「もう4度目は絶対にない」 選択的夫婦別姓求める「思い」受け継ぐ、第三次訴訟への覚悟

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2/22(木) 0:07配信
弁護士ドットコムニュース

第三次訴訟の原告となる上田めぐみさん(提供写真)

選択的夫婦別姓を求める人たちの戦いは、半世紀近くにわたる。

1970年代から夫婦別姓制度を実現しようという議論が活発化し、1996年には法制審議会も制度導入の指針を示して一時は実現するかのように見えた。しかし、与党・自民党の反対にあい、法案が提出されることはなかった。

そこで、2011年に第一次夫婦別姓訴訟と呼ばれる裁判が始まった。しかし、最高裁は2015年、原告らの訴えを退けた。3年後、第二次夫婦別姓訴訟が提起された。この裁判でも2022年、最高裁は原告らの主張を認めることはなかった。

しかし、今、三の矢が放たれようとしている。第三次夫婦別姓訴訟が今年3月8日に東京地裁と札幌地裁で提訴されることになったのだ。

「もう4度目の訴訟は絶対にないと思っています」というのは、東京訴訟の原告の一人、団体職員の上田めぐみさん(46歳)だ。上田さんはなぜ選択的夫婦別姓を求めるのか、取材した。(弁護士ドットコムニュース・猪谷千香)

⚫︎高校の先生が後悔していた「改姓」

上田さんが選択的夫婦別姓について興味を持ったのは、中学生のころだったという。

「ちょうど選択的夫婦別姓の議論で盛り上がっていた時期でした。メディアでよく取り上げられていたのを見て、たしかに女性ばかり姓を変えるのはおかしいなと思っていました」

高校生になると、家庭科の女性教師が選択的夫婦別姓について語ってくれた。

「先生は結婚するときに改姓したくなかったのに、周囲の圧力に負けて改姓せざるを得なかった、すごく後悔していると話してくださったんです」

その切実な声に、上田さんは中学のときに抱いた夫婦同姓への違和感を「間違っていなかった」と確信したという。

立命館大学に進学して、事実婚の研究をしていた二宮周平教授(現在は名誉教授)の門戸を叩いた。

「そこでは、ジェンダーと家族法について学び、夫婦同姓は人権侵害だとあらためて思いました」

⚫︎海外で働く女性を困らせる「併記」

卒業後は、イギリスの大学院で学び、フランス留学を経て、JICAや日本赤十字社などに勤め、南米やアフリカで働いてきたという。現在も、国際協力分野で途上国の人材育成を支援する機関の職員だ。海外から日本の状況はどのように見えていたのだろうか。

「海外で夫婦別姓について話題になることはほとんどありませんでした。あたりまえのことで、話題にならなかったんだろうなと思います。しかし、日本の歪さはすごく感じるようになりました。日本は経済的には先進国ですが、ジェンダー平等という視点からみれば、途上国のように思えました」

第一次訴訟で、最高裁判決は、旧姓を通称として使用することが広まれば、「夫婦同姓の不利益は緩和され得る」とした。日本政府も併記を推進してきた。

しかし、上田さんの周りでは、海外で働く女性が、公的な書類に戸籍名と通称名を併記することで、確認の手間がかかるなど、相当な負担がかかっていたという。

「併記によって困っている人はすごく多くて、女性活躍というのであれば、結婚前の名字のままで働かせてほしいという話をよく聞きました」

⚫︎事実婚で子どもが生まれて…

上田さん自身は結婚するとき、事実婚を選んだ。その後、法律婚との「違い」を実感することになった。

当時、日本赤十字社に勤めていたが、結婚休暇は取得できたのに、福利厚生制度の「結婚お祝い金」は事実婚を理由に支給が認められなかったという。

生命保険の契約でもトラブルがあった。夫の保険の受取人にはなれるが、請求人としては認められず、夫が死亡した場合は、夫の親族が請求しなければならないというのだ。

さらに、子どもが生まれてこんなこともあった。

「事実婚の場合、父母が『共同親権』を持てません。夫が子どものジュニアNISAを始めようと書類の手続きをしたら、親権者じゃないからといって、証券会社が彼の名前を二重線で消して再提出するよう言ってきたんです。

戸籍を見れば、彼が子どもの父であることはわかるはずなのに、あまりに屈辱的で…。これから子どもを育てるうえで、また困りごとが出てこないか心配はあります」

⚫︎なぜ違憲判決が出ないのか?

第三次訴訟の原告になったきっかけの一つは、第二次訴訟だったという。

もともと第二次訴訟の原告になろうかと検討していたが、ボランティアとして関わることになり、裁判を支えてきた。しかし、最高裁判決は厳しいものだった。

当時を振り返り、「法律論以前に、決定する裁判官の主観が大きいんじゃないかと思いました」と話す。

「裁判官の大半が高齢男性で、改姓を経験したこともないし、想像もつかないわけですよね。もし選択的夫婦別姓を認めてしまったら、今の男性優位社会が崩れるのではないか、妻が急に旧姓に戻りたいと言ってきたらどうしようとか、そういう無意識の不安があったんじゃないかと思っています」

第三次訴訟の原告になったのは、これまで夫婦別姓を求めてきた多くの人たち、そして自分の積年の思いに背中を押されたから。

「次は自分がやるしかない、もう第四次訴訟は絶対にないと思って立ち上がることにしました」

目指すのは、最高裁での「違憲判決」だ。

弁護士ドットコムニュース編集部

9か月前