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離婚後の共同親権導入に向け、法相の諮問機関・法制審議会の家族法制部会で法改正の要綱案が固まった。2月中旬の法制審総会を経て法相に答申され、政府は通常国会で民法などの改正を目指す。離婚後は父母どちらか一方の単独親権のみ認める現行法を見直し、両者が協議して共同か単独か選ぶ。合意できないときは家裁が決定する。
離婚しても父母の良好な関係が保たれ、共に子の養育に関わることができるなら、それに越したことはない。誰も異論はないだろう。自民党を中心とする超党派の議員連盟は「離婚によって親子の絆が断ち切られてはならない」として共同親権の早期導入を法務省などに働きかけてきた。
しかしドメスティックバイオレンス(DV)や虐待から逃れ、子を連れて家を出た女性や支援団体は「被害が継続しかねない」と危機感を募らせる。離婚やDVを扱う弁護士400人余りは「被害者を守れず、争いが増え、巻き込まれる子どもも守れない」との申し入れ書を法務省に提出した。共同親権を巡る賛否の溝は深まるばかりだ。
民法に関わる要綱案は法制審部会の全会一致でまとめられることが多いが、今回は委員21人のうち3人が反対した。父母の対立によって最も大きな影響を受ける子の利益をいかに守るか。国会論戦も含め今後、しっかり議論を積み上げていく必要がある。
厚生労働省の統計によると、2022年の離婚は約17万9千組。協議離婚の割合が約9割と海外より高い。一方、各地の配偶者暴力相談支援センターに寄せられたDV相談は22年度、約12万2千件。近年、高止まりが続き、離婚の一因になることが多いとみられる。
全国の児童相談所が虐待相談を受け対応した件数も22年度は過去最多の約21万9千件に達し、子の前で家族に暴力を振るう「面前DV」の増加が目立つ。要綱案ではDV・虐待被害に一定の配慮が示され、いずれかの親が「子の心身に害悪を及ぼす恐れがある」などと家裁が判断した場合には共同親権を認めず、単独親権と定めるとした。
しかし密室の出来事は証明が難しい。家裁が見逃してしまわないかという不安は拭えない。問題はまだある。共同親権の下で、子の進学や長期的治療など重要事項については父母が話し合って決める。意見の対立により期限に間に合わないような「急迫の事情」があるときは、どちらか一方が決めることができる。
ただ例えば、緊急手術を巡って「急迫」の解釈が分かれた場合、どうなるか。産科婦人科や小児科など4学会は「生命・身体の保護に必要な医療が不可能あるいは遅延することを懸念する」と法相に伝え、円滑な決定の仕組みを求めている。
部会では「共同親権は父母の真摯(しんし)な合意がある場合のみに限定すべきだ」との意見も出た。家裁の判断で、どちらか一方が意に沿わない形で共同親権を強いられれば争いが続き、子の利益にならないとの理由からだ。
要綱案には「法定養育費」も盛り込まれ、離婚時に取り決めていなくても、法令で定める最低限の支払いを別居親に義務付ける。また面会交流でも、家裁が試行を促せる制度を新設。共同親権の導入に伴い家裁が判断を迫られる案件は大幅に増える。体制の整備を急がなくてはならない。