観をそのまま内面化した子どもは、自己肯定感を持てず、根拠の無い葛藤を抱え込むことになりやすいと聞きます。そして、多様な人格モデル、良好な家族イメージを持たないため、社会に適応することに困難を覚える者も少なくなく、特に、結婚し家庭を持つことに不安感を持つ者が数多くいるとのことです。
近頃多発する、親権者やその新たな配偶者からの虐待やネグレクトによる悲惨な事件も、引き離されている親との交流があったなら早期に発見、解決できていたはずと悔やまれてなりません。法制度の整備された諸外国においては、別居や離婚後でも、双方の親や祖父母が子どもと交流し、虐待の抑止力にもなっています。そもそも婚姻関係の破綻は夫婦の問題で、親子の関係は一生続くものであり、諸外国では「緊急性のない親子の引き離しは、子どもへの虐待である」との認識に沿った法整備がされています。
4 配偶者暴力(DV)等について
この問題は、DV 被害者である妻が子どもを連れて暴力的な夫から逃げ出す話として語られ、ともすれば子どもに会えない男性対会わせない女性の問題との構図をもたれてしまいます。確かに、そのようなケースも存在することは間違いないですが、夫に子どもを連れ去られたり、居所から一人追い出され、子どもと引き離された母親の当事者も多数存在します。この問題は、男女の問題では決してありません。子どもの養育について話し合うこともなく突然子どもを連れ去る行為や子どもを連れ去った後にもう一方の親と子どもとの交流を断絶する行為など「子どもの福祉」に反する行為を行う者に対し国がどのように対処すべきか、との極めてシンプルな問題です。
また、「連れ去り別居」を正当化し、片親との「引き離し」を推し進めるために、虚偽のDV を申し立てる親も数多くいます。いわれのないDV の申立てによって子どもとの交流を絶たれるどころか居所さえ不明になってしまい、途方に暮れ、不眠や鬱に苦しむ親が多く存在します。DV の問題については、真に保護されるべき深刻な場合もあり、その点についての十分な配慮は必要ですが、一方で、親権を一方の親から剥奪するための手段として虚偽のDV 申立てをする者に対しては、国は断固たる態度をとるべきと考えます。冤罪の被害者をこれ以上生み出してはなりません。
いずれにせよ、DV 被害者の存在をもって親子の交流断絶を維持・容認する主張は論理的ではなく、親子の交流断絶禁止を原則としつつDV に配慮した制度設計をすれば良いものと考えます。
5 子どもの引き離しを図る親について
離婚を機に、一方の親子関係を断つことは、親権を獲得した側の親にとっても必ずしも良い状況ではないと思われます。離婚後の養育費の支払い状況については、欧米では90%を超えている国も珍しくありませんが、日本では19%にしか過ぎません。親権者である親は、別居・離婚を機に子どもの養育費を一人で負担することになり、子ども共々、劣悪な環境に陥ることにもなります。
また、仕事をしながら一人で育児を行うことにもなり、その物理的・心理的負担は相当のものと推測します。さらに、子どもに関する重大な決定(就学、就職)や病気になった時の対応など、子どもの全ての責任を一人の親が負うことになります。
別居・離婚時に子どもの養育についての取り決めをすることとすれば、夫婦の関係は切れても、親子の関係は残ります。子どもの養育に関し責任を分け合い、週末などに育児から解放されることは、育児ノイローゼ防止の一助にもなり、子どもだけでなく引き離し側の親にとっても多大なメリットがあるものと思われます。
6 離婚ビジネスを生業とする弁護士について
なお、離婚や子どもに関わる争いを利用し、慰謝料及び子どもの養育費を一方の親から奪い、その報酬で生計を立てている弁護士が数多くいます。弁護士の世界では、離婚後に親権を獲得したいと願う親が弁護士に相談した場合には、「まず、子どもの身柄を確保しなさい(=連れ去りなさい)」と言うのが常識とのことです。また、「子どもを相手側に会わせないように」とのアドバイスもするようです。このように、親子の絆を断ち、多くの親子を苦しめる行為は、弁護士の使命である「基本的人権の擁護・社会正義の実現」に明らかに反するものです。良心を持った弁護士の中には、依頼人の利益の最大化のために、子どもを犠牲にするような反社会的行為を教唆・幇助しなければならないことに悩んでいる方もいます。弁護士にこのような行為を続けさせないためにも、法制度及び裁判所の運用を早急に改める必要があると考えます。
7 おわりに
日本は「子どもの拉致を容認する国家」として諸外国から非難を受けています。上記の説明からご理解いただけると思いますが、諸外国は決して理不尽な非難をしてきている訳ではありません。
日本の現在の法制度及び裁判所の運用は、一部の弁護士を除けば誰も得をしない仕組みを生み出しており、本来、外国から非難される前に、我々が自ら是正しなければならなかった問題ではないかと考えます。
国会議員の皆様方には、このような状況が日本において放置・容認されていることを認識していただいた上で、真の「法治国家」の実現に向けて、別に記した要望書に掲げる内容を盛り込んだ特別法について、今通常国会での早期制定をしていただくよう要望いたします。
平成2 3 年2 月4 日
親子の交流断絶防止法制定を求める全国連絡会