「共同親権」成立 離婚後も共同で子どもの親権行使 課題はDVや養育費不払いの対応

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6/4(火) 10:06配信
サンデー毎日×週刊エコノミストOnline

両親の離婚後の子への親権のイメージ

 離婚後も両親が共同で子どもの親権を行使する新制度が2026年から始まる。しかし、DVへの対応など課題も山積している。

■77年ぶりの離婚後の親権の見直し

 離婚後も、父と母双方が子どもの親権を持つ「共同親権」の導入を柱とした改正民法などが、5月17日、参議院本会議において賛成多数で可決・成立した。与党や立憲民主党、日本維新の会などが賛成し、77年ぶりの離婚後の親権の見直しとなった。

 今の民法では、離婚後は、父母どちらか一方を親権者にする「単独親権」を規定している。親権者は、子どもの利益のために、身の回りの世話や教育を施したり、財産を管理したりする権利と義務を負う。

 今回の改正では、離婚時に父母が協議して共同親権か単独親権かを選ぶことができるが、協議で折り合えない場合、「子どもの利益」を害すると家庭裁判所が判断した場合は単独親権とする。例えば、子どもへの虐待(ドメスティックバイオレンス:DV)のおそれがある場合は、その典型的なケースだ。

 改正法は2026年に施行される予定で、施行前に離婚した夫婦も共同親権を求めることが可能だ。共同親権を選ぶと子どもの人生の重要な選択を、離婚後も父母が協議して決めることになる。受験や転校、手術、パスポートの取得などにおいて双方の合意が必要になる。意見が対立した場合はその都度、家裁が親権を行使できる人を判断する。

 緊急手術やDVからの避難といった「急迫の事情」や日々の食事などの日常的行為は一方の親が判断できる。与野党は法案の修正協議の結果、具体的に何が該当するか周知するガイドラインを政府に求める付帯決議を採択した。

■裁判所の体制を強化

 共同親権を巡っては、離婚の原因が配偶者の暴力の場合、共同親権では相手から逃れにくくなるとの懸念から反対する人がいる。採決で反対した共産党の山添拓参議院議員は「最大の問題は、離婚する父母の合意がなくても裁判所が共同親権を定めうる点だ」と語っており、裁判所の人員や体制が不十分であることを指摘する声は多い。

共同親権を推進する超党派議連の事務局長を務めてきた自民党の三谷英弘衆議院議員は「従来の単独親権では、暴力や虐待がないのに親から引き離される子が少なからずいた」と強調する。

「これまで親権者を決める裁判所の判断基準には『継続性の原則』があり、実際に子どもを抱えている側が親権者争いで勝つ傾向があった。離婚するかもしれないという雰囲気になると、子どもを連れて出ていくというケースも増えた。親権者争いは誰の利益にもならない」(三谷氏)

 離婚原因として「身体的・精神的な暴力」を挙げる女性の割合は約3割(令和2年度法務省の協議離婚制度に関する調査研究)であり、DVの深刻さは過小評価すべきではないが、DVと無縁の夫婦7割の親権を制限するのはあまりに均衡が取れていない。

 三谷氏は裁判所の体制強化についてこう説明する。「事実認定を裁判官ではなく調査官が差配するような運用がなされ、裁判官による主体的な審理がほとんど行われてこなかった。調査官は子どもがどちらになついているのか判断できても、離婚に至る経緯を含め事実認定に関してはプロではないはずだ。今回の法改正を通じて、裁判所には体制整備を訴えている。具体的には、裁判官と同じ権限で一部の弁護士が調停にあたる『家事調停官』を増やす。非常勤裁判官のような位置づけだ」

■養育費不払い親に親権?

 厚生労働省の「平成28年度全国ひとり親世帯等調査」によれば、養育費を受給できている世帯は2割強に過ぎず、シングルマザー貧困家庭の一因になっている。現行制度では、養育費は離婚後に父母間の取り決めや家裁の調停・審判がないと要求できない。

 共同親権になれば養育費を払っていない親にも親権を与えるようになるのか、という批判もあるが、三谷氏はこう反論する。

「養育費不払いは親権者の判断の際に、不利益に取り扱われることは当然だ。他方、今の制度では親権のない親が子育てに関与しづらくなって、養育費不払いなど責任放棄の一因になっていた。共同親権は、積極的に養育費を支払うインセンティブになるはずだ。加えて、今回の法改正では、取り決めがなくても同居親が別居親に最低限の養育費を請求できる『法定養育費制度』や、支払いが滞った場合は他の債権者に優先して財産を差し押さえる権利も創設し、未払いの解消につなげる」

■卓球選手の親権に注目も

 親権をめぐっては昨年、卓球選手として活躍した福原愛氏が、元夫の江宏傑氏から子どもを連れ去ったと非難されたことで注目が集まった。21年に離婚が成立した際、台湾で共同親権に合意したが、福原氏が息子とともに日本に帰った後、江氏との連絡を絶ち、息子を台湾に戻すことを拒否したとされる。2人は今年に入り、和解が成立したと発表している。

 日本はこれまで、G7(主要7カ国)の中で唯一、共同親権の法的枠組みがなかったため“子の連れ去り”がたびたび国際問題になってきた。

「拉致問題解決のために、日本は『北朝鮮は拉致国家』と海外に働きかけてきたが、その日本が海外から拉致国家だとしばしば批判されてきた」(三谷氏)

 見直しが77年ぶりという事実を見てもわかる通り、日本では家族に関する法律(主に民法)を変えるのは至難の業だ。理由は、伝統的な家族観にこだわる保守派国会議員の存在がある。しかし、それがときに国際的なあつれきを生み、ビジネス環境の不備となっている。今回、共同親権の導入により親子の姓が異なることが当たり前の社会となり、「選択的夫婦別姓」の議論が進むか注目される。

(横山渉〈よこやま・わたる〉ジャーナリスト)

3か月前