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5/26(日) 9:01配信
西日本新聞
西日本新聞 社説
この制度で子どもが本当に幸せになるのか。多くの疑念を残したまま、離婚後の家族関係を見直す改正民法が今国会で成立した。
大きく変わるのは、離婚後に父母の共同親権が可能になることだ。
現在は婚姻中に共同で親権を持ち、離婚後は一方が親権者になる。改正後は父母で話し合い、共同親権か単独親権かを選ぶ。折り合わなければ家庭裁判所が判断する。
親権は親の権利というよりも、子を育てる責務の意味合いが大きい。改正法はその原則に立つ。父母が互いの人格を尊重し、子の利益のために協力するよう明記したことは評価できる。
子どもの権利条約も、子が父母の養育を受ける権利を掲げる。夫婦関係と親子関係は別のもので、離婚後も共同親権は必要との考え方はうなずける。子と別居している人の期待も大きい。
しかし、改正法は曖昧な点と課題が多過ぎる。政府は2026年とみられる施行までに対応策を国民に示し、議論を深めてもらいたい。
最も不安に思われているのは、家裁が夫婦間のドメスティックバイオレンス(DV)や虐待を見逃すことだ。
被害者が加害者に精神的に支配されていると、自責の念や恐怖から不本意な合意を強いられる可能性がある。
家裁はDVなどの恐れがあれば単独親権とするが、経済的、精神的、性的な暴力は外部から見えにくい。改正法は付則に「父母の真意を確認する措置を検討する」としただけで、具体化はこれからだ。
家裁は離婚時の親権の判断だけでなく、離婚後も子の重要事項を決定するときに父母の意見が食い違えば調整を求められる。成長過程で家族の関係性が変わることもある。
業務が多大になるのは間違いない。裁判官と調査官を増やし、体制を早急に強化すべきだ。手をこまねいて調停に長時間を費やせば、子に不利益をもたらしかねない。
親が離婚する未成年は年16万人を数える。新制度は離婚している場合も対象となるため、施行時点で100万人を超えるとの試算もある。
法定養育費の新設は歓迎したい。離婚時に取り決めがなくても最低限の支払いを義務付けた。元々、親権がなくても養育費を払う義務はあり、母子世帯の4分の1しか受け取っていない現状を変えなくてはならない。
父母間のトラブルを防ぐため、離婚時に養育計画を作る仕組みも整えたい。養育費の額や交流の頻度、医療や教育について誰がどこまで判断するかを決める。計画が守られているか否かを家裁が継続的に点検する必要がある。
関係が破綻した元夫婦が子育てを続けていくのは容易ではない。面会交流を支援する民間団体など第三者の役割は重要だ。安定して活動できるように、国や自治体の財政的な後押しが欠かせない。
西日本新聞