賛否分かれる「共同親権」 子供の視点を忘れずに 【堀内恭彦の一筆両断】

https://news.yahoo.co.jp/articles/e290f01ffba2d06f06235c87631af29ca1064fde

2/20(火) 9:00配信
産経新聞

堀内恭彦氏

両親が離婚した後、子供は誰が育てていくのか?

法制審議会の家族法制部会は離婚後に父母のどちらか一方が子供の親権を持つ現行の「単独親権」に加えて、父母双方に親権を認める「共同親権」を導入するとした要綱案をまとめた。

父母の話し合いによって単独親権か共同親権かを選び、話し合いがまとまらない場合は家庭裁判所が判断する。DV(ドメスティック・バイオレンス)や子供への虐待が続くおそれがある場合は単独親権にしなければならないとされている。

家族法制部会で3年近くも賛否が激しく対立し、最後は異例の多数決でまとめられたいわくつきの要綱案である。昨年は「時期尚早」として国会への提出は見送られたが、法務省は今国会での早期成立を目指している。

要綱案は父母の責務を明確にし、離婚後も含め「子供の利益のため互いに人格を尊重して協力しなければならない」と明記した。離婚しても子供にとっては親であり、協力して子育てをすべきという理念自体は評価できる。欧米では「共同親権」制度を採用している国も多く、子供を一方的に連れ去られたり、面会交流を拒否されたりするケースへの対策としても期待されている。

デメリットとして、共同親権だと子供が父母の間を行き来する二重生活を強いられることもあり、負担が増すことになる。子供の進路や住居の変更などの重要事項で父母の意見が一致しない場合、裁判所が関与した紛争となり、子供がもめ事にさらされ、精神的にも不安定になってしまう。

「共同親権」反対派は、現行の単独親権制度でも親権のない親と子供の関係が切れるわけではなく、実際に共同で養育・監護している離婚家庭もあり、「共同親権でないと子供が困る」という立法事実はない、と指摘している。

特にDVや子供への虐待に苦しむ親からは「家庭裁判所が適切に判断できるのか?」という不安の声が上がっている。DVや虐待は別居・離婚した後も続くことが多く、加害者側は子供と会う機会を利用して精神的・肉体的支配を続けようとする傾向がある。殊に精神的DVは証明が難しい。全国の児童相談所に寄せられる虐待相談は毎年増え続けており、問題は深刻化している。

法案が成立すれば、間違いなく今よりも家庭裁判所が果たす役割は大きくなり、業務量も増えるだろう。ただでさえ人手が足りていない家裁で、調査官を増やし、判断のガイドラインを作成するなどの体制づくりを進めなくてはならない。

要綱案の内容そのものに懸念が残るだけでなく、実際の運用や支援についてもまだまだ多角的な検討が必要である。重要なことは「子供の視点から見て利益になっているのか?」である。国会での慎重な議論に注目したい。

堀内恭彦(ほりうち・やすひこ) 弁護士。昭和40年、福岡市生まれ。福岡県立修猷館高校、九州大学法学部卒。弁護士法人堀内恭彦法律事務所代表。企業法務を中心に民事介入暴力対策、不当要求対策、企業防衛に詳しい。九州弁護士会連合会民事介入暴力対策委員会委員長などを歴任。九州ラグビーフットボール協会理事(スポーツ・インテグリティ担当)、九州大学ラグビー部監督。

9か月前