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5/8(水) 13:59配信
集英社オンライン
国会で審議入りした「共同親権」
参議院で審議入りした「共同親権」導入を含む民法改正案。5月7日からは参考人質疑が始まった。直近(2024年3~4月)の国会質疑に基づいて別居親の同意が必要となる範囲について、導入後に何が起きるのかを場面(教育・医療・転居)ごとに整理する。
【図を見る】疑問だらけの共同親権の実態
「急迫の事情」「日常行為」「重大な影響」とは?
離婚後の両親が共に親権を持つ、共同親権。
改正案は先月に衆議院を通過し、参議院で参考人質疑が始まっているものの、いまだ不透明なところも多く、実質的な離婚禁止制度になる不安はまったく払拭されていない。その中でも重要な論点となっている「別居親の同意が必要となる場面」について、過去記事に続いてさらに掘り下げたい。
具体的には、直近(2024年3月~4月)の国会での政府答弁に忠実に基づいて、同意が「必要な範囲」と「不要な範囲」を場面ごと(教育・医療・転居)に明らかにする。
別居親の同意が「必要な範囲」と「不要な範囲」を理解するには、まず以下4つの概念を整理する必要がある。
A:子に関するすべての事項
B:子の利益のため急迫の事情がある時
C:監護と教育に関する日常行為
D:子に重大な影響を与える行為
まず、共同親権を含む民法改正案の条文では大原則として、「子に関するすべての事項」(以降「A」)は別居親の同意が必要になる。「すべて」という言葉が示す通り、その範囲は極めて広い。ただし、例外として「子の利益のため急迫の事情がある時」(以降「B」)と「監護と教育に関する日常行為」(以降「C」)は別居親の同意は不要。しかし、厄介なことに日常行為であっても「子に重大な影響を与える行為」(以降「D」)は、やはり別居親の同意が必要となる。
子どもが髪型も自由に決められない可能性も
「急迫の事情」「日常行為」「重大な影響」について改正案の条文では、具体的にどのように書かれているかというと…驚くべきことにほぼ何も書かれていない。
つまり、Aの範囲が広過ぎることに加えて、B~Dの定義(=境目)が曖昧過ぎることが大きな問題といえる。
・急迫か否か(AとBの境目)
・日常行為か否か(AとCの境目)
・重大な影響を与えるか否か(CとDの境目)
そのため、3月から始まった国会審議で共同親権に懸念を示す議員たちが
「○○の場合は急迫の事情なのか」
「○○は日常行為なのか」
「○○の場合に重大な影響を与える日常行為とは何か」
と、具体的な場面を一つずつ例示しながら質問することで、ようやく政府見解が少しずつ明らかになってきた。
今回は本題でないため詳しくは言及しないが、B(急迫の事情)やC(日常行為)に当てはまる場合であっても別の問題がある。改正後は双方の親が単独決定可能なため、意見が対立したままの場合は双方が真逆の意思決定を応酬し、同意を確認する側(医療機関、保育・教育機関等)は混乱に陥る可能性がある。いわゆる「無限ループ問題」である。(*詳細は過去記事参照)
この広くて曖昧な別居親の同意が必要な範囲をめぐって国会では、ブラックコメディのような政府答弁が続出している。
例えば4月23日(衆議院 法務委員会)には、本村伸子議員(共産)が髪を染めることや髪型(パーマ、ポニーテール、ツーブロック等)の選択がC(日常行為)に含まれるかを質問。これに対して法務省(竹内努民事局長)は、校則違反の可能性がある場合は進路に影響するから重大であるという理屈でD(重大な影響を与える行為)に含まれる(=別居親の同意が必要)と答弁。(*主な論点について筆者による図解を加えた質疑映像。外部配信サイト等で動画を再生できない場合は筆者のYouTubeチャンネル「犬飼淳 / Jun Inukai」で視聴可能)
進路や医療など人生に関わる問題も
実態を視覚的に浮き彫りにするため、項目(教育、医療、転居)ごとに政府答弁を図解する。
<教育>
進学先決定(願書提出)については、3月14日(衆議院 本会議)の米山隆一議員(立憲)に対する小泉龍司法務大臣(自民)の答弁で以下2点が明らかになっている。
・別居親の同意を得ることが大原則である
・その例外として、期限が翌日に迫る場合はB(急迫の事情)に含まれる(=別居親の同意は不要)
要は、単独では期限前日まで願書提出すらできない。学校側の提出期限の考え方が「当日消印有効」ではなく「必着」の場合、昨今の郵便配達の所要日数増加を踏まえると願書は余裕を持って提出したいが、それすら許されない。最悪の場合、前日に不測の事態が起きれば願書を出し損ねる。
この問題は、障がいやハンディキャップを持つ子の場合、さらに深刻になる。4月2日(衆議院 法務委員会)に本村伸子議員(共産)が特別支援学校への進学・進級であっても別居親の同意が必要になるのかを質問したところ、小泉龍司法務大臣(自民)は先ほどと同じ趣旨の内容を答弁。
具体的には、入学手続き等の期限が迫っている場合はB(急迫の事情)に当たるとしたのだ。しかし、この政府答弁は、子に合った特別支援学校を見極めるためには1年以上かけて検討するケースもあるという実態と大きく乖離している。最悪の場合は、別居親の同意が得られないために同居親と子が進学を希望する特別支援学校の手続きを進められないという深刻な事態が懸念される。
(*修学旅行については前回記事で紹介したため本文での説明は割愛)
<医療>
子に合う薬を試すために日常的に服用する薬を変更することについては、4月2日(衆議院 法務委員会)に本村伸子議員(共産)に対する小泉龍司法務大臣(自民)の答弁で以下2点が明らかになっている。
・子の心身に重大な影響を与えないのであればC(日常行為)に含まれる(=別居親の同意は不要)
・ただし、その例外として、子の心身に重大な影響を与える場合はDに含まれる(=別居親の同意は必要)
日常的に服用する薬を変更するのだから、子の心身にはほぼ100%の確率で何らかの影響を与えるだろう。それにもかかわらず、「重大な影響」がいったい何なのかは依然として曖昧なのだ。このままでは、別居親に同意を得るべきケースなのか否かを同居親や医療機関は判断できず、混乱に陥る可能性がある。
(*手術については前回記事で紹介したため本文での説明は割愛)
多くの議論の余地を残した法案
<転居>
3~4月に判明した中で特に衝撃的だったのが、この転居をめぐる政府答弁だ。
同居親の急な国内転勤に伴う転居について、4月25日(参議院 法務委員会)に友納理緒議員(自民)の質問に対する法務省(竹内努民事局長)の答弁で以下2点が明らかになっている。
・転居は子に重大な影響を与えるため、たとえ近隣(同一学区内)であったとしてもDに含まれる(=別居親の同意が必要)
・ただし、その例外として、父母の協議や家裁の手続きを経ていては転勤までに居所を決定できない場合はB(急迫の事情)に含まれる(=別居親の同意は不要)
あまりにも実態とかけ離れていて指摘すべきことが多いが、まず大前提として家裁への申立から結果が出るまで早くても数か月以上かかることをふまえると、辞令交付から転勤までに居所変更が間に合わないことが十分に考えられる。結果、転居を進められず、同居親は転勤を断らざるを得なかったり、それによって職場で待遇悪化(最悪の場合は退職)などの不利益を被る恐れが出てくるだろう。
さらに、転居先が同一学区内という近隣であっても、転居は子に重大な影響を与えるという理屈で、頑なにDに含められている。同一学区内ということは必然的に転校を伴わないため、生活圏も学校も友人関係もほとんど変わらず、子にそこまで重大な影響を与えないと考えられるが、別居親の同意が必要なのだ。これでは離婚後の同居親は自由な転居は事実上不可能となる。
ちなみに、この質問をしたのは自民党議員。この件に限らず、共同親権の国会審議では政党としては改正案に賛成のはずの与党議員も重要な答弁を複数引き出している。与党議員ですら危機感を持つほど、この改正案がまだまだ議論の余地を残していることを示唆しているともいえる。
また、全体的に定義・境目が曖昧であった他の項目(教育・手術)と異なり、転居については頑なに別居親の同意が必要な範囲を死守するかのような法務省の答弁が目立った。こうした姿勢からは、「離婚禁止制度」と呼ばれてしまうほどに共同親権の穴だらけの実態が垣間見えるようだ。(*今回紹介した国会質疑の更なる詳細は筆者のtheLetter「共同親権導入後に別居親の同意が必要な範囲の「広さ」と「曖昧さ」が招く大混乱」(2024年5月5日) 参照)
文/犬飼淳