家事と育児に献身的な夫が「近所の騒音トラブル」に悩まされ、別居の末に…妻の「非情な宣告」に崩れ落ちた「絶望の瞬間」【共同親権について考える】

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妻から突き付けられた「絶望」

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 筆者は行政書士、ファイナンシャルプランナーとして夫婦の悩み相談にのっています。

 今回の相談者は、会社員の篠山大河(仮名・38歳)さん。妻と一人の子どもと別居した大河さんでしたが、その間も献身的に家事と育児を精力的に行いました。妻子の家に通い、料理、洗濯、掃除はもちろん、子どもを学童や習い事への送迎し、風邪を引いたときは看病もしていたそうです。

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 しかし、こんな生活が3年つづいたとき、ついに妻から「離婚して欲しい」「家事や育児の協力は終わりにして欲しい」と非情な宣告をされたのです。

 妻に離婚を突きつけられ、夫が子どもと生き別れになってしまうという例は、枚挙にいとまがありません。この問題については今、法制審議会が「共同親権」の要綱案の作成に取り組んでいます。

 「共同親権」とはつまり、離婚しても夫婦が協力して子ども育てるということです。例えば、料理や洗濯、掃除などの家事、学校の準備や習い事の送迎、宿題の確認などの教育を離婚した夫婦が協力して行うわけですが、そのとき、元夫と元妻はどのように接するのか、想像するのは難しいでしょう。

 そこで、今回は親権を持つ妻と親権を失った夫が、まるで共同親権のような生活を送っている篠山大河さん夫婦の例を紹介します。彼らを通じて共同親権による子育てを疑似体験できるかもしれません。

 なお、本人が特定されないように実例に反しない限り、内容に多少変更を加えたことをお断りします。また別居の経緯、離婚するまでの流れ、離婚後の生活スタイルなどは、各々のケースで異なりますので、あくまで一つのケースとして参考にしてください。
子どもと「生き別れ」にされる父親

子どもの親権は父親よりも母親が得ることが圧倒的に多い Photo/gettyimages

 さて、大河さん夫婦の例を見ていく前に、現在の「親権」について、法の立て付けを説明しておきましょう。

 現行法では、未成年の子どもがいる夫婦が離婚する際、親権を定めなければなりません(民法821条)。裁判所を通さずに離婚する場合は、役所に離婚届を提出しますが、離婚届の親権者の欄が白紙のままでは受理されません。

 現在、法制審議会で議論が進んでいる「共同親権」について、法改正が実現すれば、父親と母親のどちらか一方が親権を持つ「単独親権」と双方が親権を持つ「共同親権」のどちらかを選べるようになります。

 単独親権の場合は、親権を失う非親権者が親権者へ毎月、養育費を支払い、実際に子どもを育てるのは親権者となります。一方、共同親権の場合はどちらかの親が親権を失うことはありませんから、離婚した元夫婦が協力して子どもを育てることになります。

 単独親権に比べ、共同親権の方が元夫婦の接点が増えるので、一部の団体から「DVへの配慮が足りない」と批判の声もあがっています。一方で、共同親権は離婚後に多くの父親が子どもと生き別れとされてきた問題に、解決の糸口を示すことになるかもしれません。

家族ファーストの「夫の献身」

 篠山大河さんの夫婦は結婚9年目で、6歳の子どもがいます。大河さんは会社員で年収550万円、妻(36歳)も会社員で年収450万円を稼いでいます。共働きなので、家事や育児を分担して暮らしていました。

 大河さんの仕事はシフト制で、原則は平日が休み。妻の仕事はカレンダー通りで土日が休みです。そのため、大河さんは休みの日には1日3食の料理を作り、3人分の洗濯をこなして全ての部屋に掃除機をかけていました。

 ところで、2019年の統計によれば「男は外で働き、妻は家を守るべき」だと思っている男性は39%もいるそうです(ちなみに女性は30%しかいません)。男性は、旧来からつづく男女の役割規範への考え方が根強く持っていますが、さすがに共働き世帯では家事や育児を分担することは当たり前になっています。大河さんも献身的に家事や育児に取り組んでいました。

 ところが、円満な家庭に突然、終わりがやってきます。きっかけはご近所の騒音トラブルでした。
騒音に悩む夫に、妻が告げた「非情な一言」

 大河さん夫婦が住んでいたのは、賃貸アパートの一室でした。大河さんは神経が細やかな性格で、隣の部屋の生活音が気になるようになったのです。

 しかも、隣人は常識に欠けるところがあり、たとえば深夜の23時ごろに洗濯機を回し始めたり、24時ごろに遠慮のない歩行音を鳴り響かせました。朝6時だというのに、隣からはたびたび掃除機の音が聞こえることもありました。

 大河さんはやがて不眠症を患い、ほとんど一睡もしないまま朝をむかえるようになりました。一方の妻はどこでも寝られる性格で、大河さんとは正反対のタイプ。妻と相談し、隣人に対して一緒に抗議しようと誘っても、「私は関係ないから」と取り合ってくれません。

 しかたなく大河さんは一人で隣人を訪ねたのですが、玄関越しに顔を出した40代らしい男性は「僕だって篠山さんの生活音が気になるんですよ。お互い様じゃないですか」と歯牙にもかけませんでした。

 大河さんは何も言い返せず、我慢するしかありませんでしたが、不眠がつづいたストレスから些細なことが気になるようになりました。ある朝、いつもの場所にハンカチがないことに苛立ち、妻を「ここに置いておけよ。何回言ったら分かるんだよ!」と叱りつけてしまったのです。

 それ以来、家庭内の雰囲気は険悪となり、二人はどうしても必要なことしか話さなくなりました。

引っ越しを許さない「妻の仕打ち」

ついに夫は、妻子と別居することにした…Photo/gettyimages

 このままでは、また同じことをしてしまうかもしれない……。自己嫌悪に陥った大河さんは、妻の実家や職場、子どもの小学校まで30分以内の便利な物件を探し、妻に「ここを引っ越そう」と提案したのですが、答えは「ノー」でした。

 ちなみに、近年騒音の苦情は増加傾向にあるようです。

 環境省の騒音規制法等施行状況調査によれば、2020年度の騒音の苦情は年間20,804 件で、前年度の15,726 件から32.3%も増加しています。大河さんと同じように騒音に悩む人は年々、増えているようですが、同じ環境下にいる妻に理解してもらえないというのは厳しい状況です。

 夫婦とはいえ、育った環境もちがえば性格もちがうのですから、致し方のないことかもしれませんが、こうしたささいな性格の不一致から家庭というものは壊れてしまうものなのかもしれません。

 騒音によって精神的に追い詰められた大河さんは、妻を説得できるまで待っていられないと単身用アパートを契約し、家族を置いて一人暮らしを始めたのでした。

 ただし、夫婦で家事を分担することは別居後も変わりませんでした。

 大河さんは休日になると妻子が住む部屋を訪問し、料理、洗濯、掃除をこなしたのです。それ以外にも学童まで子どもを迎えに行ったり、子ども部屋で宿題を教えたり、習い事のスイミングスクールまで送迎したりしていました。子どもが熱を出したら、小学校まで迎えに行き、病院に連れて行き、そして妻子の部屋で看病することもありました。
「もう、私の部屋に入らないで…」

 こうした暮らしは3年つづきます。しかし、そんな生活では、やはりまともとは言えませんでした。ある日、妻から「宙ぶらりんをつづけたくない」と連絡が届きます。籍を入れたまま、別居を続ける「宙ぶらりん」をやめたい、つまり離婚したいという意味です。

 妻は、もう家事や育児を協力しなくてもいいから、家にあがり込まないで欲しいと考えていました。

 後編記事『「子どもとずっと一緒にいたい」…! 親権を奪われた夫が「非情な妻」と戦った離婚調停の「意外な結末」』では、子育てをつづけたい大河さんと、それをかたくなに拒む妻の「親権」についての攻防戦を詳しくお伝えしていきましょう。

露木 幸彦(行政書士)

2か月前