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5/1(水) 11:26配信
JBpress
離婚後に父母の双方が子どもの親権を持つ「共同親権」には、専門家などから数多くの反対の声が上がっている(写真:beauty_box/イメージマート)
「共同親権」の導入を柱とした民法などの改正案が、衆議院法務委員会で賛成多数で可決され、参議院法務委員会で審議が始まった。共同親権が導入されたとしても、DV(ドメスティック・バイオレンス)や、子どもへの虐待が認められる場合は、単独親権の扱いとなり、共同親権は認められない。だが、「裁判所がDVの有無を見極めることができるのか」など、様々な課題や不安要素も語られている。
はたして共同親権にはどのような可能性があるのか。別居中の夫婦や離婚後の父母の子育てを支援してきた共同養育コンサルタントで、共同親権の賛成派として知られる一般社団法人りむすび代表のしばはし聡子氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──まず、「一般社団法人りむすび」の活動についてお聞かせください。
しばはし聡子氏(以下、しばはし):私たちは、離婚に関して悩んでいる方や、離婚後の子育てに関して悩んでいる方を支援している団体です。
具体的には「離婚について悩んでいるけれど、配偶者と話ができない」「離婚調停中で相手とやり取りができない」「子どもに会うことができない」「子どもをもう一方の親に会わせたくない」などの悩みを抱える方の相談に乗っています。
この他にも、「夫婦のペアカウンセリング」「ADR(裁判外紛争解決手続)のサポート」「共同養育を知りたい方向けの講座」など、様々な支援を提供しています。
最近は、離婚を考えている中で「共同養育」という概念を知り、共同養育や育児分担を望む方からの相談が増えています。
──なぜこの活動を始められたのでしょうか?
しばはし:私自身がかつて離婚を経験しました。私は弁護士をつけ、半ば弁護士に言われるがままに離婚調停をしました。
私はその時、元夫に対して「自分の気持ちを理解してほしい」「謝ってほしい」という気持ちを強く持っていましたが、裁判所から「ここは感情のやり取りをする場ではありません」と言われ、「お金をどうするか」など離婚調停では条件のすり合わせの議論ばかりが展開されました。
半年ほどで離婚は成立しましたが、「本当は離婚がしたかったわけではないのかもしれない」という気持ちもありました。「離婚調停を通して、元夫との関係がより悪化してしまった」という実感もありました。
しかも、関係が悪化したにもかかわらず、離婚調停が終わると弁護士は離れてしまうので、そこから先は元夫と直接やり取りしなければならなくなりました。非常に困難な体験でした。
やり取りをしたくないから、私が相手を無視していた時期もありました。離婚した時、息子は小学校4年生でしたが、家でお父さんの話を子どもにさせない雰囲気を作り、結果的に子どもに悲しい思いをさせてしまいました。
その時に「離婚後も元夫とは関わるのだよ」と別居中の段階で誰かがアドバイスをしてくれていたら、もう少し違う対応を取って建設的に話し合うことができたかもしれない。そう考えました。こういう時に間に入ってくれる人がいたらな、と。
離婚から1年くらいして、私と元夫の関係が少し改善してくると、息子が元気を取り戻してきました。その時に、離婚したとしても子どもがいる以上は、親同士も関係が続くことを先に知っておくことが重要だと痛感しました。そういったことを発信し始めたことが、今の活動につながっています。
■ 条件よりも感情の問題なりがちな離婚調停や離婚裁判
──離婚には、配偶者同士が話し合い、離婚届にサインをして役所に提出するケースと、裁判をして離婚するタイプがあるのですか?
しばはし:そうです。自分たちで話し合って決めるケースを「協議離婚」と言います。これが世の中の離婚のほとんどです。
これに対して、話し合いができないような状態を「高葛藤ケース」と呼びます。その場合は、弁護士などに相談することになります。弁護士に相談すると、往々にして「直接先方とやり取りするのはやめましょう」と言われ、書面でのやり取りになっていきます。
私の場合も、担当してくださった弁護士の先生は素晴らしい方でしたが、このプロセスを経た結果、元夫との関係が悪化してしまったという実感があります。
協議離婚が日本の離婚のおよそ90%で、離婚調停はおよそ9%ほど。離婚裁判が1%くらいです(※)。
※離婚には「協議離婚」「離婚調停」「離婚裁判」の3種類がある。「離婚調停」は、調停委員が双方の意見を聴取してまとめ、双方が納得できる解決を目指す。「離婚裁判」は、双方が証拠のもとに主張をしながら、どちらの主張が正しいかを裁判所が判断する。
──「離婚調停」や「離婚裁判」を選ぶと、裁判はいい条件の奪い合いですから、相手との関係は悪くなりますよね?
しばはし:そうです。そして、その対立は、実は大いに感情の問題だという場合もあります。つまり、提示される条件そのものが嫌なのではなく、「相手が提示した条件だから受け入れられない」という嫌悪感があるのです。
「会わせません」「会わせろ」など、言い方によって嫌悪感が発生することもあります。調停裁判は「相手を変えよう」「相手を説得しよう」「相手を支配しよう」という理屈になりがちですが、離婚後も父母の関係は続きます。ですから、裁判所や司法の側にも争わない議論の進め方を考慮した改革が必要だと思います。
──もし共同親権の導入が決まると、どのような変化が起こると想像されますか?
■ 共同親権に賛成する理由
しばはし:社会の価値観が大きく変わっていくと思います。もちろん、すぐに変わるとは思いませんが、次世代には「離婚しても両方の親がいる」「両方の親が子どもに関わるのは当たり前」という考え方が定着していくと思います。
現状では、離婚すると「ひとり親」や「シングルマザー」と呼ばれ、ひとり親が子育てをするための行政の支援が当たり前になっています。
与野党が今回出した「共同親権」の要綱案には、「父母は婚姻関係の有無に関わらず、子に関わることについては、子の利益のため、互いに人格を尊重し、協力しなければならない」という文言が明記されています。共同親権を求めるのであれば、協力的にならなければならないということです。
裏を返せば、この法律が決まった後に「単独親権」を選ぶ人は、協力的ではないと認めるようなものです。共同親権が導入されれば、意識改革という意味で、より協力する関係を醸成できるようになると思います。
──しばはしさんは、衆議院法務委員会参考人での意見陳述質疑に参加されました。どのような意見を政府に出されたのですか?
しばはし:まず「共同親権の導入には賛成です」と表明しました。
そのうえで、共同親権が導入されると「単独親権にするか」「共同親権にするか」と父母の間で意見が分かれた時に、裁判所の裁量でどちらにするか判断されることになります。
その時に裁判所がどう判断すべきかという部分で、現場で支援している者として「共同親権に向いている方」と「共同親権が難しい方」の違いについて、考えを述べました。
両者の違いを一言で言うと、「自責の念を持てるか」「他責の念のままか」ということです。
【共同親権・反対派の視点】
◎「共同親権を導入して良くなることは一つもない!」なぜ与野党は批判続出の共同親権の導入を急ぐのか? (JBpress)
■ 協力的な別居親と非協力的な別居親
しばはし:高葛藤の場合よくあるのは、妻子が家を出てしまうケースです。その時に「相手が家を出るほどつらい気持ちにさせてしまったのかもしれない」と振り返ることができる方は、自責の念を持てる方です。
最初は非協力的でも他責の念でもいいのです。でも、別居などを経験しながら、だんだん「自分にも至らないところがあった」「相手の言い分にも耳を傾けてみよう」と考えて、スタンスを変えることができる方を「協力的な別居親」と私たちは分類しています。
一方で、この逆の「協力的ではない別居親」の場合、「妻と子どもがいなくなった」「これは連れ去りだ」と考えます。
もちろん、「連れ去り」はその名のごとく、子どもを誘拐のように連れて行ってしまうことです。でも、出て行った側に立って考えてみると、自分が家を出る時に、子どもを置いていくわけにはいかないから、「子どもを連れて出るしかない」という判断でもあるのです。
「連れ去り」という言い方自体が一方的な表現だと思います。連れ去りではなく「避難」という言い方が適切な場合もある。暴力に限らず、言葉などの精神的苦痛も含めて「これ以上被害に遭わないように避難する」ということもあるのです。
しかし、そのまま長期的な引き離しになるのは良くありません。「避難」で始まっても、「長期的な引き離し」になれば、やがて「連れ去り」になってしまいます。
ここまでは、子どもと引き離された「別居親」の話をしましたが、子どもと暮らす「同居親」にも、協力的な方と非協力的な方がいます。
たとえば、夫が嫌になり別居をしてみたけれど、子どものことを考えたら「子どもは父親と会わせなければならない」という考え方ができる方、あるいは、私たちのところを訪れ、「直接は別居している夫には会いたくないけれど、支援に入ってもらえるならば子どもを夫に会わせたいと考えている」という方もいます。こうした方々は「協力的な同居親」と言えると思います。
これに対して、「非協力的な同居親」とは「自分が相手を嫌っているから、子どもも会わせたくない」という考え方をする方です。こういった考え方は、子どもを所有物のように扱っており、「自分と子ども」「自分の問題と子どもの権利」を切り離して考えることができていません。
別居親であれ同居親であれ、協力的になれない人には共同親権は難しいと思います。共同親権が導入された場合、「協力的な人かどうか」を裁判所がいかに見極めていくのか、これは私たちにとっても大きな関心ごとです。
■ 「共同親権」の導入に反対意見が多いのはなぜか?
──離婚をすると、子どもに関する大事な決断をどう決めていくかが問題になりますが、その辺が共同親権の導入で変わってくると思います。これまではどうだったのですか?
しばはし:現状の単独親権では、父母の関係が良いと「ここの学校に入れたいと思っているけれど、どう思う?」「養育費がこれくらいかかるので、入学金分を出してくれない?」などのやり取りが可能です。
でも、父母の間にやり取りがほとんどない場合には、親権者がすべてを決めています。引っ越しや再婚、その際の養子縁組なども親権者が決めます。
──「共同親権」の導入に関しては、法律や人権の専門家などから批判的な意見も多数出ています。これほど反対意見が多いのは、なぜだと思われますか?
しばはし:たとえば、DVのケースをどう判断するのかという問題があります。物理的な暴力の証拠がある場合は議論しやすいですが、精神的なDVなどの場合は証明が難しい。「虚偽DV」という言葉もありますが、DVに遭ったと装う可能性も議論されています。
裁判所がDVの有無を見極めることができるのか。これは加害者とされる側も、被害者とされる側も、不安に思う部分です。
どちらが本当のことを言っているのか、判断が難しいケースは確かにあります。でも、支援を通して私が思うことは、「そのような議論が発生するほどにつらい思いをしている」ということです。
それでも「子どもに会わせるか・会わせないか」という問題は、父母の争いとは別の問題です。子どものことは切り離して考えるべきです。
きちんと、司法の改革、裁判所の研修、支援の強化が進んでいない今の状況で「法律を変えるのは時期尚早だ」と共同親権の導入に反対する方々は主張しています。
これに対して、私は逆に法整備の期限が決まっていなければ、世の中変わらないと考えています。法改正の施行まで2年かかると言われています。期限を設けないで、裁判所に変わってほしいと言っても、変わるとは思えない。
■ 共同親権の議論に登場する怖い人たち
しばはし:離婚する父母も「2年後に共同親権が始まるから、もっと協力的な姿勢になろう」と準備をする過程で、態度や思考が変わっていくと思います。
司法も、共同親権が上手くいくように「より離婚する父母が争わないスキーム作りをしよう」となり、行政もその支援をしていくことが必要です。
今、共同親権はおどろおどろしいネガティブなものとして議論されがちですが、「共同親権の導入」という旗に向かってそれぞれができることをやっていくことで、「離婚しても子どもにとって親は2人」という当たり前の状況が実現できるのです。
共同親権に関しては、SNSなどでも激しい議論が交わされていますが、たとえば「非協力的な別居親」から共同親権の推進を求める声が多いということもあり、その結果、かえって共同親権の導入に対する反発を強めている側面があります。
──相手が愛想を尽かして出て行くような人ほど、共同親権を求める声を上げているということですね?
しばはし:そうです。共同親権こそ相互理解が大切なのに、「今出ている共同親権の提案では中身がなさすぎる」と言って、より細かくいろんなことを決めて「強制力を強めなければだめだ」と考える高圧的な方々もいて、反対派はこうした方々に恐れおののいています。賛成派の私ですら怖いと感じています。
長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。
長野 光