社説:共同親権要綱案 懸念の払拭が不可欠だ

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2024年2月3日 掲載

 離婚後に父母双方が親権を持つ「共同親権」の導入に向けた法改正の要綱案を、法相の諮問機関である法制審議会の家族法制部会が取りまとめた。現行民法は、離婚後の親権は父母どちらか一方とする「単独親権」のみと定めている。

 親権は未成年の子どもに対し、身の回りの世話・教育といった「身上監護」や、財産管理をする権利で、義務の性質もあるとされる。要綱案では、父母が協議して共同か単独かを選び、折り合えなければ現行法同様、家裁が決めるとしている。

 法務省は今国会で関連法案の改正を目指す。改正されれば離婚後の養育の在り方を巡る大きな転換点となるだけに、子どもの利益を第一に考えた慎重な議論が求められる。

 離婚によって別居する親との関係が断絶してしまう子どもは少なくない。子どもが双方に愛着を持つ場合、別居親とのつながりが守られ、心理的にも支えてもらえる環境が望ましいだろう。子どもが双方から養育を受ける権利を守ることは大切だ。

 共同親権の導入は、離婚後も父母双方が養育に責任を持つようにすべきだと考える別居親らが支持してきた。親権争いから起きる子どもの「連れ去り」を防げるとする主張もある。法務省によると、海外では共同親権を認めている国が多い。

 ただ、ドメスティックバイオレンス(DV)や虐待から逃れて家を出た女性や支援団体などは、法改正に危機感を募らせている。加害側が共同親権者と認められれば接点が残ってしまい、被害を断ち切ることが難しくなる恐れがあるためだ。

 要綱案では、父母いずれかに「子の心身に害悪を及ぼす恐れ」「他方から暴力などを受ける恐れ」を家裁が判断すれば共同親権を認めないとしている。しかし家庭内で起きたトラブルの証明が容易でない場合も想定される。家裁が危険性を見落とす不安は付きまとう。

 共同親権では進学や病気の長期治療といった重要事項を父母が話し合って決める点にも疑問が残る。期限が迫る場合など「急迫の事情」がある時は一方だけで決められるとするが、「急迫」の解釈を巡って争いが起きた場合はどうなるのか。

 厚生労働省の統計によると、2022年の離婚は約17万9千組に上った。共同親権が導入されて父母間の紛争が多発すれば、家裁が担う仕事は増える。家裁の体制充実も併せて考えなくてはならない。

 法制審議会部会は3年近くにわたり議論を続けてきたが、今回の採決に参加した委員21人のうち3人が反対する結果となった。これまで民法に関わる要綱案は全会一致でまとめられることが多かったという。

 詰めるべき論点は多岐にわたる。拙速は避けなくてはならない。さまざまなケースを想定し、懸念を一つ一つ取り除いていくことが不可欠だ。

3か月前