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12/6(金) 18:30配信
京都新聞
岡村晴美さん
今年5月に民法が改正され、離婚後の父母の共同親権が可能となった。子と別居親の面会交流を巡る争いや、養育費の不払いなどの問題が続く状況に、親子交流の広がりを期待する声がある一方、別居親による支配の継続など不安も根強い。親子面会交流や、親権とDVなどの問題に取り組んできた専門家による企画が京都市で相次いであった。親子を巡る現状と、改正から2年以内とされた法施行の課題を考える。
【写真】「子どもの最善の利益は誰が判断するのか」
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「(父母の)真摯(しんし)な合意は確認できるのか」「加害者を励ます制度になっていないか」「子連れ別居が抑圧されないか」「共同養育計画が押し付けられないか」
DVやハラスメント、性虐待などの困難事案を引き受け、離婚後共同親権への懸念を示してきた弁護士の岡村晴美さん(愛知県弁護士会)が、家族法改正の問題点を次々と指摘する。
裁判官や検察官、弁護士になるための実務教育を受けている司法修習生の有志が呼びかけて、京都市で開かれた「司法修習生フォーラム」。犯罪者の社会復帰支援や結婚の自由、優生思想など、司法を巡るさまざまな社会問題と人権課題について講師と議論し、全体会で「離婚後共同親権の問題点と法案成立の背景」をテーマに専門家による講演とパネル討論が行われた。
岡村さんは、DVやハラスメント被害を受けた人が子どもを連れて逃げたケースで「連れ去り」と非難されて刑事告訴されたり、「単独親権制度のせいで子どもに会えない」という誤った認識が広がったりした状況で共同親権導入の議論が行われたと指摘。「共同でやっていく合意すらできない父母に共同を命じることが子どものためになるのか」「DVや虐待が除外されずに共同親権が支配の手段に使われる可能性があるのでは」とし、「支配的な人、権力が強い人から逃れられなくなる」と危ぶんだ。
その背景には、2011年の民法改正で明記された面会交流が「原則実施」で運用され、虐待や暴力の除外が軽んじられ、子による面会拒絶の希望も押さえつけられてきた経緯がある。面会交流中の事件によって、ようやく運用の見直しが行われた。今回の民法改正について「条文上は原則共同親権ではないが、『子の利益のためお互いに人格を尊重し協力しなければならない』という理念的な条文が、原則共同親権として運用されないか」とした。
全国女性シェルターネット共同代表で広島大准教授の北仲千里さんは「DV被害者支援と共同親権」と題して話した。
「DVの本質は支配・コントロール」とし、身体的暴力だけでなく、行動監視や束縛、精神的ないじめ、経済的搾取、性的暴力などによって相手の気力や自己決定力を奪うものと説明した。被害者は「逃げられるはずがない」「逃げたらもっと暴力がひどくなる」との心理にはまり込む一方、加害者は離別を拒み、子どもの前で暴力をふるう「面前DV」という児童虐待が続く。
今年4月施行の「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」で「女性が安心して、かつ自立して暮らせる社会の実現」などの理念が示されたが、日本における被害者支援が遅れている現状を示し、離婚後共同親権の導入で「DVや虐待の相手から逃げられるのか」「養育費とのバーターで押し切られないか」「嫌がらせや精神的DV、(経済的も含む)虐待が続かないか」と危惧した。
木村草太さん
法学者として社会問題への発言を続ける東京都立大教授の木村草太さんは「法律家にとって慣れ親しんだ人権論が加害行為を助長する危険」をテーマに問題提起した。
欧米で進められてきた「父権運動」について、その経緯と要求を説明した。離婚後の一緒の子育てではなく、子への接触を法で強要するもので▽子連れ別居への刑罰▽子の身体監護を『男女平等』に(同居時間を半々に)▽親の人権として子どもに関する決定権を要求―とし、日本における共同親権を強硬に求める主張との重なりを指摘した。「虚偽DV」「親子断絶」などの攻撃的な言説が繰り返され、シングル家庭への偏見に基づく「親子交流をしないと子の精神がゆがむ」などの誤解がネットとメディアを通じて広がり、それを一部の弁護士や学者が「男女平等」「親の人権」からサポートしていると批判した。
別居父とシングルマザーの経済格差や、シングル家庭への偏見・差別などが根強く、「どこの国でも弱い者の声がかき消されている」とし、会場の司法修習生に「シングルペアレントへの差別意識に敏感になってほしい」「子どもの生活への想像力を持ってほしい」「家事問題を扱う実務家を尊敬してほしい」「離婚事件で『過去を水に流す』発想を取らないでほしい」などと呼びかけた。
困難な状況に、共同親権が追い打ちをかけるのではないか。別離後の同居親や福祉現場、弁護士らへの嫌がらせが続くのではないか。パネル討論で岡村さんは「面会交流原則実施のように、『原則』をつけないでほしい」と改めて訴え、2年後の改正民法施行、5年後の再点検に向けて現場の声を届け続ける必要性を強調した。
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離婚後の共同親権 離婚後の親権は父母いずれかの「単独親権」だったが、民法が改正され、父母双方に親権がある「共同親権」の選択が可能になった。父母が協議して共同か単独かを選び、合意できなければ家庭裁判所が親権を決める。共同親権を認めない「子の利益を害する」例として「父または母が子の心身に害悪を及ぼす恐れ」などが挙げられ、不本意な形で共同親権が合意されないよう付則に「父母の真意を確認する措置を検討」と盛り込まれた。
同居親による恣意(しい)的な監護や、子と別居親との面会交流の制限などに歯止めがかかり、父母双方が子育てに主体的に関与するとの期待がある一方で、「子どもの医療や進路などことあるごとにもめ事になり、同居親と子の負担になる」「DVや虐待から逃れる『子連れ別居』が妨げられる」などの強い懸念がある。共同親権であっても「日常的な行為」や「急迫の事情」があれば一方の親が決めることができるが、実際の運用には課題が残されている。